「はぁ? 六甲口まで車を引き取りにこいって!?のたく君、うちはもう今日は閉店で、自分ももう帰るところなんやけど・・・」

BDはのたくからの事故車ひきとりの依頼を電話で受けると、もう帰り支度をしている時の電話に嫌そうな感じで応対し、のたくに答えた。

「おいおい、そんなに嫌そうに返事をするなよBD君。うちも取りあえず客商売なんだからさぁ・・・もう、今日は上がって良いよ。(電話を)こっちへ。」

黒はHSWの事務所にあるデスクに座ってタバコを吹かしながらBDにそう言うとBDから受話器を受け取った。

「じゃあ、オレはこれで・・・」

BDは受話器を黒に渡すとすぐさま事務所を後にして帰路についた。

「もしもし。で、事故った車の状況は?」
「あっ、黒さん・・・自走は出来そうなんですけど、運転席側のライト、右フェンダーとボンネットがもう曲がっていますよ。オイル漏れとかは無いみたいです。」
「分かった。ローダー(運搬用トラック)で今から引き取りに行く・・・」
「お願いします。」

黒はタバコを灰皿に突っ込んで火を消すと溜息を着いてローダーのカギを机の引き出しから取り出した。ちょうどその時に、ぴーが事務所に入ってきた。

「こんばんは・・・」

ぴーの声を聞いた黒はぴーを見た瞬間に「この際面倒だから代わりに事故車を引き取って来て貰おう」とすぐに思い付きぴーに言った。

「ちょうど良かったよ。悪いんだけどオレの代わりに植物公園の入り口に事故車を引き取ってきてくれないかな?」

そう言うと黒はローダーのカギをぴーに投げ渡した。ぴーはすかさずそれをキャッチすると黒に言った。

「えっ?こんなん僕が運転していいんですか?(でも、この感じだと断れそうにないなぁ・・・)」
「任せたよ!カギは明日ここに来たときにBDか加護ちゃんに渡してくれればいいから。事故車はローダーに積んだまま駐車場に置いてくれればいいよ・・・さぁ〜てと、これからみちゅうさんにお呼ばれしているからオレはもう帰るよ!あとはよろしく・・・リーダー!」

黒はそう言うとぴーの肩を軽く叩いてHSWを後にした・・・

「(って、事務所の戸締まりはどうするんやろ・・・?まあ、このローダーのカギにもう一つそれらしきカギがあるからこれで戸締まりせぇってことか?)」

強引に仕事を押しつけられたぴーは渋々と事務所の明かりを落とし戸締まりをしてローダーに乗り込むと、一路のたく達がいる麓を目指してローダーを走らせた。

「フッ、それで仮にここでオレが貴さんの申し出を断っても強引にベイウインズの14シルビア・・・保田圭とバトルするんでしょう?」
「さすがは丸さんですね・・・」
「まぁ、別にそれは構わない。ただ、貴さんが思っているほど保田の14に勝つのは簡単では無い事を良く肝に銘じておくように・・・」
「分かりました・・・」

貴は携帯電話で自分のバトル開始を伝えると、すぐに携帯電話を切った。そして彼はすでに現場から戻ってきていた圭の元へと近づいた。

「じゃあ、オレはこのまま彼らを家まで送っていきます。」
「頼んだよ!」

はーりーは麓で圭だけ下ろすと自分は32Rに乗っていたアベックを家まで送るために六甲を後にした。

「あんたが保田圭?」
「そうだけど・・・なるほどね・・・」

圭は近寄ってきた貴の背後にある彼のS14前期型シルビアを見て、この男が何を言い出そうとしているかがすぐに分かった。

「どうやら察しがよろしいようで・・・」
「サザンクロスのレベルが高いことは私もしっているよ。けど、その挑戦は無謀って事を分からせてあげるわ!同じ14シルビアでも格の違いを分からせてあげるよ!」

圭はバス停の後ろに止めた自分の14に乗り込むとセルモーターを回してエンジンを始動させた。そのままアクセルを2〜3回深く踏み込んでタコメーター(回転計)を煽り始めた。
-ブォオオオン、ブォオオオオン-

まわりにいたサザンクロス、ベイウインズのメンバーはただならぬ圭のウォームアップに何となくバトルが始まるのでは無いかという空気を読みとり始めた。のたくは圭の14に慌てて近づいた。

「ちょっと、あいつとバトルするの?」
「しょうがないでしょう・・・断れる様な感じじゃないよ、あちらの眠たそうな顔をした(S14)前期型のお兄さんは。それにサザンクロスの面々の前で断ったりでもしたらこっちが馬鹿にされるでしょう?」

圭の14シルビアは以前も説明したとおり、平成8年に登場したS14の改修型である。対する「眠たそうな顔」をした貴のS14は平成5年にそれまでのPS13シルビア、俗に13と呼ばれる型からフルモデルチェンジをしたシルビアである。この「前期型」と「後期型」は性能的には全く同じで、ノーマルの最高出力が220馬力(ターボモデルのK‘s)で、エンジンはSR20ETに可変式バルブタイミング装置(可変バルタイ)がどちらにも装備されている。違いはフロントの顔で、圭の14が俗につり目と言われてややメリハリさと、いかつさが同居した顔になっているのに対して、貴の前期型はすこし丸みを帯びた、のっぺりとした顔になっている。そして、これはあまり関係はしないがリアのテールランプの処理が14前期型がフラット(平ら)に仕上がっているのに対して、後期型はやや凸凹した形状になっている。2台は見た目だけ違い、中身はまるで同じ車である。

「ちょっと、貴さん!マジでやる気なんですか?」
「このまま登りのバトルでオレは行きますよ・・・そうそうシカミさん達にお株を取られるわけにも行きませんからね。それに・・・オレには{こいつ}があるから勝ちますよ!ゼロヨン上がりのオレには下りよりも登りの方が合っているようだし。」

シカミは14シルビアの運転席側のドアから貴が自信ありげにして指を指していた方向を見て言った。

「その{こいつ}は使うタイミングをしくじるとかなりのしっぺ返しが来ますよ・・・明らかに普通じゃない使い方と、追加配線を仕込んでいるみたいですからね。」

貴はシカミの心配をよそに不敵な笑みを浮かべるとウインドーを上げてエンジンを回し始めた。貴も圭のように2〜3回深めにアクセルを踏んでレブを煽り始めた。
-ボォアアアアアアン、ボォアアアアアアン-

「やれやれ、14に乗っている人間は血の気が濃いんかいなぁ・・・」
のたくは皮肉まじりの愚痴をこぼしながらシカミに近づいてきた。
「まったくだ・・・(それよりも・・・ゾロ目との一戦を交える前にもう一度だけ彼女に会って今回のダウンヒル事件(?)の真相を聞きたい・・・)」

のたくとシカミの不安と心配を余所にベイウインズ、サザンクロスのメンバーや回りに集ったギャラリーは思わぬ展開に興奮気味でバトルの始まりを今か今かと待ち始めていた・・・