7月も残すところあと一週間となろうとしている第三土曜日、この日はいよいよ六甲東西交流戦まで残すところ一週間を切ると言うこともあり、東西のメンバーそれぞれでフリー走行をする日となっていた。GSではいつもの様にベイウインズの面々がピットを使ってマシンのセットアップに掛かっていた。しかし、今回はいつもと何かが違っていた。
-がちゃ、ガチャガチャ-

「おっ、やってますねぇ?」

のたくが車検から戻ってきた180SXのタイヤを交換している現場を覗いていたはーりーに紗耶香はひょっこりといつもの様に現れて、のたくの作業を見守るはーりーに声を掛けた。

「まあ、一応、今日からいよいよ交流戦だからね!さすがに今回ばかりは自分たちも逃げるわけには行かないからね!やるときゃやるさっ!オレだって!」

はーりーは自分のFCを指すと得意げに紗耶香に言ってみた。紗耶香はえらく気合いの入ったはーりー達を見ながらも、何かいつもと違うことに気がついた。

「あれっ、そう言えば・・・ぴーさんは?」

はーりーは少し下を向いて黙ると、紗耶香にぴーの事を話し始めた。

「どうも最近へこんでるみたいで・・・ここにも顔を出さなくなったし・・・車も交流戦に間に合うかどうか分からないし、間に合っても走れるかどうか分からないって事で少しいじけているのと、あと・・・」
「圭ちゃんとの折り合い?」
「まあね・・・他のメンバーはそうでもなかったし、オレも最初はヤな女って思ったけど、走りとか見ているとやっぱ凄いよ、彼女は。まあ、根はいいやつってのも多少は分かったしね。」

紗耶香はぴーが未だに圭に対するわだかまりを払拭できていないことに、ちょっと考えざるを得なかったが、いずれにせよ交流戦を前にリーダーがいなくなるのもまずいのでは無いかと言うことをはーりーに話すと梨華の元へ近づいた。

「ねえ、これから時間ある?」

梨華は仕事の手をいったん止めてから紗耶香に答えた。

「あっ、大丈夫ですよ。」

紗耶香は梨華のオプティーを指さすと、そのまま言った

「じゃあさぁ・・・ちょっとまた(家の)近くまで乗せてよ?」

紗耶香はそう言うと梨華達の仕事が終わるまでただ待つのも悪いだろうと事務所の掃除を始めた。

「ほ〜う、アライメントがくるっているなぁ。」

みちゅうははーりーの背後からいきなり現れると嬉しそうにはーりーに言った。どうやら今日は「出」が良かったそうでなにやら気分が乗っている様だった。アライメント。正式にはホイールアライメントとも呼ばれるが、これは人間に例えるならば整体みたいなもので、新車時にはメーカーでこのアライメントの適正値を取ってあるのだが、徐々に「ズレ」が生じてくる。例えば、車高を下げ、純正よりも大きなホイールを入れたり。走行中に前後いずれかのタイヤを縁石や路上の穴などに落としてヒットさせたりなどが主なズレの原因になる。これがちゃんとしていないと車はまっすぐ走る事が出来ないばかりか、曲がらない、無駄なロスによっ燃費が悪化、タイヤの溝(トレッド)の変摩耗など、百害あって一利無しな状態になり、安全面に置いても極めて危険な状態になる。当然の事ながらレースをする際でも、峠を攻める際でもこのアライメントのセッティングが適正通り取れているか否かでコーナースピードに差が生じてくる為、地味ながらも重要なセッティング項目に入ってくるのである。

「ちょっ、ちょっと、いきなり脅かさないでくださいよ! そう言うのってちょっと苦手なんですよ・・・」

はーりーは店長の不意打ちを食らってそうとうビビってまった。みちゅうはFC3を見ながらタバコを取り出し。それに火をつけると、はーりーに言った。

「今度はどうなんだ? なんでも聞くところによると今回はサーキットとかでも鍛えている走り屋集団って言うよりもセミプロの集まり見たいな連中と走るらしいね。」

はーりーはタバコを吸うみちゅうを見ながら、GS構内にある「火気厳禁。禁煙です!」と書かれている看板にちらちらと目をやりながら答えた。

「ですね。まあ今日はバトル目的って訳ではないので多少は気が楽ですけど、彼らについていけるかどうか・・・(あ、あの、構内は禁煙ですけど・・・)」

 その頃、ぴーは一人、K市のM海浜公園の芝生に寝転がってぼーと港を眺めていた・・・ちょっとカップルが多くなってきたのでタダでさえ晴れない気持ちに追い打ちを掛けるような展開に余計に嫌な気分になった。

「ここにいたんですかぁ?」

ぴーは不意にどこかで聴いたことのある声を聞いて起きあがり、声がした方に体を向けた。

「君は確かHSWの・・・加護ちゃん?」
「へへっ、偶然ですね。」

亜依は笑いながら答えると、ぴーはこの時間の彼女は仕事なのでは無いかと思いつつ亜依になんでここに来たかを聞いてみた。

「あれっ、今日は仕事じゃぁ・・・? どうしたん?海でも見に来たん?」

亜依はぴーの横に腰を下ろすと溜息をついて言った。

「それは加護だってストレスも溜まれば、ブルーになりますよぉ・・・バイトって言っても大変な仕事ですから・・・」
「ま、まあ、あの中でやっていくのも大変だよね・・・」
どうも亜依も少しお疲れな気分の様で、彼女は港の方を見つめて黄昏モード(?)に入っていた。亜依は港の方を見ながらぴーに言った。
「そう言えば、車は来週の金曜には仕上がるって黒さん言っていましたよぉ!でも最近ぴーさんを見かけないから市井さんもGSの店長さんもみんな心配していますよ・・・」

ぴーは車の復活予定日を聞くとちょっと嬉しかったが、その後に亜依に言われたことを聞くとちょっと考え込んだ。

「ぴーさんがいないとみんな心配なんですよ・・・だから戻って下さいね。加護は車を壊すけど、頼りない二人(?)にツッコミを入れて六甲の山を走るぴーさんは十分に速いと思うし、頑張っているって思いますよ。加護は頑張っているって言うか頑張れている物が無いからダメだけど・・・ぴーさんはそれがあるんだから頑張らなきゃぁ!」

亜依はそう言うと立ち上がって大きく息を吸い込んで、吐き出した。ぴーは亜依の言うことも最もだなと思うと自分も立ち上がり亜依の肩を軽く叩いて言った。

「何、言ってるんや。(車を壊すってのは余計だけど・・・)君だってバイト頑張ってるやんか。それに・・・頑張る物が無いって言うんやったら捜せば良いだけさっ。ありがとう、少し気持ちが楽になったよ。車、金曜日に取りに行くから。よろしく!」

-キキキキッ、ブォオオオオン-
ぴーはそう言って亜依に軽く手を振ると、植え込みの隅に置いていた原付に乗りヘルメットを被りスターターでエンジンを掛けると、そのまま公園を後にした。
それから約一時間後、梨華のオプティーに同乗した紗耶香は窓越しから街を眺めながら梨華に話しかけた。

「そう言えば、いつもはのたくさん達が働かないで車ばっかいじっているのを注意していたのに、今日は珍しく怒っていなかったね・・・」

梨華はバックミラーで後方を少し確認すると、一瞬だけ紗耶香を見て正面に向き、返事をした。

「えっ、あっ、そうですかぁ? 注意はしましたよ。」
「ふ〜ん・・・いや、何か元気が無いのかなぁって心配になったからさぁ。でも、あの2人も今のところ山を走るくらいしか楽しみは無さそうだからあまりきつく言うのもちょっとだと思うけどね・・・あっ、でも仕事中に車を触るのはいけないだろうけど。」

彼女たちはそのまま六甲の入り口を通過してK市郊外の住宅地に向けて少し混雑した国道を走っていき、少し大きい交差点を右折レーンに入って反対車線の車の流れが途切れるのを待った。何台かの車が行き交うと、梨華は見覚えのある車が間の前を通り過ぎていったのに気がついた。
- バァアアアアアアン-

「あれは・・・あの時の?」

シカミのSXE10を先頭にサザンクロスのメンバーとおぼしき3台の車が六甲方面に向けて走っていった。紗耶香は通り過ぎていった車達を見ながら今夜も何か山で一悶着ありそうな気配を感じていた。
「今夜の六甲はまた一悶着ありそうね・・・(まあ、今日はバイトも無いし関係ないか)」

梨華は車の流れが途切れるとそのままアクセルを踏み込んで交差点を右折し、そのまま紗耶香と食事をとるためにK市郊外、筑紫が丘のファミレスへと向かった。

「確かこの辺りだったと思う・・・あれか?」

-ブァアアアアン、キキィッ-
シカミ達はそのままベイウインズが屯(たむろ)するGSを発見すると、車の下回りを注意しながらGSに入っていった。彼らは車を店に入れると、運転席から降りた。店はすでに閉店したばっかりだったが、いきなりの来客にのたく、はーりーの二人は慌てて今日の営業の終了を伝えに入ってきた車の元に近づいた。

「申し訳ないですけど、今日はもう終わりなんですよ・・・」

はーりーはシカミ達に近づいてそう言うと、入ってきた3台の車に貼ってあるサザンクロスのステッカーを見て驚いた。

「いや、ガソリンはいい。オレらはベイウインズのメンバーに会いに来ただけだから。誰か(ベイウインズの)関係者はいない?」

はーりーは自分より後に来たのたくと顔を一瞬合わせると、自分たちが関係者である事を伝えた。

「そうか、だったら話は早い。これはこっちの勝手な頼みになるが、来週の土曜は是非ともこの間のゾロ目を呼んできて貰いたい。」

のたく達は正直返答に迷った。前回はなりゆきで紗耶香が走ってくれたが、今回は特に走って貰う理由も無いし、彼女はベイウインズのメンバーでは無いからだ。あまり勝手な事を言うと後々まずいだろうと思ったのたくは取りあえず後日返答をするとシカミに伝えた。

「とにかく、彼女はうちのメンバーというわけでは無いので・・・そこがちょっとややこしいんだけど、まあ、伝えるだけ伝えておくよ。」
「分かった。返事は・・・来週の六甲に来るか来ないかで判断しよう。勝負はダウンヒルのみということで頼む!」

-ガチャッ-
そう言うとシカミはSXE10に乗り込みGSを後にしようとした・・・

「まってくれ、ついでにと言うのも何だけど、ベイウインズには14がいるって聞いたが、そいつと勝負させて貰えないか?」

シカミのSXE10の後ろに止まっていたシルビアS14前期型から降りてきたサザンクロスのメンバーはのたくとはーりーに言った。思わぬメンバーの行動にシカミは驚きながらも彼を制するように言った。

「貴さん、S14シルビアっても向こうの14は後期型ですよ・・・」
「だから勝負したい・・・S14同士というのもあるけど、オレだってサザンクロスじゃそこそこやりますよ!」

貴はシカミにそう言うと、S14シルビアに乗り込み扉を閉めた。のたくたちは思わぬ展開と、急な挑戦に少し動揺しながらも、サザンクロスの要求をのむべきか否かを考えていた。

「とりあえず、この件については・・・またと言うことにしよう。今夜は西をじっくりと走らせてもらう。」

-ブァアアン、ブァアアアン、キキッ、バァアアアアアア-
シカミはそう窓越しからのたくとはーりーに告げるとアクセルを軽くふかしてアルテッツァを走らせた。シカミがGSを後にしたのを伺って後ろにいた貴と他のサザンクロスのメンバーは続いてGSを後にした。

「くそっ、好き勝手に言いやがって!俺達は受付係じゃないんだっていうの!」
「これはオレ達もうかうかできへんな、早いところ仕事切り上げて山へ行こう!いくら向こうがレース経験者でメンバーを固めても、こっちはホームグラウンドで向こうを出迎えるんや・・・意地をみせなぁ。(特に来週は・・・)」

はーりーはそう言うとGSの事務所奥にあるロッカーへと走って向かった。のたくもはーりーを追うように店の照明を落とすと、ロッカーへと向かった。

-ブォオオオオン-
-バァアアアアアアアア-

- ボォアアアアアアア-


「おおっ!?何か今日はやたらそれらしき車が多く六甲に向かって行きますね。」

BDはHSWの前にある道路を行く数台の「それらしき車」を見てやや興奮気味に黒に言った。

「ベイウインズの連中が格上挑戦らしい・・・」
「格上?そんなに今回のぴー君らの相手は強いんですか?」

黒はタバコを取り出し火をつけると、タバコを浅く口にくわえたままでBDの問いかけに答えた。

「まあ、例えるなら漁船とエンタープライズが闘うようなものだって・・・」
「エンタープライズ!?」
「ちょっと、適当に相づち打ってないか・・・?」

黒は適当に驚いている様な感じをBDから受けたので、エンタープライズの意味をついでに突っ込んでみた。彼の思惑通りBDはエンタープライズを分かっていなかった。

「えっ、あっ、あの・・・知りません。」
「(やれやれ)アメリカ海軍の大型原子力空母だよ・・・まあ、車で例えるなら軽自動車とポルシェがバトルするようなもんだ。」

BDは車の例えとなるとどうやら話を飲み込んだようで、今度は心から相づちを打った。

「ここの道みたいな平坦な所とかサーキットだったらまだしも、峠だったら・・・?六甲ならば軽自動車でもポルシェやBMみたいな外車や32Rにも勝てるんじゃないんですか・・・?」

黒はダバコをある程度吸うと、そのままタバコを足下に落として火を靴で踏み消し、BDに言った。

「みちゅうさん・・・いや、GSの店長だったら軽自動車でも外車は目じゃないな?オレだといい勝負かも・・・(かなり際どいかな?)」
「市井ちゃんだったら・・・?」

BDはついでだからと思って紗耶香のケースも聞いてみた。黒は少し考えたように夜空を見ていた・・・

「相手次第だろうな・・・」

そうBDに言い残すと黒はガレージへと消えていった。