「第ニ話・キノコ民族 その一」


 
 シンシアがお腹を空かせながらキノコ民族の村を探していると、どこからともなくいい香りが
 漂ってきました。

 「わあ〜いい香り……スープの匂いだ」

 シンシアは目を輝かせてあたりをキョロキョロと見回しました。
 でもまわりは全て高い木に覆われていて、その香りの出所は分かりません。
 シンシアは鼻をクンクンしながら匂いのする方へと向かっていきました。

 香りにまかせて歩いていると、森の奥に小さな村がある事に気がつきました。
 シンシアは歩調を早め、その村に近づきます。

 シンシアが村の敷地内に入ると、近くで遊んでいた少女がシンシアに気つき、
 寄ってきました。

 「おねえちゃん、見かけない顔だ……」少女は訝しげに話し掛けます。

 「私、シンシアって言うの。ここはキノコ民族さんの村ですか?」

 シンシアは少し確信を持って少女に尋ねました。というのもその少女が見るからに
 キノコ民族を思わせるような姿かたちをしていたからでした。
 
 少女は頭がカラフルなキノコの形をしていて、オレンジ色の頭に黄色のもようがありました。

 「知ってる! 魔女のシンシアさんでしょ? ママが言ってたもん」

 少女は声を高くしてそう言うと、くるりと後ろを向き、ちょっと待っていてと言い
 残すと、近くにある不思議な形の家に飛び込みました。すぐさま家の中では大きな話し声が
 聞こえ、大人の女性と老女、そして先ほどの少女が一緒に出てきました。

 「シンシアさん初めまして、よくいらっしゃいました」
  若い女性が先に近寄り、握手を求めます。

 「こちらこそ、初めまして、お世話になります」シンシアも丁寧に頭を下げて
 挨拶をしました。

 若い女性は自己紹介を始めました。女性の名前はレナ。少女はジュジュ、老女は
 ジーナというようです。レナの家は代々、魔女の手助けをする家柄で、
 魔女一族の旅をずっと前から支えてきたそうでした。

 と、その時、シンシアのお腹がグウ〜っと音をたてました。シンシアが顔を赤らめて
 レナ達を見ると、レナは笑って「もう食事は出来ていますよ。さあ、中にどうぞ」と
 言いながらシンシアを家の中に招き入れました。

 レナの部屋は明るい色の木で出来ていました。所々に乾燥したカラフルなキノコが
 吊るしてあって、電気の代わりに蝋燭のオレンジ色の光が部屋をあたたかく
 照らしていました。

  レナは温かいキノコのスープとパンを用意していてくれたようでした。
 とてもお腹が空いていたのでどんな料理でも美味しく感じられるかもしれませんが、
 それにしてもレナのスープは絶品でした。
 シンシアは思わずマナーも忘れてスープとパンを夢中で食べていました。

 ふと気がつくと、シンシアの周りには沢山のキノコ民族たちが集まってきていました。
 あまりにも夢中になって食べていたのでシンシアは彼らの存在に気がつかなかったよ
 うです。みんな優しい笑顔でシンシアを見守っていました。

 シンシアは顔を上げるとぺこりと頭を下げ、自己紹介をしました。そして自分の周り
 に立っている人々を見回し、ふと不思議な事に気がつきました。
 周りに立っていたのは全て男性だったからです。

 「あの……女性はレナさん達の他には……」シンシアは思わず尋ねました。

 すると彼らの表情が急に曇り、部屋の中には重い空気が立ち篭りました。
 
 「本当は……いるのです……いえ、いた……という方がいいのかしら」レナが言いました。

 「実はここ数年、ここから遠く離れた山から、怪物がやってくるようになって、
  ここの村の女性は全てその怪物にさらわれてしまったのです……」

 「怪物……ですか?」シンシアは思わず聞き返しました。

 「はい。実は私と娘のジュジュもその怪物に一度は攫われたんです……でも夫の助けがあって、
 命からがら逃げてきたのです……夫はその時に怪物に殺されてしまいました」レナは肩を
 震わせながら言いました。

 「……ごめんなさい。余計な事を聞いてしまって」シンシアは小さな声で謝りました。
 
 「いえ、いいんですよ。この子の命が助かっただけでも……」レナはジュジュの頭に手をやって
 小さく呟きました。

 その時、男の中の一人がおもむろにシンシアの前にひざまずきました。
 シンシアは驚いていると、他の男達も一斉にシンシアの前に無言でひざまずき始めました。

 「皆さん、どうなさったんですか? 急に……」シンシアはわけがわからず、ただ男達を
 見つめておろおろするばかりでした。 
  
 男達の一人が頭を床について話を始めました。

 「今、レナが言いましたように、この村の若い女や子供は全て怪物に攫われてしまいました。
 子供達は怪物の身の回りの世話をするため、そして若い女は怪物の慰めの為に……シンシアさん
 どうかお願いです。私達の妻や子供を救ってもらえないでしょうか……。
 私達はあらゆる手をつかってあの化け物を退治しようと今日まで頑張ってきました。
 でもあの怪物は不思議な力を使って、私達をいとも簡単にねじふせるのです。
 女達は今ごろ怪物に淫らな行為を受けているに違いありません……どうか手遅れにならない
 うちに、妻や子供を助けていただきたいのです!」

 「淫らな行為……ですか?」

 「はい。その怪獣は沢山の手を持っていまして、その手を使って妻やまだ若い娘達を
 陵辱するのです。最初のうちは女たちも抵抗を試みるようなのですが、毎日のように
 弄ばれるうちに女たちも諦め、身を任せるようになってしまうのです。そして……」

 シンシアは顔が真っ赤になるのを感じながら、男達の話に耳を傾けていましたが、
 男達に同情し言いました。

 「わかりました。まだまだ修行の身ですが、私にまかせてください」

 シンシアのその一言を聞くと、村人達は一斉に深々と頭を下げ、そして立ち上がり、
 手を取り合って喜んでいました。
 一抹の不安がよぎりましたが、シンシアは彼らの喜ぶ顔を見てその不安を払拭したのでした。
 


                   <続く……>
 
     
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