What's 上海 

「生活編 ― 雑感 ― 」

進藤 一英


■上海の町  

人口1400万人の大都市上海では近代化の波が押し寄せている。町は、昔ながらの土塀で囲まれ古くて決して綺麗とは言えない町中に、急激な近代化の中で至る所に30〜40階建ての超近代的なビルが所狭しと建設されている。上海は、まるで戦後の日本にタイムスリップしたような感覚と現代的感覚とがアンマッチに混在している都市で、空気が乾燥しているのと建設工事も多いせいか、やたら埃っぽい。町を流れる揚子江支流の黄浦江周辺には、もと外国人の租界地域があり、ワイタン(外灘)と呼ばれるている。このワイタンは、1942年のアヘン戦争での敗戦により外国人の居留が許された地域で、欧米列強の手によって建てられたヨーロッパ調の古い建物が並んでいる。上海を訪れたら一度は訪ねてみたい所で、どこか神戸や横浜に似た雰囲気があり、初めてここを訪れた人は、ここが本当に共産国?と思うだろう。このワイタンの向こう岸には新開発地区があり、そこには東京タワーの1.5倍もある高さ468メートルのアジア最大のテレビ塔がそびえ、上海人の自慢になっている。 

■交通事情  

市内の交通手段としては、中国特有の自転車と日本ではもう見られなくなったトロリーバス、そして殆ど廃車寸前のタクシーが所狭しと走り回っている。言葉では言い表せないが、決して綺麗に舗装されているとは言えない道の上を、サスペンションが無く且つ垢でドロドロに汚れた座席シートを付けたタクシーが四六時中クラクションを鳴らして走っている。綺麗なバスやタクシーは絶対にないから探すのは諦めたほうがいい。台湾、フィリピン、そして最近ではベトナムなどではオートバイが一番目に付くがここではあまり見られない。但し、アジアで共通する点として、ガソリンが悪い為かそれとも排ガス規制が無いせいか非常に「鼻に付く臭い」がするが、上海でもこのアジアの臭いがした。   

さて、この中で一番幅を利かせているのは、なんと言っても信号無視は当たり前の通行人と自転車である。道を歩く人も自転車も、車がクラクションを鳴らしても決して道を譲ろうとはせず我が道を行くといった風で、車が自転車を避けて走ると言った具合である。

唯一、町を南北に走る地下鉄が有るが、切符を買う時には十分気合いを入れる必要がある。当然のことながら自動販売機などは無いから窓口で購入する事になるが、誰も整列して切符を買おうとする者は無く、切符販売窓口に手を差し入れ他人を押しのけて購入する。窓口の周囲は人だかり。気の弱い女性だったら何時になっても買えない。それでも上海では地下鉄は綺麗で安心出来る唯一の乗り物である。   

町中では人だかりになって口論している場面によく出くわす。自転車が接触してケンカしているようなタグイである。日本では考えられないことである。こちらではそんなことでも、自分の主張をハッキリ言っているようだ。 歩いていてぶつかっても全然謝りもせず、こちらが避けて歩かなければならない。共産主義の人間平等の社会かと思ったら大間違いである。自己主張の激しい自己中心的な生存競争の厳しい国なのであった。 

■娯楽   

ここの娯楽は一体何なのか?土曜、日曜にもなれば、中心街は人又人・・。東京の通勤ラッシュを町中で再現しているようだ。ウジャウジャ人が出て来て、モミクチャになりながら人をかき分けて歩く。スリにでもやられるんではないかと思うほどスゴイ。とにかく人が密集していて息苦しくなる程で、ぶつかっても全然謝るそぶりもない。年末に人でごった返す上野アメ横のようだ。中国ならではの光景としては、公園でテーブルの上に紙を敷いて麻雀をやっている老人達や、木の下や広場で太極拳をやっている人々をよく見かける。しかし、大方の人は何をするでもなく暇そうに只、ボーと座っている。これと言った娯楽はないようである。狭い家の中に家族でいるのが息苦しいせいか、路地裏に入ってみると家から椅子を外に出して日光浴している。急激な近代化の中で、若者の最近の流行の一つとしてボーリングが出てきた。上海にはボーリング場が5カ所位あるがいつも大にぎわいだ。料金は1ゲーム500円位。大卒の初任給が1万円位だから、上海人にとっては高級な遊びだ。   

一方、外国人特に日本人相手のカラオケはやたらと多い。観光する事もなくなった駐在員達は、土日の昼はブラブラするしかなく、夜はカラオケに繰り出し高いお金を払って(と言っても席料2,3千円、女性へのチップ2,3千円程度)、一日を過ごしているようだ。    中国人は、英語は当然のことながら話せない代わりに漢字を書けば話が通じることもある。出かける時は、クレジットカードよりも紙と鉛筆がなによりも必要な国である。

■給料  

一般作業者(労働者)の賃金は1月約700元(約9千円)程度であり、一般事務職でも1500元(約2万円弱)、多少技術のある人で2000元(約2万5千円位)程度である。会社の面接で、前の会社でなんと150元で生活していたと言う人もあったそうです。(しかも、結婚していた!!!) 地元の人に聞いた所、苦しいけれどもこれでも生活できるという事だから驚きである。こちらの人達は家族総動員で稼ぐ為、家族全部の収入を集めたらなんとか生活出来るというのが実体らしい。おまけに、給料に男女の差は無く平等なのである。この辺は共産主義らしいところである。

因みに、貧しい農村の1年間の所得は500ー1000元程度。生活は非常に苦しく出稼ぎで賄っているようである。

■公安  

中国を語る場合、公安抜きでは語れない。公安とは、日本で言う警察のことであるが、中国人がもっともビビル人達である。それは、なぜか?現地の人に聞くと、彼等は「袖の下」は当たり前と考えおり、事実その「賄い料」で生活しているようなものだそうだ。日本のヤクザより手強い。なにせ、国家がバックについているからだ。逆に、公安とお友達になればこれ程良いことはない。特に、お店を持っている人にとっては、公安次第で、お店が潰されるか、やっていけるか死活問題である。カラオケ、ディスコなどはその最たるもので、取り締まり月間になるとお店の主人もかなり神経を使う。天安門事件が起きた6月前後に中国へは行かない方が賢明である。この時期にカラオケへ行くと、お店の対応が全然違うのに驚く。お店はいかにも明るく健全のように、照明がキラキラとしており、カラオケに付く女性も男性の横の椅子には絶対に座らず、わざわざ床に座布団を敷いてお酌をするのである。(なぜだか良く分からないが、これが正式なカラオケの作法?とか)中国ではよく見せしめとして処刑を執行するが、この時期は特に多いと聞く。

■料理  

上海には上海料理を始めとして、四川、広東、などのいわゆる我々が言う中華料理の他に、日本料理(居酒屋、寿司屋等)韓国料理等々様々な料理が有る。最近はファーストフードが大賑わいで、鶏を好んで食べる中国人にとってケンタッキーフライドチキンなどは休日は長蛇の列だ。私の居た上海NECでは日替わりで昼食がでるが、1ヶ月居ても同じものが出たためしが無くメニューが豊富である。しかし、地元の人が食べる料理は非常に質素で、味が良いとはお世辞にも言えない。地元の人が行く中華料理屋は非常に安く、五百円も出せばビール1本と料理3品位食べられる。日本なら、1品千ー二千円位する料理である。但し、中華料理というものは一人で食べるものでは無く大勢で卓を囲んで食べるものなので、単身者にはつらいものがある。          

私は基本的に好き嫌いが無いせいか、中国で食べる料理で飽きたことが無い程、美味しいという印象が強い。但し、料理の中で一つだけ注意しなければいけないことがある。それは、生卵である。肝炎のウイルスが生卵から感染するとよく言われているので、出来るだけ火を通してから食べた方が良い。(これはナマ物全般に言えることかもしれないが) 

■雑   

最後に一言だけ。中国に行った時に余り話題にしない方がいいと思われることで、お風呂とトイレがある。上海のような大都市でさえまだお風呂が無い家も有る。寒い冬は余り感じないが、暖かくなると臭いがしてくる。かと言って、高級マンションに住んでいる人もいるわけで貧富の差を非常に感じる。 

中国全体の経済成長率が年平均10%なのに対し、上海は14%と高成長を続けている。(日本、欧米は2%程度の低成長) 発展途上国特有の成長過程におけるアンバランスを感じるが、日本には既に無くなっているガムシャラな精神と若者達のギラギラした目と活力を体中で感じた。ある人によれば、上海は日本と比べ25年遅れていると言う人もいる。しかし、今のままでは日本は中国を始めとしたアジアのパワーに負けてしまう。アジアの人々には、日本は視野に無く今や世界に向けられている。多くのアジア並びに欧米諸国を訪問して感じることは、自分の子供が担うであろう21世紀の日本の将来が今のままでは不安だということである。大英帝国時代のイギリスがもろくも衰退していった時に、今の日本は似ている気がする。

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