chapter2『鏡維』
照明が消えて暗転した会場に、イントロが流れ出し数本のライトが花道を照らし出す。
「青コーナーより、NEWCLEAR_SONIC_PUNK・鏡維選手の入場です。」
鏡維は、黒の上下に白のコートを羽織り、面が斜めに切られたような片面だけの白いオーバーマスクを付けて姿を見せた。
もちろん、ギターを標準装備っぷー。
リングアナの紹介に続いて、実況アナが捲し立てる。
「シングル6枚・アルバム2枚を出したアーティストでありながら、まさに全く違う土俵に足を運ぶ。根っからの格闘好きか?それともただのバカ野郎か?今宵、四角いリングの上で審判が下ります。来ました、この男!なんと、ギターをかき鳴らして歌いながらの登場だ」
その曲はUP_TO_DATE
♪、、まず壊せ、木っ端微塵に!奇跡となるのさ自他と共に、、、ぎゅうぅぅぅん
『UP_TO_DATEっ』
最後はギターを弾いて、自分は歌わず観客だけに歌わせたりした。
鏡維は、セコンドの若手にギターを渡してエプロンへ上がる。
普通にくぐって「みんな、待たせたな」って言った。
試合内容は、やはりプロレスラーの洗礼を受けた。
けど、持ち前のスタミナで30分を戦いきっての引き分け。
上々の滑り出しを見せた。
これにより、他のレスラーもやっきになって、彼から3カウントを奪おうと激しく攻めてきた。
にわかレスラーに勝てないでいると、プロレスラーの価値が落ちるってものだからだ。
だが、鏡維もそうはさせじと奪わせない。
次第に、彼には戒斗や紫玖真がセコンドに付くようになっていた。
そして、鏡維は逆にジュニアヘビーのチャンピオンからピンフォールを奪った。
チャンピオンのスグーデリア・ダラーラは試合後にこう言った。
「おし、今シリーズの最終戦、ベルトをかけてやるよ。ファンのみんながナイスファイトを見せろ」
世間は、誰もが鏡維の強さを認めはじめていた。
「お前なら勝てる」
「いけるぞ、鏡維が取って。いつか、俺らでベルトを独占しようぜ」
後からデビューした戒斗と紫玖真の言葉もこんな感じさ。
鏡維は、戒斗と紫玖真の希望だった。
というのも、このふたりはデビューしたものの、苦汁を舐めるような戦いで結果を出せないままでいたからだ。
っか、普通はそうなんだょね。
それからの鏡維は、、連敗街道を走り出した。
タッグや6メンでの前哨戦でもコロリと負けた。
「何やってんだ?ダサいことやってんじゃねー」
「なんだなんだなんーだ?って、プーさんが言うの。プーさんがね、、」
紫玖真はどうした?と心配し、戒斗は何故かプーさんに狂った。
「お前らのマネしてみたんだょ。イラついたか?」
鏡維は、挑発するように返す。
そして、最終戦のタイトルマッチがきた。
試合は、序盤に足責めでダラーラの動きを止めた鏡維が主導権を握った。
フーフーと疲れ果てたチャンピオンと対照的に、鏡維は思い通りの試合でいきいきして見えた。
誰もが、鏡維の新チャンピオン誕生を考えはじめた時だ。
鏡維は、技を放った後に疲れ果てたかのように倒れ込み、明らかに全く攻めることをやめた。
「どうした?攻め疲れじゃないだろが。フザけんな」
「はちみつ一緒に食べようって、プーさんが、、」
紫玖真が応援し、戒斗がプーさん狂。
会場も、鏡維コール一色となったった。
誰もが「頑張れ!勝ってくれ」と思った。
ところが、鏡維はいいようにやられて、ダラーラの必殺技・ダークスタースプラッシュの前に敗れた。
「鏡維、またいつでもかかってこい。ファンのみんな、ナイスファイトだった」
ダラーラは、ベルトを巻いてにこぷんショー。
一方の鏡維にも、満場の観客から温かい拍手が降り注いだ。
マイクを持った彼は言った。
「総格は勝たなきゃ意味がないけど、プロレスは勝ちと負けだけじゃないんだ」
鏡維コールが巻き起こる中、花道を引き上げる鏡維とそのセコンド。
観客の目から見えなくなった瞬間、紫玖真とプーさん狂は鏡維に小声で囁かれた。
「けど、負け犬トリオは俺ひとりで卒業するょ」
それからの紫玖真と戒斗は、必死に練習して鏡維を見返そうとしたみたいさ。
「1か0だけじゃナインだ」だと、ワン・ゼロ・ナインですね