兵庫県K市。

古くから港町と知られる風光明媚な市街地を見守るかのようにそびえる六甲山・・・四季折々の顔を見せてくれる反面。ここはもう一つ知られざる一面・・・別の顔も持つ山でもある。そんな六甲山の中でも一際熱い場所が東西六甲線だった。

-ブァアアアアアアン-

今日もまた一台、誰も居なくなった深夜から早朝へと移り変わる時間帯に青色のAE111レビンがタイヤのグリップをフルに使ってコーナーに食い付いてゆく。

-ギュキキキキキキィッ-

コーナーのGに反発するかのように外へ外へと遠心力、アンダーステアで流されてゆくレビンをアクセルは全開のまま左足とサイドブレーキでブレーキングをして調整を取りながらコーナーに食い付いてゆく。グリップの限界が近いことを知らせるタイヤからのスキール音と、コーナー一つを立ち上がる度に響き渡る4AG-E(AE111に積まれる)エンジンのサウンドはFR(後輪駆動)レイアウトの最高傑作と言われ、発売後15年は経過していながらも未だに人気がある名車AE86の時代から変わらない。

-ブァアアアアアア、ギュキキキキッ-

甲高い4AG-Eのサウンドとスキール音を周囲に響かせレビンは西六甲を駆け抜けた。

-ブァアアアアアン-

200X年とある土曜日の夜、六甲山頂のバス停付近は兵庫近辺から集ったストリートレーサー、俗に言われる走り屋達でいつものように賑わっていた。

彼らは己の限界とプライドを掛けて六甲を下って行く、まるで六甲から吹き降りる「六甲おろし」の如くに・・・

「おい、きょうは来るのか?」

「さあな、でもそろそろ決着(ケリ)を付けには来るだろうよ・・・」

ギャラリー達は今夜も走り屋(彼ら)の熱い走りを熱望していた。

その熱気は時にはプロが競い合うレース以上に高まる事もある。

現在、この六甲には地元最速を自負(自称?)する走り屋集団(チーム)六甲BAY WINDS(ベイウインズ)が幅を利かせているが、この数ヶ月の間、彼らBAY WINDSの面々は一台の車、いや一人のドライバーに負けが込んでいる・・・

「今日も来るのか・・・?」

連戦連敗で地元でも面子が急激に低下していく中でのチームのムードは正直、病的なまでにムードが悪い・・・メンバー一人一人が今までの威信、面目と言う物が見事なまでに打ちのめされているのである。

「なに、びびってるんだ!向こうだって地元だろう!ある程度、いや、それなりに六甲(ここ)を知っていてもおかしくは無いじゃないか!」

六甲BAY WINDSをまとめる男、通称「ぴー」は暗いムードの中で、叫んだ。

「しかし、あの14は半端じゃないぜ・・・俺やはーりーさんでも勝てなかったんや・・・いや、次元が違うんやて!」

悲観的な反論を受けても尚、ぴーは言った。

「それはのたく君、あんたがまだまだやって事や! あの14、今日来たら俺がやる!」

「んな、ぴー君!六甲のフルダウンヒルって相当ながいやん!俺らメンバーでもそうそう全区間ははしりきれへんって!熱うなりすぎてもなぁ・・・」

のたくはぴーの焦りを制する様に反論した。チームの空気が緊迫していくなかで、突然はーりーの携帯が鳴り出した。彼は電話に出ると話を聞いて驚愕した!

「なんだって!上ってきている!」

はーりーの驚きを聞いたぴー以下BAY WINDSのメンバーは一斉に驚いた。そして彼らは同時に、その天敵が迫っていることも知った。

「早速来たか!各ポイント事にオフシャルを立たしてくれ!こう言う展開はある程度読んでいたから、ブレーキパッドとタイヤは替えたんだ・・・すぐにでも西六甲を下るで!」

そう言うとぴーはJZX100マーク2に乗り込んだ。熱くなりすぎている彼を見たのたくは心配そうにJZX90に近づいて車の窓越しにぴーを呼んだ。

ウインドーを下ろしたのを見計らってのたくはぴーに言った。

「おい、いきなり走るのかよ・・・また森林植物園の看板くぐって2コーナーでアンダー出してぶつけたらどうするんだ!?」

「これ以上は・・・」

ぴーは歯を食いしばりながらうつむいていた。そしてしばらくその状態を保った後で、口を開いた。

「負ける訳にはいかない・・・あの女には!」

-ボァアアアアァ-

彼がそう言い放った直後にターボ車独特の重低音を聞かせて14がやって来た。

S14,俗にそう呼ばれるこの車の正式名称はS14シルビア。平成5?10年まで生産され、平成8年に一部の改良(主にフロント一式)を施した車である。ワイドボディーながらFR(後輪駆動)が醸し出す旋回性と素直なハンドリングが特徴である。

「まだ懲りていないようね・・・そろそろ六甲最速なんて看板を下ろしたら?」

ぴー以下六甲BAY WINDSのメンバーをあざ笑うかのように14から一人の女性が降りてきた。彼女は続けて言う・・・

「悪いけど、そちらの自負するレベルでは私の相手なんて無理ね・・・もしかしてそのツアラーで勝負する気?」

「悪いが、それ以上の発言は六甲を下った後で行って貰いたいな・・・」

ぴーはそう言うと、セルモーターを回し、アクセルを煽り始めた。

-ボヴァアン、ボァアアン-

「分かった。じゃあ、こっちも本気で行くよ!」

女はそう言うと、自分も乗ってきたS14に乗り込みアクセルを煽り始めた。

-ブォアアン、ブォオオアン-

両者をスタートラインに誘導し、二台の車の間に立ったはーりーはカウントの準備を始めた・・・

「二台とも、カウント後のスタートで良いですね?」

はーりーの問いかけに黙って両者は頷いた。それを確認した後、はーりーはカウントを取り始めた。

「よし、準備よーし!カウント始めるぞ! 5,4,3,2・・・」

最後の「1」は両者のスタートではーりーの声はかき消された。激しいバーンアウトを聞かせて2台は下りに消えていった・・・

-ギュィキキキキキィー-

スタートは両者互角だったが、スタート地点から200メートル地点で14がやや後ろに付いた。この状況をバックミラーで見たぴーは14がわざと出遅れたことにすぐに気が付いた。

「なめやがって・・・こうなったら少々無理しても引き離してやる!」

-ボァアアァ、パシュッ! ボァアアアン-

ぴーはギヤを3速で4千回転まで引っ張った後4速にシフトアップ、同時にアクセルを床まで踏み込んだ。

「あ?あ、無理しちゃって。まっ、ちょっと位は見せて貰わないとね!一方的にこっちがちぎったら向こうも可愛そうだし・・・」

女は笑みを浮かべながらぴーのJZXの後ろ500メートルあたりにつけていた。

「ふふっ」

両者がスタートした後の六甲山頂は僅かながらではあるが、ぴーに勝利を賭けた。ギャラリー達は予想通りの展開に徐々にヒートアップしていく・・・

「のたくさん・・・あの女何者なんですか?さっきから気になったんですけど・・・」

はーりーの問いかけにのたくは大きく息を吐き出したあとで答えた。

「保田圭・・・京都のempress (エンプレス)がここに送り込んだって噂のダウンヒル専門の走り屋だ・・・」

「エンプレス! あの雑誌とかで最近みるチューニングショップでかつレーシングチームを持つ?」

はーりーはエンプレスと言う名前を聞いて驚いた、プロで走らせている様な集団が公道に出てくると言うことはある意味、プロがアマチュアをいたぶりに来るような行為である。なぜそんな事をという思いが彼の頭によぎったのである。驚くはーりーを後目にのたくは続けて言う。

「これは噂だけど、どうも関西の各地の峠スポットで驚異的なタイムを叩き出そうと目論んでいるらしい・・・まあ保田自身がエンプレスの差し金かどうかは分からない。でも、リアウインドに貼られたエンプレスのステッカーからしてあそこのチューンで仕上がっている事は間違いない・・・六甲で最速を取ったら単純にエンプレスと言う企業の宣伝にもなるだろうから、そう言う現実的な経緯もあるだろうね・・・彼女の14、ナンバーは神戸だったからエンプレスの刺客って訳じゃないだろうけどね。」

はーりーはかって自らが保田の14と走った時の事を回想しながら、そして瀬戸内海側を見下ろしながらのたくに言う。

「いぞれにせよ、このままだと完全に彼女に持って行かれますね・・・うちらが数年がかりで作り上げた地位を。とにかく自分は下っていったぴーさんの無事を気遣うまでですよ・・・自分もFC(RX7)でたまたま六甲を下っていた時にあの14にケツをつつかれてそのままバトルになりましたけど、悲しいくらいにぶち抜かれましたよ・・・牧場入り口の看板後の複合コーナーを抜けた後の中速コーナーをドリフトで流しっぱなしで抜けられた時は空いた口がふさがりませんでしたからね・・・」

「車以上に彼女は腕もかなりの物だよ・・・悲しいけど、俺らじゃどうにもならないな・・・・」

のたくは悔しそうにそう呟いた・・・

二人が話している間にもスタートを切った二台は西六甲から明石方面を目指して下っていった。ぴーは保田を振りきれない自分に焦りと怒りを覚えながらもコーナーを一つ一つ切り抜けていく。

-ドキャギャギャギャギャギャア-

「くっ、何なんだ?普段はなんとも無い簡単なコーナーがまるで自分に襲いかかるかの様だ・・・後ろもさすがに煮えきれなくなってきたな・・・こりゃ本当にやばいやんけ!」

JZX100マーク2はその車台をチェイサーと共有した兄弟車である。チェイサーが走りをイメージした「追跡者」と言う名が与えられたのに対して、マーク2は若干走りとは縁がないようにも思われるが、中身はチェイサーと変わらない「走り」のマシンである。2500tのBEAMSエンジンにターボを搭載したこの車はその車体重量こそ重いが、峠でも十分に振り回せる。

-ガタッ、ギュィッ-

ぴーはクラッチを左足で蹴り飛ばすように踏み込み、右足つま先でブレーキを踏み、同時にかかとでアクセルを煽る。タコメーターのメモリが適当な場所を指したときにニュートラルに落としたギアを一気に2速まで落とした。峠、サーキットを走る際に必修と言われるヒールアンドトゥと言う技を繰り出して滑り出した後輪をステアリングで補正しながらコーナーを抜けていく。

-ギャキキキキキッ-

ぴーのドリフトを見ながら圭はあざ笑うかのように言った。

「まだまだ、コントロールがイマイチ!でも、さすがにチームを張るだけあるね。一連の動作は出来ている見たい・・・そろそろ行きますか!」

ヒールアンドトゥを繰り出す保田圭。その一連の動きはぴーのそれを明らかに上回っていた。滑り出した後輪とその挙動に対して内側内側に流れていく前輪に対して反対方向にカウンターを当てていく、この際、一番理想的なのはカウンターを当てない状態であるが、彼女の場合。明らかにこの動作がぴーよりも少なかった。

-キュキキキキキキィキッ-

当然、彼よりも早い車速でコーナーを抜ける。そして右のヘアピンを抜け、森林植物公園入り口の看板がみえてくる僅かなストレートに突入した時点で2台は横に並んだ。

-ボァアアアアアン-

「くっ、噂通りやな・・・こうなるとこのスレートを脱した後の4連ヘアピン入り口のツッコミ勝負か・・・」

ぴーはブーストメーターに目をやった後でアクセルを踏み込んだ。

「行ってくれ?!」

-シューッ-

同時にエアクリーナーが集気音を立て始めた。めい一杯回転数を上げるとシフトアップ、その瞬間ぴーのJZXに付いたサーキュレーションバルブ。俗に言われるブローオフバルブが音を立てて開く!

-パシュッッッ!-

「直線勝負からブレーキング・・・どうやら度胸だけはあるみたい。さすがはと言いたいけど、ここで決める!」

-ブァアアアン-

一気にギアをヒールアンドトゥを掛けながら5速から3速へ落とし、ターボを掛ける。そしてブローオフバルブの音をけたたましく立てて保田はターボバンドに14を乗せて一気にぴーの前に出た!

-パシュァアアッッ-

「くっ、排気量ではこっちの1J(JZX100マーク2系に搭載されるエンジン)が勝っているのに・・・向こうの方が加速性が高い!トルク重視のセッティングか!?」

二台はそのまま最初のヘアピンを越え、その次、2つ目のヘアピンまでの僅かなストレートを駆け抜けていったが、徐々に、そして完全に保田の14はぴーのJZXの前に出ると14はそのまま右にステアを切り始めた。

「なっ、この先は左のコーナーだぞ!」

ぴーの叫んだとおり森林植物公園の看板をくぐった後の4連ヘアピンは最初は右で、次は左のタイトなヘアピンになっていた。ここから更に3つ、それぞれ僅かなストレートを挟みながら連続で続くヘアピンの入り口だ!しかし保田の14はそのまま左に、ぴーのJZXをかぶせるように前にでた、そして前に出きった瞬間・・・!

-キッキキ、ギュキキキキキィッ-

「ふぇ、フェイントモーションか!」

フェイントモーション。ラリーなどではよく使われる技である。ここでコーナーとは逆の方向に車を向けた後一気にコーナーの方向にハンドルを切る。こうすることにより慣性によって振り子が大きく振られるように、あるいはバックスイングで勢いが付いたの如くに、急激にコーナーの外側に車は流れてゆく。この時、車の前方は急激に内側に向く。見た目も派手なドリフトの切っ掛け作りでもある。

「ふふっ、これで勝ち!まったく、まったく、まったく、貧弱すぎ・・・」

-ドギャキャキャキャキャキャァアアッ-

保田は笑みを浮かべながらドリフトでそのコーナーをかわしていった。続いてのヘアピンも鮮やかにクリアしていく・・・

「まずいっ!これはオーバースピードだ!」

ぴーも後を追ってドリフトを掛けたが、ここで車が外に大きく膨れるアンダーステアに襲われていた。彼の意思とは逆に車は外に外に膨れてゆく・・・

「くっ、間に合わない!?うわ?っ!」

-バンッ-

サイドブレーキを思いっきり掛けて急激にリアを滑らしてマシンの向きを変えようと彼は試みたが、その時にリア、トランク付近のフェンダーがガードレールに接触した。

-ギュキィイイイイイ-

と、同時にぴーのJZXはスピン!そのままフロントもガードレールに突き刺さった。この時点でぴーのバトル続行は不可能となり、結果、六甲BAY WINDSは六甲(自称?)最速の看板を引き吊り下ろされた・・・

「えっ、ぴーさんがぶつけた?わ、分かった。すぐ降りる。」

植物公園入り口で待っていたBAY WINDSのメンバーからの知らせを受けたはーりーは血相を抱えてFCに乗り込み山頂バス停から西六甲を下っていった。

クラッシュしたぴーのマーク2は他のメンバーが公園入り口の広場に牽引して運び、JZX100の破損個所にナイロンバンドやビニールテープなどで応急処置を施した後、事故現場周辺に飛び散った残骸を拾えるだけ回収した。チームのリーダーがバトルに敗れたことにより、BAY WINDSは敗戦色に包まれた何とも重苦しい空気に包まれていた・・・

その場所にたどり着いたはーりーはFC3 S RX-7から降りるとすぐに歩道に座り込んでいたぴーの元に駆け寄った。

「だ、大丈夫ですか?」

ぴーは何も言わずただ頷くと、ぶつけた車を虚ろな目で眺めていた・・・はーりーは彼の気持ちを踏まえながらも、少々現実的な事を口にした。

「やられましたね・・・正直今のBAY WINDSで14の彼女とまともに渡り合える人なんていないでしょ?」

はーりーは落胆しながら口を開いた。誰も彼の問いかけに答えることなく黙々とぴーの事故処理を進めていく・・・みな、今のチームの現状を知っていた。どちらにせよ、今夜のバトル結果はギャラリー達の口コミで夜が明ければ関西全域に伝わってしまう。もうやられるだけやられてしまったのだ・・・

「あいつ・・・六甲の走り屋を見下したような感じが見え見えでむかつくよ!まだここ(六甲)には・・・ここには!」

ぴーの気持ちの中には悔しさと怒りに満ちあふれたいた。そして三十分後、全ての作業が終了すると彼らは六甲を後にした。

夜もだいぶ更けてはいたが、保田圭は再び有馬温泉側から六甲山頂へ抜ける裏六甲有料道路から六甲の山頂バス停に登り、そこからみえる夜景を見ながら、思いに耽っていた。彼女自身、ぴーとのバトルに勝ったものの、何か晴れない気分だったからだ。「勝ったのはいいけど、なんか一人だとやっぱりつまらないね・・・タイヤもまだ食いつくようだから、もうひとっ走り行こうかな。」

携帯電話のメモリーを意味無くスクロールさせながらそう言うと、これ以上は考えるよりもアクセル全開で六甲を下った方が早い。そう考えた彼女は14に乗り込み、セルを回す。やがてエンジンが始動するとアクセルを煽り、適当に空ぶかしを終えた後に六甲を下り始めた。「六甲N0.70」と書かれた看板を抜け、西六甲コースの本格的な入り口とも言われるこの区間へ飛び込み、鮮やかかつ、軽快にコーナーの一つ一つをクリアしていく。そこから幾つかのコーナーを抜けたとき、圭は背後に迫ってくる車をバックミラーで見かけた。

-バァアアアアアアン-

「えっ、ベイウインズはみんな山をくだったんじゃ・・・?」

そんな疑問を抱いている間にも後ろの車は背後にまで迫り、パッシングを掛けてきた。峠においてパッシング・・・これはもうバトルの合図である。

「ここからバトル? 上等じゃない! コーナー2つも抜けたらバックミラーから消してあげるわ!」

-ボァアアアアアン-

S14に搭載されたSR20DETをアクセル前回で煽り、ブーストメーターが1.0を指す。それと同時に一気に加速していく。14の背後に付いた車の運転手は先行して逃げ始めた圭の14を目の当たりにして、少し苛立った感じだった。

「あ?あ、今日は遅刻したから帰りが遅くなっちゃうよ?、悪いけど前にいてもらっちゃ困るんだけどなぁ・・・」

そう呟くと、これは早いところ前に出て決着を付けようと思った。保田の14はコーナーにさしかかるとそのままストレートで乗せた車速でドリフトに入った。

-ギュキキキッ-

そしてそのままコーナーをあっさり抜けていく。この時点でもう後ろは付いて来れないと圭は確信した。が・・・

「コーナー1個でもうバイバイだね・・・えっ、嘘でしょ?」

-ボァアアアアア-

振り切ったと思った彼女の思惑を無視して後ろの車はまだ、食い付いてくる。しかもコーナーを抜ける前よりもその車間は狭まっていた・・・

そのまま2台は次のコーナーに入っていく!

「これは・・・もしかしてS15?」

圭は直感で同じシルビア系で最新型のS15では無いかと後ろの車を疑った。

そう思いながらも次の右コーナーに対するドリフトの準備を進める・・・

ヒールアンドトゥを行い車を傾け、ドリフトの姿勢になった時、彼女の14の真横に後ろの車が出てきた。向こうも車を傾けドリフトに入った!

そして、横に並んだ車をみて圭は驚愕した。

-ギュキキキキキキキッ!-

「なっ、なんで?これはAE111?レビン最終型じゃない!FFで思いっきりドリフトなんて出来るの?」

彼女が驚くのも無理は無なかった。駆動輪が前輪にあるFFレイアウトではドリフトは無い。そう言う通説は峠に限らずドリフトと言う技を多用するステージで走る者達にとっては一般常識だからだ。しかしながら、実際はちがうFFでも車速とそれなりの足回りを組めばドリフトは可能なのだ。ただ、現実でそれをやる人間がいない。それだけなのだが・・・

「ちょっとぉ!なめてるんじゃないよ!」

-キキキッ、ボァアアアアッ-

そう言いながらも圭はコーナーを抜けていった。が、後ろのAE111とはさほど距離がない・・・

「次は低速のヘアピンね」

圭は低速コーナーが迫っているのを知ると、ブレーキペダルを蹴り、直後にクラッチも蹴る。そのままヒールアンドトゥの体勢に入ろうとしていた・・・その時!彼女は驚いた、背後にいたAE111がいないのだ。

「まっ、まさか・・・」

予想は的中した、アウトから14を抜きに掛かっている。しかし、圭は冷静だった。なぜならこの先の低速ではいくらツッコミ勝負を掛けても必ずフルブレーキに近い状態にならなければクリアは出来ないからだ。が、しかし、減速ししてゆく14を後目にAE111は減速する気配すら見せずに14の前に出た。

-ブァアアアアアアアン-

「なっ、なにやってるの? そのスピードで入ったらもう体勢は立て直せない!カードールに当たるか、最悪その下に落ちるよ!あっ、あの111はレビンだったんだ。」

彼女は111のトランク部分に書かれたLEVIN(レビン)の表記を見て言った。しかし、正直そんな事をいって言られる場合では無かった。

前に出たAE111レビンはコーナー手前100メートルを切ったくらいの地点でやっとブレーキランプを光らせた。

「これでそのまま下れば・・・」

-ギュキキッイィ、ブォアアアアン-

111のドライバーはそう呟くとハンドルをコーナーの逆側に少しだけ切ると、同時にギアをニュートラルに、そしてクラッチを蹴り込み、サイドブレーキを思いっきり引っ張った。

-ギュキキキキ-

車が傾くのを感じるとサイドブレーキを下ろし、今度はコーナーの方にハンドルを切ったそのままアクセルを煽り、ギアを繋ぐ。

-ブァアアアン、ボァッ、ドキャギャキャキャキャキャッ-

もうお気づきだと思うが、レビンのドライバーもフェイントモーションを掛けたのだ。そしてそのままコーナーを疾風の如くに抜けていった・・・

-ブァアアアアアアアン-

「なっ、なんであんな技が・・・」

圭は驚きを隠せなかったが、まだこちらにも111をパスするチャンスはあるだろうと思い、動揺を抑えてコーナーを抜けていった・・・が、しかし、彼女はまたもや驚愕せざるを得なかった。コーナーを抜けたその場所に111の姿は無かったからだ、いや、正確には姿らしきものは見えたが、それは前方かすかにテールランプが見えただけだった・・・

「なんなの?あれは・・・」

彼女はそのまま車を路肩に一杯に寄せるとハザードランプを点灯させて車を止めた。悪夢の様な出来事だった・・・

「あれは一体・・・六甲であんなに早い・・・いや、あんな高度な技術を持つドライバーがいるなんて・・・一体何者なの?」

しばらくその場で考え込んだが、未だに自分が抜かれた事を思い出してもあのフェイントモーションからのドリフトはどう考えても通常ではあり得ない出来事だった・・・衝撃の出来事と共に六甲の夜が明けてゆく、そしてここから熱い走りのドラマは始まる・・・