2台のS14シルビア・・・姿こそ違うがノーマル時の基本性能は全くの互角である。貴が申し込んだバトルを圭が受けたために、今から始まろうとしている西六甲上りのバトルは実質上、東西六甲交流戦の初戦ともなってしまった。貴は自分のS14を回りにいたメンバーの誘導に従い、車を所定の場所に着けた。
「まあ、止めたとこでどうにもならんのやろ?」
「言っても向こうはどうやら本気らしいからね・・・ああ言う人には見せつけなきゃね、実力の差ってのを。」
のたくは圭のS14から離れると、圭はそれを確認した後にバス停裏に止めていたS14を貴が停車したバス停前に車を並べた。
「二台とも位置に着いたな・・・頂上の様子は?」
シカミは頂上の状況を携帯電話で頂上に居るベイウインズのメンバーと話しているのたくに聞いた。
「分かった・・・ よし、上(頂上)から下った対向車はおらんで!」
シカミはのたくの答えを聞くと大きく頷き、すでに定位置についた貴と圭の表情を見て、準備が整っている事を読みとり、自らは2台の14の間に立ち右手を挙げ、バトルのカウントダウン開始を周囲にアピールし始めた。
「カウントいくぞ!」
-ブォオオン-
シカミのかけ声に合わせるように圭も貴もアクセルを踏み、空ぶかしでレブ(回転計)を煽り始めた。周囲に二台の14、それぞれのエキゾースト(排気音)が大きくこだまする。
「10、9、8、7、6・・・」
-ブォオオオオオン-
「さぁーてと、なるべくならば{こいつ}にはお世話になりたく無いな・・・」
貴はそう言ってステアリング(ハンドル)のスポークに造った「特設ボタン」に目をやりながらアクセルを煽る。周囲にスタート前の緊張がよぎり、カウントは徐々にゼロへと向かう・・・
「5、4、3、2、1・・・ゴーッ!!!!!」
-ギュゥワキャキャキャキャッ-
激しくスキール音(タイヤの鳴く音)を響かせると2台は六甲山頂を目指して一気に掛けだした!
「おおっ、遂にはじまった! よっしゃ、さすがは貴さん!頭を取ったぞ!!」
スタート地点にいたギャラリーをしていたサザンクロスのメンバーは貴のロケットスタートを見て興奮気味に言った。
「相変わらずだな・・・貴さんも。1速からのクラッチミートのタイミングは僅かに保田に勝った。本当にゼロヨン張りのスタートだぜ。それだけでは無く、あの人のセッティングもあるかな・・・? 対する保田とはセッティングのアプローチが全く正反対だが・・・それが果たしてどうなるかな?」
シカミは2台が走り去った後のテールランプを見守りながら、圭と貴のスタートダッシュを見守った。
-ゴォオオオオオッ-
「くっ、頭とられたかぁ!言うだけあるね・・・」
圭は貴の14の背後10メートル位の場所に着けながら敵ながら上手いスタートを切った貴の非凡なセンスを誉めた。今までの下りバトルとは違い、西六甲の上りは序盤が非常に辛い。下りでは最後の見せ場になる4連ヘアピンがいきなり出てくるからだ。しかもここは勾配の関係で非力なエンジンではさらに立ち上がりが苦しくなる・・・2台のs14は森林植物公園前のバス停を出てまず右の緩やかなコーナーを突き進む!
「この辺は悪いがこっちの方が上だぜ!ブースト(過給圧)アップで稼いだ馬力がこういう上りの高速コーナーでは物を言うからな!」
-ブォオオオ、パシュッツッ-
貴はアクセルを踏み込み3速にしていたギアを4速に切り替える。この動作の最中にSR20DET(S14シルビアに搭載されたエンジン)に取り付けられたブローオフバルブが音を立てながら開く!同時に、車内に取り付けられたブーストメーターが0.5、0.8、1.0と徐々に上がってく。
-グォオオオオオッ-
「くっ、引き離される!?だけど、このまま簡単には逃がさないからね!」
圭のS14のエンジンルームでは圭の激しいアクセルワークによってエアクリーナー、そしてそれに連動して彼女のS14に取り付けられたタービンが激しく回る!
-キュゥイィイイイイィッ-
「来た、来た!ここがおいしい所なのよね!」
圭はギアをシフトアップさせて、更に車を加速させる!そして2台はそのまま緩やかなコーナーを登り切るといよいよ4連ヘアピンの1つ目のヘアピンに入った。
「さてと、オレはあんまヒールトゥは好きでないんでね・・・」
ブォボォオオオ、ボグォッ
貴はそう言うとギアを5速から一気に3速に落とす「シフトロック」を使う、激しいタイヤのスキール音と、低速ギアに落としたことでエンジンの回転数が急激に上がったことでマフラー内の排圧が急激に変化したため大きなバックファイアー(ブローバイ)の音をマフラーが吹き、その音が周囲りにけたたましく響く!シフトロックによって急激な加重移動で傾いたS14を貴はカウンターステアで押さえ込みながらヘアピンを抜けた。
ギュィキキキキキキッキ
シフトロックの動作はほぼヒールアンドトゥと変わらないが、クラッチの蹴り込みと、右足のつま先でブレーキを踏みながらかかとでアクセルを踏むと言うアクションが無い。それまで加速していたギア領域からアクセルを一定の回転数に合わせながら徐々に開けて(緩めて)いきなり低速のギアに入れる技で、これによる効果は車の急激な減速と、それによって生じる急激な加重移動であるが、極度な多用はエンジンやギアの歯車に時には深刻なダメージを与えてしまう。
「稼げるところで(スピードを)稼いで行くって事ね? 強引だけど・・・まるで弾丸の様な走りだわ!」
-ギャッツッツ-
圭は貴の走りに驚きながらもタイヤを軽く滑らせて一つ目のヘアピンを抜けた。
「こんなもんで4連は良いかな?無駄な(パワー)スライドを抑えずトラクションを逃がしたら確実に立ち上がりで引き離されていくからね。」
圭は前回の紗耶香とのバトルで得た教訓を踏まえて慎重に、かつ攻撃的にと言う、矛盾はしているが極めて理想なヒルクライム(上り)走行で1つ目のヘアピンをクリアした
。
「くっ、さすがにこの序盤のヘアピンセクションはこちらには辛いぜ!初めは引き離したが、1つ目で差が半分に縮むとはな・・・」
貴はバックミラーで圭が迫っていることを知ると、自分のセッティングの「不利」を感じざるは得なかった。2台はややスタート時よりも圭が差を詰めた状態で、かつてぴーがクラッシュした麓から2つ目のヘアピンに突入した。
「さてと、悪いけど・・・その不安定なコーナーリングでは4個目抜けるころには前に出るよ!」
-シュュュュュッ、パッシュゥッ-
圭のS14はエアクリーナーの集気音とギアチェンジによるブローオフバルブの開放音を響かせながら貴のS14の背後にぴったりと着いたままで、別名「ぴークラッシュコーナー」に突入していった!
「考えてみればオレも悪い奴かも知れないな、あえて負け戦(いくさ)をさせるとは・・・」
圭と貴のバトルが始まったその頃、丸政は自分の部屋に置いてあるデスクトップ型のPCで前回の紗耶香のドライビングデータをまとめていた。
「彼の走りはゼロヨン張りのパワーと、力に物を言わせた走りだ。戦略的な考えも全く持ち合わせていないわけでは無いが、基本的に荒削りだな・・・他人に指摘されても分からない部分は自らの敗北で悟らなければならない・・・初めから貴さんの挑戦が負けるだろうと分かりながらそれを奨励するとはな・・・」
丸政はそう言いながらもPCの画面上にあらかじめ取り込んだ西六甲をはじめとする六甲のコース図を3Dで描いた物をトレースした。その幾つか開いたPC上のウインドウから西六甲の3D図のみ残すと他の地図は全て閉じた。
「なるほど・・・やってみる価値はあるか。これならば、奴が得意とするステージでも勝算はある!」
そう呟くと丸政は西六甲の3D図をしばらく眺めた後、イスから立ち上がりカーテンを開き窓の外にあるベランダへと出た。
「もし、こちらの見込み違いでは無いのならば、誰がゾロ目に挑んでも奴に勝つことは出来ないだろう・・・オレ以外ではな。もはや奴に対してはサザンクロスの丸政では無く、サザンクロスを興す前に呼ばれていた「六甲の白い流星」として挑まなければならないな・・・フッ、柄にも無く血が騒いできた・・・久々にオレを熱くするターゲットに出会えたな。」
K市の背後にそびえる六甲山をベランダから丸政はベランダで一人涼みながらタバコをふかしはじめた・・・
「(くしゅん!)」
「どうしたんですか、市井さん?もしかして風邪でもひきましたぁ?」
紗耶香は梨華と運転を交替するために立ち寄ったコンビニの駐車場で運転席から車外に出たとたんにくしゃみをした。
「なんか誰かが私の悪口でも言っているみたいね・・・どうせだからさぁ、何かジュースでも買ってくるわ。」
紗耶香は梨華にそう告げると一人コンビニの店内へと入っていった。
-ギャギキキキキキッ-
「よし、決まったね!ここでここまで来たら次のコーナーで・・・多分これ〜でさようなら!?」
圭はぴークラッシュコーナーで貴に迫り彼にプレッシャーを与えていっていた。貴はさすがに圭の猛攻と、コーナーリングに対するセッティングの甘さが招いたアンダーステアに苦しみはじめていた。
「ちっ、ロールを抑えることが出来ねぇ!しかも差をどんどん詰められて来た・・・」
-ブゥオオ〜オオッ-
2台はそのままクラッシュコーナーを越えて3つ目のヘアピンに入って行こうとしていた。
-ドゥヴァギャギャギャギャッ-
激しいスキール音と共に貴は車に掛かるGに対抗しながらアウトインアウトでふらつきながらもクラッシュコーナーを抜ける。圭はコーナー入り口から軽くドリフトでクラッシュコーナーに潜入すると得意のゼロカウンタードリフトでなるべくハンドルを切らない状態でタイヤの抵抗を減らし貴のコーナーリングラインを明らかに上回るラインを通った。
「アウトインアウト・・・基本的な事はスピード任せの走りをしていても分かっている様ね。」
圭はふらつきながらもクラッシュコーナーのインを突いてアウトへと逃げる走りをした貴に感心しながらコーナー処理で失速し、立ち上がりがやや送れ気味ながらもアウトへ出た貴の14に一旦アウト側、貴のすぐ後ろの位置に着けたが、そこからイン側に一気に出た!しかし、このクラッシュコーナーから次の3つ目のヘアピンまでの僅かな直線区間は彼らのバトル前に紗耶香とバトルしてクラッシュした32GT-Rの破片が未だに散らばっていることを彼らは白熱していくバトルの中ですっかり忘れていた・・・
「くっ、し、しまった!インから抜かれる・・・」
-ブワヮヮワワワァアアアァン-
「ちょっとここで前に出るのはフライングだけど、前に出るからね!」
貴のS14は圭の車と比べても最高速域からのエンジン回転が半端じゃなく早い。そしてターボエンジンにおける速さと馬力のステータスとも言えるブーストも高めに設定されているが、元々ターボと言う物自体が諸刃の剣である。コーナーの立ち上がり、直線での驚異的な伸び・・・これらがターボによってもたされる恩恵なのは走りの世界ならずともレース界でも有名な常識である。が、しかし、その代償として一度ターボが掛かる領域(ターボバンド)を外してしまうともう一度過給圧が掛かるポイントまでエンジンを持っていくのには時間が掛かってしまう・・・ターボラグと呼ばれるこの状態はターボ車の使い手に取っては非常に厄介な問題であり、このターボラグをいかに抑えるかが大きな課題となる。ターボラグに襲われた貴に並んだ圭はそのままアクセルを踏み込んで貴の前に出ようとした。このまま圭が前に出れば次の3つ目のヘアピンでは圭のいる位置からが一番理想なコーナーリングラインを取ることが出来る!
しかし気まぐれな勝利の女神はここでの決着を望まないようだった・・・