思わぬ展開で始まった圭と貴のバトルに盛り上がる西六甲。しかし、このヒルクライムバトルが始まる以前に紗耶香と偶然にもバトルを行い、敗北した挙げ句に事故を起こしたR32GT−Rの破片が散らばっている箇所に差し掛かる。
ここに至るまでに先行する貴を追いつめた圭だったが、思わぬ不運に見回れる・・・

-バキッ! カコ〜ンッ-

「!?」

圭は3つ目のヘアピンに向かうまでの直線でセンターラインを挟んで貴と並行して走っていたが、貴よりも完全に車の半分前に出て貴の14に被せようとステアリングを切ったその時!センターライン上に転がっていた32Rのサイドミラーの残骸をフロントタイヤが跳ね上げた。跳ね上がったサイドミラーはフロントバンパーの横に当たりそのまま圭の14後方にはね飛ばされたが、ミラーを踏んだ衝撃と踏んだ時の音が圭のリズムを一瞬狂わせた。

「えっ、計算チガイ!? さっきのGT−R破片がまだ残っていたなんて・・・」
「な、なにがあったかは知らないがひとまず形勢逆転だな!」

-ボゥブォオオオオ-
貴は一瞬のひるみで失速した圭の14の前に出るとそのまま彼女の14の前に出てきた。貴が再び先頭のポジションのまま3つ目のヘアピンに突入していく。

「さてと、こうなったら次の4つ目をクリアすりゃオレとこいつ(S14)にとっての苦手はなくなるな・・・耐えろよシルビア。あと一つだぜ!」

貴は強引なコーナーリングワークで3つ目を切り抜けると今度はターボバンドを外さないで上手い具合に3つ目のヘアピンを立ち上がった。

-ドキャキャキャキャッ-
3つ目と4つ目との間の直線はぴークラッシュコーナーから3つ目までの直線区間よりもさらに短い。貴はそのままの加速で4つ目のヘアピンに突っ込んだ。

「ここでは使いたくなかったけど・・・しょうがないわ!」

このままだとまたもや貴に引き離される事は明確だった。圭はとてつもないスピードを出し、前方から掛かるGを感じながら、クラッチを蹴り込みギアをニュートラルに戻し、つま先で軽くブレーキを踏み、かかとでアクセルを強く踏んでレブを煽る!レブの針が7千回転付近を指すとギアを3速に入れてクラッチを緩めた。
-ギャキャキャキャキャキャキャキャ-
激しいスキール音を立ててドリフトでクラッシュコーナーを抜けるとそこから更に今度は逆にステアリングを切り、ドリフト状態のまま3つ目のヘアピンに入っていった。

「なっ、なんだありゃ? れ、連続逆ドリフト!」

貴はバックミラーで後方の圭を確認すると、彼女の大技に驚きを隠せなかったが、すぐに冷静になると3つ目のヘアピンをシフトロックと力業でクリアしていった。
-ギュウキッキッキッ-

「私の超必殺技をここで出してしまうとはね・・・(超必殺は大袈裟かも知れないけど)」

-ドギャキャキキキキキッ-
対する圭はそのままドリフトしたままで3つ目のヘアピンに入っていくと、ドリフト状態を維持しながら、紗耶香張りのイン側ガードレール10センチ寄せ限界コーナリングで回り、3つ目のヘアピンを抜けた!

「タイヤの消耗は極力抑えないとね。下りと違って後輪駆動(FR)は上りだとその力が全部後ろに掛かるから、下りでドリフトするよりもタイヤへの負担が大きくなる・・・」

圭は紗耶香とのバトルでの敗北を切っ掛けに、ドライビングスタイルを変化させつつあった。相手の背後を拝むと言う事をそれまでは良しとはしなかったが、バトルする前の天気予報的な計算よりもバトル中における臨機応変的な計算・・・要は実戦での駆け引きがバトル全体を左右することを思い知らされたからである。今までは頭で理解していた、いや、分かり切っている事だと彼女は思っていたが、やはり知識という物は実践して始めて身につけるものだったとこの貴とのバトルの中でも思っていた。

「くそっ、また一気に差を詰められたか!こうなりゃ・・・ふっ、どうせここが最後の4つ目だ。ここを越えればあとはどうって事ない・・・使うか{こいつ}を!」

貴はリアバンパーすれすれまで縮められた圭との車間距離のまま4つ目のヘアピンに入った。当然の事ながらコーナーリングワークはすでに圭に負けていたためこの4連ヘアピンラストのコーナー立ち上がりで圭に頭を取られることは彼にも分かっていた・・・

「今度こそ・・・もらったよ!」

ブォオオオオオオオオ
4つ目のヘアピン立ち上がりで、外へ外へと流れていくアンダーステア状態になったふらふらの貴を後目に圭は立ち上がりで一気に前に出た。ギアをチェンジしブローオフバルブの音が鳴り響く!
パシュ!!

「ふっ、行くか・・・オレが何故バレットライナー(弾丸特急)と言う異名で呼ばれるかを教えてやるぜ! それは{こいつ}を上手く使いこなすって事だってな!!」

ブオォオオオ〜ン
貴は再びターボラグに陥った14を一旦低速ギアに落としアクセルを踏み込んだ。そしてステアリングのスポークに設けられたボタンを押した!この瞬間に、任意でブースト圧を調節できるブーストコントローラーに危険ブースト領域を知らせるワーニングメーターが鳴り響き、同時にブーストメーターも危険領域を知らせる様にワーニングランプが光り始める!
ピッ、ピッ、ピッ
本来ならば過度のブーストでエンジンブローを防止するためのフェールカット(燃料供給中断装置)とブーストリミッターはすでにこの「仕掛け」の為にこれらの情報を司るECU(車載コンピューター)の設定は変えられている。今まで以上にエアクリーナーの集気音とタービン回転音がエンジンルーム内で鳴り響く!
シュィイイイイ、キュイイイイィン

「よっしゃ、来た!! ハイブースト!!!」

ブワァアアアアア、パシュッ、ドグォッ!
貴はギアを一つ上に変えて更に加速させる。そして今までに無いような大きな音をブローオフバルブが鳴らし、マフラーからは大きなアフターファイアのサウンドが激しいエキゾーストにかき消されることなくこだました!

「なっ、今度は何なのよ・・・? えっ、うそでしょ!こんなの有りなの?」

コーナーリングの立ち上がりでは完全に圭の方が勝っていた、通常ならばもう抜かれることなどあり得なかった。これは圭の計算違いと言うよりもむしろ相手の方が異常だったのである。貴はその驚異的な加速で4連ヘアピン後の緩やかなカーブ手前の直線区間で一気に圭を抜き去った!
ボォオオオオオン、パシュッ!

「新幹線、の、のぞみ? 瞬間スピードはその位は出てたよ・・・あれは・・・」

圭は一気に前に出ていった貴のS14のテールランプを見ながら、驚きを隠せなかったが、すぐに気持ちを切り替えると、貴に食らいつくように14を加速させた。付け加えるまでもないが、実際は「のぞみ」並みの瞬間スピードは出ていない・・・ただ、峠における常識では考えられない加速であった事は確かであった。

「なんて奴なの!でも、まだ終わってはいないよ・・・六甲でドラッグレース(直線を矢のように突っ切るレース)勝負して勝とうなんて間違ってるからね!」

ブァワァアアアアアン!!
圭は視界から貴のブルーメタリックカラーのS14シルビアを消さないように自分も加速して貴を追いかけていった。