宿屋仇 桂 枝雀
えー、暫くの間、お付き合いを願います。
大阪の落語と東京の落語とは、少ぉしあの、
えー違った所がございますがまぁ、総体は、あー大体が おんなじようなモンで
ございますけれども少ぉし、えー違った所もございます。
早い話がこの『出囃子』なんかは東京、大阪両方にございますが、
噺の間に、このー囃子が入るというこれを『嵌め物』と申します。
これはやっぱり、えー言わば大阪のモンでございましょうね。
それから私がこの今ー、前に置いておりますコレ『見台』と申します、
えーこの机みたいなモンでございますね、『所見台』みたいな見台と申します。
コレ『膝隠し』ちゅうんですねコレ。膝を隠すように出来てるんですね、
えー隠れてないかも解りませんが一応まぁ膝隠しでございます。
えコレが『叩き』と申しましてまぁ ”タンタンタン”あー叩くから『叩き』 と言うんでしょうねぇ、
えー叩かなかったら『叩き』とは申しませんがね、”タン”叩きでございます
こっちが『小拍子』と申しましてー、 ”トン”拍子木の小さいので『小拍子』でございますね
”キンキンキン”えー大きい、えー拍子木ですと大拍子ですがね、
小拍子でございます ”トタタタン”コレでこのー、あー、叩きながらーお喋りをするという
ひとつの『型』があるワケでございますこれぁもう、大阪落語独特の モンでございますね。
トタタタン
えー、大体がこの『旅の噺』と申しまして、
えー前座が一番初めに、えーお稽古するのがこの噺でございます。
トタタタン
コレを叩きながらお喋りをするのでございます。
トタタタン
えー何でこんな事をするかと申しますというと私ぁ詳しい事はあんまり知らんのでございますが、師匠から聞きましたところによりますというと、えー大体この大阪の方の落語はー、
言わばーこのぉ、『野天』でございますね、屋外で、えーまぁまぁ初め、
その始まったモンやそうでございますからな、
トタタタン
どうしてもそのー、ヒトの気があっちへ行きますのでね、
トタタタン
何とかコッチを向かす為にー、
トタタタン
えー
タンタン
こんなモンでこのぉ、まヒトの気を惹いたんであろうと
タタタタン
言うような事を、ウチの師匠から、あの教わったんでございますがそれをその通り、
お伝えするのでございます。
トタタタン
私の見解は何ら入っておりませんが、
トタタタン
ま適当にこう叩きながらお喋りをする。
トントントン
今になりましてこの『効果』というものを考えまするというと、
トタタタン
コレをこのー、
タンタン
あ叩きながらお喋りを致しますとひとーつは、
トタタタン
『調子』が揚がります。
えー
トタタタン
これだけのこのぉ
タンタン
おー、
タン
『高さ』がございますからね、えー
トタタタン
これより調子が低いと、あまりその皆様方に、
トタタタン
面白いと思っていただけません。
トタタタン
『えー暫くの間お付き合いを願います・・・』
トタタタン
えーコレではー、
タンタン
こっちに負けますのでね、えー嘘でも、
『暫くの間、
トタタタン
お付き合いを願いますが』
トタタタン
というようにこの、調子が揚がるワケでございますね。
調子は低いより高い方がまぁ総体によろしい。
トタタタン
高けりゃエェというモンでもございませんがね
トタタタン
『シバラクのアイダぁー』
これでは具合が悪いのでございますがまぁまぁ、
そこそこの調子でございますね。
トタタタン
えそれからこのー、
タン
あー
トタタタン
少々のこのー、ナンですなぁつまりそのー
トタタタン
『次に』でございますねぇ、
トタタタン
えー
タンタン
えー『何を言うか』とー
トタタタン
いうような事をでございますなぁ、
タンタン
そのー、ウカっとー、
トタタタン
忘れるような事がー、
トタタタン
えー、中にはあるのでございますね
トタタタン
『えー次、何だったかな?』というようなー
トタタタン
えー事があるのでございますね
トタタタン
『うーどういうような事を言ったら、良いのかな?』なんてね
トタタタン
えー思う事があるのでございます
タンタン
『次の台詞が出てこない!』というような事がね。
トタタタン
そういう時にはー、
タンタン
『あぁー』
トタタタン
てな事を言いながらでございますね、
タンタン
とりあえずコレを叩いてますというとー、
トタタタン
『・・・何か意味が在るのかな?』なんてねぇ
トタタタン
あー、
タンタン
とりあえずはこの『間』が繋げるワケでございますな。
タンタン
タンタン
あー・・・・・
トタタタン
ちょうど今が、あーソレに当たっているワケでございます。
タンタン
タンタン
トタタタン
やっぱりこのー言葉の間、あいだにー、
トタタタン
えー叩かなければならないのでございます
トタタタン
えー言葉とこの叩くのが一緒になりますというとー、
『しタばタらタくタのタあタいタだおタつタきタあタいをねがいますねやぁ』
・・・何を言うてんのか判りませんのでねぇ・・・
えーこれもやっぱり、多少のー要領はいるのでございます。
タタタタン
そいでまぁ叩きながらこのー、『旅の噺』というものをー、
とにかくもぅあの初めのうちはベラベラとお喋りするだけでございますからな、
とにかく『喋る』という事のお稽古でございます
トタタタン
この頃はもう、あのー真面目にはまぁ、あのあんまりやりませんが、
こういう『型』が残っているという事を、今日は少ぉし皆様方に ご紹介させていただきます。
トタタタン
『揚々と上がりました私がー、
トタタタン
初席一番叟でございます。
トタタタン
お後二番叟ー、
トタタタン
三番叟には夜番僧、ごばん草にお従事
トタタタン
幡に天蓋、銅鑼に妙鉢、陰灯篭に白張りー
トタタタン
こない申しますというとコレぁまぁ『お葬式』の方でございますが、
トタタタン
何じゃもう上がるなりお葬式の事を申しまして、
トタタタン
”えらい『ゲン』の悪い奴や!”
とお叱りがあるかもしれませんが、
トタタタン
これは決してゲンの悪い事やない、
トタタタン
至ってゲンのえぇ事を申しております』
トタタタン
てな事をまぁ言うたワケでございますね。
これがこの『旅の噺』のいちばん冒頭にこういう事をベラベラベラベラもう、
えー意味も何にも無くこのー、お喋りをするというこれがー、
大阪の噺家の修行のひとつでございます。
トタタタン
まぁそんなこんなでこのー、旅の噺に入って行くワケでございますけれどもね、
トタタタン
『ひと口に「旅」と申しましても色々ございます。
東の旅に西の旅、北の旅に南の旅、
トタタタン
伽欄が拾萬極土の旅、白いのんが白足袋で黒いのが紺足袋、
丈夫なんが皮足袋でモヒトツ頑丈なんがブリキの足袋あぁブリキの足袋はございません』
トタタタン
とまぁワケが判らん言うてますけどそこそこ『くすぐり』は こしらえてあるワケでございましてね、
一応皆様方お笑いに なるのでございますね
トタタタン
オモシロイもんでございますね。
トタタタン
『さてー、東の旅は「伊勢参宮 神の賑い」、西の旅は「兵庫渡海 鱶の魅入れ」、
トタタタン
北の旅は「池田の猪買い」、南の旅は「紀州飛脚」。
あの世へ参りますのが「地獄八景 亡者の戯」、
トタタタン
天へ昇りまして「月宮殿 星の都」、海へ潜りまして「竜宮界 龍の都」、
トタタタン
異国へ参りますのが「島巡り 大人の屁」ともうどーんな旅でも
ちゃんと仕込んでございますがー、
トタタタン
さてやっぱり一番ご陽気なんはこの東の旅「お伊勢参り」でございます』
トタタタン
というのでこのお伊勢参りの噺に入って行くワケでございますね。
東京の方はこれを『二人旅』と申しましてー、ふたーりの男がぶらーぶらこの、
野辺を歩いている所などが、 えー東の旅の部分でございますな。
今も言いましたように東の旅から西の旅北の旅南の旅、
いろんな旅の噺があるのでございまして、
そういうモノを一応初めに、色々とお稽古をするのでございます。
さて今日はその旅の噺の中で、『宿屋仇』というお話を聞いていただきます。
トタタタン
同じ字を書きましてー、えー東京で『日本橋』大阪でこれを『にっぽんばし』 と申します。
おんなじ字でございますが読み様が違うワケでございますね、
大阪は『日本橋』、東京は『にほんばし』でございますね。
大阪は『ニッポンバシ』!
えー・・・何編言うてもおんなじ事でございますが、
日本橋1丁目、えー1丁目はまぁ何処にもあるんですが、
これをあの『ニッポンイチ』と言うんですね、
今はもう市電が無くなりましたが私らまだ小さい時分、市電が走ってまして
『次はー日本一ィニッポンイチぃー』
言うてましたですね。
私ら伊丹に居りましたんで伊丹という所は大阪より少ぉし、外れた所でございますからな、
ほんで初めて大阪へ出てきて
『次はー日本一ィニッポンイチぃー』
車掌さんが言わはったんで、
『・・・次はモモタロさんが出て来はんのんかいなぁ・・・』
と思てましたんですがそうではなかったんですね、
日本橋1丁目をにっぽんいちと言うのでございます。
トタタタン
大阪はそういうトコ多ございますよ、あのー上本町6丁目を『上六』、谷町9丁目を『谷九』、
ま色々まぁ、略するワケでございますね。
トタタタン
・・・まぁ別に何がどうと言う事は無いのでございます。
トタタタン
えー、日本橋でございますな。
只今でもー、ホテルやとか旅館の類が多ございますが、大体が『宿屋町』でございましてね、
大変に賑いました所でございます。
宿屋町という所はオモシロい所でございますな。
昼日中はどうと言う事は無いのでございますがさて!
日隠れ小前、『夕景』ともなりますというとー、その賑いたるや一通りではございません。
『今日、一日の旅の疲れを、何処で休めようかな?』
というその旅の者と、
『一人でもようけようけー、お客さんを引っ張り込まんならん!』
という宿の者とが入り乱れましてわぁわぁワァワァ!!!
・・・一種独特の活況を呈するのでございます。
あー大勢が出ましてワァワァワァワァ言うてます所、
一軒の宿屋の前をお立ちになりましたのがお侍でございます。
トタタタン
頭を大髻に結い上げまして腰には太身の大小、手には南蛮鉄の鉄扇を 持っております。
侍 「あー、許せよ」
宿の者「へ、お越しやす」
侍 「『紀州屋元助』とは、その方宅であるか?」
宿の者「へへぇ、手前供が紀州屋でござります」
侍 「ん。その方が主の、元助か?」
宿の者「え、いえいえ、えー手前は当家の『お若い者』でござります」
侍 「ん〜ん、若い者にしては、偉ぉ頭が禿ておる」
宿の者「・・・御念の入りましたこってござります。
斯様な所に奉公しておりますというと、
幾つ何十になりましても『若い者』とこう申しますので」
侍 「ん、然様か。名は?何と申す」
宿の者「えー、『伊八』と申します」
侍 「ぬっ!?その方じゃな!!鶏のケツから生き血を吸うのは!!!」
伊八 「・・・えぇ、アレは『イタチ』でござりまして、手前の方はい、は、ち、とこう申しますので」
侍 「ん〜ん伊八か。間違いじゃ許せ。
あー、何、伊八。ムォホンッ!些少ながら、あーコレを遣わす」
伊八 「お、コレはー何ですかいなあの、帳場へのお茶代で?」
侍 「茶代ではない。特別を以って、その方に遣わすのじゃ」
伊八 「私への御心附けでござりますかいなぁ!あ沢山に有難うさんで・・・」
侍 「あコリャコリャ、捻くり回さんでも良い。中身は銀一朱じゃ」
伊八 「あぁ恐れ入りましてござります!」
侍 「いや、何、伊八。
ターン
その方に特別を以って銀一朱遣わせたは、余の儀でないぞ。
身供、明石の藩中にて、『万事世話九郎』と申す者じゃが、
夜前は泉州岸和田、岡部美濃守殿の御城下、『難波屋』と申せし間狭な宿に
泊まり合せし所、何が雑魚も模像も一つに寝かしおってな、
巡礼が詠歌を上げるやら六部が経を読むやら駆け落ち者がいちゃいちゃ申すやら、
夜通し身供を寝かしおらなんだのじゃ。
今宵は、間狭に手も良い、静かな部屋へ案内して貰いたい」
伊八 「畏まりましてござります八番さんご案内ィー!」
えー、このお侍をばね、あのー二階の八番という部屋へ案内をいたします。
その後からやってまいりましたのがー、
タタン
これぁまた兵庫辺りの若い衆が三人連れでございます。
伊勢参りの帰りと見えましてやァかましいィ言ぅてやってまいります。
清八 「ぅおおおおおおおおい待ったァ待ったァ待ったァ待ったァ!!!」
(せいはち)
喜六 「なんなんなん何ぞい?」
(きろく)
清八 「『何ぞい?』やあれへんがぁオイそう先さき行たかてあけへんやないかぇオィえぇ?
『日本橋の紀州屋元助ちゅうトコへ泊まったってくれ』
ちゅうて『指し宿』されてんねでオイ!何処や判ったぁんのんかい!?ちゅうねん!!」
喜六 「さぁさぁ、ソレがあの何処や判らんのやけれどもなぁ・・・」
清八 「判らなんだらそう先さき行たかてあけへんやないかぇ待ったァ待ったァ待ったァ
ぅおおおい!玄やんお前も何をしてんねん早いコト来んかい!!」
玄兵衛 「ぅおおおおおい待ったァ待ったァ待ったァ待ったァ!!」
(げんべえ)
・・・・やぁかましぃ言ぅてやって参ります。
伊八 「えーあんさん方どうぞお泊りをー」
清八 「おう!若い衆さんエライ済まんいやぁ今も言うてる通りやえぇ?
『日本橋の紀州屋元助ちゅうトコへ泊まったってくれ』
ちゅうて指し宿されてんねでぇ奈良の淫売屋からうん、おんなじ事なら
ソコへ泊まってやりたいと思てなぁ悪ゥ思わんといてや!」
伊八 「有難うさんでござります手前供がその、紀州屋でござります」
清八 「ワレとこかい!?おォい判ったコイツや!!」
喜六 「しめた逃がすなぁ!」
伊八 「・・・盗っ人やがなまるで・・・
えー結構でござりましてー、お泊り有難うさんでござります。
あんさん方あのぉ、何人さんお泊りでござりますかいな?」
清八 「ワイ等か?しじゅうさんにんや!」
伊八 「!!さいでござりますかこれはこれはー沢山のお泊り有難うさんでござりまして
コレコレ!!あのー何じゃで大勢さんお泊りじゃではぁはぁ、
あのーお風呂はなぁ小さい方では間に合わんじゃろ大きい方を沸かしなはれ
大きい方をばな!うん、それから焼き物はそうじゃな鰆がえぇやろ、
あどんどん焼いてご飯もどんどんどんどん炊かなあかんで!
お若い方が多そうなまたぐずぐずしてたらこないだみたいに叱られんならんで!
へいへい、直ぐに支度いたしますので、
えーぇぇ、するとあんさん方三人さんはあのー、『宿取り』さんでござりますな?」
喜六 「そうじゃ、宿を取んねん!」
伊八 「さいでござりますかへいへい、何方はんのんでも結構でござりますあの、
お笠を一回拝借したいので」
清八 「・・・? 何がやねん?」
伊八 「え、えぇ、あのあんさん方はあの、宿取りさんでござりますな?」
喜六 「そうじゃ、宿を取んねん!」
伊八 「あぁさいでござりますか何方はんのんでも結構でござります、
お笠を一回拝借したいので?」
清八 「・・・何がやねん?」
伊八 「・・・え、あのあんさん方はあのー・・・宿取りさんでござりますな?」
清八 「・・・ドヤしたろかお前?一遍、アタマ『ごーん』と行くでお前?
何遍同じ事言うてんねん『宿を取る』言うて!」
伊八 「さいでござりますさかいに何方はんのんでも結構でござります、
お笠を一回拝借いたしまして!手前供、表へこう掛けさせていただきますというと、
後の四十人さんが!ソレを目印に!
ドンドンドンドンドンドンドンドン送り込みになるとこういうような寸法で!!」
清八 「・・・ぁぁ判った判った、判ったァ。コイツのヌかす事聞いたかえぇ?
欲の皮突っ張ってケツかんねんホンマにもぅ・・・
『後の四十人さんがどんどんどんどんどんどんどんどん』
なーにをヌかしてケツかんねん。後から誰も来ぇへんやないかぇ」
伊八 「・・・・えぇぇ、あの『四十三人』さんお泊りやと・・・」
清八 「おぅおぅおぅ、ヒトの言う事ァ塩梅聞かなアカンでオイ誰がンな事言うてんねんえぇ?
ワイ等三人は兵庫の生まれや気が合うねんウマが合うねん!
何をするにも三人連れや『一盃呑むか?』三人や『風呂行こか?』三人や
『花見しよか?』三人や『芝居行こか?』三人や『伊勢参りしよか?』三人や。
一緒に行かんのはせんち場だけや。 『始終三人』や、ちゅうてんねん!」
伊八 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、然様でござりますか・・・・・・・・・・・・・・
始終、三人さんでござりますか・・・・・・・・・
四十三人さんと違いまんのんかいな・・・・・・・エライ言葉間違ぅてるがな
あーこれこれ!!あのー風呂は小さい方でえぇで?えぇ??
”もう大きい方が沸いてます”??おぉ早いやないかいなえぇ!?
鰆ぁー、あ切ってしもた!?四十三人分!なーにをすんねやなぁ・・・
ご飯!?吹いてるてかいなオィ!!??
・・・・・・・エライこっちゃがな今日に限ってまた手回しのえぇこっちゃなぁ・・・
そない大層にせんでもえぇねがなぁ・・・客はたったの三人やがなぁ・・・」
清八 「こらこらこらこら、こら!ワ、ワレ今オカシな事ぬかしたなオイ。
『たったの三人』!?たったの三人で悪けりゃ、余所行こか!!?」
伊八 「いえいえぇ、滅相な・・・只今のはほんの『内緒事』で」
清八 「おぉきな内緒事やでオィ!上がってもえぇのんかい!?」
伊八 「どぉーぞお上がりを!!」
喜六 「ぅおーーい番頭はんあのぉ派手ぇに上がろか陽気にあがろか
それとも哀れぇに上がろか陰気に上がろか?」
伊八 「・・・えぇぇ・・・上がり様にも色々ござりますので?えぇ!
もうこういう商売でござりますのでどうぞ、あの何でござります『ご陽気』が結構で!」
喜六 「そうかよっしゃほんなら陽気に派手に賑やかぁに上がらしてもらうでぇ!!
よーーーーいとこせぇ!よーーいやなぁ!!
どないせぇーこないせぇーえ!ささなぁ〜んでぇもぉせぇ!!
うぉおお部屋は何処やどこや何処やドコやぁぁッ!!!??」
伊八 「・・・・ぉわぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・派手な上がり様やなぁ・・・えぇもし、もし、もしィ!!」
喜六 「何じゃい伊勢参りの帰りに『音頭』取ったんが悪いんかいのぅ清ィやん!?」
伊八 「ぁぁ音頭大事やおまへん音頭大事やおまへんねんけれども、
あんさんまだ草鞋が片っぽ履いたままになっとりまんねやぁ・・・」
清八 「・・・お前もアホな事しぃないなオマエえぇ?
草鞋片っぽだけ脱いで上がる奴があるか!」
喜六 「何を言うてんねんなんぼワイが慌てもんかてオマエ
草鞋片っぽだけ脱いで上がるってなぁオマエそんな馬鹿な・・・
あぁ、ア、あら?あぁ・・・あら??はぁ・・・ホンに片っぽ履いてるなぁ・・・
オカシィネェ??」
清八 「・・・『オカシィネェ??』やないでお前・・・・??待っちゃぁ・・・?
ワイが最前なぁあの上がるとき、左足の草鞋一生懸命解いてたらな、お前ワイの
右足の草鞋を一生懸命解いてくれてたでぇ?『エラい親切な事もあるもんやな』と
思てたんやが・・・アレひょっとオマエ間違うてたんとちがうか?」
喜六 「!!!アレお前の足!!??」
清八 「エェかいなオイ・・・自分の足も他人の足もワカランのんかいなぁ・・・
番頭ぁん堪忍したってぇコレこんな奴っちゃぁ!こないだも風呂行ってなぁ?
はぁ湯に浸かってて『ケツが痒い、尻が痒い』言うて隣のオッサンの尻一生懸命
掻きよった男やぁ・・・この位のコトァあるわいなホンマにもぅアホかお前!
早いコト脱ぎぃな!!」
喜六 「イヤになって来たなホンマにもぅ!玄やんもゲラゲラ笑いなやオマエおぉい!!
コレこっちぃやっといて!!部屋はドコや何処やどこや何処ヤァッ!!!!」
伊八 「どぉーぞこちらへー・・・・」
タタン
さぁーこのやかましい連中をばね?
最前『静かな部屋があったら泊めて貰いたい!』ちゅうたあの、お侍の隣の部屋へ!!
こぉのやかましい連中を放り込んだ!!
タタン
清八 「よぉぉし十二畳か辛抱したろオイ玄一杯呑むか?一杯呑むか!?」
玄兵衛 「当たり前やないかぇなオマエ!?『兵庫の三枚連れ』やちゅうて上がってんねん
三人連れちゅうて上がってんのにやでぇ!?『酒も呑まんと寝た』てな事言われたら
こらぁお前、何じゃ馬鹿にされるでな?兵庫の為にも呑まなイカンでぇ!!」
清八 「ンなオカシな理屈付けぃでもえぇねん
うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぃ・・・・・」
パンパンパンパンパンパン
伊八 「へぇーーーーーーーーーーい・・・・・」
トントントントントントン
伊八 「へぃ、お呼びで?」
清八 「呼んださかい来たんやろ?」
伊八 「・・・えぇえぇえぇ、御用は?」
清八 「用があるさかい呼んだんや」
伊八 「・・・えぇぇぇそぅそぅそらそうでっしゃろけどそない言われましたら
モノが言えまへんので・・・何ですかいな?」
清八 「おまはん名前何ちゅうねんえぇ?『伊八』っとん?伊八っとん!あぁそうよっしゃ、
伊八とんあんなぁ酒、肴用意してんか!えぇ?言うとくでぇ『酒』!なぁ?
こらぁ兵庫の人間やよってんなあ兵庫には『灘』ちゅうてお前日本一の酒所が
あんねでぇ!オカシな酒持って来やがったら承知せんねでぇ!!」
伊八 「滅相な、何を仰る。手前供、上酒を吟味致しておりますので」
清八 「あぁ上酒結構!それから『魚』!!コレもそうやでえぇ?
コッチぁお前『明石の浦の一夜活け』、年中生きたのん食てんねやよってにな!
オカシな魚持って来やがったら!っとまぁコレは言うたれんねんえぇ?兵庫に較べると
大阪はどうしても魚は落ちる、ソコは包丁!!『腕』の方で食わせて貰お!うん!!
この辺にほいでー、『フンシのえぇメンタ』は居らんかぇ?」
伊八 「・・・えー、何でござります?」
清八 「『扮姿のえぇメンタ』は居らんか?ちゅうねん」
伊八 「・・・『フンシのえぇメンタ』・・・何じゃ、猫みたいなん仰る?」
清八 「ネコやがな『芸者』やがな判らん奴っちゃなぁ!」
伊八 「あぁ〜あさいでござりますかへぇへぇ!
芸子衆でござりましたらもぅ『ミナミ』でござりますので、
『宗右衛門町』から『難波新地』・・・」
清八 「どっからでも結構!活きのえぇの3匹ほど生け捕って来てんか!
言うとくでぇ顔のえぇのはアカンでぇ顔のえぇのは『別嬪』はなぁ、
座敷来てもツンツンツンツンしてオモロ無いねやぁ・・・
ソレより腕の達者な『年増』がえぇなぁ!絞めたら『キュ!』っちゅうような・・・」
伊八 「ぁいよいよイタチやがなぁ・・・あ結構でござります」
清八 「そぃでなぁ、もー酒も肴もこっちが『もぅえぇ』ちゅうまでドンドンドンドン運んでんか!
勘定はなーんぼ安ぅ付いてもそらかめへんよってにな!」
伊八 「・・・・あぁさぃでござりますか・・・」
清八 「えぇ?手ェ叩いて呼ばな後が切れる、てな事があったらな、
ホンマにもぅ風上行てこの宿屋油かけて火ィ点けるで!」
伊八 「あぁお静かにお静かにぃ・・・・・」
伊八っとんビックリして、下へ降りて参ります。
さぁ!早速酒、肴が運ばれる、お盃が一回り致しました時分に、 綺麗どころ
「あコンバンハ オオキニ」
と芸子さんがまぁ、参ったのでございますがまぁここらへ来たその芸子はん災難でございますな。
大抵の男でございますというと
「まぁまぁ姉さんおひとつ!まぁまぁボチボチやってもろたら結構ですえぇ?
この頃どうです景気は?」
てな事を言うてまぁゴチャゴチャ言いながら、盃のひとつも注すもんでございますが
まここらの連中、『盃注そか?やれ!』ともしませんなぁ。
清八 「来たか来たかコッチ入れコッチ入れぇ!入ったら三味線出さんかい
出したら突け突け突け突けェ!調子合わせ調子合わせ
合うたんかい?合うたんかい?合うたんかい!?合うたんかい!!
派手に行こかッ!!うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉイ!!!!!!!!!
コォリャコォリャコォリャコォリャァァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
玄兵衛 「オゥオゥ嬉しなってケツかんねんホンマにもぅ!イヤ、いやいやいよっしゃよっしゃ!
ン!!あの、いやいや、酒貰うねんけどもち、小さいモンではアカン
大きいモンで行こ行こ大きいモンで行こ行こ・・・・・おぅ、おぅ遠慮、遠慮せんと
注げ注げ・・・も、もっと尻上げェ尻上げェ・・・イヤイヤお前の尻と違うがな
『徳利』の尻上げェちゅうてんねん・・・お前の尻上げてオマエ酒が入るか?
何をしてんねん・・・いヨっしゃよっしゃ
ンッ・・・・・ンッ・・・・・ンッ・・・・・ンッ・・・・・ンッ・・・・・
ッ!!フゥ〜〜〜〜!!
腹ァ空いたぁるよってに『五臓六腑に染み渡る』っちゅうやっちゃなぁ!!!!
コォラコォラコォラコォラよいとコォラコォラコォラァ〜〜〜〜〜!!!!!」
・・・大騒ぎでございます。
さて。
お隣のお侍でございます。
『ぼちぼち、旅日記でも付けて休もうか』
というのでー、筆をお取り上げになりました所へ差してー、この騒ぎでございます。
世話九朗「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!
・・・・・・・・・・・・・・・!!・・・・・・・・・・・・・・!!!・・・・・・ン!ンンッ!!!
パーンパーン
伊八ィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!
パーンパーン
伊ハァァァァァチィィィィィィィィィィィィ!!」
小番頭 「へぇーーーーーーーーい伊八っとん八番さんや」
伊八 「へぇーい
トントントントントントントントン
伊八 へい、お呼びで?」
世話九朗「おう!伊八か!?敷居越しでは話しが出来ん
もそっと是へ出い、もそっと是へ出い!」
伊八 「へへぇ!」
世話九朗「泊まりの折その方に、銀一首遣わしたな?」
伊八 「へぇ、確かに頂戴を致しました」
世話九朗「あの節その方に何と申した?ンンッ!?
『夜前は泉州岸和田、岡部美濃守殿の御城下、『難波屋』と言える
間狭な部屋へ泊まり合せし所、何が雑魚も模像も一つに寝かしおって、
巡礼が詠歌を上げるやら六部が経を読むやら駆け落ち者が
いちゃいちゃ申すやら、夜通し身供を寝かしおらなんだ。
今宵は、間狭に手も良い、静かな部屋へ案内してくれい』
と言うに・・・何じゃ隣のあの騒ぎはッ!?ドンチャンドンチャンと騒がしいッ!!
この分では、定めし今宵も寝かしおるまいッ!
即刻ッ!!静かな部屋とッ!!取り替えて貰いたいのじゃ!!!!!!」
伊八 「誠に、あい済まんこってござります。実はあの後道者がお泊まりになりまして、
お代わり願うお部屋がござりませんので、あの騒ぎを、鎮めて参ります故、
どうぞこれにてご辛抱をば願いたいので・・・?」
世話九朗「何でも良い!早くしてくれいッ!!」
伊八 「畏まりましてござります暫くお待ちを・・・!
ハァ・・・・・・・・・えぇーーーー、ちょっと御免を!!」
喜六 「おぁぁ伊八っとんかエェトコ来た
大きいモンで『グー』っと行こ『グー』っと行こ『グー』っと行こ『グー』っと行こ・・・!!」
伊八 「・・・・えぇえぇぇぇぇ、えーナンでござります頂きたいのは山々でござりますけれども、
まだちょっとこぅ、帳場にし残した用事もござりますので」
喜六 「あぁぁそうかよっしゃ!判ったほなソレ済ましてからコッチぃ上がって来てんかうん!
ほんでおまはんだけと違うねんで?手ェの空いたヒト誰でもかめへん誰でもかめへん うんうん!!もぅあのなぁ誰でも上がってもうてんか!!もぅ今日は気分がエェねん!
今日は夜通し『ワァァァァァァァァ!!』言うて今晩寝ぇへんねん!!」
伊八 「・・・・・・・・・・・・・・・・・然様でござりますかへぇへぇ、
えぇ〜〜〜結構ではござりますがあのナンでござりますゥ・・・・
少々、『お願いの筋』がー、ござりまして」
清八 「ォウ、オゥ!オゥ!オゥ!こないして皆エェ塩梅になってんのに『お願いの筋』やなんて
ンなもっちゃりした事言いなドしたぃ?ドしたぃ?ドしたぃ!?」
伊八 「・・・・・えー、あのナンでござりますあのォ、えーもう少々そのォ、
お静かに、あのお願いしたいので・・・」
清八 「・・・・・・・ワレ今ナニ言うたんや?えぇ?お、『お静かに願いたい』ィ!?
おまはん向こう先見てモノ言わなイカンでぇ?
コレ『お静かに』が出来る場か出来ん場か見て判らんかお前?えぇ!?
男が三人芸者が三人、酒肴がコレだけ並んだぁんねやないかい。
コレ、『シュ〜ン・・・』とするトコかコレぇ??『ワァァァアアア!』ちゅうの
ワカラんかコレぇ!?第一ソレやったらお前のっけから芸者呼ばすなよオマエ
『呼んでくれ』言うたら呼んだやないかぇ!!
芸者てなモン大体『ワァァァアアア!』と言う為に呼ぶモンと違うのんかいえぇ!?
ソレともお前とこナニかい芸者呼んで皆寄って、
『ナンマンダブツーナンマンダブツー』・・・ンな事言う為に芸者呼ぶのんかいッ!?」
伊八 「・・・い、いぇ、いやあのそ結構でござい手前共はその賑やかなんは
結構でござりますけれども実はそのー、お隣のお客様が、
『割とあのーちょっとその騒がし過ぎるのでもう少々、あのー静かにさせぃ』
とこう、仰るので・・・・・」
清八 「判った!!!あそーかィやーソレを先言わんかいえぇ!?
ワレが言うてんのと違うねやろ『隣の客』っちゅうヤツがヌかしてケツかんのかッ!?
ぃヨシッ!ソイツに言うたれ!!えぇ!?
『《お静かに》が良かったらなぁ、ソレだけの金出してこの宿屋一軒借り切れ』
と!!なぁ!?相宿してたらオマエ喧しいのァ当たり前やないかぇそれァ、
当たり前のこっちゃないかぇなぁ!?行て言うてやれ!!ンで判らなんだらなぁ、
ココへ引き摺って来いホンマにもゥえぇ!?ち、力ずくでも腕ずくでも
判るようにしたんねやさかいにのぅ!?ォイホンマ!!
『《兵庫の三人連れ》知らんか!?』 と、こない言うたってくれッッッッッ!!!!」
伊八 「・・・言わ、して、えー貰わん事もないのでござりますけども、
ちとーその隣のお客さんというのはそのー、『只者』ではござりませんので」
清八 「タダモンやない!?・・・・『化ケ物』かいっ!?」
伊八 「あーバケモンではござりませんが、あのー『お侍』で」
清八 「 へ?・・・・・・オマエ今ナニ言うた!? さ、『さむらい』!?
あほ。
・・・・ソレやったらオマエ、のっけから、『隣のサムライが』とこう言えやオマエ・・・
『隣の客が』っちゅうさかいオマエ・・・・・・大きな声出して・・・・・・・・・・
聞えてへんかいなぁ・・・・イヤやでぇ・・・さむらぁぁい・・・・・・・・・
ワイ侍嫌いやねん・・・・・もぅワイ小さぁい時分から『侍』と『人参』と『ぼっ被り』は
ほん嫌いやねん・・・当たり前やないかぇ1本半、『人斬り包丁』差しとるやろ
アイツらなぁ?ほんで気に入らん事あったら
『無礼者めッ!!ズバーーン!!・・・ゴメン』
ちゅうねん・・・・斬り捨てといて『ゴメン』っちゅうねん・・・・・
『斬捨て御免』っちゅうねん・・・・・・
こんなモンお前『ズバーー!!』っとイかれたさかいて後でまたひっつけとく言うワケに
イカンまいが?・・・・・チッ!・・・・仕舞いかぁ・・・今ぁエェとこやねんけどなぁ・・・・・
チ!!判ったァしゃ無いわぃ侍ならホンマァ・・・・・・・・・イなす。
・・・・イね!!帰れ!!
ホンマに大ーォきな声で『ゥワァァァァァアアア』帰れホンマにもぅ!!!!
ちぃっとは『静かに散財』する稽古して来いオマエらホンマに!
ほんならまた今度また呼んだる帰れホンマにもぅ!!!
三味線、片付けて、帰れ!・・・・居って欲しけど帰れ!もぅしゃぁ無いわい!!
・・・・・あぁして帰らせたよってにな?侍怒らさんように、あんじょう言うとって!!」
伊八 「誠に、あい済まんこってござります・・・・
・・・・えー、あの通り、鎮めて参りました故、どうぞこれにてご辛抱を」
世話九朗「ん。厳い、雑作を掛けたな。そちも早く、休んでくれい」
伊八 「有難うさんでござります」
清八 「・・・・・・・アホらしなって来たなホンマに・・・・『ワァァァァアアアア』と一声上がっただけ。
『これからや!』ちゅうトコへ『お静かに』てケツかんねんイヤになるわぃ・・・・
は〜〜〜〜〜〜〜〜〜あ!チッ!・・・・・しゃぁ無いなぁ・・・・・寝よか!」
喜六 「あのー飯は?あのー食えへんのかい??」
清八 「・・・・・飯が食えるかッ!!!!!」
玄兵衛 「おぉワイに怒ったかて知らんやないかぇ!
まぁしゃ無いあんだけ呑み食いしたんやもうエェやないかぇ
ぅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉい・・・・・」
パンパンパンパンパンパンパンパン
伊八 「へーーーーーーーーーい・・・・
トントントントントントントントン
へい、お呼びで?」
玄兵衛 「お、伊八っとんか。えー布団敷いてんか」
伊八 「あ、もうお休みでやすかいな?っはっはっ」
清八 「笑うな・・・・笑うなアホゥ・・・・ンなもんお休みたい事ないけども・・・
隣の侍の『お静かに』食らうやないかぇ・・・」
伊八 「誠にあい済まんこってござりますすぐに、お布団をお敷き致します」
清八 「あぁそうして貰いたいそうして貰いたい。
フン!アホらしなって来たホンマにもぅ・・・ぁぁ、コラコラコラ、コラ、コラ!
い、い、伊八っとん!」
伊八 「へ?」
清八 「『へ?』やないがなオマエ・・・何ちゅう布団の敷き様すんねんオマエ・・・・
三つ並べて敷いたらあけへんやないかいなオマエ真ん中の者はエェけども
端と端の者がオマエ話が見えへんやないかそやろ?トモエ寝に敷けトモエ寝に」
伊八 「へ?」
清八 「『トモエ寝』に敷け」
伊八 「『トモエネ』?」
清八 「トモエネ・・・お前、こんなトコへ奉公してて『トモエ寝』知らんの?えぇ??
アタマ、真ん中へ三つこう、寄せんねん。んで足こういう風にこう、
ば、ばらけさせてやで?でこう、足曲げたら『三つ巴』の格好なったぁないか
アタマ三つ寄せんねやそぅ・・・そぅそぅそぅそぅそぅ!
・・・そぃそぃ・・・そぅそぅそぅそぃそぃでエェそぃでエェ」
伊八 「どうぞ、『お静かに』お休みの程を」
タン
清八 「・・・・・・・アホらしなって来たなホンマに・・・・
『ワァァァァアアアア』と一声上がっただけ!!『これからや!』ちゅうトコへ・・・」
喜六 「ぁはははははははははっ!
はぁボヤきなボヤきな清ェやんこんなんまたオモロイで!」
清八 「何がオモロイ?」
喜六 「『何がオモロイ?』ったかてやでぇ清ェやんこんなんが何時いつまでも
『話の種』になんねんて!な?前にあの伊勢参りした時にやでぇ?
『日本橋でガラリの芸者上げて、隣の侍に怒られて吃驚寝入りに寝た』やなんてね?
《あの時あんな事が・・・あったなぁ。》
なんて何時までもこれハナシ出来るだけでオモロイでぇ!」
清八 「ままそう言うたらそうやけれども」
喜六 「しかしナンやなぁ?今度の旅オモロかったなぁ!」
玄兵衛 「オモロかったなぁ」
喜六 「あのなぁ、ワイこの清ェやんと玄やんとね?ワイと三人でしたら
ナニしたかて嬉しいねんワイ今度の旅もオモシロかったぁウレシかったぁ!
ソレとワイ今度の旅でもひとつ嬉しかったんね?
何処行たかてあの『兵庫のモンや』ちゅうたら皆知ってくれてたやろ?
アレが嬉しかった!『兵庫やで』言うたら『兵庫ですか!』て
皆知ってくれてたのが嬉しかったぁ!」
清八 「当たり前やないかオマエ『兵庫』ちゅうたら有名なトコや」
喜六 「有名なトコ?」
清八 「当たり前やないかオマエ!大体『清盛さん』の都のあったトコやろ?
ソコへ差してオマエ兵庫からはエェ『相撲』が出てるねんそやろ?
せやからどうしても兵庫は有名になるがな」
喜六 「へぇ『相撲』が出たら、その土地が有名になるか?」
清八 「当たり前やないか。お前ら相撲の『番付け』ちゅうの見た事ないのんかえぇ?
皆オマエ『何処其処の何々山』『何処其処の何々川』ちゅうてやでぇ?
自分の『出所』を頭に戴いて日本国中旅しとんねやないかいせやろ?
せやからエェ相撲が出たらどうしてもその土地が有名になる勘定やないかい」
喜六 「なぁるほどコラ理屈やなぁ!へへっ!
そう言うと兵庫にはエェ相撲ぎょうさん居てるよってにね!
ワイ相撲好っきゃぁワイの贔屓の力士はね?アイツやあのこぅ、
前に須磨寺の坊さんしててね、ほいであのー相撲が好きで好きでとうとう
あんまり相撲が好きで還俗してホンマモンの相撲取りになりよった奴居るやろ!?
名前がどうも出てけぇへんねやけども玄やん、覚えてへんか?
え?ナニ??・・・『ステゴロモ』・・・すてごろも!捨て僧衣!!
坊さん辞めて『捨衣』やなんて四股名洒落たぁるやないかいな!!
アイツら小さい、体は小さいけれどもなかなか手取りやでぇ!?
アイツがな、前褌をば『グッ!』と握りよったらちょっとは離しよらんねでぇ!!?」
清八 「!ナニをすんねんお前・・・ナニをすんねんオイ!!
褌引っ張ってどうすんねんオイオイ!?またお前長い手ェやなぁオイ・・・!!
ここまで手が届くとは思わなんだオイ、痛いイタイいたいおぅ腹が、腹が絞まる
腹が絞まる!!褌引っ張ったらイカンっちゅうねんオイ何じゃぁ?
や、や、オイ、待て・・・ぬ!?なーにをソレぐらいの力がどうやっちゅうねんえぇ?
ケッ!お前がそう、いう風に前褌を掴んだら、俺は、上からこう行くぞ!?」
喜六 「ソコをアタマでこう上げて!!」
玄兵衛 「待った、待った、待ったァオイお前らナニをすんねんオマエ!?
布団の中で相撲取ったりしぃないなオマエ・・・おっとオイちょと待ち待ち待ち
座り相撲にしとき座り相撲にしときよっととと立ったァ立ったァ立ったァ立ったァ!
っと危ないよっとノコッタノコッタ、ノコッタ!っと危ないっとノコッタ!ノコッタ!!
ほぉ!なかなかよう取るがな・・・ぅぉぉ洒落たぁるがなコレえぇ!?
ノコッタノコッタノコッタ!!ノコッタノコッタノコッタ!!!
はっけよいノコッターーーー!!はっけよいノコッターーーーーー!!!!
ドターン!!バターン!!!
勝負アッタァー!!!!!」
喜六 「痛ぁぁぁぃぃぃぃぃぃぃ・・・・」
パーンパーン
世話九朗「伊八ィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!
パーンパーン
伊ハァァァァァチィィィィィィィィィィィィ!!」
小番頭 「へぇーーーーーーーーい伊八っとん八番さんやぁ」
伊八 「ァまたかいなぁ・・・・
トントントントントントントントン
へい、お呼びで?」
世話九朗「おう伊八かッ!!敷居越しでは話しが出来ん
もそっと是へ出い、もそっと是へ出い!!」
伊八 「へへぇ!」
世話九朗「泊まりの折その方に、銀一首遣わしたな?」
伊八 「ぁぁ・・・またやがなぁ・・・確かに頂戴を致しました」
世話九朗「あの節その方に何と申したッ!?
『夜前は泉州岸和田、岡部美濃守殿の御城下、『難波屋』と言える
間狭な部屋へ泊まり合せし所、何が雑魚も模像も一つに寝かしおって、
巡礼が詠歌を上げるやら六部が経を読むやら駆け落ち者がいちゃいちゃ
申すやら、夜通し身供を寝かしおらなんだ。今宵は、間狭に手も良い、
静かな部屋へ案内してくれい』
と言うに・・・何じゃ隣のあの騒ぎはッ!?
ドンチャンドンチャンあい済んだかと思えば今度は相撲じゃ!!!
『ドタン!!バタン!!勝負あった!!イターイー』
とはッ、何事じゃッ!??ンンッ!!?この分では、定めし今宵も寝かしおるまいッ!
即刻静かな部屋とッ!!取り替えて貰いたい!!!!!!」
伊八 「誠にあい済まんこってござります!!
最前も申しましたようにお代わり願うお部屋がございませんのでっ、
あの騒ぎを鎮めて参ります故どうかこれにてご辛抱をば願いたいのでっ」
世話九朗「なーんでも良い早くしてくれいッ!!眠くて敵わんッ!!!」
伊八 「暫らくお待ちを、誠にあい済まんこってござります・・・・
ぅわぁぁぁぁぁぁ・・・・・
『ドタン!!バタン!!!』てナニをすんねやなぁ、えちょっと御免を!!」
清八 「ゥわぁぁぁぁ伊八っとん!ヨシ今度はワレと一番!!!」
伊八 「『ワレと一番!!!』やおまへんでぇ!!お隣ッ!!お侍がッ!!!」
清八 「はッ
ゴメン・・・・・・
静かにする静かにする!!侍怒らさんようにあんじょう言うといてやぁ!?」
伊八 「・・・・もぅ私まで寝さして貰われしまへんので、どうぞ、お静かにお休み下さいませ。
誠に、あい済まんこってござります・・・・・
・・・あの通り鎮めて参りました故どうぞこれにて、ご辛抱の程を」
世話九朗「ん。度々、厳い、雑作を掛けた。そちも早く、休んでくれい」
伊八 「有難うさんでござります・・・」
清八 「・・・・玄ベの、ド阿呆!!ホンマにもぅ・・・
お前が『はっキョイノコッタ、はっキョイノコッタ』てなコト言うよってオマエ、
ワイら二人が相撲取らんならんような事に!」
玄兵衛 「ォ何を言うねんお前・・・?アホな事、
お前らが相撲取るよって俺ァオマエ行司なとせな・・・」
喜六 「まま待ったァ待ったァ待ったァ、待ったぁ!喧嘩しな喧嘩しなォィ
ここまで仲良ぅ来とんねんここで喧嘩しィないな!今のはワイが悪かった
皆ワイが悪いねん相撲のハナシ始めたワイが悪かったァ!!
堪忍して堪忍して堪忍して!!相撲のハナシは皆どうしたかて、なぁ?ドタンバタン
なってしまうがもっとチカラの入らんハナシしよチカラの入らんハナシ・・・!」
玄兵衛 「『チカラの入らんハナシ』て何や?」
喜六 「ぅ!ぅ!『コレ』のハナシ『コレ』ハナシ・・・オナゴのハナシ『色事』の話・・・・!!
これならチカラは入るで?チカラは入るけれども!
チカラが入りゃぁ入るほど・・・・声はだんだん・・・・・・小さく・・・・・・・・なる。
ぅフゥィィィイロ事ォォ・・・・!!」
清八 「・・・・アホかお前。
ちょっと向こう先見てモノ言えよオマエ・・・・・コレ色事の話する『顔』かコレ?
コレ、『井戸替え』か『宿替え』の話する顔やないかぇな」
喜六 「ぷふぅぅぅぅぅぅ!!!そない言うたら皆オモロイ顔ばっかりやなァ」
タン!
玄兵衛 「・・・清ェやん・・・ほなナニかぇ・・・・?色事ちゅうのはー、『顔』ですんのんかい?
アホな事言ぃなァ・・・・・色事はァ、ココよりココやどォ!えぇ!?
第一お前らみたいになァ?『何処其処の子守り女どないした』とかオマエ
『女子衆さんとエェ仲なった』とかそんなしょうも無い色事ならしてくれなァ!
へッ!!同じ事ならなぁ、まぁ、ワイの色事を見習ぅて貰いたいなァ・・・」
喜六 「ヘヘッ!偉ァそーに言うて玄やん何ぞ話が?」
玄兵衛 「ハナシもクソもあるかァ。俺はなぁ、『間男』してん・・・・
ソレもオマエ普通の嫁はんと違うぞ長屋の嫁はんと!『侍の嫁はん』やぞぉ?
侍の嫁はん間男してェ・・・・ヒトふたーり殺してェ・・・・
五十両の金を持って逃げて未だに捕まらん、ちゅうやっちゃぁ・・・・
同じやるんやったらコレぐらいの『色事』を・・・・・やって貰いたいネェ」
清八 「カァッ!・・・・エライ事言い出したなォィえぇ・・・!?玄やんソレ何時の事っちゃァ!?」
玄兵衛 「んーん・・・・八年程、前になるか・・・・おぅ、ワイがオマエ、
兵庫の親父ぃしくじって高槻の叔父貴ンとこへ行ってた事があったやろ?」
喜六 「・・・・あった!」
玄兵衛 「あの時の事っちゃぁ・・・
ワシの叔父貴の商売というのが『小間物屋』じゃ。あぁ。
荷を背たろうて高槻の藩中、注文を聞いて周る注文があるとそこで商売をする。
まぁワシもコレと言うて、別にする事も無いよってに、
叔父貴の後を付いて周っていた、ある日の事じゃ。叔父貴が
『どうも今日は体の具合が悪いので、休もうと思うが』
とこう言うのでな?
『叔父貴、大抵様子は判っております。私が代わりに出掛けましょう』
と、荷を背たろうて行ったんが高槻藩の重役でー、
『小柳彦九朗』という侍のお屋敷や。何時ものように勝手口から、
『御免下さりませ。小間物屋でございます』
・・・中はシーンとしたぁる。オカシイな、留守かいな?と思ぅていると、
《さや さや さや》
と衣擦れの音。出て来はったんがオマエ、何時ものオマエその女子衆と違うぞぉ?
ここの、奥方。奥さんが出て来はったんや・・・・お前ら・・・えぇ??
侍の、嫁はんちゅうようなモン見た事無いやろ??
長屋のそこらの嫁はんと違うぞぉ!?
色の抜ける程白い鼻筋のスーっと通った目許の涼しい口の小さな・・・・
何とも言えん・・・・色気がある・・・・・・・・第一『言葉』からして違うぞぉ!?
『コレは コレは 小間物屋
今日ハ 旦那殿ハ留守ナリ女中共は皆宿下がリ ・・・
ワラワ一人が 徒然ノ折 チとソナタに誂エのしたイ物がアリ ・・・
ドウゾ此方へ ・・・ 上がっテ賜ゥ ・・・ 』
『然様でござりますかそれではまぁまぁ、御免なさりて下さりませ』
通されたんが、奥の座敷や。
『小間物屋 ソナタ 《ささ》ハ 食べヌカぇ ・・・?』 」
清八 「・・・ンンッ!・・・あのね、玄やん言う、あの玄やん言うといたるけどね、
『ささ』ァみな食わん方がエェで?『竹の子』は食えるで?竹の子は食えるけどね、
『笹』ァみな食わん方がエェで!?」
喜六 「ほ、ほほホンマやで玄やんホンマやで玄やん!笹ァみな食べたらね、
お腹の中がガサガサ、ガサガサ言うでぇ!?」
玄兵衛 「・・・・・お・・・お、お前らとはアホらして話でけんなぁ・・・・
『ささ』っちゅうたら『酒』のこっちゃ『酒は呑まんか?』っちゅうたはんねや!」
喜六 「あ『酒』かいな!?へへ玄やんオマエ好きやよってに
『呼ばれますいただきます!!』言うてんやろ!」
玄兵衛 「さぁ・・・ンな事言うてるさかいお前ら『色事』がでけへんねん。
こういう時の返事ァムズカシイぞぉ?」
喜六 「ムズカシイ!?」
玄兵衛 「当たり前やないかい『呼ばれます!ナンボでもいただきます!!』
てな事言うてみぃ、
《はぁ〜ん、こらガブガブガブガブ一升でも二升でも呑む悪い酒やなぁ、
タチの悪い酒やなぁ》
てなもんでボーン、とイかれる。
というてコレが、『皆目呑めまへん』でもあんまり愛想が無いぞ?
ここの『呼吸』がムズカシイ・・・・」
清八 「ほぅ!でお前どない言うたん?」
玄兵衛 『お酒の処であれば、いただきますれば、いただきますし、
いただけませんければ、いただきません』
清八 「ンな、な、ナナ、ナニを言うたんや!?」
玄兵衛 「・・・ややこしいィに言うてやると、
『其でハ暫ク ・・・ ココで待チャぁ ・・・』
奥へ下がって、酒、肴の用意が出来た。
『さァ 小間物屋 。ヒトつどうジャ?』
『これはこれは、奥様手づからの御酌で恐れ入ります』
注いでもうてグーっと呑むと
『小間物屋 ・・・ 其ノ盃 コチラへ ・・・ 賜らヌか ?』
『恐れ入りますそれではまぁまぁ、御免なされてくださりませ』
注いでやるとグーっと呑んでこっちへ返すこっちはグーっ!と呑んで向こうへ返す
向こうがグーっと呑んでこっちへ こっちはグーっ!と呑んで向こうへ
向こうがグーっと呑んでこっちへコッチがグーーーッ!!!!」
清八 「ォ何時までやってんねやオマエ」
玄兵衛 「・・・・・遣ったり取ったりしているうちに、奥方の顔、顔はほんのり『桜色』。
俺の方も顔はほんのり桜色と行きたい所やけれども、地が黒いさかい、
顔はほんのり桜の『皮色』」
喜六 「ややこし色やなぁ・・・」
玄兵衛 「・・・・・頃合を見計ろうて・・・・・
『さて奥さん、お誂えの品は?』
『小間物屋 。 ソナタが初メて当家へ見エシより 女中共ノ噂話ニ
フと 垣間見た 其ノ姿 ・・・ 《テモ良イ殿御》と ・・・ 想イ初げ ・・・ 」
清八 「・・・・玄やんエライ、あの、途中で話の腰折って悪いねやけどね、
その『奥さん』ちゅうヒト何言うてはんねんそのヒト??」
玄兵衛 「・・・ヒトの話聞いてへんのかオマエ?
『手も良い殿御』と想い初げ、ちゅうてはんねやないかぇ!」
喜六 「せやそぅそぅソコのトコやけれどもね??
その『手も良い殿御』ちゅうのは誰の事っちゃねん??」
玄兵衛 「・・・・・判らん奴っちゃなぁ・・・・!!『ワイ』やないかぇ!!」
清八 「『ワレ』かッ!!!!???」
玄兵衛 「不思議そうな顔すなアホ!!!・・・・・八年も前じゃぁ、ワシもまだ若かったわぃ」
喜六 「かぁ・・・・・!八年経ったら変わるなぁ」
玄兵衛 「なーにをヌかしてケツかんねん!!
・・・サテ 其カラと云ウモノは 寝テハ夢 覚メテは現 幻ノ
煩悩ノ犬は追エドも去らズ 菩提ノ鹿ハ招ケドモ来ラズ
日毎ニ募ル コノ想イ ・・・ ドウゾこの恋 ・・・ 叶エて賜ゥ ・・・ !』
『何という事を仰います奥様!!
貴方様と私とでは、あまりに身分が違い過ぎます!《提灯に釣鐘》《月に鼈》
釣り合わぬは不縁の如く。どうぞこの儀ばかりは、御許しを!!』
『ソンナらコノ恋 ・・・ 叶ワぬカ !?』
『この儀ばかりは、御許しなされて下さりませ!!!』
『 ・・・ 女ノ口カら ・・・ 恥ズかシイ ・・・
コノ様ナ事を云ウて叶ワぬ其ノ時ハ ・・・ オオ !ソウじゃ !!』
帯の間から取り出したあの護り刀『懐剣』!!これでこう喉元を突こうとする!!
『何という事をなさります奥様!!これはまたお短慮な!!!』
『ソンナらコノ恋 ! 叶エて賜るカッ !?』
『その儀ばかりは、御許しを!!!』
『ソンナら死ノウかッ !?』
『そ、それはッ!!!!』
『さァ ! さァ ! さァ ! さァ !
さァァァァさァさァさァさァァ 小!間!物!屋 !!!
返事 ハ ・・・・・・ ドォォォォジャぁぁぁ !!??』
『・・・・・・・・・ !! 是〜非〜にぃ〜及ォ〜ば〜ずゥゥゥゥゥゥ!!!!!』
清八 「なぁぁぁにを言うてんの!?」
玄兵衛 「さぁて二人がゴチャゴチャ〜ごちゃごちゃしてたと思わんかい・・・・
合いの襖がシューッ!と開いたァ、飛び込んで来たのがオマエ、えぇ!?
彦九朗の弟で『雷蔵』という家中きっての使い手!!!
『ぃよゥ、姉上には淫ら千万!!
不義の相手は小間物屋!!其処を動くなッ!!!!』
長いヤツをズラっと抜いて来たァ!!!
ワイびっくりしたがなゴロっと廊下へ転がり出た!!
『待ァァァァァてェェェェェ!!!!』
と後を追い掛けて来る待ってたまるかぇ!!庭へパーンと飛び降りた!!
雷蔵も続いて降りようとしたが、廊下は拭き込んだぁる足袋はサラや、
ツー!!と滑りよったァ!!この『腕』のトコロを庭石でガツーン!
持ってた刀がワイのとこへ飛んで来たがなァ!!!
『よっしゃコレや!!』と思てソレを取るなりもぅ後は無我夢中やァ!!!
『ィヤィヤィヤィヤィヤィヤィヤィヤィヤィヤィヤィヤィヤィヤィヤァァァ・・・
ニヤァァァ!!・・・・』
・・・・・・・奥方の顔は真っっっっっっ青・・・・・
『これはこれは偉い事をしでかしてくれました・・・・!!
もうここには居られぬ、わらわを連れて何れへなと落ちて賜れ!!!』
『宜しうございます、こうなれば《毒食わば皿まで》、しかしそれには路用の金が』
『ここに金子が五十両ある、これをそなたに預ける程に・・・!!』
『畏まりました・・・この五十両は確かにお預かり致しました。奥さん、ささ此方から!』
・・・裏木戸から逃げようというので、植え込みの影へ、
先へ遣っといて後ろからァァァズバーーーーーーーーーン!!!!」
清八 「・・・・・ォィ・・・奥さんまで殺さんでもエェやないかぇ!!?」
玄兵衛 「そこじゃァ・・・・お前らこの女子連れて逃げてまた後でゴチャゴチャごちゃごちゃ
何ぞしようと思う、そういう、ソレがイカンっちゅうねん。えぇ!?
こんな足をば連れて何処まで逃げられる?
あっさり『ズバーーーン』とヤっといてシューっと逃げる・・・・・
えぇ?間男して・・・相手は侍の嫁はんやどぉ!?・・・ヒトふたーり殺して・・・・
五十両の金を持って逃げて・・・・未だに捕まらん、ちゅうねん・・・・・
おぅ!?同じ色事をやるのなら・・・・・これぐらいの色事をば・・・・・やって貰いたい」
清八 「・・・・・ッしゃぁ・・・・知らなんだなぁ・・・・
喜ィ公聞いたかァえぇ!?玄やん『色事師』やなァ!!!」
喜六 「ホンマやなぁ・・・・!!ワイかて玄やんこんな『色事師』やとは思わなんだ!!
玄やん『色事師の隊長』みたいな奴っちゃなぁコイツなぁ!?
玄やん『色事師』やなァ『色事師』やなァ!!!!
『色事師』ィ〜は玄ェんやぁん!!
玄ェんやぁんは『色事師』ィ〜か『色事師』ィ〜は玄ェんやぁん!!!!!」
パーンパーン
世話九朗「伊八ィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!
パーンパーン
伊ハァァァァァチィィィィィィィィィィィィ!!」
小番頭 「へぇーーーーーーーーい伊八っとん八番さんやぁ」
伊八 「・・・寝さしよらんなぁコラぁ・・・・
トントントントントントントントン
へい、お呼びで?」
世話九朗「おう伊八かッ!!!敷居越しでは話しが出来ん
もそっと是へ出い、もそっと是へ出い!!」
伊八 「へへぇ!」
世話九朗「泊まりの折その方に、銀一首遣わしたな?」
伊八 「・・・アレばっかりやぁ・・・貰わなんだら良かったぁ・・・今からでも返そかしらん・・・」
世話九朗「あの節その方に何と申したッ!?」
伊八 「えー夜前は泉州岸和田、岡部美濃守殿の御城下、
『難波屋』と言う間狭な宿へお泊りになりました所・・・・・」
世話九朗「黙ァれ黙れ黙れッ!!!それはこの方より申す事じゃッ!!!ンンッ!?
あの節、《身供、明石の藩中にて、『万事世話九郎』》と申したなッ!? 」
伊八 「えぇ・・・確か然様、伺いましたようで」
世話九朗「あれは世を偽る『仮の名』、まこと高槻の藩中にて、『小柳彦九朗』と申す!!!」
伊八 「ははぁ、然様でござりますか・・・・その『小柳』様が?ナンでまた??」
彦九朗 「されば、じゃ。八年以前国許にて妻、弟を討たれ、逆縁乍ら仇討ちをと、
諸所方々を経巡るうち、伊八、喜んでくれい!今宵、仇の在処が判ったわいッ!!」
伊八 「はぁぁ然様でござりますかそれはそれはおめでとうござります!
でその『仇』と申しますのは・・・?」
彦九朗 「隣の部屋に泊まり居る『喜六・清八・玄兵衛』、中なる『玄兵衛』と云える奴!!
妻、弟の仇に紛れ無しッ!!!これより踏み込んで仇を討とうかッ!!?
先方より『仇』と名乗って討たれに出るかッ!!?二つに一つの返答をばッ!!!
聞いて参れッッッ!!!!!!!!!!」
伊八 「エラッ!エライ事になったぁるがなこらぁ!!!!・・・・はぁー、はぁー!えー御免を」
喜六 「ァ玄ェんやぁんは『イロゴトシ』ィ〜か『ヒトゴロシ』ィ〜は玄ェんやぁん!!!!
玄ェんやぁぁぁぁぁ・・・・ん
ゴメン。
・・・・・・・もこんーどこそホンーマに寝る!!」
伊八 「イヤ、今度は寝ててもぉたらどんなりまへんねん!!
一遍まぁ起きとおくれやす!こン中で『玄兵衛さん』と仰るのは?」
玄兵衛 「おー玄兵衛はワシやが?」
伊八 「はぁ、あんさん何でも八年ほど前に高槻の方で『お間違い』があったとか?」
喜六 「きぃぃぃぃ!伊八っとん聞いたんかいなぁ!!玄やん色事師やであのなぁ?
侍の嫁はんを間男してやで?ヒトふたーり殺して五十両」
伊八 「シーーーーーーーーーーー・・・・・・たィ!もぅ・・・・!!
『駄目押し』するような事言うたらあきまへんがなアンタ!!
隣のお侍、誰やと思いなはるんや!?その高槻藩の、『小柳彦九朗』という
お侍だっせぇ!!?えぇ!??へぇ、玄兵衛はんアンタの事をばねぇ、
『八年の間、妻、弟の仇と付け狙うてた!ここで遭ったが百年目、
これより踏み込んで仇を討とうか、先方より『仇』と名乗って討たれに出るか、
二つに一つの返答を聞いて来い!』
と・・・・!!こない言うてはりまっせぇ!!??」
玄兵衛 「 へ。
・・・・・・・・・・へ?・・・・へぇ??・・・・・・・・・・
・・・・・・・へぇライえらいへライヘェ、エラ、エラ、エライ奴が泊まってケツかんなぁ・・・
たったた高槻藩のコヤナギヒコクローて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
違う違う、違う。・・・・・イヤ、ん、あ、イイ伊八っとん聞いてぇなぁ伊八っとん
ソレ違うねんソレ皆『ウソ』やねん・・・・・い、イイイイゃいなぁ、きょっ今日は
とっととと泊まってからやでぇ?さっささささささ散財しては怒られオマエにねぇ?
すっすす相撲取っては怒られやでぇ?というて若いモンがよっよよよよぃっ
よよよよ宵寝もでけへんやないかぇそやろぉ?何ぞチカラの入らんハナシ
『色事』のはんナらららラララらら話となったんやけれどやでぇ?
誰もそんな粋なハンなナナナしの持ち合わせが無いやないかぃそやろぉ?
『ここで黙ってんのも蹴ったクソ悪い』と思たよってに、さ三年ほど前に習った
船からのね?んん、三十石の中で聞いた話をこれ、
『ちょっとおもおも、お、おもおも面白いな』と思て、小ぉぉんみみ耳に挟んどいたんをぉ
わわが我が事のようにして言うただけやんぅぅぅウソやウソやウソやん・・・・・!!!
いぃぃやこのこの顔見てこの顔ぉぉ・・・・
これ、ウソでも『侍の嫁はん』が惚れる顔かこれぇ!?
これ見てもぉたら判るやろぉ!?
・・・・侍怒らさんようにあんじょう言うといてぇなぁ・・・」
伊八 「・・・・・・はぁ〜〜〜〜・・・・ウソだっかいなぁ・・・・えぇ??
・・・・いやぁ侍の勢ッきょいでは『ウソ』やおまへんでぇ!?
エッライ怒ってますさかいなぁ。ま、わたぃに言うてもうても判りまへんがぁ、
いやぁ、侍のあの勢ッきょいではとてもウソやとは思えまへん
あんさんが『ウソや』と仰るが、わたぃはぁ何がホンマや判りま・・・えぇ?
そらま言うては、イヤ、とりあえず言うてはみますけれどもぉ・・・
侍ぁエッライ剣幕ですさかいそらぁ、知りまへんイヤいや言うてはみますけどね?
わたぃは判らんさかいなぁ・・・・そらぁ、まぁ・・・・・・『そんな顔』には見えんけどなぁ・・・
まぁなぁ・・・けどわたぃは、判りまへんがぁま言うてみますけども・・・・・・・・
・・・・行て参りました」
彦九朗 「何と申しておるッッッッ!!!???」
伊八 「それが、あのナンでござりますあのぉ、アレはぁ、そのー、
『先年、三十石の中で聞いた話を、ま我が事のようにして言うたまででウソじゃ』
と言うとります。ほんでまた顔を見ましてもな、そのーそんな大それた事する顔にもー
ま見えませんのでコレぁ、ま私もコレぁま『ウソや』というのがホンマかいなと」
彦九朗 「黙れッ!!!黙れッッ!!!!『ウソ』じゃなんぞとは卑怯未練な奴ッ!!!!
んん!!!最早猶予はならん!!!
タタン!!
これより踏み込んで討つ!!!!!!!!!!」
伊八 「暫く!!暫くお待ちを!!旦那様はそれでも宜しゅうございましょうが
『あの宿屋で血が流れた、人殺しがあった』
てな事になりますというと、後々の商いにも関わりますので!!
どうぞそこのトコロもお含みの程を・・・・!!!!」
彦九朗 「・・・クッ!!ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・然様であった・・・・
『鹿追う猟師、山を見ず』の喩え・・・・・・
パン!
ん!しからば斯様致そう。
《明朝、正巳の刻 日本橋に於いて、『出会い仇』》
と致そう。えー、それならば当家にも迷惑は掛かるまい?ん!
あー、『喜六・清八』の両名の者、朋友の事であれば、定めし助太刀致すであろうな?
『助太刀は幾何十人あっても苦しゅうない』
と伝えよ。また、助太刀する、せんに関わらず、邪魔くさい、ついでじゃ、
三人とも首を刎ねてしまう。よいな!?それまであの三人の命、
その方にしかと預け置くぞ!!
一人たりとも逃がすれば、家内中『撫で斬り』じゃ然様心得ィ!!!!!!!」
伊八 「のわぁ!!!エライ事になったがなッ!!!!」
玄兵衛 「どやったー?」
伊八 「あきまへん。『ウソやない!!』ちゅうてはりまー。
まぁエッライ勢っきょいだっせぇ『イてまうー!』ちゅうてー、
イヤイヤ今すぐと違いまー今すぐと違いますけれどもね、明日の朝まで延びましたー。
『明朝 正巳の刻、日本橋で出会い仇』
でやす、と。『イてまうー』 ちゅうて。
ほんであのー喜六、清八のお二人も友達のこっちゃさかい、
『助太刀するやろー』ちゅうて」
喜六 「せーへんせーへーーーーーーん!!!!!!!!!!!
侍怒らさんようにあんじょう『違う』ちゅうて言うといてぇぇぇぇ!!!」
伊八 「も、
『する、せんに関わらず邪魔くさい、ついでにえー三人ともイてまうー』
言うてはりまー」
清八 「・・・・ついでぇぇぇぇぇぇ・・・・??ついでぇぇぇぇぇぇ・・・・!!!!!
コラ玄やぁぁぁん!お前がしょーもない事言うさかぁぁい
『ついで』に首刎ねられてまうねやないかぁぁぁぁ・・・・・
俺の命も明日まで持たんぁぁぁぁぁんあああんあぁぁぁんぁんあんあん・・・・!!!」
・・・・可愛そうに三人の者。『青菜に塩』というヤツでー、 声を立てる所の騒ぎじゃございません。
しゅ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん
寝てしまいます。
一方お侍の方はこうなりますと言うとー、却って『胆が据わる』というヤツですかー、
・・・フガァァァァァァァァァァァァァァァ・・・・・
高鼾で、お休みになります。
やらり夜が開けますというとお侍。朝早ぅから起きましてー、 嗽、手水に身を清めー、
旅支度も厳重に整えましたトコロでー、
パーンパーン
彦九朗 「伊八ィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!
パーンパーン
伊ハァァァァァチィィィィィィィィィィィィ!!」
伊八 「へぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ・・・・・・・・・・・・
この声やぁ・・・・・・・・・・・・・・・
生涯よう忘れんわぁ・・・・・・・・・・・・・
暫くうなされるわぁ・・・・・・・・・・・・・
アタマぁ『ボ〜〜〜〜〜』となってしもたぁる・・・・・・
トン トン トン トン トン トン トン トン トン
へい、お呼びで?」
彦九朗 「おう、伊八か。昨夜は厳い、雑作を掛けたな。
ん!あーこれは、決めの宿銭じゃ。些少じゃが、これを別に、受け取ってくれい」
伊八 「・・・・ありがとさんでござります・・・・」
彦九朗 「縁在らば、また厄介になるであろう!さらばじゃ!!」
伊八 「ヤ暫く暫く暫くお待ちを!
あーコレコレ!ちょっとそこお開け申せ!ずーーっとお開け申せ!
えー、あの通り、キツく、戒めてござります!!
こちらから、『喜六』、『清八』、『玄兵衛』でござります!!喜六なぞはもぅ
『こんな恰好』
になっておりますので、えー・・・あの三名の者、如何、致しましたもんで?」
彦九朗 「・・・・・・んん・・・・・・??
んん・・・・・・、あー、『発ちたい』と申さばー、あー発たせてやれ。
またー、『泊まりたい』と申さばー、泊めてやるがよかろう」
伊八 「へ? と仰いますとあの、『出会い仇』の一件は・・・・??」
彦九朗 「出会いがた・・・・・ぅわぁはぁぁっはっはっはっはっはははははは!!!!!!
伊八許せ!!ありゃ『嘘』じゃぁ!!!」
伊八 「あわぅわうわぁわぅわぁわぅわぅわ・・・・ウソぁぁ・・・・
ンなンなぁぁぁァァァアホなぁぁぁぁ・・・・・・・・・お陰であの三人の者は元より、
わたぃら宿の者、ゆんべ一目も寝てぇしませんねんアタマ『ボヤ〜〜〜〜〜』と
なってまんねん・・・・何でまたあんな大層なウソを!!!???」
世話九朗「伊八許せ、ああ申さんと、また夜通し寝かしよらんわい」
緞帳
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