紗耶香は梨華と共に夕食をファミレスで取ると梨華の勧めと、彼女の独断ドライブで表六甲有料道路から梨華のお気に入り夜景スポットである鉢巻展望台に来ていた。

「さすがに軽自動車じゃ登りは辛いね・・・。」

紗耶香は表六甲9コーナー地点にある駐車場からK市の中心部を柵にすがりながら梨華に言った。

「そうですかぁ?そんなに気にしたこと無いですけど・・・」
「ま、まあ、石川は低速で走るいたって安全なドライバーだからね・・・」

紗耶香は少し苦笑しながら梨華に返事をした。
-ブゥウウウウッ、キキッ-

「ん?おやおや、こんな所によくもまあ軽自動車で登ってきたなあ・・・?」

紗耶香と梨華がこの場所に到着する前に来ていたちょっと馬鹿そうにも見えるだろうアベックはワザと紗耶香達に聞こえるように皮肉を口走りながら、駐車場に止めてある梨華のオプティーに近づいてきた。

「やれやれ、こんな所で軽自動車をからかうのも何だし、そろそろ東西六甲戦のフリーランも始まるだろうからとっとと西から明石に抜けるか・・・ひろみ、行くぞ!」

-ドンッ-
男はそう言うと梨華の車のホイールに軽く蹴りを入れると、梨華のオプティー後方に止めた32GT-Rに乗り込みエンジンを回し、アクセルを煽り始めた。ツインターボ独特のけたたましいエキゾーストに酔いしれるように男はアクセルをしばらく煽る。
-ボァアアアン、ブォアアアアン、ボヴォアアアアア-

「ちょ、ちょっと、まってよケン!」

ひろみと呼ばれた女は慌てて32に掛けより助手席に乗り込んだ。ケンと呼ばれた男はウインドーを下ろすと紗耶香と梨華に言った。

「まっ、せいぜい原チャリに煽られないようにしてくれや!」

-ギュキキキッ、ボォアアアアアアア-
捨て台詞と唾を吐くと男はGT-Rを方向転換させると、西六甲に向けて頂上を目指した。梨華はオプティーに駆け寄ると男が蹴りを入れたホイールを撫でるようにして、落ち込んだ口調で紗耶香に言った。

「軽自動車ってそんなに迷惑な車なんですかぁ・・・?この車だって可愛いだけじゃないのに。」

紗耶香は今にも涙ぐみそうな声で話しかける梨華を少しだけ見つめると、梨華の車をけなしたGT-Rの走り去ってゆくテールランプを見て「キレ」た!

「あのバカップル!頭に来た!ちょっとこの車のカギを貸して!早く!」
「えっ?」
「いいから、早く!」
「は、はい!」

梨華は紗耶香の気迫に圧倒されてしまい、カギを差し出した。紗耶香はそれを受け取ると梨華のオプティーに乗り込みエンジンを始動させた。
-キキキキキッ、ブゥウウウウン-

「乗って!」
「えっ、あ、はい!」

梨華は言われたとおり助手席に乗り込むとシートベルトを締めた。

「ちょっとだけ怖い思いをするかも知れないけど・・・絶対にぶつけたりしないから。我慢して!」
「えっ、一体何を・・・きゃっ!」

-キッ〜ッキ、ブゥウウウウウウ-
紗耶香はバックで急発進して向きを変えると、ギアをLにしてアクセルを踏み込んだ!オプティーは静かにエキゾーストを響かせ頂上に向かった。

-ボォオオオオオッ-
「おおっ、ちょくちょくと車が来ているな?面白そうだけど、オレ達はこれから・・・ね?」
「もう、ケンったら・・・何いってんのよっ?やらしいなぁ!」

GT-Rのカップルは六甲70のコーナーを抜けて西六甲の下りに入った。すでに西の頂上地点にはベイウインズとサザンクロスのメンバーが徐々にではあるが集い始めていた。GTムRが六甲70から続く中速セクションに入り、三国池バス停を過ぎた時、R32のカップルは後ろから迫るハイビームに少しづつプレッシャーを感じ始めていた。

「ん、なんだ?まだ、走り屋共が走る時間じゃないだろう?」

紗耶香はGT-Rのテールが見えてくるとハイビームのまま32R(GT-R)に向かってパッシングを始めた!

「あのアホ達、一泡吹かせてあげるからね!」

-ブゥウウウウウウォ-
さらにアクセルを踏み込みオプティーのスピードを上げる紗耶香を見て初めは恐怖を覚えていた梨華だが、いつもとは違う紗耶香の表情を助手席から見ると、その内に、特に根拠はないが、紗耶香ならば事故る事はないのでは無いかと思い始めていた。

「くっ、一体どこのアホなんだ!32Rなんかに煽りをくれるなんて・・・ふっ、上等じゃないか・・・RB26ツインターボについてこれるわきゃねぇぜ!」

32Rは中速コーナーをパワーとGT-R最大の武器であるアテーサETC4輪駆動システムに物を言わせ紗耶香達を引き離した!GT-RはFRベースの4WDだが、アテーサシステムは通常の4WDとは違い状況に応じて馬力の配分(トラクション)を振り分けるので、4WDとFRの利点ばかりを取り入れた反則的なマシンである。尚、このシステムの制御は全てコンピューターが自動で判断し、路面状況に依る車の姿勢制御とパワーの配分を上手く振り分ける為に圧倒的な戦闘力を持った車である。国産乗用車最強の位置にいる車である由縁はこのシステムに有ると言っても過言では無いだろう。

「段々引き離されますよぉ・・・?」

紗耶香の運転にも慣れてきた梨華はGT-Rの強烈な逃げ切りを目の当たりにしながら紗耶香に言った。

「(えっ、もしかして、もうこの状況に慣れたの?もっと絶叫するかと思ったけど・・・)分かってる!でもね、まだ先は長いんだよ・・・」

確かにこの辺りの中速コーナーと直線を挟んだセクションでは圧倒的にGT-Rの方が有利である。しかし、紗耶香には前を行くGT-Rのコーナーリング、ペース配分を見ながらRに乗ったバカップルの走りは単にエンジンパワーに物を言わせた素人以下の走りなのは彼らの走行リズムで察知していた。

「(アンダーステアが出てだいぶ膨らんでコーナーを曲がってるね、あの車・・・)だいじょうぶ!あんな奴らには負けない!!この車だって可愛いだけじゃないんだからね!」

紗耶香は直線では離されるが軽自動車ながらも4WDモデルの梨華のオプティーに上手い具合にシンクロしてきた彼女はコーナーを攻めていくが、さすがに牧場周辺の2連直角を含むタイトなコーナーと、なだらかな直線が多いこの区間ではこちらの不利を感じざるを得なかった。

「(ん?やっぱりタイヤの喰いつきと立ち上がりで不利かな・・・この車?変な曲がり方が出来るけど、これって4WD?これはこれで良いけど、オートマだからギアはL〜Dの3つしかないし・・・限界までここで攻めると後が持たない!やっぱり4連まで粘って、そこで仕掛けるしかないかな?)」

-ブゥウウウウウウウ-
2台はやや間隔をを開けたまま牧場の看板をくぐり2連直角へ進入した。この辺でGT-Rはその車体重量から来るアンダーステアに襲われ始め、ドライバーはひたすらブレーキを踏み始めた。そのまま両者お互い苦戦と不利を強いられながら牧場周辺のエリアを過ぎて行く。
-キュキキュキキキキキ-

「くっ、何か知らないけど・・・車が外に行く!」
「そろそろバテて来たみたいね?」

紗耶香はGT-Rがアンダーに苦戦している様にふらつくのを見てこの辺がそろそろ勝負所かと読んだ。

「行くよ!ここから本当に怖い思いをするかも知れないけど・・・」

梨華は軽く紗耶香に頷くとシートベルトを何かに祈るように強く握った。紗耶香はアンダーを無理に殺しながらフラフラに立ち上がって4連ヘアピンに向かうGT-R目掛けてアクセルを一旦戻しきって一気に踏み込んだ!オートマはこうすること(キックダウン)によって通常よりも加速を得ることが出来る。

「げっ、あの車?もしかして・・・さっきの軽自動車じゃないか? う、うわっ!アウトから並んで来やがった!」

-ボォアアアアアアア-
32Rのドライバーは勝負に出てきた紗耶香に徐々に圧倒されながらもしかして後ろの車は表六甲でけなした軽自動車では無いかと疑い始めていたが、運転席側に並んだオプティーを見て、改めて驚いた!

「う、うそだろ!?なんで660が2600ツインターボに並ぶんだよ!?」

-ボオオオオァアアアアアア-

「行くよ!」
「は、はいっ!」

梨華はシートベルトを両手で強く握ると徐々に感じるコーナーのGを感じながら目をつぶってうつむいた。紗耶香はそのままの速度で一つ目のヘアピンにアウトから飛び込むと左足でブレーキングしながらアンダーステアを殺す。

「あっ、さすがに軽いからあまりアンダーがでない・・・だったら一気に頭取るよ!」

-キキッィキキキキキキキッ-
紗耶香はサイドブレーキを中程まで引っ張りリアに加重を掛けてオプティーを傾け、32Rの頭を抑えた、32Rはただでさえアンダーで苦しんでいるのに加えて、素人ドライバーが前半でブレーキを多用したためフロントブレーキが熱ダレ(フェード)気味になり制動力が低下していた。

「だっ、ダメだ・・・ブレーキの効きが何か弱いぞ?」

紗耶香は後退していくRをバックミラーで確認すると、さらに追い打ちを掛けるようにそのまま振り切り、2つ目のヘアピンに入っていった。

「くっ、くそぉ!軽自動車に抜かれたなんて!もう一度前に出てやる!」
「ちょっ、ちょっといくら何でも(スピード)出し過ぎじゃない?」

-ボォアアアアアアアアアア、パシュッ! ボォアアアアア-
32Rに同乗していた女はそう言って運転している彼氏に注意を促したが、男は冷静さを完全に失っていた。

「Rの意地なんだよ!」

-ギュキキキキキキッ-
32Rは急加速をしてコーナーを立ち上がり、そのエンジンパワーで再び紗耶香達のオプティーの前に出た!

「あっ、アホね・・・やっぱバカップル。」

-ブゥウンンン-
紗耶香は32Rに道を開けるかのように減速を始めた。32Rはそんな紗耶香を後目にブローオフバルブのサウンドを響かせながらそのままのスピードでコーナーに突っ込んだが、オーバースピードとフロントに加重が集まる32Rのアンダーステアを抑えることが出来ずに左コーナーの外に外に寄ってゆく!
-ギュキキキキキキャ-

「多分ぴーさんより酷くクラッシュかな・・・?」

紗耶香は他人事のように32Rを見届けるように車を1つ目と2個目のヘアピンの間にある僅かな直線に停車させた。

「えっ、な、なんでだよ! う、うわ〜!」

-ドゴォッ、バキッ、ズササササッ-
アンダーステアに反することが出来なかったGT-Rはそのまま左側の山肌に激しい音を立てながら刺さった。そして運転席側のフェンダーとドア周りを岩肌にぶつけて反動で軽くスピンして止まった。運転席側のサイドミラーが空しく道路のセンターラインに転がる・・・

「あの・・・市井さん?これでいいんですかぁ・・・?」

梨華は目の前で起こったアクシデントを呆然と見ながら紗耶香に言った。

「あれは・・・まあ、向こうのミスだからね。あとは多分のたくさんや圭ちゃんも山頂にはいなかったみたいだから麓にいると思うし、あの人達にケアして貰えば良いよ。多分怪我も大したことないだろうしね。さぁ〜てと帰ろうか?」
「は、はい。(でも、乗っている人たちは「どうなるんですか〜?」ですか・・・)」

-ブゥウウウウウウ-
紗耶香達は32Rの最後(?)を見届けた後、何事もなかったように麓へ下っていった。麓の森林植物園入り口のバス停では紗耶香の予想通りベイウインズのメンバーが集まり始めていて、その場にいたのたくとはーりー、そして圭が32Rの激突音を聞いて話し合っていた。

「のたくさん、聞こえました?何か事故ったみたいですけど・・・」
「なんやろなぁ・・・」
「あれは4連で誰か事故ったんじゃないの・・・ねえ、ちょっと行ってみない?取りあえず・・・FCで!(ロータリーのサウンドって結構良いし)」
「ちょ、ちょっと、オレのFCは燃費悪いんだから止めようよ・・・リッター8とかの車なんだからさぁ・・・」

はーりーはFCの助手席に強引に乗り込もうとした圭を止めるようにして言ったが圭はそのままお構いなしに乗り込みはーりーに運転するように手招きした。

「まじっすか? 勘弁してよ・・・」

はーりーは渋々FCの運転席に向かった。彼らのいる側を何事も無かったように紗耶香は梨華のオプティーを走らせてK市西部へと向かっていった・・・