退職

君江 ジョンソン


23年勤めた会社を退職して今年の1月でちょうど2年になりました。 退職を決心した時、もう朝5時起きをしなくても済む開放感が心地よく私の胸をなぜましたが、同時に、私のOLと言う長い間のアイデンティティはなくなってしまい、これから私は何者になるのだろう、といった不安が襲いました。   

まず第一に毎日なにをしようかを考えた結果、 ダンスが好きだった私はこの機会に徹底的にボールルームダンスをやってみる事にしました。そして退職した後1年半ほどは週に5日から6日ボールルームダンスに専念してみました。ダンスは楽しかったのですが、63歳の私が今更選手権大会に出るわけでもなし、ダンスにおける目的がはっきりしていなかったので何か物足りなさを感じました。過去35年以上も経理、コンピュターで頭をいっぱいにしてきた私には、もっと確実な目的がほしかったのです。

或日突然テレビで英日翻訳のクラスがサンフランシスコで開かれているのを知り、「ああ、これがやってみたかったのだ」と気がつきました。子どもの頃から文章が好きで本をよく読んでいましたが、37年間のアメリカ生活ではほとんど日本語も使わず、又日本文を読む事もなかった毎日でしたので書く日本語も、漢字もほとんど忘れていました。それでも早速翻訳のクラスに入りました。一番最初の学期に提出した私の翻訳は日本語が全くめちゃくちゃで、先生は私にクラスをあきらめてもらおうかと思ったほどでした。 そこまで日本語が悪いと気が付かない私は一生懸命にクラスを続け、12月18日に10週間コースの3期を終わらせました。先生は私の日本語が驚くほどの速さで上達しましたと言ってくれました。そして私も最初の頃の翻訳と12月のクラスの翻訳を比べてみますと、なるほど文章がとても滑らかになっているのがわかりました。 英語も、日本語も中途半端の私には、翻訳の勉強が両語の勉強になり、退職以来の新たなチャレンジと刺激になったのです。 そしていつか「翻訳家」と言うアメリカと日本を結ぶ役割のアイデンティティが私に生まれるのかと思うと毎日が希望に満ちています。

1月の23日から今度は実力アップグレードと言うアドバンスクラスが始まります。このクラスは私のようにじっくりと時間をかけて翻訳を勉強したい者の為に新しく出来たクラスです。私たちのような高年者でも希望と目的を持って生活をする事が気持ちの上での若さを保つ秘訣だと思います。 又今年もがんばります。

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