heim


zurück zur Artikel Übersicht

ヘルマン・ヘッセの思い出に

ドイツ語る会の Freunde のためのエッセー

Isabel Harter, Tottori 2002



2002年は、ドイツ出身(後にスイス国籍)のノーベル賞作家ヘルマン・ヘッセ(1877-1962)の生誕125周年です。ヘッセの作品は54ヵ国語に翻訳されてあり、インターネットで日本語の「ヘッセ」を検索するとだいたい9000ものウェブサイトが出てくるように、日本でもとても人気があります。

私も青春期によくヘッセの小説、例えば、『車輪の下』、『デーミアン』、『シッダールタ』を読みました。若者の悩みはこれを読むとよく慰められますので、ヘッセは私にとって欠くことができない作家になりました。

私がヘッセに興味がある理由の一つは、私が育ったボーデン湖地方のモース・ヴァイラー村の隣のガイエンホーフェン村に、ヘッセ博物館があることです。その博物館の建物は、ヘルマン・ヘッセが最初の妻マリア(ミヤ)・ベルヌイと1904年から4年間暮らした家です。ボーデン湖の田園風景(その時は電気もガスもなかった)の中で27歳の時にヘッセの作家生活が始まりました。

ヘルマン・ヘッセの作品の中で、一番自伝的傾向の強い小説は1904年に完成された『車輪の下』です。この小説をFREUNDEのために簡単に紹介したいと思います。

『車輪の下』は教育をテーマとする、ドイツの高校生徒によく読まれる暗い小説です。このタイトルは中世の車裂きによる拷問を連想させますが、肉体的苦痛ではなく、精神的苦痛の意味が込められています。厳しいキリスト教学校の教育、権威主義的な先生たち、周りの社会環境により、若いヘルマン・ヘッセはひどく悩み、彼は自殺未遂に追い込まれます。『車輪の下』はヘッセの少年時代の出来事に基づいています。『車輪の下』はヘルマン・ヘッセの生きた時代の教育制度への批判が込められていますが、現代の教育にも通ずるものがあると思います。

この小説の主人公のハンス・ギーベンラートは天才的な男の子でした。南ドイツのシュヴァルツ・ヴァルト(黒い森)の小さな町からは、かつて一度もこの子のような神童は生まれませんでした。母親は数年前に亡くなっていて、息子に出世してもらいたがっている冷淡な父親と暮らしていました。この厳格な父親はハンスにレベルの高いプロテスタント修道院付属学校に行かせたがっていました。ハンスは精神的なプレッシャーを感じながらも、その学校に合格しましたが、たくさんのことを犠牲にしなければなりませんでした。学校が始まる前の夏休みも勉強ばかりで、ハンスの趣味である魚釣りの時間はほとんどありませんでした。

学校の環境も厳しいものでしたが、しだいに新しい友達ができました。ハンスと一番親しい友人は文学青年であるヘルマンでした。彼が修道院学校の教育を非現実的な刑務所と同じだと考えて、ハンスを今までと違う考え方に向かい合わせました。ヘルマンは学校の体制に反対していましたから、よく学校で罰を受けました。

ハンスの成績は入学した後もしばらくはトップでした。しかし、ヘルマンの影響で、学校教育を無意味と感じるようになり、彼の評判は優等生から問題児へと一気に変わりました。勉強で疲れているハンスはだんだん夢想家になって、アイデンティティが失われていきました。先生たちのあてはずれで、まわりの期待に答えられないハンスは自殺を考えることが多くなりました。

大人になったことを信じたくないので、ハンスは青年時代の思い出を通じて自分の本性を探しはじめました。ふるさとに帰って、機械工として勤め始めました。その時に昔の同級生のコンラトと親しくなりました。

小説の最後で、一晩にたくさんお酒を飲んだハンスは、次の日の朝に川の中で死んでいました。ふるさとの皆が事故だったと思いました。ハンスの葬式の日は皆が頭のいいハンスが死んだこと残念と思いました。

この小説は約100年前に書かれましたが、このテーマは現代にも通じるものがあると思います。学校や両親や先生の圧力に耐えきれないため、家に閉じこもるか自殺する子供達のことについてよくテレビやラジオで報道されています。多くの先生は子供を「人間」ではなく、「生徒」としか見ていません。教育ママとパパは世界のどこでもいます。『車輪の下』は暗い印象がありますが、現在のドイツや現代日本における学校・教育の実態は、もっと危機に瀕しているのかも知れません。


霧の中


不思議だ、霧の中を歩くのは!
どの茂みも石も孤独だ。
どの木にも他の木は見えない。


私の生活がまだ明るかったころ、
私にとって世界は友だちにあふれていた。
いま、霧がおりると、
だれももう見えない。


ほんとうに、自分をすべてのものから
逆らいようもなく、そっとへだてる
暗さを知らないものは、
賢くはないのだ。


不思議だ、霧の中を歩くのは!
人生とは孤独であることだ。
だれも他の人を知らない。
みんなひとりぼっちだ。

「ヘッセ全集10 孤独者の音楽」高橋健二 訳新潮社 より