Recovery to a New Life
川端八重子
私は横浜生まれで、昨年夏訪問先のアメリカで83才を迎えました。主人は10年まえに亡くなり子供は3人居ります。長女は日系二世と結婚、サンブルノに暮らしており、次女一家は横浜市在住。私は長男ファミリ4人と同じく横浜市に住んでおります。暑中にかかわらず体調が良かったのでサンブルノを次女とともに約一ヶ月訪れた時の事を暇にまかせてこの様に簡単に綴りました。
私が50才の時、検診、献血に行きましたら、血圧が高いから献血は駄目と言われました。血圧受診の際、200/120の本態性高血圧で薬を当分服用せよと言われ、それ以来投薬で日本は化学的治療は通院しないと保健婦に自宅訪問されます。思えば私の父は42才の若さでストロークで一瞬の間に亡くなりましたので、その遺伝である事もDr.に指摘されました。ですので私は薬は時間どおり、生活も規則正しく暮らしておりました。何の自覚症状もなく元気で80才まで過ごすことができました。
一昨年のお正月を過ごした際、180度の転機がきてしまいました。1995年お正月も目出度く終りに近く1月27日眼科の検診に行きましたら、医者から視力が落ち顔色が悪いとの事を告げられ、表へ出たら気分が悪くなりタクシーで帰宅しました。その時吐き気がして頭がボーとしたので、薬を飲みましたらすぐに嘔吐、水を飲んでも吐き、3日間食事が出来なく嘔吐のみで、立ち上がったとき後ろ向きに倒れ、ハッと気が付いたら立ち上がる事が出来なく、這いずってベットにもどりましたら、背中全部特に腰に激痛を感じました。私の部屋は玄関のすぐとなりで、長男一家と少しはなれているので、ファミリーはまったく気が付きません。
丁度運良く私の家から10キロ程離れた街に住んでいる次女夫婦が車で訪ねてきましたので、そのまま病院へ運んでくれました。内科院長の診察では、高血圧の為の入院治療が必要と決まり、はじめのベッドの一夜は腰の痛みで眠れず、毎日食事も全く食べられず、点滴注射と、異常の痛みでうなるばかりでした。整形外科の診断でレントゲン写真をとりましたら、骨粗鬆症といわれ、倒れた時胸椎及び腰椎に損傷(少々砕けた)との事でした。血圧は少々下降したので脊椎の治療がはじまり、夜間は薬で眠りましたが、朝4時頃より痛みで目が醒めてしまいます。
しかし4週間頃より、薄紙をはがすように快方に向かって来ました。歩行も10m 20mと杖、柱につかまらず歩けるようになり、医者は他の老人より快方が速いとおだててくれました。サンブルノの長女が来日、早速病室を訪ね種々世話をしてくれたので、それまで心配して毎日来てくれた次女や嫁も私と共に大喜びでした。それに長女は大工仕事が得意で、私の部屋も便利に使いやすい様に改造してくれたので、早く帰宅したくて院長に退院希望をお願いしました。しぶしぶながら自宅での配慮指導をしてくれて我が家に帰ることが出来ましたので、長女も帰国する運びと成りました。
かくして3月も無事すぎ、4月もすぎ青葉の季節となり、目を鏡で見ましたらロンドン パリー(斜視の目をロンパリーと言います)。背部は彎曲、すっかりやせて身長は6cm縮まり、体重は11kg減り、すっかり老人化して、歯も上下とも故障で、もの忘れもはげしく、早、自分の年、83才になった事のみ深く思い込むように成ってしまいました。
いよいよ暑い季節になり、それもまさしく猛暑、また悪い病気(O-157)は経路も尚分からない病気で、早くも2000人以上の感染者で子供の死亡者11名。激暑は35度を越え、老人は日射病で死亡者も出て、住人を一層不安にさせました。夜間は寝苦しく睡眠剤の助けでやっと4時間眠ることは出来るが食事は進まない。朝、目がさめると「あ、今日も生きていたか?」と精神的にも苦痛を感じました。この先自分の寿命がもう少しながらえるなら、せめて家事や歩行がもう少し出来るようにリハビリをやりたいのと、明日にもこの暑さの難を逃れて、アメリカの娘ファミリに会って秘かに挨拶をしてきたいと、急に思い立ち電話連絡で、渡米を次女に協力同行してもらって強気でサンブルノの家にやってきました。安着の喜びと驚きながら私もおしゃべりになり、食事の時は更に楽しく食欲も進み、アッと思った時は帰国の日がせまって来ました。アメリカの親戚で若くして航空機事故で急死した人、癌で無くなった人、ああもうお話の出来ない人達にお花を供えて、お参りご挨拶しました。
朝夕、庭に出てブルー一色の高い大空、美しい風景、公害のない新鮮な空気を吸って、急に体力、勇気が付いた様でした。思えば横浜の我が家にいた時には、今日一日も、生きられそうもない命が、よみがえったように感じられました。これで生きかえった生命で、胸を張って帰国、83才でも人に頼らず家事や自分の事は出来る自信がでてきました。
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