「財」,「貨」の字義はともに「価値を有するもの」である。「財貨」は経済学上の「財」と同義で,それ自体,効用を内蔵するものおよび用益の総称である。空気や水も効用すなわち経済価値を有する財貨であるが,経済主体がそれに支配意欲を示さない場合はこれを非経済財とする。それに対して経済主体が獲得・支配努力の対象とする財は経済財である。原価計算・管理会計では,経済財を財貨と称し測定対象とする。「原価計算基準」では「原価とは,経営における一定の給付にかかわらせて,は握された財貨又は用益(以下これを「財貨」という。)の消費を,貨幣価値的に表したものである。」(三)としているから,「基準」に準拠すれば,財貨とは生産活動のために消費した財,すなわち原材料,労働力,設備・用具,調達物品や諸用益(サービス)をもって財貨の概念としている。
自動車業界の開発を特徴づける方式であり,一般にはコンカレント・エンジニアリングとかラグビー方式の製品開発といわれる。この開発方式の特徴は,製品開発に携わる異なる機能を担当する技術者が一緒になって仕事をするものである。共同開発するために,開発の責任所在がはっきりしないという短所はあるものの,後工程で発生する問題点を事前に認識できるため,設計変更が激減するという長所がある。
→コンカレント・エンジニアリング
差額原価とは代替案間の原価との差額をいう。経営意思決定では代替案を比較し,有利な代替案を選択する。比較が代替案の原価で足りる場合には,各代替案を原価で評価し,低原価の代替案を選択する。たとえば,東京郊外に住む従業員X氏が博多まで出張するとしよう。交通手段として新幹線を利用する代替案A(一泊)と,飛行機を利用する代替案B(日帰り)がある。この選択には交通費(原価)と宿泊代が問題となる。自宅から東京駅までの交通費は無関連原価である。このように差額原価は関連原価の類概念である。
→関連原価
資材の調達から在庫管理,そして販売と製品の配送にいたるまで,近年の情報テクノロジーを駆使して総合的に管理する手法をいう。元来,ケイレツ取引に代表されるジャスト・イン・タイムの発想と情報システムとの融合によって発生し,サプライ・チェーン(供給連鎖)全体を最適化する。各企業,各部門は,業務データを提供し,在庫コスト,リードタイムを最小限にする生産,在庫量,配送の最適なロジスティックスが示される。
費用(cost)・営業量(volume)・利益(profit)の関係を分析するのがCVP分析であり,販売価格,変動費,固定費等の諸要素の変化が利益にいかに影響を与えるかの分析が主題となる。CVP関係を知ることは利益計画の設定に重要であり,事後的には,実績の評価・分析にも役立つ。CVP関係にもとづいた分析として,損益分岐点分析がよく知られているが,この分析法は各種の条件を前提としている。それ故,より詳しいCVP分析を実行しようとする場合には問題もある。たとえば,売上高が増加すれば利益も比例的に増加すると仮定している点,多品種製品を生産している場合に最適製品構成が示されない点,生産・販売条件等の制約条件を考慮していない点,全体と部門(工程)の生産量の関係が明確でない点などがあげられる。これらの問題は,CVP分析に数理計画法を利用することにより解決できる。というのは,数理計画法の解を用いれば,制約条件や製品構成を考慮に入れることができるからである。またモデルの設定の仕方によって,全体と部分の関係も明確に示されるからである。諸要素のランダムな変化による利益のバラツキを,シミュレーションによって分析することも可能である。確率制約を加味した数理計画モデルを作成し,その解を用いたCVP分析も可能である。
→損益分岐点,損益分岐点分析,利益図表
企業組織を分割する際に,同質な職務を行う集団を一つの部門として集約する職能別組織(部門制)を採る場合と,市場に対応して組織を区分する事業部制組織を採る場合がある。事業部は市場に製品やサービスを供給するために必要な販売,製造,調達,製品開発,生産・物流管理などの職能を合わせもつのが原則である。市場を製品別に区分してそれぞれに対応する事業部を置くとき製品別事業部と呼ばれ,市場を地域的に分割してそれに対応した組織を置くときには地域別事業部と呼ばれる。その他にも,個人顧客と法人顧客,政府などを別の市場としてとらえて顧客層別事業部を作ることもある。また,電気機器製造業における半導体部門や化学薬品会社における原料部門のように産出物を外部市場に販売することが少なく,社内供給の比率が高い場合でも,製品の技術的独立性が高い場合には事業部として扱っている例が見られる。
→事業部
資源ドライバーともいう。ABCの計算機構では,第一段階すなわち経済的資源と諸活動との間にリンクしているのは資源作用因である。したがって,資源作用因は活動ごとの資源消費量の大きさを決定する要因でもある。ABCの計算特徴は,資源消費量は製造部門あるいは補助部門に配賦されるのではなく,資源作用因を通して,個々の活動ないし活動センターに跡づけられることにある。
→二段階配賦
取引発生後の一定時点で行う監査のことをいう。一般には公認会計士による監査のことをいうが,内部監査人による監査を指すこともある。たとえば,設備投資は巨額の資本が必要な意思決定を伴うので,投資前の事前の評価は十分なされるが,投資後,その投資が初期に予想されたとおりの効果を発揮しているかなどを検査することは,不正を防止したり,次回の意思決定を失敗なく行うために必要である。
市場戦略には,新市場の開拓および現市場における市場占有率に関する戦略オプションがある。新市場を開拓する場合,現行製品を投入するのはきわめて単純な市場戦略になる。一般には海外市場への展開がこれにあたる。しかし,国内製品とまったく同一の製品を投入できない場合も多く,製品開発をともなうケースが多数である。市場開拓においては,基本的に,企業の中核となる技術を異なる市場向け製品に適応させることが望ましい。現市場における市場占有率に関連する戦略は,市場が成長しつつある段階では,その市場に資源を投入して占有率を増大させるための戦略がとられる。また,市場が安定的になっている場合には同業他社の動向を見ながら現状維持のための戦略がとられる。また,この時期には,一般的に高いキャッシュ・フローを得ることができるので,拡大戦略をとる事業へのキャッシュ・フローの源泉となる。
製造過程において,何らかの理由(仕損)で完全な生産物(完成品)になりえなかったものが仕損品である。仕損品には,不完全であるとしても補修などを施せば完成品となりうるきず物(defective
unit) あるいは補修品(rework unit)と,補修などを施したとしても完成品にはなりえない’おしゃか品’とがある。仕損品に対して補修を施して完成品とさせる場合には,補修製造指図書が発行されることがある。また,おしゃか品となった生産物の代品を制作する際には,新製造指図書が発行される場合がある。そして,おしゃか品は他の目的に供して消費されるか,あるいは外部に売却されるか,または破棄される。おしゃか品に利用価値あるいは売却価値がある場合には,その見積評価額が仕損にかかる発生費用から控除される。
→仕損費
米国のモトローラ社で開発された品質管理に重点をおく業務改革方法だが,1996年にゼネラル・エレクトリック(GE)社がこれをベースとした「クオリティ2000計画」の実施を公表したことから一躍有名になった。シグマ(σ)とは,もともと標準偏差のことであるが,わが国のTQCでは一般に3シグマが品質不良ないし工程内異常を判断する際の目安とされ,QC7つ道具のひとつである管理図における管理限界線もここに引かれている。正規分布における±3シグマの範囲内には全体の99.7%が含まれるから,100万個中にわずか3.4個の不良率を意味する6シグマがいかに高レベルの目標であるかが知れる。しかし,この目標自体はスローガンの域をでるものではない。むしろ,シックス・シグマの特徴は,株主をも顧客と考え,徹底した顧客満足をトップダウンで追求すること,また具体的な成果を利益に対する貢献度という視点から評価すること,さらには,既往の品質管理の枠を越えて広く経営全般の質をも問題にするところに求められる。なお,シックス・シグマでは,失敗コストにあたる劣悪な品質および経営手法が不完全なことから生ずる損失を「不良品質原価」(cost of poor quality)と称して,業務改善効果を診断する指標として活用している点も特記すべきであろう。
社会的コスト,ソーシャル・コストともいう。企業の経済活動にともなって認識,測定される通常の費用すなわち私的費用に対比される概念で,一般に企業の経済活動の結果,当該企業以外の第三者,換言すると社会が負担する被害を意味する。他方,社会が受ける便益は社会的便益(social benefit)といわれる。政府機関,非営利団体あるいは家計も社会的費用を発生させているとの意見もある。社会的費用の測定にあたっては,被害を原状に回復するために要する費用あるいはそれを未然に防ごうとする場合に要する潜在的予防費用のいずれを測定するかを選択する必要がある。広義には,社会的費用には,失業や資源の遊休,独占および輸送等に関連して発生する社会的損失,エネルギー資源の早期枯渇,土壌浸食および森林の乱伐に関わる費用,企業が社会経済的厚生の視点から実施する環境,地域社会,消費者および従業員等に関わる社会プログラムの推進に要する費用等を含めることがある。また,特定の企業に関わらしめて,その私的費用および上記の社会的費用のすべてを含めて使用することもある。
事業部制やカンパニー制など分権組織の管理において,各事業単位の資本,資産の一部または全部に金利を課し,この金利を控除して利益を算定することがある。この場合の金利を社内金利といい,このような制度を社内金利制度と呼ぶ。もともと,利益を得るために投下した資本にコストがかかることを認識させることを目的とした制度だが,本社費や共通費を社内金利に含めて徴収する企業もある。社内金利の額は,投資ベースに社内金利率を乗じて算定される。投資ベースを資産とする場合には,運転資本あるいは流動資産,固定資産,総資産などのうちから一つあるいは複数を投資ベースとするので,貸借対照表あるいは資産表が必要となる。投資ベースを負債・資本とする場合には,貸借対照表を必要とするが,その貸方の形式によって概ね三つのタイプ分けをすることができる。一つは無利子債務と正味使用資本だけの正味使用資本タイプ,二つ目は無利子債務と社内借入金に加えて留保利益を認める社内借入金タイプ,三つ目は無利子負債,社内借入金,社内資本金のほかに留保利益を認めた社内資本金タイプである。社内資本金に対する社内金利は,一般に社内配当金あるいは配当見合と呼ばれる。社内配当金を除く社内金利の利率は長期・短期の市中金利を基準にし,無利子債務と留保利益には金利を課さないのが一般的である。
→社内資本金制度
単記法ともいう。標準原価計算において,原価財の消費時から標準原価を計算し,これを複式簿記機構に組み込む方法。この方法では,仕掛品勘定は貸借ともに標準原価で記帳される。また,標準原価差異は各原価要素の勘定において把握される。なお,シングル・プランは,標準原価差異の把握方法としてはインプット法と結びつくことが一般的である。
→パーシャル・プラン
正常操業度とは,製品の正常(または標準)配賦率を設定するさいに使用される基準操業度の一種であり,通常の状態における生産能力の利用度,つまり過去の長期的な平均操業度から異常値を外し,これに将来の予期される値を加算して決定された操業度を意味する。その内容は,将来の数年間にわたる周期的な景気変動や季節変動の影響を平均化し,予想生産量の増減をならした長期平均操業度を指すことが多い。
製造部門とは,製品の製造活動に直接たずさわる部門のことをいう。各企業では製造する製品の種類,製造プロセス,作業構成の違いなどによって数多くの製造部門が設定される。また,製造部門は製造原価をより正確に計算することや一層適切で効果的な原価管理を実施するために機械設備の種類や作業区分などを考慮して小工程や作業単位などの原価中心点へ細分される。
→補助部門
経営組織上の責任者と会計組織上の数値が結合したものであり,各管理者の業績評価を明確に測定することにより,管理者の業績に対する自己責任と意欲を高揚し,組織全体の活性化を計ることを目的とする会計制度である。責任会計は,分権的管理における業績管理会計の中核を形成する。これは,一般に,予算管理や原価管理を効率的に遂行する場合に要請される責任会計制度として認められている。
責任会計の本質は,管理者に対し管理可能な要素についてのみ責任を問い,管理不能な要素についてのみ責任を問い,管理不能な要素については責任を問わないという管理可能性の原則を根底に有している。管理責任は必要に応じて,留保責任と委譲責任,直接責任と間接責任,短期責任と長期責任,総合責任と部分責任などに区分して,責任の所在が明確にされる。また,責任会計は,権限と責任を有する管理責任単位を管理者または監督者の個人の業績として評価するものであり,個人責任の原則を貫いている。責任単位は責任センターとか責任中心点と呼ばれ,原価・費用・利益・投資センターに区分される。責任の範囲は,経営管理階層のレベルの違いにより,責任の大小が生じる。それは,責任会計報告書により一定の秩序が形成される。 責任会計においては,予算管理の場合は予算が,また原価管理の場合は標準が業績評価基準として設定され,それと実際額が比較され,その差異額が責任の有無を表し,例外による管理にもとづいて是正措置がとられる。今日では,業績プロセスにおける活動を責任として測定する活動基準責任会計(ABC予算)が主張されている。責任会計は,個々の組織単位の内部効率性への強調から,企業全体の価値連鎖下にある戦略的責任,最高管理者の責任,集団責任などへの論究が求められている。
→責任中心点
戦略とはもともとは軍事上の用語であって,軍事における目標を達成するための総合的な計画の策定を指している。すなわち,大きな軍事目標(たとえばある地域の制圧)を達成するために局地的な戦闘(特定の領域制圧のための空爆,艦砲射撃,上陸作戦)を総合して全面的な展開をするための方策が戦略であって,個別の戦闘を遂行するための方策である戦術とは区別される。転じて,ある目標を達成するために個別の手法を総合的に展開していくための意思決定を行う場面では幅広く使用される用語となっており,政治,国際経済,金融,経営に対して応用されている。そのうち,最も頻繁に使用される用語は経営戦略であり,企業が環境に適合しながら長期的に発展するために策定および遂行されるべき思考パターンを指している。
→経営戦略
ポーター(Porter.M.E.)は価値連鎖分析にもとづいて,差別化,コスト・リーダーシップ,集中化戦略を競争優位の戦略として提起した。現代の戦略的投資は自動化による機械への置き換え効果や生産性向上効果だけではなく,競争優位性の向上という戦略的効果をめざしている。このような効果は,作業工数や材料費の削減や管理効果とは異なり,競争優位性の獲得というあいまいな効果であるため,定量化がきわめて困難である。商品やサービスの競争力の増大や顧客支援などによる製品の売上増大効果として評価するのが妥当である。
→情報システム投資の評価
企業の活動能力(capacity)を一定とした場合の,その利用度をいう。操業度は,原価分析や原価管理では重要な原価作用因(cost
driver)の1つとしてとらえられるほか,製品原価計算では製造間接費の配賦基準としても利用される。操業度の尺度としては,直接労務費,直接作業時間,機械時間,売上高,製品生産量などが用いられる。これらの尺度は,@投入する経営資源に関連する尺度(投入尺度;
input measures )と産出した財貨・用益に関連する尺度(産出尺度; output measures ),A貨幣的尺度(monetary
measures)と非貨幣的尺度(non monetary measures)といった観点から分類できる。また,絶対的尺度(絶対値として表される尺度)のほか,相対的尺度(基準となる操業度に対する比率として表される尺度)も利用される。何れを選ぶかは,操業度の測定目的や対象とする活動の種類等によって決められる。なお,最近では操業度という用語に代えて営業量が用いられることがある。その理由は,操業度が利用度ではなく営業量そのものを意味することも少なくないからである。
→原価作用因
製造原価に販売,管理活動によって発生する販売費および一般管理費を加えたものを総原価という。製品の一定単位当りについての製造原価,総原価は原価管理や価格設定にも有益な情報を提供する。特に価格計算目的に密接に関連して生産,販売活動にかかった全部の原価をいくらの価格で回収できるか知るために総原価が求められる。ただ,製品原価の概念が成立し販売費および一般管理費を期間原価として処理するようになるにつれて,総原価の概念の重要性は低下してきた。
→製造原価