西六甲、中腹地点。いよいよ週末に控えた14とのバトルを聞きつけた地元の走り屋達の一部は、14シルビアを駆る保田圭がテストランをしているのを聞いて、その走りをギャラリーしに来ていた。コーナーを抜けてくるスキール音を聞くと彼らは興奮気味に言った。
「おおっ、14が来たぞ!」
彼らギャラリーの真ん前を矢のようにドリフトで駆け抜けた圭の走りを見て彼らは言った。
「さすがに六甲の一匹狼って騒がれるだけあるぜ。こりゃ東のチームもヤバイかも知れないな。しかし、リーダーも負けたベイウインズに一体誰がいるんだぁ? あんな鳥肌物のドリフトをやられちゃたまらないぜ・・・!」
コーナーを一つ、また一つと抜けて行く14シルビアを操りながら圭はゾロ目の事を思い出しては自分の不覚を責めていた。
「出てこい、レビン!私はもうあのゾロ目に勝たなきゃ前に出られない!あんたに会うためにこうして西六甲に来てるのよ。もう西六甲のベイウインズも東のSOUTERN CROSS(サザンクロス)も関係ないわ!」
そう言ってヒールアンドトゥの動作に入るとまた一つ牧場入り口近くのタイトなコーナーをドリフトで流していった。牧場入り口に車を止めて、西六甲道路から摩耶山へとの分岐地点にもなる2連直角コーナー最初の地点から圭の走りを見ていた東六甲サザンクロスのリーダー丸政とメンバーのシカミは圭のドリフトを見ると、彼女のドライビングテクニックについて話し出した。
「丸さん、あの流し方どう思います? オレ的にはかなりの高レベルだと思うんですけど?」
「確かに。カウンターを殆ど当てないままのドリフトは芸術的だ・・・」
丸政はそう言うと、持っていたタバコに火を付けた。シカミはそんな丸政を見ながら、話を続けた。
「峠仕様のライトチューン・・・馬力は300程度。どちらかと言うとトルク重視で、エンジンのカムシャフトをいじっている?」
丸政はシカミの問いかけに答えるように言った。
「タービンは最新型S15シルビアの斜流タービン、インジェクターも恐らくS15のもの。燃料ポンプはGT-R純正で燃圧を稼いで、ブーストアップとコンピューターチューンでトータルバランスも高い・・・付けているパーツは地味ながらもちゃんとバランスを取っている。あれならコーナー流しっぱなしでも扱いやすい・・・さすがはエンプレスか。」
タバコを道路に落とし、靴底でタバコの火を消すと、丸政は自らの愛車ST202に乗り込みエンジンを掛けた。運転先側のウインドゥを下ろすと窓越しから話し出した。
「今週の西六甲・・・恐らくぴー達の完敗だろう。オレは悪いけど(ギャラリーを)パスするよ。あそこまでのFRの使い手に対抗できる面子があのチームにいるとは思えない。仮にいるとしてもそれはサザンクロスにしかいないさ・・・」
丸政はそう言うとパワーウインドゥを上げて。ST202セリカをスピンターンさせて西六甲を下っていった。シカミも続いてSXE10アルテッツアに乗り込むと同じようにスピンターンして丸政を追って西六甲を下っていった。
翌日、金曜日。決戦の日を前にしてぴーは車検で納車に来たのたくと共にHSWを訪れていた。ぴーの車は左右フロントフェンダーを外されてフレームの補修の最中だった。のたくはそんなぴーのJZXをみるといたたまれない思いになって言った。
「ぴーくん、結構派手にぶつかったんやなぁ・・・」
「そう衝撃とか強くはなかったんやけど、こうして外されたフェンダーを見ると結構ひどいなぁ・・・」
事故った時は大体そうである。僅かに当たった?と思えるような衝撃で、ボディーは凹む。乗っている人間にまで大きく伝わるような衝撃を喰らったときは車は大破したと思っても良い。ぴーのクラッシュは彼自身の身に怪我が無かっただけでもマシな物だった。ぴー達がガレージにたむろしていると、BDがノートパソコンを脇に抱えて近づいて来た。
「のたく君、180SXは事務所の前に置いててくれって黒さんがいっていたで。多分あそこの来客用って札が立っている場所のことやと思うけど・・・」
BDの言った通りに従い、のたくはその場を離れて車を言われた場所に移しに行った。ぴーはBDに黒と、明日の件についてBDが何か知っていないかと思いダメ元で聞いてみた。
「なあ、BD君。黒さんあしたの夜の件について何か言っていなかったか?」
「明日って・・・なにかあるの?」
BDの返事にぴーは「やっぱり聞くんじゃなかった」と心の中で落胆した。どう考えてもはーりーでは圭にかなわないことはぴーにも分かっていた。彼がのたくと共にここへ来たのもダメ元で黒に西六甲を走って貰おうとお願いに来たのだ。BDの返事にぴーが固まっていると、つなぎを着た亜依とが自転車に乗って現れた。
「あれ〜っ?どうしたんですか? あっ、挨拶をしなくちゃ・・・ええと、いらっしゃいませ?ご希望の階をお申し付け下さい(ちょっとエレベーターガール風)」
「あ、いや、そのオレらはネタにつき合いにここに来たんやないんやけど・・・(どうもこの子のノリだとツッコミが出来んなぁ・・・)」
加護の妙なテンションにまたしてもとまどうぴーだがそうしている間に黒がHSWにタバコを吹かしながら散歩(?)から戻ってきた。
「おいおい、二人共。週休に入るんだから今日はちゃんと働いてくれよ。仕事はまだ山の様にあるんだからさぁ。」
「あっ、はい!」
「オレはちょっとPCを・・・」
亜依とBDは黒に適当な返事をするとすぐさま元の持ち場に戻り、仕事の続きに入った。ぴーは黒に会うといきなり頭を下げて早速土曜の件で話を切りだした。
「黒さん、お願いです!明日の夜、俺達ベイウインズの代打で14との下りの勝負を引き受けて下さい!明日は東のサザンクロスの連中も出てくるし、このまま保田の14との勝負を断るわけには行かないんです!」
黒はタバコを吹かしながらぴーの言葉を聞いていた。こういう熱い奴もきらいじゃないなと思いつつぴーに言った。
「まあ、顔をあげなって。そう言われてもオレみたいなオヤジが若いモンの喧嘩に入っていくわけにはいかんだろうって・・・」
「あの・・・店、いや、みちゅうさんから妙な噂を聞いたんですよ。あの人は六甲で最速は青色のAE111レビンだって言うんですよ。」
黒はぴーの話を聞いて心の中で苦笑しながら思った。
「(みちゅうさん・・・全く、全く、全く、変な噂を吹き込んで・・・こうなりゃ何としてでも市井ちゃんを説かないといけないな。)で、仮にその六甲最速のレビンがいたとして、そのドライバーに何をぴー君は望む訳?」
「はい、西六甲・・・いや、六甲を代表して14とバトルして貰いたいんです!」
ぴーはそのままズバリを黒に言った。彼の中ではそのレビンはてっきり黒が運転しているものだと思った。現に、彼は以前ここに来たときに整備中のそれらしき車を見ているからだ。黒は内心弱っていたが、ここまで過剰な期待をされると退くに退けなくなった。紗耶香がごねたら本気で自分が走ろうかとも思ったが、とにかくここは適当にぴーをあしらっておこうと思い答えた。
「さぁな・・・みちゅうさんの言っていることが当たっていたら、確率は五分五分だな。それに、そう言う代役はこちらにでは無く、みちゅうさんに言うべきだよ。」
ぴーはその答えを聞くと間違いなく黒はバトルにやって来てくれると思いこんだ。あまりの嬉しさに感極まりながら彼は言った。
「黒さん、五分五分とか言ってもあなたはきっと来てくれる!来てくれると信じていますから!じゃあ、明日の夜10時に山頂のバス停で待ってます!」
「(何か強引に話を進めてないかぁ?)10時か・・・もし10時を過ぎても来ないようだったらその時は自分たちで何とかしてくれ。」
「いや、あなたはきっと来てくれる! じゃあ、黒さん明日の夜、頂上のバス停で待っています!」
そう言うとぴーは事務所に向かったのたくを追って行った。黒はタバコを靴底で消火すると、これからどうしようか考えていた。
「何か勢いで押し切られたというか・・・これが若さか?しかしどうするべきかな?」
何とかしたいという彼らの思いを受けてしまった黒は正直それに答えたいが、前回紗耶香に会ったときに言ったバトルの返事をまだ紗耶香から聞いていないかった・・・もし彼女が断ったならば本当に自分が走ろうかと思っていると、不意に紗耶香に呼ばれた。
「何、ぼ〜っとしてるんですか?」
「えっ、あっ、いや何でもない・・・それはともかくとして今日はやけに出勤がはやいけど・・・」
黒の態度に少し不自然さを覚えた紗耶香だが、今日は学校の講義がそんなに長くなかったのと専門の実技講習が無かったことを告げると、黒に前回の話の返事をし始めた。
「いろいろと思ったんですけど、やっぱ自分には競い合いは苦手かなって・・・でも、勝負の勝ち負けって事よりもその勝負を通じて分かり合える仲間が出来るんだったら自分にもプラスになるかなって思ったんです。ここに来るようになってから忙しい専門学校のプログラムに追われている中では見えてこない、出会えない人たちにも会えている訳だし。例えば・・・GSの店長さんとか、へっぽこ3人衆とか・・・」
「ああ、彼らか・・・(へっぱこ呼ばわれされるんじゃぁ彼らベイウインズもまだまだ半人前以下だな。)」
黒は紗耶香の「へっぽこ3人衆」と言う言葉にちょっとウケてしまったが、これまた普通の捉え方をしない紗耶香の答えに驚いた。
「なんか上手くは言えないんですけど、今まで車に乗ると言うことはそんなに好きじゃなかったんですよね・・・ほら、どうしてもバイト絡みになるから。でも同じ乗り物の電車とかと違って車だとレールがないからどこにでも行ける。自分が目指す方向。夢に向かって・・・そう言うところが何か人の生き様みたいで、自分も共感できる部分があるんです。それにその14って車に女が乗っているって前にも聞きましたけど、どんな女の子か興味ありますしね。多分その人も今までに会ったことのないタイプの人なんだろうなって思うし・・・」
「なるほど・・・分かった。今日はもう休んで良いよ。明日に備えてくれればいい。あと明日の時給については今月の給料に含めとくように加護ちゃんにいておくから。」
そう言うと彼は紗耶香の肩を軽く叩いてガレージの中へ消えていった。黒が去っていったのと入れ替わるようにのたくとぴーが紗耶香の所に代車の軽自動車に乗って現れた。
「おかえり。今帰り?あっ、もしかして今日も手伝いかい?」
のたくが運転席から話しかけると、紗耶香は頷いて言った。
「帰りは当たり! けど、仕事は今日は無しですよ!」
これを聞いたぴーはチャンスとばかりに紗耶香に声を掛けた。
「じゃあさっ、これから飯でもどう? ついでだからそのまま(家の)近くまで送って行くよ!」
紗耶香は少し考え込むとぴーに返答した。
「おごりだったら行きますよ!」
ぴーは財布の中身を紗耶香に見られないように確認した。内心、今回の板金整備で彼の財政も厳しいが、こういうチャンスもそうそう無いと確信したぴーは現実問題を無視して返事をした。
「ん、じゃあ・・・おごろう!」
「えっ、オレにもおごってくれるの?」
のたくが横から突っ込んできた。ぴーは(なんで君にまでおごらないかんの!)と内心思いながらも、ここでのたくを拒んでは紗耶香に悪い印象を与えるだろうと深読みして。とりあえずのたくの要求も受けることにした。そしてぴーは助手席を紗耶香に譲り、自らは後部座席に移り、いつもチームのミーティングで行っている筑紫が丘にあるファミレスへと直行した。それから程なくして
ぴー達はファミレスへ着き、のたくはぴーの指示で止めた駐車スペースに代車の軽自動車を停車させた。
「(な、あれは・・・)」
のたくは向かいの駐車スペースに止まっている見覚えのあるS14を発見し、思わずその場にしばらくその場に佇んだが、紗耶香とぴーは雑談を交わしながらそのまま中に入っていった。のたくも彼らを追って店内に入っていったが、入った直後にぴーはトイレに向かって行った。そして、のたくの抱いた悪い(?)予感は的中した・・・
「!?」
「どうかしたんですか?」
紗耶香がのたくの様子に気づいて彼に話しかけたとき、圭の視界にものたくが入り、彼女はその瞬間立ち上がって二人を呼んだ。
「ベイウインズの・・・そんな所に立っていてもなんでしょ?」
「誰ですか? あの女の人?」
紗耶香はのたくに尋ねたが、彼女の目からして圭はどうみてものたくの女友達とか、それ以上の関係には見えなかった。
「あら、そちらの彼女は? いよいよ明日がバトルだって言うのに余裕だ事・・・ま、一度わたしを負かしているゾロ目を引っ張って来るんだろうし、余裕かもね?」
紗耶香は圭のややロング気味でウエーブがかった髪の毛と、時折見せる鋭い目つきに少し引きながらも圭を見ていた。のたくは圭の挑発的な発言に腹立たしさを覚えたが、ここでヤケを起こしてもしょうがないと思い、なるべく平静を装って言葉を返した。
「そうそう勝ち誇られても困るんだなぁ・・・これが。あんたはまだ六甲の本当の実力を知らないし、たかがオレらに勝っただけでいい気になっているだけじゃないん?」
圭はそんなのたくの言葉を聞いて思わず立ち上がった。とっさにこれはヤバイと感じた紗耶香は圭の前に立ちはだかり、圭に言った。
「何があったかは知らないけど、のたくさん絡みだったら、あなたも走り屋なんでしょ? 六甲で車のバトルを明日やるんだったらこれ以上の場外でのいざこざは無しじゃない?」
圭は紗耶香の視線と毅然とした態度に少しひるんだ。のたくも普段は明るく、そして温厚な紗耶香のこのような一面に驚いてしまった。
「確かに、あなたの言う通りね。こっちも熱くなり過ぎたわ・・・」
圭はそう言うと紗耶香の肩を軽く叩いて、彼女とのたくの間をすり抜けてレジへ向かっていった。紗耶香はこの時、14の主が圭だと言うのを確信した。そして確証は無いが、何故か立ち去る圭の背中になんとなく寂しさを感じた。その後、何もしらないぴーがトイレから戻ってくると、二人は何事も無かったようにウエイトレスが案内した席に着いた。紗耶香はどうも圭の事が引っかかっていたのでぴー達に彼女についての事を聞いてみた。
「さっきの女の人。彼女って走り屋なんですよね?」
紗耶香の質問にのたくは水を一気に飲み干してから答えた。
「まあね・・・かなり嫌な感じの女だね。六甲を荒らす白の14に乗っているよ。その車にちなんで最近付いたあだ名が六甲の白狼(はくろう)だってさ・・・な〜んかいい気になっているからね、あいつは・・・むかつくんだけど、オレの腕じゃとてもかなわないよ・・・ぴー君はあいつとバトルして車壊したし・・・」
「そうなんですか・・・」
紗耶香は窓越しに映る景色をちょっ眺めながら話し出した。
「でも、彼女。悪い人には思えないんですけど・・・」
紗耶香の一言に、真向かいに座ったぴーは過剰に反応した。
「なっ、何、言っているの? とんでもない極悪な女だよ!」
「そうなんですか?いや、彼女をさっき見たとき何か一瞬寂しそうって言うかこっちを羨む様なとも思うなんて言うか上手く言えないんですけど、こう・・・一人でいることにコンプレックスがあるって言うか・・・」
紗耶香が言うことだからと思いぴーは彼女の意見を真剣に聞いていたが、のたくには圭が紗耶香の言うような女には見えなかった。
「まっ、そりゃ彼氏がいるようにも見えないな。」
のたくはそう皮肉を言うと、ふと昔の事を思い出してぴーに言った。
「そういや、ぴー君。保田は東六甲にもいったんかなぁ・・・それで東六甲で思い出したけど、どうする? サザンクロスとの交流戦。うちは今は走れそうなんおらんし・・・」
ぴーは今頃になってその事を思い出した。しかし、それ以前に保田圭の14で頭が一杯だった。紗耶香はそんなのたく達の話に割ってはいるような形で聞いてきた。
「走れる人って・・・二人は車が無いんでしょ?そしたら後は・・・はーりーさんだけ?」
ぴーとのたくは紗耶香のツッコミに返事が出来なかった。ベイウインズの戦力的に走れそうなのは彼ら二人を除くとはーりー位しかいない。その紗耶香の読みは思いっきり当たっていた。黙り込んだ二人に対して紗耶香は続けて言った。
「ねえ、ぴーさん。さっきの彼女をチームに誘ったら?速いんでしょ?彼女って。それにどこにも属していないんだったらこのまま野放しにするのも勿体ない話だし。」
「そりゃそうだけど・・・」
のたくは困った顔をして答えた。確かに紗耶香の言うとおりだったが、ここまで散々コケにされた以上は紗耶香の提案を受け入れるのには現実的に無理だと思った。
「じゃあ、明日のバトルでぴーさん達が勝ったら仲間にするってのは?」
紗耶香は続けて言った。ぴーは紗耶香が言っていることだから彼女のぶっ飛んだ提案を聞いていられるが、これが他の人間だったらブチ切れしただろうと思いながら聞いていた。
「なっ、何て事を言うの・・・それはちょっとねぇ。」
しかし、のたくはぴーとは逆にそれも有りかななどと言う淡い期待を抱いた。今回の圭とのバトルはひとまず黒が代理をしてくれそうなのは彼にも分かるが、仮にこのバトルが終わっても次の交流戦がある。その時までにチームの戦力が整っていないことにはどうにもならないからだ。しかも対するサザンクロスは西のベイウインズがただの車好きな連中の集まりに対して、彼らはこの辺りでは主に県内外のサーキットなどで腕を振るう職人の集まりとも言えるような集団であり、リーダーの丸政を中心に固まったセミレーシングチーム的要素をも持った集まりである。お互いに六甲統一と言う課題にぶつかりながらも上手い具合に住み分けが出来ていたので長らく直接対決は無かったが、今年の夏にいよいよ決着をつけると言うことで両者共に合意したところだったのだ。
「やれやれ、今日はもう閉店だよ・・・って、誰かと思えば、どうしたんだ?」
みちゅうは片づけも終わりそろそろ自分も帰宅しようとしていたが、彼が事務所を離れようとした瞬間にタイミング良く青色のレビンがGS構内に入ってきた。初めは給油を拒もうとしたみちゅうだが、車の中から出てきた黒を見て少し驚きながら話し始めた。
「レギュラーでいいんでしょ?」
「いや、すいませんけどハイオクでお願いします。」
「黒さん、ハイオクなんて4AGには贅沢だよ!」
みちゅうは笑いながら軽く黒をあしらうと、そう言いながらもハイオクのノズルをレビンの給油口に差してガソリンの注入を始めた。
「みちゅうさん、これから六甲にセッティング確認がてら行きますけど、良かったらどうです?」
「今から?でもオレには「悪魔のZ」も無いんですよ?」
「あれなら・・・31のZを見つけましたよ。オーバーホールがいるのでしばらく掛かりますが・・・」
みちゅうは給油を終えると、事務所の入り口に置いてある展示品のタイヤの上に腰を下ろしてタバコを吸い始めた。一通り吸うと、そのままの状態で黒に語り始めた。
「今更何って思うけどやっぱ心のどこかで走りへの思いってのが残っているもんだね・・・(HSWの)社長はどうしたの?」
「毎度のパターンですよ。今回もオリジナルパーツの製作で「工房」にこもったみたいですから。」
「なるほど・・・じゃっ、オレがこのゾロ目を運転するかな?久々に山も攻めてみたいし!」
みちゅうはそう言いながらレビンの運転席に腰を掛けた。黒は少し笑いながら店の戸締まりの事を言うと、みちゅうは慌てて店の戸締まりを始めた。
「やる気満々ですね。何だったらこのまま足回りのチェックをして貰いたいんですけど。」
「いいの?マジで攻めちゃうよ!」
「ええ、自分よりも「悪魔のZ」でカリスマだったみちゅうさんの腕の方がこのゾロ目のセッティング具合が分かるかも知れないですね。じゃ、自分は助手席にのりますから。あっ、そうそう、手放しドリフトは無しですよ!FFじゃ出来ない技ですからね。」
「あっ、そうか・・・!やぁ?久々にタバコを吸いながらドリフトと思ったんだけど。」
「お手柔らかに頼みますよ。」
そう言いながらお互いレビンに乗り込むと、そのまま六甲山へと駆け上がっていった。みちゅうは久々に山を攻めるのが楽しいのが黒に分かるくらいタイヤをならせながら表六甲入り口を目指すべく麓の坂路を駆け上がっていった。
新たに出てくるだろう強敵連中との交流戦も控えつつ、時は遂に決戦の日へと紗耶香と圭を導いていった・・・