カードキャプターさくら
さくらちゃん、怪我をする
シャッー…シャッ
ローラーブレードの車輪の軽快な摩擦音が響く。
水兵服を基調にした可愛い制服に身を包んだ
美少女が先を急ぐようにして滑走していった。
(急がなきゃ…だって…この時間なら
下校時の雪兎さんに会える!)
☆ ★ ☆
「なぁ…ゆき…」
「…んく…なあに?とーや」
男子高校生二人が帰り道を歩いている。
とーやと呼ばれた方は自転車を押しながら
もう一人の眼鏡を掛けた方を心配そうに見ている。
声を掛けられた方、つまり雪兎は…
食べていた。
容赦無く食べていた。
ジャムパン、アンパン、カレーパン
棒チーズ、うまい棒、魚肉ソーセージ、
カール、ベビースターラーメン焼きうどん味、
みかんにりんごにぶどうにバナナ…
背中に背負った食料袋から次々と食料を取り出しては、
ひっきりなしに綺麗な白い歯で咀嚼し、嚥下していた。
「そんなに食べるお前は死ぬ」
「…だって…なんだかわからないけど
お腹が空くんだからしょうがないじゃない…」
「だからって物には限度があるだろ…」
(…コノママデハイケナイ)
「…とーや…なんか言った?」
「いや…何も…それよりも、ゆき」
「どうしたの?」
「いつも邪魔が入るが…
俺は…お前のことが…」
「雪兎さーん!!」
「…あ、さくらちゃん」
ガク…
お約束…という言葉を脳裏に浮かべつつ、
桃矢はこの世の不条理とか言うものをしみじみと噛み締めていた。
「よかったぁ、やっと追いつ…きゃっ!」
ころ…
派手に転げるさくら。
ブレードが道の敷石の隙間に車輪を取られて転んでしまったのだ。
「さくらちゃん、大丈夫?!」
「大丈夫か?さくら」
なんとか起き上がるさくら。
きちんと防具をしているから大丈夫だ。
「うん…大丈夫…あ、手を擦りむいちゃった…」
「大変だ、はやく傷口を綺麗にしないと…」
「けどなぁ、公園は向うだし…家に帰った方が速いな」
「でも応急措置だけはしないと…そうだ」
ぺろ…
健康的なピンク色の舌がさくらの手を舐めて、
泥と血を取り去ってくれた。
「ゆゆゆゆゆゆ…ゆきとさん…」
「さ、これでとりあえず大丈夫、はやく家に帰ろう」
「はにゃ〜」
耳たぶまで真っ赤になって倒れるさくら。
「ああっ!!どうしたの?!」
「それがわからないゆきは…大馬鹿物だ…」
「なんで?!どうして?さくらちゃ〜ん!!しっかりして〜!!」
慌てまくる雪兎であった。
☆ ★ ☆
「気が付いた?」
「…ゆきとさん!」
「おっ、怪獣もやっと気が付いたか…
ドシーンとか言って倒れるものだからみんな吃驚してたぞ」
「さくら怪獣じゃないもん!」
アハハと笑う桃矢、これでもやっとさくらが覚醒したので喜んでいるのだ。
「やべ…バイトの打ち合わせが有ったんだ…行ってくる!
さくら、帰りは七時回るかもしれない!
じゃ、ゆき。後は頼んだ」
「えっ?」
(つまり…)
つまりもどうも二人きりになってしまったのである。
「大丈夫?さくらちゃん。
突然倒れるから病気かと思ってお医者さん呼ぼうとしたんだけど…」
「ううん、病気じゃありません…」
首をぶんぶん振るさくら。
「そう…?じゃあ熱だけでも…」
そう言ってさくらのおでこに手を触れる雪兎。
「はにゃ〜…」
「…だいじょうぶ?さくらちゃん」
「…大丈夫です〜」
目をグルグル回らせて一見全然大丈夫そうに見えないさくら。
「やっぱりお医者さんに見てもらおうか…」
「…違います…だって雪兎さんに触ってもらったりなんかして嬉しくて…」
「…え?」
思わず本音が出てしまうさくら。
雪兎の声で我に返って慌てだすから、
「あ…あわわ…その…えーとそれは…さくらが雪兎さんを好きだから…あっ…」
錯乱して言わなくていいことまで言ってしまう。
「…僕もね…さくらちゃんが僕を好いてくれたら嬉しいし…
さくらちゃんが喜んでくれたら嬉しい」
「え…」
雪兎の手がさくらの頬に伸びた。
さくらの目がそちらに行った隙にもう片方の頬にキスをする。
「はにゃ…!」
「ふふ…可愛い」
にっこりと微笑む雪兎。
「雪兎さん…」
思いがけない展開に顔中真っ赤にして俯くさくら。
ギシ…
「僕もね…さくらちゃん好きだよ…
こんなに綺麗な女の子はこうしたくなる」
そう言いながらベッドに登ると、雪兎はさくらを抱きしめた。
雪兎の手に抱きしめられつつぼーっと雪兎の顔を見上げるさくら。
「雪兎さん…」
桜色の唇が呟く。
雪兎はそのままゆっくりと顔を近づけて、
まだ夢見心地のさくらに軽い口付けをした。
「んっ…」
唇同士が重なって、すぐ離れた。
雪兎はさくらを優しく抱きしめつつ、
腕や肩に小犬を撫でるように触れる。
「触られるの嫌い?」
身を堅くするさくらに雪兎が問う。
ぶんぶんと顔を左右に振って否定するさくら。
「本当に好きな人とは…近くに居たいし、
抱きしめたいし、触りたくなる…」
と腕の中にさくらを抱いたままの雪兎が呟く。
(…さくらだって…雪兎さんのこと…)
手を伸ばして、雪兎の背中に手を回すさくら。
身体を密着させて、体温を感じ取る。
二人はしばらくお互いを確かめ合っていた。
☆ ★ ☆
「すぅ〜…」
目を閉じて活発な行動を停止するさくら。
「…さくらちゃん寝ちゃったのかな?」
起こさないように慎重にさくらをベッドに横たえ、
布団を掛ける雪兎。
「さてと…そろそろ帰らないと…」
「おい、月(ユエ)!」
帰り支度を始めた雪兎に突然声を掛けてきた人物?があった。
「…ケルベロス…」
「やぁっぱり月かぁ。おかしいとは思うたんや。
いつもの雪兎とちょっと行動パターンが違ごうたさかいにな」
「…ばれてたか。そのとおりですよケルベロス」
「…そーゆーふーにして力を補充せなあかんのか?」
「うん…そろそろ雪兎本体が危なかったんだ」
「たしかにさくらは普通に魔力を与えることは出来へんけど…
さくらが可哀相やないか」
腕組みをしてしかめ面をする封印の獣。
しかし雪兎は莞爾として
「…大丈夫ですよ、気持ちは…本物ですから」
「…そうかぁ…」
すこし納得して立ち去る雪兎を見送るケロちゃんでありました。
戻る
Page written by Eque Somatoya
Novels written by Souma Toriya