「?!いかんっ」
空羅は、セスの言葉を打ち消すが如く移動する。
「うわあぁぁぁぁっ」
幻斗の叫びが、上空にこだました。
「今まで、ご苦労だったな。幻斗よ」
紫水は、少し上空へ浮かび、両手を開きかけの翼のような格好で、大量の気を放出していた。
無数の真空の刃のような気を、幻斗は懸命にガードしていたのだ。
幻斗は、全身を切り裂かれ、急速に体力を削られていった。
白い服が、みるみるうちに朱色に染まっていく。

ようやく、空羅が体当たりで、幻斗を紫水の気の領域から弾き出した。
ほぼ同時に、セスが背後から二匹目の猫を投げた。
「にゃんぷだこーにゃんぅーぁ」
猫、、弾き飛ばされ。
(にゃーっ)
続いて、セスの中段飛び蹴りが、、紫水の抜いた刀で切られた。
(キュィーン)
セスは、とっさに小刀のような武器で受け止めた。
だが、右腕をざっくり切りつけられてしまっている。
「うっ、、」
着地してしゃがんだセスの傷口から、血がしたたり落ちる。
「セス!大丈夫か?」
空羅が、心配の声を上げる。
「ん、大丈夫、、っちゃ。早くっ」

紫水は、右手に剣を下げて目を閉じ、空中で静止していた。
気と体力を、回復しているのだろうか。

「行けっ、、行って来い!ここは、俺とセスで何とかする」
今度は、幻斗が叫ぶ。
、、とても大丈夫とは思えない。
幻斗の美しい顔には、血の気が引いているのが見て取れる。
(空羅、、後は頼んだぜ。楽しかった、、幸せな人生だったよ)
(バカ野郎、弱音なんか吐きやがって)
幻斗と空羅は、思念を飛ばし合った。

「セス、、やれるな?」
幻斗が、眠そうな目に今一度、光を宿らせた。
「やれるわよ!お前こそ、やれるんか?」
セスが、立ち上がり身構えながら威勢よく応える。
「バカにすんなっ。本気出してなかっただけだぜ」
幻斗は、微かに笑ってみせた。

空羅は、二人を見て『ダメだ、お前らと一緒に戦う』なんて言えなかった。
「お前ら、、死んだら許さないからなー」
セスが、優しい目をして言う。
「頑張るから、、終わったら、お嫁さんにしてっ」
「、、待っててくれっ!幻斗、セス」
空羅は、親友達を残して駆け出した。

少しして、走りながら何度か振り返った。
闘いの場所が遠くなっていく。
最も大切なものが、遠くなっていく気がした。
遠くなって、、『幻斗の気が、この世から消えた』。
覚悟はしていたのだが、、大きな喪失感が襲った。
(伝えなきゃ、あの娘に)


空羅は、レイドの家に付いた。
鍵のかかっている扉をぶっ壊す。
「レイド、レイドっ」
階段を駆け上がり、一つ目の部屋をぶち開ける。
さながら、早朝バズーカーな感じだ。
けど、レイドにゃん、クー寝。
「起きるんだ、レイド」
掛け布団をひっぺ返して、両肩を揺さぶった。
ミッフィのパジャマ姿で、上を向いて寝てた。
レイド、眠そうに一瞬見たかと思うと、大きく目を開いた。
「えっ?!空羅、何でここに居んのー?」
空羅は、もちろんだが真顔で言う。
「幻斗が殺られた」
レイド、頭の回転よく、泣き崩れ。
「どうして、幻斗。幻斗が居ないと、レイド生きていけないよ」
空羅、レイドを抱きしめた。
「えっ、ちょっと、、!?」

レイドは避けようとしたが、、空羅から流れ込んでくるビジョンに見入ることになった。
自分の前世である葵の記憶、デュイとの想い出、共に戦ったゼロのこと。
(レイドは、、葵なのね。ダルジィ=デュイの気が見える、、何とかしないと。セス=ゼロが闘ってる。私も、、闘う!)

空羅が腕を放したとたんに、レイドは立ち上がった。
目に、涙はもう無い。凛々しい目つきに変わっている。
「空羅、ありがとう。レイド、頑張ってみる」
「じゃな(俺が行くまで、何とか凌いでくれ)」
空羅は、レイドの頭をポンと叩いて部屋を出ていった。
レイドも、ポンチョランナー(何ですかそれは?)のジャージ上下に着替えて、戦場へと向かっていった。