シェラ山中の渓流釣り(2)

9月に降られた大あられ

山下 昭男

かれこれ25年も前のことでしょうか。私がCaliforniaに来て最初の年だったと思います。その頃、兄貴のところに居候していた私には、まだ車もなく、英語をおそれて、家の中にとじこもっていたので、兄が魚釣りに誘ってくれました。9月も半ばになっていました。

San Joseから280を通り、80を走り、ネバダの山中に抜け、小さな道路に入り、カーソンリバーというところに到着しました。進めるところまで進み、川岸からほど遠くないところに駐車し、バックパックにランチや釣り道具等をつめ込んで、川岸沿いに人の踏み跡をたどって上流に向かい歩きはじめました。

秋なのに川岸沿いは菜の花が咲きそろい、野生の美しさにみとれながら歩きました。当時は等高線のはいった地図がなく、なだらかな川か傾斜のついた川か見当がつきませんでしたが、地図によるとカーソンリバーは車道から離れてなく、川の状態が渓流釣には大変よさそうに見えました。ところが予想に反して、砂浜になった平らな川で、渓流釣りには適していませんでした。川幅は広く、水流が弱く、川底が浅くなだらかで全くトラウト釣りには不向きでした。上流に歩いて行けば、川幅が狭く、岩も散々となるだろうと期待して、兄貴と二人で上流へ上流へと歩いて行きました。約1時間以上も歩くと期待通りの川の状態が現れてきました。

日本式の振り出し竿を出しテーパーラインを つけ、手製の毛針をつけて、釣りはじめました。 秋口にはミミズやぶどう虫、川虫のような生きた えさよりも水面近くの昆虫を追いかけるのが、こ の種の魚の習性です。秋は毛針釣の方が収穫が多 いのです。この手製の毛針は、冬の間にこつこつと作っておくのが私の趣味です。にわとりやくじゃくの毛を買い集めて、かげろう(メイフライ)に似せて毛針を仕上げます。

期待しながら兄貴と二人で交替で、淵から淵へと毛針を打ち込みふち尻まで、毛針を流しますが、この日はなかなか釣れませんでした。かれこれ30―40分釣った頃でしょうか、二人とも一度も魚のあたりを感じないまま、首をかしげていましたが、急に遠くにかみなりの音が聞こえはじめました。空を見あげると頭上には雲らしい雲も見えず、かみなりも遠くに感じたのでさほど気にせず又、釣に集中しました。ところがかみなりの音は次第に大きくなり、急に山頂を超して入道雲が見えはじめ、耳をつんざくようなかみなり音とともにいな光が山のいただきに落ちてくるのが見えました。

にわかに雨が降り出し、数分の間に大きなあられに変わりました。直径2cmもあると思えるあられがあたりかまわず激しく落ちてきました。バシャバシャと水面に落ちるあられ、岩にころげおちてくるあられ、枯れ葉にバラバラと飛び散るあられ、あたり一面、あられのすさまじい音で騒々しくなりました。と同時に恐ろしくなりました。木の下か岩の下か、どこに隠れるべきか二人とも判断がつかず、まごまごしているうちに、水面はにごってくるし、片づける余裕もなく、釣を諦め適当な隠れ場も見つからずウロウロするばかり。木の下は決して安全でないということはわかっていました。なぜならかみなりが落ちて黒焦げに燃えた木々をあちこちに見ていたからです。

結局、同じ場所に立っているわけにもいかず川岸から踏み跡をたどって川沿いに車の方へむかい帽子や肩にあたるあられと地面にあたるあられの音を聞きながら恐ろしさでいっぱいでした。私たちの近くにかみなりが落ちるのではないかという不安で脚がガクガクしました。他にする術がなくひたすら走りました。山の天気と女心は変わりやすいと言われますが。本当にその通り、ようやく車にたどりついた頃にはあられも小降りとなり、かみなりも遠のいていました。

この日は釣どころではなく、とうとう帰るはめになりました。San Joseから約4時間余り、なんの収穫も得られず、帰宅しました。渓流釣の最適なSeasonは春の終りから秋口までですが、9月に入ると、このような急激な天候の変化を経験することがあります。

次回は幻のゴールデントラウトについて書いてみます。

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