六甲山、「六甲70」の看板を突き抜け紗耶香のゾロ目と圭の14はスタート時とポジションは変わら無かった。圭はこの後の牧場前区間に出てくる2連直角コーナーで紗耶香との距離を更に開けようと考え、ドリフト体勢に入るためにアクセルを床まで踏みつけ14SR20DETターボエンジンを唸らせた!
-ブォオオオオオオオァ!-
「レッドゾーン手前のレブ当てで急なエンブレ(エンジンブレーキ)を掛ければ一気にドリフトで流していけるかも!」
そう言うと圭は2連直角の初めの右コーナー手前で5速から、ニュートラルに戻し、ヒールトゥでアクセルを6千回転近くまで煽るといきなり2速にギアを落とした。車に掛かる急激な加重移動と、フロントにかかるGが圭を襲う。
-ブゥーン-
「(ここまでの領域がめい一杯!)」
前方からのGを感じると圭はそのままブレーキを踏み込み、ステアリングを右に大きく切った。彼女のアクションと共に14シルビアのリアも傾く!圭はそのままシルビアを傾けたまま六甲山荘の看板前を突き抜けた!
-ドギャギャギャギャギャァ-
「うわ〜っ、一気にいったなぁ・・・」
紗耶香は前を行く14のドリフトに感心しながらも、自身もそれまでAE111 BZ-Rの6速からニュートラルに戻して、アクセルを煽って3速に落とした。紗耶香自身は減速を最小限に抑えるために低速域まではあまりギアを落としたくは無かった。圭の14ターボと違い、NAのゾロ目は一度車速を落とすと、そこからの立ち上がりがどうしても不利になる。加えて、先行する車がいる以上はこれ以上差を開かせると抜けるポイントで抜けなくなるからだ。
紗耶香は2連直角の入り口コーナーを曲がってゆく車に対して、アクセルはそのまま踏み込んだままで左足でブレーキをコントロールしながら一つ目の直角コーナー手前のRの大きいコーナーを立ち上がり、そこからヒールアンドトゥでギアとスピードを少し抑えながら山荘の看板がある一つ目の直角を抜けていった。圭の14ほどでは無いが、リアをやや振りながら、次の左直角コーナーまでの僅かなストレートに入ってゆく。
「やるじゃん!こうもつきまとわれるとは・・・!?」
圭はバックミラーに見える紗耶香のゾロ目を確認すると、第一直角を抜けた後の、バランスが不安定な車をそのままヒールトゥを駆使しながら、僅かにあるストーレートから今度は逆方向に14を滑らせ始めた。
-ギャァアァアッ-
「う、突っ込んでくるぞ!逃げろ!」
次の直角コーナーは性格にはT字路になっている。西六甲を下る際はそのまま右のタイトな直角コーナーになるが、ここから左に曲がると摩耶山に抜ける。中間地点にあたるこの付近でギャラリーする者の多くは摩耶山に抜ける車道側に車を置いてこの2連直角のラストを飾る牧場のバス停付近に陣取っていたが、圭のドリフトに次ぐドリフトと言うアクションに驚き、その速さからこちらに突っ込んでくると思ったギャラリーの一部は圭のシルビアが迫ってくると思わず身を避けるようにその場から逃げ出した。
「連続ドリフト?しかも逆ドリフト・・・あの女性(ひと)かなり出来る!」
紗耶香は目の前を行く14の鮮やかでかつ、派手なドリフトに一瞬目を奪われながらも、ステアリングから伝わる微妙な振動から車の状態を察した。
「(ここでは・・・抑えて。がまんよ、がまん!勝負はここではまだ打てない。)」
紗耶香は極力グリップでコーナーに外から内に大きく飛び込み、イン側ガードレールにバンパーを擦る様なコーナーリングで2連直角の最終を立ち上がった。
-バウッ-
紗耶香は一瞬、ガードレールにバンパーを当てた様にも聞こえた音を起てながら、そしてそれをみる者にはバンパーをガードレールにヒットさせたようにも映った鋭い立ち上がりのコーナーリングをして2連直角の最終を抜けて行く!
「S14の保田でガードレールとの間が25センチ位。どんなに上手い走り屋でもその辺りがめい一杯のはず。しかし、あのゾロ目は・・・」
圭の連続ドリフトと、そのスピードに驚いたギャラリーもいた牧場バス停に陣取っていたシカミは目の前を駆け抜けた2台を見て驚きを隠せなかった。圭の連続ドリフトもそうだが、それ以上に紗耶香の限界ラインをも超えるコーナーリングに驚愕せざるを得なかった!
「ゾロ目はまだ、何かを渋っているな・・・牧場入り口から続くコーナー郡では恐らくじりじりと差を詰めていく。勝負は森林植物公園の看板下からだな。ここではまだ手の内を明かさないと言うわけか?」
丸政は吸っていたタバコを足で踏んで火を消すと、遠くなって行くスキールとエンジン音に耳を澄ませながら麓を見渡していた・・・
「くっ、離れない!? なんでFFのゾロ目がここまで食い付いて来るのよ?これってちょっと非常識よっ!」
圭は一向にバックミラーから消えない紗耶香のゾロ目に徐々にいらだちを隠せなくなっていった。
-キュゥイーン!ー
シルビアに積まれたS15型シルビアの流用斜流タービンが激しく、そして高速で回転する。明らかにハイスピードで見る者も圧倒する走りをする圭だったが、何故か一連のエンジンの動きに不満を持ち始めていた。
「今日に限って14が遅く感じる・・・斜流タービンがへたっているの?それともインジェクターが一つ死んでるんじゃないの!?」
スピード自体は圭の14もこの西六甲の常識を越える位に出していた。圭はスピードメーターの針が120付近を指しているのを見ると、その思いこみは間違いだったと認めざるを得なかったが、それ以上に飛ばしていると思える 紗耶香のゾロ目がかえって不気味に思えてきた。
「コーナー進入速度、コーナーをかわす速度は殆ど同じだけど、直線で離される・・・やっぱりあの車、いや、あの人は早い!このあいだは偶然な感じで抜いて前に出れたけど、今日は難しいなぁ・・・でも、勝たなきゃ特別ボーナスもらい損ねるし・・・(嘘ついてもバレそうだしね)」
前を行く14の鮮やかなコーナーリングさばきを見ていた紗耶香はこの区間がもうすぐ終わることを徐々に悟ると、今まで以上に目つきが変わった。そして、2台は森林植物公園を示す看板の下を通過した。
「チャンスがあるとしたらこの先の4連ヘアピンと、そこに行くまでのゴチャゴチャしたコーナーだね!」
-ブワァアァーン-
紗耶香はアクセルを強く踏み込み、それに呼応してゾロ目の4AG-Eが唸る!唸りを上げている4AG-Eをエキマニ(エキゾーストマニホールド)からマフラーを通して高鳴る排気音が攻撃態勢に入った紗耶香を表すかの様に響き渡った。
「もしもし、こちら牧場入り口。」
紗耶香達が後半の低速テクニカルセクションへ突入しようとした頃、ぴーの元に牧場入り口周辺に立っていたメンバーから電話が入った。ぴーは用件は何かと聞くとメンバーは、
「2台とも凄い突っ込みです!いままでの西六甲で最速タイムですよ!ろ、六秒更新です!」
「な、何だって!(なんて事だ、あの二人・・・もう次元が違うよ)」
ぴーはそのまま黙って携帯を切ると、バス停から見える夜景を見ながら、この勝負の行方を案じた。もう彼にとっては自分たちのプライドとか、地元の意地とかよりもこの伝説的な下りのバトルにただ驚き、勝敗のことよりもただ紗耶香が無事に麓まで降りれば良いと思っていた。
「いよいよ最初のヘアピンエリアね!」
-ギャゴァアァアァ-
圭は14のテールを滑らせるとそのままドリフトで4連入り口のコーナーに突入した。紗耶香は圭が先行逃げ切りに徹したと思うと自らは少し強引な突っ込みに出た。アウトからインへと切り込み遠心力で外へ外へと振られていくゾロ目に対して紗耶香は言った。
「今!」
-ギィッ-
紗耶香はここぞとばかりにサイドブレーキを力一杯に引いた。
-ギュゥイッツッツッ-
後輪のブレーキローターが急激な減速とHSWが仕込んだ強力なブレーキキャリバーがブレーキパッドを押しローターを締め付ける。
-グオォゴォゴォッ-
ローターの温度が急激に高まり、ギャラリーをしている者達にはリアのホイールが真っ赤に燃えたようにも映った。
-ゴァカギャギャギャッ-
ゾロ目は急激な後輪ブレーキでリアを傾けだした。紗耶香は運転しながらも、その感じを察するとステアリングを大きくイン側に回して自らもドリフトを仕掛けた!圭の14とまるでパラレル(ツイン)ドリフトをするようにぴったりと並んだ。紗耶香は滑らせても尚、コーナーのガードレール一杯にゾロ目を寄せた。2台は並んだまま一つ目のヘアピンを抜け、2つ目のコーナーへと立ち上がる。もうこの時点での2台の差は殆ど無い!
-ドォギャアアアア-
「なっ、なんなのよ・・・FFごときにここまでやられるなんて!」
圭はアクセルを踏み回転数をターボが掛かる領域まで高めると、イン側をあまり開けずに走り、バックミラーを覗いた。
「これ以上はインを開けないよ!」
2コーナー目は圭がインを閉めて突入しようとしたため、紗耶香は初めのコーナーの様に内側めい一杯には入ることが出来なかった。仕方無しに紗耶香はアウトへ出たが、インを閉めることによって完全な守勢を見せた圭に対してアウト側から揺さぶりに入った。アウトからイン側へ軽く顔を覗かす。
「くっ、インを狙ってる?させないっ!」
-ギャアァアアァア-
そのまま2台はまたドリフトで並びながら2コーナー目を抜けてゆく。立ち上がるとすぐに紗耶香はアウト側から14にならんだ。圭は真横に来たゾロ目を目の当たりにしながら、叫んだ!
「なめるんじゃないよっ! 外からは行かせない!」
-キュィキィキキィ-
圭はアクセルを踏み込み強引にアウト側、紗耶香の真ん前に出てきた、紗耶香は冷静さを失しない挙動が乱れてきた14の動きを見ると、少しだけ減速をして圭の真後ろに着いた。
「インを閉めすぎるとアウトに出る、ならば車がギリギリ入らないくらいまでインを閉めて回ればこっちも抜かれない!コーナー立ち上がりの2〜3速はこちらが断然早いもの。」
圭はそう言うと、ゾロ目がギリギリ入って来れない位にインを開けて3つ目のコーナー入り口手前に14を着けようとした。紗耶香は圭の動きを冷静に伺いながらゾロ目を今よりもややアウト寄りによせてコーナー入り口手前に着いた。
「よし、インには来れない!」
圭はそのままドリフトに入ると今までとは違う車の挙動に襲われた。西六甲を下りきる前にタイヤのグリップが低下したためである。アンダーステアに取られ思うようにマシンをイン側に寄せられない。しかし、彼女の中では自分もこういう状況ならば紗耶香も同じ状況にさらされていると思い、まさかインには来ないだろうと読んでいた。しかし・・・
「勝機!これはゆずらないっ!!」
紗耶香は14とゾロ目の2台が3個目のヘアピンに差し掛かろうかと言う地点で大きくイン側にステアを切って14の内側に飛び込んだ。そのままサイドブレーキを使ったドリフトでゾロ目を滑らせると、そのまま左足でフロントブレーキを利かせながら車のアンダーステアを微調整し、コーナーを回り始めた。圭はまたバックミラーを確認した。
「な、なんで?ゾロ目は・・・?」
-キュウワァワァッ-
圭は慌ててイン側を見た。すでに紗耶香はイン側一杯にゾロ目を寄せてドリフトを始めていた。圭は一瞬慌てたが、このコーナーを立ち上がった時点でターボパワーに物を言わせれば再び紗耶香の前に出られると確信して、ひとまずアウト側からこれ以上ヘタにブロックに回ることはよしておいた。2台はゾロ目がやや14より前に出た形で四連ヘアピン3つ目のヘアピンを立ち上がろうとしていた。圭はここからならばと思い、アクセルを踏みブーストを高める。彼女の計算上ではここからのターボパワーで紗耶香の前に出られる筈だった。しかし、その考えはあくまでタイヤがまともな状態であればの話だった・・・コーナーを曲がりきろうかと言う地点でS14シルビアのタイヤがグリップの限界を超えて大きくスピンをした。
「くっ!」
-ギャアアアア-
完全な計算違いだった!圭は上手い具合にステアリングを切って、紗耶香のゾロ目とガードレールを避けるようにスピンをして交わした。大きなスキール音とタイヤから出る白煙を上げながらもなんとか、3コーナーの道の真ん中に車を止めた。紗耶香はそのまま圭のS14を構うことなく抜いていき、そのまま ぴーが以前バトルして事故ったコーナーと最終を抜けて森林植物公園入り口まで駆け抜けていった。
「わたしが負けた?FFのゾロ目に・・・?」
圭はそう言うと車を降りた。そして運転席側のドア窓枠を掴みながら悔しそうに言った。
「しかも、2度も! 私は悪い夢の続きでも見ているの?」
植物公園入り口バス停で待ちかまえていたベイウインズのメンバーは紗耶香の青いゾロ目が4AG-E独特のサウンドを高鳴らせながら迫ってくるとストップウォッチを片手に携帯電話からぴーに連絡をした、その場を紗耶香が通過したと同時にタイムは計測されたが、これがとんでもないタイムだった・・・
「なっ、なんだって!? わ、分かった・・・」
ぴーはタイムを聞いて驚愕した。彼らが今まで最速だと思っていたタイムを大幅に更新。それを知ったぴーは鳥肌が立った。
「す、凄すぎる・・・(ハァハァって言うようなレベルやないで!)」
頂上は紗耶香の勝利に色めき立つと同時に、その走りにみな驚きを隠せなかった。
「な、なあ、ぴー君、このまま市井ちゃんにもベイウインズに入って貰おうって!だったら東も目じゃないよ!!」
のたくは目に歓喜の涙を浮かべながらぴーに言った。ぴーはそれに答えて言った。
「なに泣いてるんや! そ、そうだな、彼女にこの六甲の攻め方を色々と伝授して貰おうって。なんならあのゾロ目に勝手にうちのステッカーを貼ってしまえ!」
ぴーは笑いながらのたくに突っ込むと、紗耶香を勝手にチームに入れてしまおうなどと口走っていた。
「じゃあ、その貼る役は自分がやります!」
はーりーも笑いながらぴーに答えた。牧場入り口まで歩いて下った丸政とシカミはそれぞれの車に乗り込みエンジンを掛けた。
「FFの常識、いや、限界を超える走りをあんな形で・・・しかも西で見るとは・・・あのゾロ目興味がある。」
-ボァアアアアン、ボァアアアアン、ギュキャッ!、ボァアアアアア!!-
ライトを付け2〜3回アクセルを煽るとそのままホイルスピンさせながら丸政は西六甲を下っていった。シカミもそれについて行く形で後にした。
「あのゾロ目はセオリー通りにはいかない・・・理論を無視した乗り方は異常とも言える。けど、この西コースを知っているような正確なコーナーリング。あれは車以上に乗っている奴がモンスターだっ!」
-バァアアアアア-
シカミはそう言うと先に下って行く丸政に追いつく為にドリフトでコーナーを抜けていった。
「やってくれるぜ・・・あんな野郎が六甲に居たとはな!?」
ヒメヨはそう漏らしながらしばらくその場で紗耶香の走りに呆然としながらその場に突っ立っていた・・・
一つのバトルが新たな挑戦者との接点を産んだ。こうして六甲の暑く、そしてさらにヒートアップして行こうとしている夏の夜は始まった。