「これは・・・マジで50%の確率ね!?」
ギュキッ、キキキキィッ!
圭はそう言うとアンダーステアのままでアクセルを緩めわざとリアを振った。FR(後輪駆動)の車は車速の乗った状態でコーナーに飛び込みアクセルを開ける(緩めると)それまでドリフト状態になってグリップが落ちていた後輪が突然本来のグリップを戻すために尻が踊った状態(たこ踊り)になる。
キキキィ、キキキッ、キキキキキィ
圭はこの技でオーバースピード気味だった車速を強引に落とし、振られるリアをガードレールにわざとリアバンパーを近づけ、自分からスピンしていくように車を仕向けていった。
ギュワッキャキャキャッ
「言わんこっちゃねぇ! 今から回避しても遅いぞ!スピンでガードレールにリアから突っ込んでおシャカだ! もう逃げ場はねぇ・・・!」
貴は前方をゆく圭の14シルビアがもはやコーナーアウトの際を割りそうなのを見て、こちらも回避の動作に移らないと危ないと悟らざるを得なかった。しかも圭の14シルビアはタコ踊り状態でスピン一歩手前。もはや満身創痍・・・普通に考えても勝ちとか負けとか言う以前にこの場合はいかにして巻き添えを避けるかを考えなければならなかった。が、しかし・・・
バコッ!
キキキィイイイッ
「当たった!? よし、これで上手く切っ掛けが出来た! これで(ガードレールとは)逆側にシルビアを傾ければ・・・! む、向いたぁ!!」
ドワァキャキャキャキャキャキャ
圭はリアバンパーをガードレールに当てた反動を利用してそのまま得意の逆ドリフトに持ち込み貴の前方に出た!貴は目の前で何が起こったか一瞬分からなかったが、完全に自分よりも前に出た圭の14を目の当たりにすると驚きを隠せないまま言った。
「う、嘘だろ!? ちいっ! こう頭をとられちゃハイブーストボタンも、立ち上がりのロケットダッシュも意味がねぇ! くそっ、前に出られないっ!」
キキキキキキキキキッ
圭はそのままコーナーイン側の逆に車を傾けたまま貴の14の頭を抑えた状態で一つ目の直角コーナーを越えた。
「な、なんだ・・・!?あの突っ込みは!!もしかして、そのままガードレールにバンパー当ててその反動で!?」
コーナー立ち上がりにある牧場入り口をそのままの位置で立ち上がってゆく2台を見て武蔵は絶句状態で、もう空いた口がふさがらなかった・・・そんな彼を後目に圭はさらにそのままの体勢で次のコーナーに突入した!このコーナーでは今の圭の「傾け方」がそのままインになる!インベタ(イン側に張り付いたままコーナーに入る事)のままで進入する。しかし、イン側からインへの進入はバトルと言う局面においては「愚行」だが、圭の場合はもうライン取りというよりも如何にして体勢を直すか?これしか問題になっていなかった。彼女はそのままインベタからアウト側に抜けるときにやっとの事でS14シルビアを元の体勢に戻すことが出来た。
ギャシャァアアアア、ブァアアアアアア
「ほっ、何とか元通りになったわ・・・あとはこのまま頂上を目指すだけ!」
ボォアアアアアア
「あのラインだと外側に膨れることは分かっていたが・・・くそっ!こっちもパワーばかりを重視したセッティングと、序盤でABS(アンチロックブレーキシステム)をこじらせてのコーナーリングでフロントタイヤが怪しいぜ!リアもグリップがない! いずれにせよこの状態ではハイブーストボタンなんて押せやしない・・・押したら本当に死ぬな(たぶん・・・)」
ブヴォオオオオオオ
貴は圭のコーナーリングを見ながら隙がある事は分かり切っていたのだが、序盤の攻防での無理と過度の馬力によってFRレイアウトの駆動輪であるリアタイヤがグリップを失いつつあり、コーナーリング立ち上がりでふらつき始めてしまい、この状態で圭を刺すことが出来なかった。そして同時にこの勝負あったと思った・・・
「な、なんやって!?それで勝手にバトルをやらかしたの!?」
「ま、まあ・・・オレは止めたんやけど・・・」
圭と貴それぞれのS14シルビア対決に決着が着いた頃、ぴーは黒に任されたローダー(自動車運搬車)に乗って麓の森林植物公園前に到着すると、圭と貴のバトルが始まっていたことに驚き、のたくに詰め寄った。
「あいつ、オレがおらん時に勝手なことをしやがって! ちょっと頂上に行って来る!」
キキキッ、ブロロロロロッ
ぴーはそう言い残すとR32を乗せたままローダーに乗り込み、エンジンを回し、頂上に向かって走っていった。シカミはぴーが乗り込んだローダーが頂上目指して走り出したのを見つめながらのたくに近寄り彼に言った。
「彼はもう少し現実を見つめないといけないな・・・そしてこのバトルの真意を考えないといけないだろう。まあ、頂上に行けば全ては分かるか・・・所で、ちょっと聞きたいことがあるんだけど・・・」
「ん?なんや?」
「あっ、あの、梨華ちゃんの連絡先とかって分かるかなぁ?」
のたくは不思議そうな顔を一瞬シカミに見せながら答えた。
「知らんことはないけど・・・一応仕事のローテーションとかで連絡することがあったりするからなぁ。でも、何で知りたいんや?」
「あ、いや、その、どうも彼女が乗るオプティーがGTーRに勝ったらしいんだ。だからそこまでの実力を持った人をこのまま放っておくサザンクロスとあっちゃあいけないからさ。(苦しい言い訳だな・・・)」
のたくは携帯電話のメモリーから梨華の連絡先を表示させるとシカミにそれを見せながら言った。
「まあ、何があったかは知らないけれど、彼女を呼び出すのは無理だと思うけどなぁ・・・ とてもじゃないけど走り屋って感じじゃないし、そのGTーRに勝ったオプティーってのも人違いだと思うけど・・・まあ、聞くだけ聞いてみたらええ。」
その頃、バトルの「ケリ」を着けた圭と貴はそのままの状態でひとまず頂上のバス停へと向かい、バス停前に車を止めてそれぞれ車のクールダウンをさせていた。
「あ〜あ、やっぱりガードレールに擦った所は塗装が剥げたね・・・」
圭はガードレールに擦りつけたフロントとリアのバンパーを眺めながら言った。
「ふっ、負けたぜ・・・まさかあんな無茶なコーナーリングでこちらの頭を抑えてくるとはな。」
貴は完全にしてやられたという顔を浮かべながら圭の元に近づくとそういって圭を労(ねぎら)った。
「確かに、あそこで普通に切り込んでも抜くことは出来たけど、それじゃあま例の技を使われて前に出られるからね・・・それにもうあの時のチャンスを逃したら絶対に前には出られなくなっただろうし・・・途中、この勝負を諦めかけたけど・・・」
圭はそう貴に話ながらリアウインドーとリアサイドに貼ってある「BAY
WINDS」のステッカーに目をやった後、再び話し始めた。
「こっちも、チームの看板を背負っている以上は仲間達の面子に賭けてもそっちに負ける訳にはいかなかったのよ。」
貴は自分の14シルビアのボンネットに軽く腰をかけると、軽く笑いながら圭に答えた。
「チームか・・・考えてみればオレのとった行動は非常に自己中心的だったのかも知れない。しかし、あんたとの一戦でリーダーの丸さんがオレに何を言おうとしていたのかが分かったよ・・・パワーに物を言わせ、基本的な事が抜けていたな・・・ハイブーストの{しかけ}も我ながら良い考えだったが、逆にそれがオレを基本から遠ざけてしまっていたしな・・・」
「例の異常な加速ね? ところであれって・・・?」
圭はバトルの時から気になっていた{しかけ}の種明かしを貴に求めた。彼は溜息混じりにその事を説明しはじめる。
「もともとオレの14はECUで最大ブーストを1.2までにしているんだが、ブーストコントローラーの設定は1.8にしているんだ・・・で、ブーコンの電源を入れれば通常で1.2の所を1.8に限界を引き上げられる。ステアリングに造ったボタンはその電源だ。これと同時に追加配線でレブリミット解除とフェールカット回避も行えるようにした訳さ・・・かってF1の世界で一時期あった{オーバーテイクボタン}をヒントに{ここぞ!}と言う時に加速が使える様に仕向けたんだが・・・もうオレは{こいつ}を外すよ。基本を磨いてまた出直しだ・・・」
圭は貴の話を一通り聞くとバス停のベンチに腰を下ろし、大きく息を吸い込んで吐き出した。
「ふ〜っ、それにしても本当に死ぬかと思ったわ・・・まあ、上手い具合に作戦が成功したからこうして夜空を見ることも出来るけどね。(この充実感というか、達成感みたいなのは、やっぱり一人の時とは違うわね・・・)」
「ん、なんか登ってきたぞ?」
キュシュシュシュシュ〜ッ
貴はだんだんと大きくなるディーゼル車独特のエキゾーストを聞きながら言った。ぴーはローダーでそのまま頂上まで登りきると、バス停前で止まっている2台のS14の隣にローダーを止めて、慌てるようにしてローダーから降り、圭の元へ近づいた。
「おい、あんた!オレがいない間に随分と勝手な真似をしてくれたなあ!自分勝手が過ぎるんじゃないのか?勝手にサザンクロスのメンバーとバトルをおっぱじめて・・・チームの名前に泥を塗るような事をするんやない!」
ぴーはベンチで腰をかける圭の真ん前に立ちはだかり、圭を怒鳴り散らした。圭はそのまま黙って座り込んでいたが、貴は自分のS14から離れるとぴーの元に掛けより、ぴーを一発殴った。
ボコッ
「なっ、なにすんねん!?」
ドサッ
倒れ込んだぴーの胸ぐらを掴んで彼を起こすと貴は強い口調で言った。
「あんたは確かベイウインズのリーダーだよな?あんたは頭のくせしてチームの面子を賭けて闘った仲間をけなすんかい!?」
ぴーは貴の腕をふりほどき、貴から少し離れた位置で貴に言い返した。
「仲間ってやな・・・オレは別に仲間と認めたわけやない!」
「じゃあ、ベイウインズのメンバーでも無い人間がだな、ベイウインズのホームグラウンド(西六甲)で崖に当たるか落ちるかって言うような危険な賭けをしてまで、綱渡り状態のバトルをするのかよ!? 見て見ろよ!このつり目(圭の14)のフロントと、リアバンパーを!ホームコースでの威信・・・そしてチームの看板、仲間、そしてリーダーであるあんたの顔を立てて彼女はオレの挑戦を受けたんじゃないのか!?あの場でオレの申し出を断っていたらベイの評判、ひいてはあんたの評判も地に落ちた物になっていたかもな・・・」
ぴーは貴の言われるままに目線を圭の14に向けた・・・確かにそこには通常のバトルでは起こり得ない事が起こっていたことを連想させるような物だった。
「確かに、あんたは少し前に保田に負けた。その話はサザンクロスでも話題にはなったよ。そしてあんた自身のミスで車は壊れた・・・あんたは結局全てを{悪者}になすりつけて自分のドラテク不足っていう現実から逃げているだけじゃないか!?あんたも頭張るくらいの人間なら敗戦の中で何か・・・そう、自分に足らなかった何かを素直に認めるべきじゃねえのか? もし、それが出来ないようであるならば・・・さっさとベイウインズを解散させてサザンクロスに降るだな。まあ、仮にサザンクロスに降るとしてもあんたはお断りだね!小さいことに囚われて進歩が期待できないからな。」
ぴーは何も貴に言い返すことが出来なかった・・・圭の14は貴が言うようにこの西六甲の上りで熾烈なバトルがあったことを頷かせるには十分な位、傷を負っていたし、同時に対戦相手の貴の車もタイヤは溝が殆ど残っていないくらいまでにすり減っていた。
「おっと、無駄なしゃべりが過ぎたな・・・ひとまずオレはゆっくりと、騙し騙し山を下るぜ。こんなタイヤで飛ばしたらそれこそ死んじまう。オレの勝手なバトルを引き受けてくれてありがとう。正直言って見えなかった物が見えたよ・・・今夜のバトルで。」
貴は圭の前に行き、彼女に手を差し出した。圭は立ち上がると貴に言った。
「ちょっと大袈裟じゃない?(殴りかかった時はどうしようかとマジで思ったけど) まあ、自分も色々と分かった部分もあるし・・・計算違いな部分も結構あったけどね・・・」
「まあ、来週は多分おれはギャラリーで来るよ。さすがに今夜のバトルで14も少し{へたり}が来たからな・・・」
二人は軽く握手を交わすしお互いの健闘を軽くたたえると貴はそのまま14に乗り込んだ。彼はウインドーを下ろしぴーに一言いった。
「今夜はオレ・・・いや、サザンクロスの負けだな・・・西には負けることは無いと思いこんでいたが、あんたらもやるじゃねえか!?」
キキキッ、ブオオオオオン、ブォオオオオァアアア〜!
圭もバス停脇に止めた14に乗り込むとエンジンを始動させてスピンターンで方向を変えるとぴーや貴よりも先に山頂を後にした・・・
「けっ、オレの方が車に乗り込んだのは速かったのにもう麓に向けてかっ飛んで行きやがった・・・」
キキ〜ィッ!、ボォアアアアア〜
貴はウインドーを上げると自分もセルモーターを回してエンジンを始動、圭と同様に車をスピンターンさせるとそのまま六甲を後にした。
「小さいことに拘り過ぎか・・・確かにそうだったかも知れない。スケールのでかい奴は本当に速いからな・・・サザンクロスの丸政も、そして市井ちゃんも・・・オレも速くなって彼らに並ぶ大物を目指すかな?(無理かも知れないけど)」
ぴーはアイドリング状態にしていたローダーに乗り込むとここでUターンするのも面倒だと思い、そのまま表六甲有料道路へと向かい六甲山を後にした。
「あの・・・僕はまた放置なんでしょうか・・・?」
武蔵は一人、牧場入り口前でそう呟いていた・・・