紗耶香は普段とは違う西六甲の様子を車内から伺うと、これはなんか場違いな所に来てしまったとも思いながら、時間が迫っている事を知ると今まで以上に上りのペースを上げた。頂上では徐々に大きくなって行くスキール音を聞きながらゾロ目の登場を今か今かと待ち受けるギャラリー達でごった返していた。時刻は午後9時55分。
「なんとか間に合いそうだけど、何か異様な熱気に包まれているなぁ・・・妙に見物客見たいな人たちが多いし。な〜んか変な感じ。」
紗耶香はそう言うと頂上前のバス停付近に集まっている人混みの前に車を止めようとしたがベイウインズのメンバーがバトルのスタートラインに誘導したため、取りあえずスタート地点にすでに停車している14の側に自分も車を停車させ、運転席から外に降りた。ぴー達は降りてきた紗耶香を見て驚きながら彼女の所に駆け寄ってきた。
-ブゥアアアン、キキッ-
「げっ、な、なんで市井ちゃんが!? 車だけ来ても黒さんが来なきゃ意味がないんだけど・・・」
紗耶香はぴーの言葉に少しムッとしながら小声で言った。
「なんなのよ、せっかく来たって言うのに!」
落胆しているぴーを肩を軽くのたくは叩くと、紗耶香に何故ここへ登ってきたかを尋ねてみた。
「不躾(ぶしつけ)な事を聞くけど、このゾロ目ってガレージで黒さんやBD君がいじくっていた車だよね?」
「えっ、まあ、そうですけど・・・」
のたくは更に続けて聞いてみた。
「もしかして、黒さんに何か言われたからここに来たわけ?」
紗耶香は少し考え込んだが、まあ、黙ってもしょうがないと思い、のたくに話した。
「って言うか、わたしも一応車のれるし、今回はボーナス掛かってるし・・・勝てと言われれば意地でも勝ちますよ!」
紗耶香達がごちゃごちゃ言っているのを見て圭はS14シルビアを降りて紗耶香達の元に近づいてきた。圭を見た紗耶香はぴーの腕を掴んで近くに引っ張って彼の耳もとで小声で話しかけた。
「彼女が相手なわけ?じゃあさぁ・・・あの車に勝ったら頼みを聞いてくれないかなあ?」
ぴーは一瞬ドキッとしたが、そんなことを言われても、どう考えてもダウンヒルすらやったこと無さそうな紗耶香では到底14には勝てないだろうと思い。何わけの分からない事をいっているんだろうとしか思えなかった。しかしそうこうしている間に圭が近づいてくるのを知った紗耶香はぴーを離すと両手を合わせてお願いのジェスチャーを見せた。
「なにごちゃごちゃやってるの?ここまで待たせておいて・・・」
そう言うと圭は直感でゾロ目に乗ってきたのが紗耶香と分かった。そして、その事をあざ笑うかの様に笑みを浮かべながら言った。
「この間の・・・なるほど、そうだった訳? さっさと始めましょ! 言っておくけど、わたしは同じ相手には2度も負けないからね!」
「同じ相手・・・?そうか!分かったぞ!」
ぴーは圭の発言を聞いて何となく黒が紗耶香をここに派遣した理由が分かった。
「いいよ、バトルに勝ったときは、そのお願いとやらを聞くよ。まあ、可能な範囲って言う条件付きにはなるけどね。(でも、個人的には市井ちゃんの「あの」頼みは不可能にはいるけど・・・) よし時間だ!バトルのしきり直し!みんな!持ち場に着いてくれ!」
ぴーのかけ声で再び持ち場についたメンバー達は各自所定のコーナーに散っていった。その状況を見た紗耶香と圭も各々の車に乗り込みアクセルを踏み込みエンジンを回し始めた。
「あの人・・・この間ここで出会った車を運転してたんだ。あの時は前に出れたけど、今回はどうだろう?まともにやって勝てるかな?いや、勝たなきゃ!」
紗耶香はアクセルを煽りながら呟いていると、外からのたくのカウントダウンが聞こえてきた。
-ブァアアアアン-
「よし、カウント入るぞ!5,4,3,2,1,ゴー!!」
-ドキャキャキキキキッー
2台は後輪を滑らせながら(バーンアウト)を派手に決めると一斉に西六甲下りの入り口に飛び込んでいった。
「すっげ〜、市井ちゃん。14のスタートダッシュとほぼ互角だ。オレなんかが走るよりもよっぽどマシだ・・・」
はーりーは飛び出していった紗耶香のゾロ目を目の当たりにして驚愕した。スタートはほぼ互角だった紗耶香だったが、スタート地点から一つ目の右コーナーの手前に来ると14とのエンジン性能差で圭に前を取られてしまった。
「マシンの性能だけでちぎるのも不本意だけど、これは勝負だからね。」
-ブォオオオオオオオ、パシュッ!-
圭はアクセルを踏み込んでそのまま一つ目の右コーナーを曲がっていった。 圭の14から約50メートル弱、紗耶香はそこに着けながら圭のコーナーリングを伺った。
「さすがに出来る! って、いうか・・・もしかしてわたしより上手いかも?」
-ギュキキキキキキィキキキッ-
紗耶香もアクセルを踏み込みアウトからインへと飛び込んだ。2台はその体勢のまま僅かな直線を挟んだ複合コーナーが続く、圭はヒールトゥを駆使しながら鮮やかなドリフトでその一つ一つを交わしていく。コーナーを抜けるごとに大きなスキール音が周囲にこだまする。やがてコーナーの終わりを示し、スタート地点から程無い場所にある三国池の手前、「六甲70」の看板を過ぎた辺りで彼女はバックミラーを覗いてみた。
「FF(前輪駆動)でNAのゾロ目じゃ、コーナー脱出速度はそんなに上がらないはず。このまま突き放すよ!」
S14のスピードメーターは100〜110キロ辺りを指し、ブーストメーターも1.0を指していた、それを見ると圭は一気に減速。
-ブォーン、バゴッー
エンジンブレーキで回転数が急激に上がりそこからアクセルをから回しにさせギアを入れると大きなバックファイアが周囲に響き渡る!そしてそれらの動作で車の加重を前に移すと、その急な加重移動に任せながらステアリングを切る!S14シルビアは大きくリアを振るが、圭はそれを上手くコントロールして六甲70区間の入り口に入っていく。
-ギュキキキキキ-
それを見ていたオフィシャル役のベイウインズのメンバーは慌ててぴーに携帯電話で連絡をした。
「こ、こちら三国池前です。S14のかっ飛んだドリフトについでゾロ目も食い付いて行っています!正直2台ともシャレにならないコーナリングです!」
「分かった・・・」
ぴーは驚きながらも電話を切ると、改めて圭の実力を思い知らされたが、それ以上に、そんなぶっ飛んだ圭の走りに食らい付いている紗耶香のドライビングテクニックにも驚かざるを得なかった・・・
「はやい? これはちょっとマジにならないといけないみたいね!」
-ブァアアアアアアアアアアアアア-
今まで少し余裕を持った感じで走っていた紗耶香だが、圭が操るS14のターボでコーナー後のストレートで引き離される所を考えると、うかうかしては勝負の仕掛けタイミングを失ってしまうと感じ、今までテストで西六甲を走っていたとき以上にアクセルを踏み込み、タイヤを限界まで引っ張った。
-キッ、キッ、キッ-
「えっ、なにこれ?グリップのままでも結構曲がる?デフが効いているの・・・?」
加重移動によるリアの振りを利用してドリフトを繰り出す圭に対して紗耶香のゾロ目はFFレイアウトの為、同じ様なドリフトはそうそう出来ない。FRの様な派手なドリフトを繰り出した場合、あまりにもタイヤの消耗が激しくなるからだ。紗耶香としてはまだ下りの半分も終えていないこの区間ではなるだけグリップでタイムを稼いで圭との距離を縮めておきたい所であった。2台は六甲山牧場の入り口と、植物公園の入り口までを知らせる道路標識の下を駆け抜けて摩耶山との分岐近くにある牧場バス停前に向かって行く!
「なあ、ぴー君。あの111レビンはFFレイアウトのままだよなぁ?あれってドリフトが出来ない分、不利なんやない?」
のたくは頂上バス停で下を見て突っ立っているぴーにこの勝負、紗耶香が不利なのでは無いかと思い、車のレイアウトの違いについて聞いてみた。
「そら、見た目はドリフトの方が派手やから、凄そうに見えるけど、実際は違う。グリップで上手い具合に走らせた方が逆にライン取りは上手くできるし、タイヤの消耗も最小限に抑えられる融通も利く。ドリだけが全てじゃない・・・」
西六甲に青のゾロ目と白の14・・・それぞれのエキゾーストとスキール音がこだまする中で、圭のS14を先頭に紗耶香のレビンが西六甲の中間地点とも言える牧場入り口付近のセクションへと向かって行く。ぴー達はこれから先、思ってもないバトルの展開が待っていることを今はまだ知らなかった・・・