暴走族の進化 カエルは子供の時代をオタマジャクシとして水中で過ごす。その後カエルへと「変態」して陸上生活を始める。「変態」というのは「metamorphosis」という専門用語の訳語で、性的倒錯者とはなんの縁りもない。このカエルの極端に異なる二つの人生を、phase-1とphase-2と呼ぶことにする。水中でエラ呼吸して魚のように暮すphase-1と、肺と手足を発達させて、地上で爬虫類のように生活するphase-2である。 変態はカエルだけの特徴ではない。例えば多くの虫は、幼虫(phase-1)と成虫(phase-2)では形態も住む場所も異なり、顕著な変態を遂げている。チョウやカブトムシのように「さなぎ」という状態を作ってゆっくり変態するものもあれば、セミやトンボのように幼虫の背中からいきなり羽を持った成虫がでてくるものもある。 さて、ヒトには複数のphaseやそれらをつなぐ変態はあるのだろうか?ヒトにはしっぽもないしエラもない。手足だって生まれたときからついている。羽だって生えてこない。だが、実際にはヒトにだって変態はあると思う。ヒトの人生を2つのphaseに分けてみよう。phase-1を12歳から17歳、phase-2を20歳以降とすることにする。18、19歳はphase-1からphase-2への移行、つまり変態の時期である。実際にはヒトの変態はゆっくりと行われ、また個人差もあるのでだいたい16歳から20歳にかけてゆっくり変態していくと考えるのが妥当であろう。(12歳以前はphase-0として議論から外す。) カエルの二つのphaseの特徴は水中生活能力と陸上生活能力だった。では、ヒトの二つのphaseの特徴は何か?私はヒトのphase-1の特徴は暴走族に代表され、phase-2の特徴は医者に代表される、と言いたい。 中学校から高校あたりは、わりと運動ができて、気が強くて、体制(学校)に従わないような、ヤンキーとか不良とか言われるタイプが男同士では幅をきかせ、また女にももてる。その代表が暴走族である。暴走族は悪すぎるとヤバいが基本的に「かっこいい」のだ。ガリ勉君は男同士の力関係は言うに及ばず、女の気を引くことにおいても不良君に対抗する術はない。 しかしphase-2では力関係は逆転する。ガリ勉君は一流大学に進学し、医者や弁護士や大企業のサラリーマンや官僚になったりする。これらはいわゆる「もてる」職業である。急にかっこよくなってしまうのだ。反対に、不良君がそういう職につく頻度は低い。財産や特殊な能力がある人を除いて多くはブルーワーカーしたりするわけだが、もちろんそれをかっこいいという人もいるだろうが、一般論としてガリ勉君が不良君からかっこいくてもてる地位、「優位の個体」の栄冠をもぎ取ったことに異論の余地はないだろう。 ここで用いた「優位の個体」という言葉には、二つの意味がある。一つは「男同士で幅をきかせる」、つまり社会において上層部を形成するという意味。もう一つは「女にもてる」、つまりより多くの異性から性的対象として高い評価を受けるという意味である。そして、面白いことにこの二つの定義は通常同じ個体に成立する。つまり「社会的に優位の男」=「性的にも優位の男」なのである。女は社会的に優位の男に魅かれる、本能的に計算高いのである。 さて、このようにしてヒトのphase-1とphase-2の特徴を定義したわけだが、ここでカエルのphase-1, phase-2の特徴との大きな違いを指摘したい。それは、ヒトのphase-1(中学高校生)はカエルのphase-1(オタマジャクシ)と違って、性的能力を持っているという点である。つまり、カエルのphase-1の目的は無事にphase-2へと成長を遂げることで、次世代の形成は意図されていないのに対し、ヒトにおいては、無事にphase-2に成長することと同時に、あわよくば次世代を形成することも目的の一部に含まれているのである。 さてここで暴走族の早婚について議論しよう。前述のように、phase-1において彼等は「優位の個体」だからチャンスも多い。また、反体制派だし勇気があるから、同じ年の個体が怖れるような異性への接近、性的行為のエスカレートにも比較的抵抗が低い。さらに、年齢的にも避妊などの知識も浅い。ということでできちゃった結婚や未婚の母が多発する。これは、馬鹿げた現象に見えるが、ある意味で非常に合理的である。つまり、彼等はphase-2に突入してしまえば、「優位の個体」の立場、すなわち生殖のチャンスが下降するから、チャンスの高い時に自分を売り込んでいる結果となっている。 これを、カエルに例えて言うならば、オタマジャクシがカエル同様生殖能力を持っていると仮定して、優位のオタマジャクシと優位のカエルはその価値観が異なっている、例えば、優位のオタマジャクシは泳ぎが上手くて、優位のカエルは唄が上手かったりするとか。それで、もし彼等がオタマの時代(phase-1)とカエルの時代(phase-2)と両方に生殖のチャンスがあったら、運動能力に優れた個体はphase-1(オタマ時代)に生殖し、口の動きの上手な個体はphase-2(カエル時代)で生殖するだろう。これが、まさにヒトという種がphase-1とphase-2とで違った戦略で生殖を行っている様子であると言えよう。 さあ、このような架空のカエルを想定したわけだが、そんなカエルが現実世界のどこかにいないだろうか?人間の世界に暴走族がいて、それなりに生殖戦略に成功しているのだから、カエルの中にもphase-1生殖戦略を持つ種がいてもいいのではないか?もし、そのような種がいたら、その種はどう進化していくだろう?それは、おそらくphase-1に生殖する種と、phase-2に生殖する種という二つの別の種へと進化の中で分かれて行ってしまうと考えられる。 この実例と思われるのが、ウーパールーパだ。ウーパールーパはカエルではないが、同じ両生類に分類されるサンショウウオの一種だ。サンショウウオはカエルと同じく水中で生まれ、オタマジャクシ状態(phase-1)を経た後、変態して肺を発達させ陸上生活(phase-2)に入って生殖する。そして、ウーパールーパはそのサンショウウオの変り種で、phase-1からphase-2へと変態を遂げず一生を終える。つまりオタマジャクシのまま性的に成熟し次世代を作って死ぬのだ。これが、前述の架空のカエルの実例であると思う。 これは、一種の先祖返りであると言えよう。雨期が長かったりして、年中水中生活を強いられた種が変態の過程をスキップして性的成熟する道を獲得したのだろう。それでは、暴走族も一種の先祖返りなのか?。正確に言えばNOであろう。カエルやサンショウウオは、魚から両生類への進化の過程で、phase-1生殖能力を一度喪失し、ウーパールーパにおいてもう一度それを再開した、つまり先祖返りである。一方、ヒトの場合は、phase-1生殖戦略をなりわいとしていた原始人からの進化の過程でphase-2を獲得し、phase-2生殖戦略への移行期の途上にあるのだと思われる。つまり、簡単に言えば暴走族の乱暴な力のかっこ良さは原始人の名残である。であるから、進化の流れが方向転換しなければ、暴走族は絶滅していく可能性も考えられる。だが、ヒト社会の形態は幅広い流動性を持っているので、場合によってはphase-1戦略が優位な社会になる可能性もあるだろう。例としては核戦争が起こって"Mad Max"または「北斗の拳」の時代が訪れることである。 では、ここでphase-1生殖戦略をなりわいとするヒト(暴走族)がphase-2生殖戦略をなりわいとするヒト(ガリ勉君)と別の種に進化していく可能性について考えてみたい。それは、もちろんありうる。種分化(新しい種に分かれること)の基本条件は満たしているようだ。魚の一部が肺を獲得しながらも、そのまま水に残って魚に止まったもの(肺魚)と、陸に上がったもの(両生類)に別れたのと同じことだ。第一に暴走族の子供が暴走族に成りやすいという傾向が必要で、その傾向はもちろんある。教育的(後天的)にもあるし、運動できたり好戦的だったりするのは遺伝的要素も十分にあるはずだからである。とすれば、暴走族の子はまた暴走族になって親同様にphase-1生殖戦略をとる可能性が期待される。それが、ある程度高頻度で繰り返されれば種分化が起こるであろう。 さて、ここで考慮すべき最も大きな因子について言及したい。それは女である。もし、暴走族の子供が男も女も暴走族になって同族同士で結婚したら、暴走族の種分化は確実である。しかし、実際のところphase-1においては、暴走族の女の子(レディース)のみならず一般の女の子たちや、ガリ勉少女もちょっと不良な彼等に魅かれているのだ。例えば、有名な漫画ハイティーンブギ(古いが)でも彼氏は不良で暴走族だったが、彼女は勉強のよく出来る真面目少女だった。基本的にphase-1において男は暴走族形質が優位だが、女の場合はまじめな子も結構ポイントが高い(優位の個体である)ようだ。だから、男と女の優位同士、つまり不良な少年と真面目な女の子がくっついたりすることも多々ある。もし、この頻度がある程度高いと、暴走族の種分化はありえない。また、もしこの頻度がさらに高い場合暴走族以外、つまりphase-2生殖戦略個体が反対に絶滅する可能性もある。 ということで結局は暴走族とガリ勉君の進化の行く末は、レディースとガリ勉少女に握られていると言える。彼女らがどういうタイプの男に魅かれるか、正確に言えばどういうタイプの男の子供を作るかによって進化は決定される。ここで、大多数の女はレディースでもガリ勉でもない中間的な人たちである、という問題はおそらく考慮する必要は無いと思う。というのは、要はレディースが暴走族君を好み、ガリ勉少女がガリ勉君を好む傾向があるか否かが問題だからだ。というのは、もしそういう傾向が少しでも存在したら、その傾向は世代を重ねるごとに強まっていき、それに従って中間的なタイプはどんどん減少しやがては消滅すると予測されるからだ。 <結論> ヒトには両生類同様に二つのphaseがある。 ヒトも両生類も主にphase-2において生殖する。 例外としてphase-1で生殖する戦略をもつのがヒトでは暴走族があり、両生類ではウーパールーパがある。 ウーパールーパが種として分化したように、暴走族が種として分化していく可能性も十分にありうる。 |