phase3『Running_clouds』葉隠れの哲学

山道に入ったところだった。
「うちの若いもんが世話になったそうだな」
空羅の前に、お約束の刺客が2人現れた。
1人は見事なハゲ、もう1人はテカテカのオールバックだ。
組織ってものは、必ず勝利せねばいかんらしい。
「トカゲのしっぽ切りのように、雑魚は現れるんだね」と苦笑しながら空羅
「ふん、いつまでそう言ってられるかな」
そう言いつつも、刺客は空羅から距離をとっている。
さっきの大男から、情報を得たのだろうか?
「食らえっ」
(バシュバシュシュ)
ハゲが、手のひらから光珠を3発発射した。
(追尾型のマジックミサイルかっ)
「スピードを上げれば、振り切れるぜ!そのくらい」
空羅は、余裕を持って高速で避ける。
光球は、空羅を追いかけてきた。
「んじゃ、息を止めてもらおうかな」
オールバックが言うなり、刺客の2人はガスマスクを装備した。
そして、オールバックは頭上に上げた両手より毒々しい霧を発生させる。手を振り下げて方膝をついた時、彼の回りを渦巻くように、みるみるうちに毒霧が広がっていった。
(毒ガス、、クラウドキルか、D&Dみたいな奴らだぜ。俺は5分は息を止められるけど、、何っ!?)
ハゲの両手に、再び光りが集まりはじめた。
「さぁ、何分もつかな?」
(バシュバシュシュ、バシュバシュシュ)
6連発された光球が前方から、後ろからは先ほどの3発が追撃する。
空羅は潜在能力を開放し、瞬速で2人への距離を詰めることにした。

幻斗は、空羅と沙羅沙の住むマンションを訪ねていた。
5Fで雨宮の表札を見つける。
開いたままの扉から、8才ぐらいの子供が出てくるところだった。
「幻斗、、」
「お前は、、いや、君は?」
やんちゃそうに見える子供は、覆面の幻斗を見上げながら答えた。
「、、俺は雪羅。おかあさんなら、奥の部屋にいるよ」
「せつら、、か、深雪に似ているね」
雪羅の表情には、悲しみの色が深く浮んでいた。
その意味は、沙羅沙の寝室に入った時に分った。
「、、沙羅沙っ!?」
幻斗はマスクを脱ぎ捨てて駆け寄り、雪羅が見ているのも構わずに沙羅沙を抱きしめる。
死んでいるのは分った、、舌を噛んで自害したのだろう。
胸には、光を取り戻した暗黒の宝玉のネックレスがかかっていた。
幻斗に、涙は流れなかった。
ただ、死んでしまってからしか抱きしめることしかできなかったことが少し悔しかった。
「雪羅、、俺は沙羅沙を連れて散歩に行ってくるよ」
雪羅は、黙って頷いた。

「はぁ、はぁ、はぁ、、」
空羅は、2人を倒し毒の漂う死の領域から脱出を果たしていた。
ぎりぎり息は続いたが、光球を弾いた両腕の傷に毒が染み込んでいた。
(雑魚にかすり傷をつけられちまったな、、ん?)
前方から、見覚えのある姿が見えた。
美人姉妹の姉=キョウコである。
キョウコは空羅に気付き、しまった!という表情をして、わき道へ逸れようとした。
「キョウコ、どこへ行く?待てっ」
空羅は、瞬速で前に回りこんだ。
「あらっ、空羅?偶然ね」
「とぼけるなっ、沙羅沙を殺すつもりだろ?」
キョウコは、開き直った表情になった。
「お見通しか、、しかたない、あなたを先に倒すしかなさそうね」
(マークに預けた薹霊の宝玉で、なんとかしたかったのだが、、)
空羅の表情が、羅刹に変る。
「望み通り、先に地獄へ送ってやる!」と決意の空羅
キョウコは、バックステップで距離を取り特殊能力を使った。
キョウコの姿が完全に消えた。
「(インビジリティか)それだけではあるまい!死ぬ気なら全力で来い」
空羅は目を閉じ、キョウコの存在を感知する。
キョウコは、空羅に対して有利な位置から攻撃しようと移動した。
しかし、空羅はキョウコの移動する方向へ随時向き直る。
(ダメだわ、ホント全力でいかないと無理っぽいね)
「うおおおおおぉぉっ」
キョウコは、叫びながらハンマーを振り落とす如く、両手で地面を叩いた。轟音とともに衝撃波が、前方の空羅へ襲いかかった。
(アースクエイクか、、)
空羅は、瞬時に察知し前方へジャンプする。
キョウコも同じタイミングでバックジャンプで距離を保ちつつ、空羅の着地点へ向けて次の攻撃を繰り出した。
「ファイヤボール」
3メートルはあろうかという火の玉は、地面に着弾すると燃え上がった。
降下をした空羅は業火に飲まれた。
「燃え尽きろっ!私は生きるんだ、今の生活を壊されたくないんだ。だから、、」
「だから、沙羅沙を殺すというのか」
キョウコの叫びに、業火より飛び出した空羅が返す。
「えっ!?」
「燃える前に脱出したよ。あついからね」
空羅の服は焦げているだけのようだ。元から黒ずくめだから良く分からなかったりするけどさ。
「(なら、スピードを殺して動きを封じる)アイスストーム」
さらにキョウコはバックジャンプして、吹雪を降らせ地面を凍らせた。
空羅は、バックダッシュで距離を広げて凍るのを避けた。
距離にして25mも開いただろうか。
キョウコは氷の要塞で、空羅を待ちうける。
「特殊能力をいっぱい持っちゃって、1つだけの人ばっかしなのに不公平だぜ」
空羅は、氷の結界へ足を進めはじめた。
「だてにリアルの姉じゃないのよ。ライトニングボルトッ」
(くそっ、そう来たか)
空羅は、とっさに飛びあがろうとしたが、稲妻に捉えられた。
「がぁぁぁっ、、んっ!?」
凄まじい電撃が身体の芯を通る感覚に襲われた。
しかし、痛みだけであることが、不思議だった。
バランスを崩して肩から着地することになったが、空羅は立ちあがるとキョウコに突進した。
(悪いが、俺は油の上でも滑らずに走れるんだ)
「(どうして、効かないの?!直撃したのに)ライトニング、、うっ」
低い姿勢からのミゾオチへのランニングエルボーを食らいキョウコは前屈み状態で後方へ少し滑った。
「さようなら、、キョウコ」
次の瞬間に、空羅は渾身の鉄山靠をキョウコに向けて繰り出している。
そして、体には悲しいほどの手応えが伝わって来たのだった。