Shinjuku


冬の雪山で遭難している感じだ。
寒く凍えるが、どこへも動きたくない。
このままそっと楽にして欲しい。
苦しく辛い、意識がはっきりしない。
すごく弱い本当の自分の姿がそこにはある。
なにか恐ろしく、でもそれに抵抗する気力がない。

ある時、突然「スイッチ」が入る。
そして、それは弱い自分に仮面をかぶせる。
今まで生きてきた中で創りあげたプロテクターで全身をまとう。

ただ飲みすぎだといえばそれまでだが、
その時、
奥の中に潜んでいる自分、内の中にいる自分を視た気がする。
なぜあんなに飲みつぶれたのか。
自分をコントロールできない自分がいるのが辛い。
弱い。

4時間飲み、ボーリングが終わってから3件目の途中まで断片的に覚えているが、それ以降3時間はまったく覚えていない。
一緒にいた仲間たちによると、
すごい勢いで飲み続け、破滅的に酔っぱらっていたと。
酒はこぼすわ、店員ともめるわ、もう二度とその店にはいけないという。
その後、外ではヤクザには絡まれ、10代後半20代前半の男集団には担がれて携帯電話、定期券と身包みはがされていたらしい。
付き添ってくれた唯一の仲間が助けてくれ、おかげで取られたものはなかった。

同じとき、他に一緒にいた仲間は女の子二人組みにお金をだましとられていたらしい。
新宿、どうなっているんだろう。
そんなやつらを認めはしない。
しかし、悲しいが、平和ボケして緊張感が減っている自分らを非難すべきなのだろうか。
生きるために
自分を守るために
自分を常にコントロール出来なければならない。

その後かすかに気がついたときはどっかの前でうずくまって、
吐いていた。
なにもかも、両手をついて。
そして近くから仲間の声が聞こえる。
「ダメだよ、ここで寝ちゃ。どっか店に入ろう、いこう。」
でもどうしようもない。
また吐く。
弱い本当の自分がそこにいる。
言葉で表せないくらい生命力が限りなくゼロに近い自分がいる。
これがゼロになった時が死を意味することなのだろう。
だれも知らない死の世界。
やっぱり怖い。
それは弱く無力で納得していない自分がそこにいるからかもしれない。

これぐらいのことにさえ自分をコントロールできず、
弱い自分を曝け出し打ち勝てないやつが、
いつかエベレストを登りたいとか、宇宙に行きたくなったとか、ほざいている。
笑わせる。
こんなことでは何をしても自分だけでなく仲間の生命まで奪ってしまう。
挑戦がただの無謀となり、さらには仲間の足手まといになってしまう。

次に意識がわずかに戻ったときはどこかの店の入り口のゴミ箱に顔を突っ込んで
吐いていた。ような気がする。
おそらくなんとか歩き、連れてきてもらったのだろう。

これからしばらくして、突然、弱い自分を守るために、今まで築かれた生命バリア網が再び張られはじめた。

その時初めて、自分のいる場所に戸惑い驚き、
そして、これまで起きたことを全く覚えていないことにショックした。
それを隠すために、カラ元気する自分がいる。
今年おそらく初めての缶コーヒーRootを買い、駅まで飲みながら歩いた。
駅の階段で始発を待ち、電車に乗る前に今年最後の缶コーヒーFireを買った。

電車の中で弱い自分を必死に隠すようにしゃべり続けた。
電車が速く進んで欲しくなかった。
そしてずっと一緒にいてくれた仲間が先に降り、
引き続き自分の弱さを弁解するために、
隣に座った女の子達にも話し続けた。
彼女らは親切に、ただ偶然に隣に座った酔っ払いの風変わりなストレンジャーの話を「疲れていたんですね」などとやさしく聞いてくれる。

そして彼女達も降り、
自分はいつの間にか駅から家に向かって歩いている。
だが、どちらの駅で降りたかは覚えていない。
ただ、まだ暗い朝の冷たい空気の中、空を見、月を眺め、
そして、<月のすぐ隣に輝く明るい星はなんだろうか>と考えている。

本当は目が覚めて、すぐに文に残したかった、この破滅間を。
でも鮮明になりすぎるのがこわかった。
その日から二日後の31日にひとりで箱根の温泉に入りにいった。
その帰りの電車の中で書いている。

飲んだ帰りの電車の中であった女の子達が「寝過ごして、小田原になんかいっちゃたら大変」と話していたのを聞いて、
でもこんな時はむしろ小田原まで寝過ごしていくほうがいいのかなと。
そして、急にその小田原の先の箱根で温泉に入りたくなった。

今この文を書いている時は、温泉で汗がさらさらになるまで入った後、どろどろした部分がとれきれいになりすぎているかもしれない。
やっと調子が戻ってきた。しばらく心臓が止まっていたのかもしれない。

2003年は小田急線の最終新宿行き各駅電車の中で迎えた。
書きながらなんか涙が出てくる。流しはしないが、何が理由かもはっきりもしないが。
弱い自分を理解し強く素直な自分を自然体で出していきたい。


山内潤一郎