JZX100マーク2をHSWの面々に預けた後、ぴーは原付に乗ってのたくとはーりーが働いているガソリンスタンドへ直行した。このスタンドは実質上のBAY WINDS(ベイウインズ)のたまり場と化している為、噂を聞いた走り屋たちが交流戦やその他、チームへの参加などを申し込みに来る場所とも化している。ぴーは原付でスタンドのガレージ前まで乗り入れるとそこに原付を止めて、ヘルメットを取った。ぴーの姿をみるとのたくとはーりーが駆け寄って来た。

「ぴーくん、車はどうなった?どうみても板金7万円コースのダメージやけど・・・」

のたくがそう言うとぴーはちょっとうつむいた後、顔を上げて答えた。

「そんな所やろうけど・・・まあ、しばらくは六甲を走れない。」

「しかし、またS14来たらどうするん?間違いなくありゃ六甲にまた上がってくるで・・・」

のたくの言うことは十分に分かってはいるが、ぴー自身車もなければバトルで負けてしまったので、どうしようも無い。のたくの問いかけに即答できないまま、ぴーは考えこんだ。

「ちょっと、また仕事さぼって・・・何やってるんですかぁ!」

ぴー達3人がたむろしているガレージ前にぶりぶりと怒りながらスタンドの女性店員が詰め寄ってきた。石川梨華、このスタンド唯一の女性店員で、仕事熱心さにはのたく達も一目を置いている。 

「あっ、いや、これはその・・・さぼりじゃ無いって・・・」

はーりーは言葉を濁しながら明らかに苦し紛れとも言える反論したが、梨華はふくれっ面ではーりーを睨むと続けてしゃべり出した。

「もう! ぴーさんがここに来るといつもはーりーさん達は仕事サボるんだから! 店長に言いつけて減給してもらいますよぉ!」

ぴー達が騒いでいると、一台の白い車がスタンドに入ってきた。それを見た店長が事務所から飛び出してきて、ぴー達に言った。

「こら、何やってんの! お客様だぞ!」

「はっ、はい」

店長のかけ声はまさに鶴の一声だったのか?のたく達スタンドの従業員は一斉に車の方へ駆け寄った。

「そう言えば、事故ったんだって?」

スタンドの面々が車の方へ向かったので、その場に残されてしまったぴーに店長はポケットからタバコを取り出して火をつけると、ぴーに話しかけた。

「ええ、やっちゃいましたよ・・・(やっちゃった?)」

店長はタバコをふかすと、続けて言う。

「まったく、好きだなぁ・・・君達も。西六甲最速とか言っているが、自称最速ならゴロゴロいるって。」

店長のからかうような感じの発言にぴーは反論するように答えた。

「うちらはそう言うチームじゃないですよ・・・まあ、確かにみちゅうさんの言うとおり、そのゴロゴロいると思われる一台にうちらはやられましたけどね。」

店長はぴーの話に出てきた「みちゅう」と言う名前に過敏に反応した。

「ちょ、ちょっと・・・一応ここでは店長なんだからみちゅうさんは止してよ・・・」

「えっ?あっ、やっぱまずいですか?」

「まあ・・・ここでは店長を通しているから・・・その呼び名はそこの店の方であまりに有名になったから・・・」

みちゅうはぴーに慌てふためきながら言うと、向かいの通りにあるパチンコ店らしき店を指さしてぴーに言った。

「な、なるほど・・・わ、分かりました。」

二人とも「汗笑」な状態になっていた・・・

のたく、はーりー、梨華はスタンドに入って来た車に駆け寄ると、のたくとはーりーは一瞬体が凍り付いた。そこには昨日の白い14が止まっているからだ。

梨華がそのまま14の運転席に近寄ると、圭はウインドーを下ろして言った。

「ハイオク現金満タンね。」

「はい!」

梨華がガソリンを入れるために運転席側から去ると、はーりーはフロントウインドーをタオルで拭きながら圭に話しかけた。

「お客さん、随分熱心ですね・・・」

少し怪訝(けげん)な態度ではーりーが話し出すと、圭ははーりーの顔を少しだけ見て、スタンドの端っこに止めてったBAY WINDSのステッカーを貼ったグレーのFCに目をやった。

「どこかで見たことあると思ったけど・・・お兄さん前に西で私のシルビアにビビって道開けたFCの人だったんだ? ふ〜ん、噂通りここは六甲ベイウインズの面々がいるスタンドだったのね・・・なら、話は早いわ。昨日、マーク2とバトルしたあと青いゾロ目のレビンを見たんだけどね・・・鬼のように早いFFのレビンを!西六甲で幽霊がでるなんて噂も聞いたことが無いからさぁ・・・?」

圭の意味深な発言にはーりーは何を言われているかさっぱり分からなかったが、

そのまま言葉を返した。

「お客さん。失礼ですけど、何を言われているのか良く理解できないです。仮にそのゾロ目が幽霊じゃないとしてうちらベイウインズと関係があると?」

はーりーの発言に圭は怪訝そうに続けて言った。

「あ〜そう。そこまでとぼける気ね・・・あれから色々と聞いたんだけど、西六甲を走っているのはベイウインズだけってねぇ・・・あのゾロ目もそちらが交流戦を受けたときや、遠征の為の秘密兵器って言うわけ?おもしろいじゃない・・・」

はーりー、そしてリアウインドゥを拭いていながら会話を聞いていたのたくには圭の言っているゾロ目が何者なのか全然分からなかった・・・そう言う会話のやりとりが行われていた間にもガソリンの注入が終わり、梨華が伝票をもって圭の所へやって来た。

「ハイオク39Lで4260円になります」

圭は財布から梨華に言われたままの金額を出して彼女に渡すと、はーりーとのたくの方を向いて言った。

「同じ相手に2度も負けないよ!今週の土曜10時に山頂のバス停で待っているとゾロ目のドライバーに伝えておくことね! まあ、そんなに速いゾロ目でもわたしの敵じゃ無いって事を証明してあげるわ・・・」

そう言ってウインドーを上げると、圭はエンジンを掛けて軽く空ぶかしを始めそのままスタンドを出ていった。梨華は圭の14の方を向いて頭を下げながらありがとうございましたと言った。はーりーとのたくはあっけに取られていた。

「あの14に勝ったAE111レビン?そんなの知るか!そんな早い車、こっちが知りたいよ!」

はーりーは足下にあった吸い殻を集めているオイル缶を蹴ったが、強く蹴りすぎて缶を倒し、中にあった吸い殻をまき散らしてしまった。

「ちょっとぉ、なにしてるんですかぁ!」

梨華ははーりーの間抜けな行動にツッコミを入れる前にはーりーを叱りとばした。はーりーはのたくに助けを求めようとしたが、彼は上手い具合にどこかへ逃亡していた。しぶしぶはーりーは一人で吸い殻の処理をし始めた。

はーりーが圭と話していた一部始終をみちゅうはぴーと事務所の中で見ていた。

そして彼女の事を話していた。

「なるほど・・・あれが例の?」

「ええ、そうです。自分が負けた相手です・・・」

みちゅうはソファーに腰を下ろしてタバコに火を付けた後、ぴーに話し始めた。

「最近は女の走り屋も増えたなぁ・・・オレの時代はそうそう見かけなかったけど。」

「えっ、みちゅ・・・いや、店長も走っていたんですか?(って、そう言えばさっきもそんな話をHSWで聞いたなぁ)」

「まあ・・・昔の話だよ。ところで、さっき14の彼女が言っていたゾロ目ってぴー君は知らないのか?」

ぴーもはーりー同様に圭が言ったゾロ目の存在が気になっていた。西六甲ではぴー達も走り出してそこそこのキャリアになるが、いままでそんな車は一切見たことも聞いた事もなかった。ぴーはみちゅうに言葉を返すようにゾロ目のことを聞いた。

「店長は何かそのゾロ目について心当たりがあるんですか?」

「まあ、そこに掛けて。」

みちゅうはぴーにソファーへ座るように勧めて、ぴーがソファーに腰を下ろすのを見計らって話し出した。

「知らないわけでもないが・・・」

「知っているんですか!」

ぴーは思わず立ち上がったが、それと同時に表にいたのたく達が中に入ってきた。

「店長。後かたづけが終わりました。」

みちゅうは窓越しにスタンドの清掃状況を確認すると、照明の一部を落とした。

「ごくろうさま。もう上がって良いよ。」

みちゅうの言葉を聞いたはーりーとのたくはロッカーへと消えていった。梨華は落ち着かない様子でみちゅうに尋ねてきた。

「店長、まだ車が届かないですね・・・」

梨華は自分の軽自動車オプティーをHSWの面々に車検で出していた。ちょうど夕方には仕上がると聞いていたのに納車がまだなので心配だった。しかも車が帰って来ないことには家にも帰れない。みちゅうは心配している梨華に言った。

「遅いなぁ、またあの連中ゾロ・・・いや、ぴーくんの車でも直しに掛かっているのかな?ちょっと電話をしてみよう。」

みちゅうは携帯電話を取り出すと黒に電話をした。と、同時に一台の軽自動車がスタンドの中に入ってきた。軽自動車は事務所の前に止まると、中から紗耶香が降りてきた。彼女はそのまま事務所内に入ってくると、みちゅう達に挨拶をした。

「こんばんは〜」

「市井さん!待ってたんですよぉ〜」

梨華は紗耶香を見るなり彼女に近寄り、今か今かと到着を待っていたと言わんばかりに紗耶香に口を開いた。紗耶香はそんな彼女のを見ながらも、自分を送っていっては貰えないかと思って梨華に頼んでみた。

「悪いけど、このまま送ってくれないかなぁ・・・?」

「もちろんですよ!」

彼女たちはそのまま会話をしながら外に出るとそのまま車に乗り込んだ。運転席側のウインドゥを下ろして窓越しに梨華はみちゅうに言った。

「お先に失礼します!」

それを聞いたみちゅうたちは彼女たちに手を振ると、梨華達はそのままスタンドを去った。ぴーはそんなほほえましい彼女たちを見ながらもみちゅうが一瞬言葉を濁らしたゾロ目の事が気になっていた。

「店長!ゾロ目の事を知っているんですか!教えて下さい!」

ぴーは熱くなってみちゅうに詰め寄った。みちゅうはやけに熱くなっているぴーを見ながら、そしてその思いに水を差すように言った。

「知ってどうするんだい?仮に攻め方を教えてくれと言っても車がないんじゃ今週末のバトルは無理だろう・・・それにゾロ目の事は自分も知らない。昔の事を一瞬思い出しただけだよ。」

「そうですか・・・昔話じゃどうにもならないですね。」

ぴーは苦笑しながら言った。彼がへこんでいると、のたくとはーりーがロッカーから出てきた。

「参りましたね、来週はどうするんですか?こうなると・・・」

はーりーはぴーに圭から申し込まれたバトルについて話し出すと、ぴーは即答で答えた。

「そのときは・・・走れないオレの代わりに君が死ぬ気で下ってくれ!」

ぴーの目はマジだった。はーりーはそんな彼をみて・・・

「おいおいおい・・・まじっすかぁ! そんなこと言われても自分じゃあ14とバトルするのは無理ですよ! 前にあの14と六甲で出会って、何もしない内に抜かれたんですから。」

のたくはそんなはーりーの気持ちをよそに更に突っ込んだ。

「君しかいない!」

半分マジでもう半分はカラカイ入っているのたくの眼差しにはーりーは苦笑しながら答えた。

「なんで・・・のたくさんも下りでそこそこ走れるじゃん・・・」

のたくは外に止めてある180SXを指して言った。

「いやぁ、今週末オレも車検なんだ・・・」

「えっ、ちょっとマジっすかぁ!」

「マジ・・・」

はーりーは絶対絶命の危機に瀕していた。そしてその悲痛な叫びに呼応するかのようにぴーとのたくは返事をした。

それから数十分後。ぴー達が帰った後のスタンドの事務所にいたみちゅうは事務所内の自販機で缶コーヒーを買い、一口飲むと、携帯電話を取り出して電話をかけ始めた。

「もしもし、あっ、みちゅうです・・・」

「ひさしぶりですね! 最近は連絡がないんで副業の方が忙しいのかと・・・」

電話の相手は黒だった。後ろで物音が聞こえるので多分まだソロ目をいじっているんだろうというのは安易に想像できた。

「そうなんだよ?目下連敗中で等価の台はなかなか・・・って、今日はこんな話じゃなくて、妙な話を聞いたんだけど・・・」

黒はみちゅうが聞いたうわさ話の落ちが読めたので、いきなり彼の質問に答えた。

「西六甲での一件でしょ? 妙な事になってしまって・・・まあ、六甲でテストしていればいずれこんなことにはなるだろうと思ってはいましたよ。」

「やっぱあれは黒さんが軽くひねったんでしょ? 14の女の子なかなかイケていたのに黒さんも人が悪いなぁ、ボコボコに抜き去るなんて・・・しかもFFで派手に抜けば、それはFR乗りからすれば屈辱でしょ?」

みちゅうは黒にそう話すと、コーヒーを一口飲みながら黒の返事を待った。

「みちゅうさん、勘違いしないでくださいよ・・・もうオレらの時代じゃないですよ。それに自分よりもみちゅうさんの悪魔のZの方がカリスマでしたからね。で、みちゅうさん。この間も、そして去年から六甲でうちHSWの車を走らせているのは自分ではなくて、市井ちゃんなんですよ・・・」

みちゅうはそれを聞くと、口に含んだコーヒーを思わず吐き出してしまった。そして驚きながら言った。

「なっ、なんだって!それじゃあ、彼女が運転していたのか?でも、FFのAE111レビンで、しかもそんなにバトルって言うような事も経験したこと無いのにいきなりあれなの!?」

黒はみちゅうの絶叫に、ちょっと大袈裟だなとも思いながら、答えた。

「いや、それは自分も驚いているんですよ。確かにとんでもないことですよ。でも、六甲の走りに関してはベイウインズの面々やあの14以上だと自分は思いますね。何せ台風が来ようと、大雪が来ようと必ずテストメニューはこなしますからね、彼女は。まあ、遅刻も多いけど・・・。」

みちゅうは正直驚いた。たかが一年そこらで六甲の走りの「ツボ」を抑えると言うことは並大抵では無い。そもそも峠におけるドライビングテクニック等という物は理論だけでは予測の付かない事も多くある。それらは決して一朝一夕でなんとかなるものでは無いのだ。

「なるほど・・・話は読めましたよ。で、その14が閉店間際にうちに来てどうも果たし状を突きつけてきたんだよ・・・今週の土曜に市井ちゃんを六甲に上げる?」

「さあ・・・確率は五分と五分ですね。彼女が行くかどうかは・・・」

「黒さん、久々にこっちまで燃えて来たよ。五分と五分なんて言ってもちゃんと彼女は六甲に来るんでしょ?ベイのメンバーなんかが14とバトルしても事故るだけで黒さん達の仕事が増えるだけでしょ?それは仕事が多い方がいいでしょうけど、オレは是非とも全開バトルを見たいな。」

黒は少し考え込んだ後にみちゅうに言った。

「みちゅうさんのご期待に添えるようにはしますよ。後は彼女自身がどうするかですよ・・・さすがにこちらも強制はできないので。」

各人の様々な思惑と想いの中、時間は決戦の日に刻一刻と流れていった・・・