ぴーは黒に少し緊張気味で紗耶香が梨華の車に乗って派手なバトルをしでかした事についての問題点を尋ねてみた。黒は少し苦い顔を浮かべながらぴーの質問に答えてゆく。

「ああ、単純なことだよ。あの場にはそれなりにギャラリーが居たわけだ、もう来週にはGT-Rに勝った軽自動車の噂は広がるだろう。そうなると問題は市井ちゃんが運転した軽自動車の持ち主はしばらく走り屋に付け狙われるだろうな・・・」
「って、別にそこまで心配することもないんちゃいますか?」

ぴーは別に黒が問題にするほど大した問題では無いのではないかと思い話を聞いていたが、黒はさらに問題点を語りだした。

「君だったらどうかな?仮にそんな軽自動車がいたら勝負してみたくなるんじゃないか?相手は軽自動車だったら勝てるかも知れない・・・いくら向こうが化け物みたいに早い車でも、排気量の少ない軽自動車なら勝算はある!って、恐らくこう考えるだろう?S14シルビアとか180SXと言った峠の定番とバトルするよりはよっぽど勝てそうに思うだろう?」
「ま、まあ・・・言われてみればそうですねぇ・・・確かに弱いものイジメ的な考えからすると7割は勝ったような気分になりますね。軽自動車が相手ならば・・・」

黒はぴーの答えに頷くと、さらに話し始めた。

「誰の車だったのかは知らないけど、これはちょっと大変な事になるかもな・・・」
「そうですか?自分はそこまでにはならないと思いますけど・・・まあ、もし何かあったらベイウインズのメンバーにも言ってその車の持ち主をフォローしますよ。」
「ああ、その時は何とかフォローしてあげてくれ。まあ、本人がどれだけ迷惑を被(こうむ)っているかにも依るがね。」

ぴーはそう言われると黙って頷いたが、その後で何やら言い出しにくそうな感じのそぶりを見せながら黒に話しかけた。

「オレ・・・ちょっと何かを見失っていたというか・・・その・・・」
「チームの事だろう? 話す相手が違うんじゃないかな・・・謝るのならば然るべき人にたいしてだろう?」

黒はそう言ってぴーの肩を軽く叩くと親指でガレージの方を指さしてぴーに話し出した。

「そうそう、見て貰いたい物があるんだけど・・・って、まあ修理を請け負ったJZX100なんだけどね。」

ぴーは言われるまま黒と共にガレージの方へと向かった。中に向かう途中で彼は先日亜依から聞いた自分の車の納車の事を思い出して、この際だから修復の進行具合をついでだから確かめようと思った。二人はそのまま中へと向かっていき、そこに置かれているJZXを見てぴーは驚かざるを得なかった。修復された箇所はまだ未塗装で、継ぎ接ぎの様になっていたのも驚きの理由に入るが、それ以上にその修復具合に驚いていた。彼が思っていた以上の変わり映えだった・・・

「こ、これは?」
「ああ、加護ちゃんの言った納期まで待って貰えれば、純正部品でそれこそ元通りになるが・・・今すぐにでも車に乗りたいというのならば、今、仮組しているその状態で塗装を始めて、乾燥後にでも君に引き渡すけど。」

ぴーは仮組されているJZX100マーク2の変貌ぶりにしばらく驚き、その場に佇んだ・・・しばらく考え込んだ後、早くにチームに戻りたいという思いが勝ったのか?そのまま組み付けと塗装を黒に依頼すると、ぴーは家に帰っていった。黒はそのまま作業に入り、そのうち紗耶香が六甲から帰還すると、彼女を出迎えた。
ブゥアアアアン、キキキッ

「いつもよりも時間が掛かったな・・・じっくりと走り込んだみたいだね?」
「そうですね。ところで、今日思ったんですけど・・・表六甲ではバトルする事ってあるんですか?」

紗耶香は今回のテストランで表六甲から頂上を目指していたときにずっとその事を思っていた。そして過去に表でバトルがあったかどうかを黒に聞いてみようと思っていた。

「さすがにそれは聞いたことがないよ。あそこは有料道路だし、対向車も東西六甲の県16(県道16号線)よりも対向車と出くわす確率が高い・・・表を下るとなると生半可な度胸じゃバトルにはならないだろう・・・距離は東西よりも短いが、勾配は六甲のコースの中では最もあるし、仮にバトルとなったら・・・」
「バトルになったら・・・?」
「挑戦されたら受ける気なのか?」

紗耶香は黒の問いかけに軽く頷いた。彼はそんな彼女をみてこれは飛んでも無いことを言い出し始めたなと紗耶香を見ながら思った。そして、紗耶香は一通り今回消化したテストプランを口頭で黒に伝えると、そのままHSWを後にした。

「やれやれ、休み明けにまたBD・・・じゃない、燃量調整(燃調)をいじらないといけないかな・・・六甲でも表は高低差もかなりあるしなぁ・・・」

黒はそうぼやきながら再びAE111レビンの隣に置かれているぴーの車の仕上げに入った。それから数時間後・・・K市は日曜日と言う事と、学校が夏休みに入った事もあり、どこの店も、観光スポットも賑わっていた。梨華はその混雑を避けるようにして知人が働いている六甲山の牧場へと車を走らせていた。

「え〜と、もう少し下らないといけないんだっけぇ?」

ブゥウウウウ
梨華は六甲山牧場を目指し、一路入り口へと向かうが、その背後から何やら不穏な空気を漂わす一台の車が接近してくる・・・
ボァアアアアアアアア
「ヒメヨさんっ、もしかして前の車が例のGT-Rに勝ったって言う軽自動車じゃないっすか?」

ヒメヨは助手席に座っている男がそう言ったのに答えながら前方を走る軽自動車を凝視した。

「オプティー・・・だな?間違いねぇ、おい、早速挑戦だ!上りだったら断然こっちのS13型シルビアの方が有利だからな!おし、ベルトしっかり付けとけよレンズ!」

カチャッ
レンズと呼ばれた男はベルトを付けていることを確認すると、あまり気が乗らない態度でヒメヨに話しかけた。

「しかし、自分はあんま気が進みませんよ。どう考えたってターボが付いているこっちの車の方が有利だし、勝つじゃないですか!?」

ヒメヨはそう言われると少し機嫌悪そうに返事をした。

「あ〜ん?ここは一応、西六甲だろ?昼間であろうと勝ちゃ良いんだよ、勝ちゃあ!」

ボァアアアア、パシュッ!、ボォオオオオオ
そう言うとヒメヨはアクセルを踏み込み前を行く梨華の車の背後にベッタリと付けて煽りながら走り始めた!
ブォオオオオオオオ

「えっ、何?この車は・・・・」

梨華は急接近してきたヒメヨのS13シルビアの轟音とその動きをバックミラーで確認すると驚きを隠せなかった。ヒメヨは梨華に迫ると、更に車を接近させて「煽り」に入った。

「おらおらおらっ!挑戦に乗ってこいよっ、お前の真の力ってのを見せて見なぁってんだ!」

ギュキキキッ
梨華は背後に迫ってきたガラの悪い走り屋の煽りに徐々に恐怖を覚えながらひとまず牧場入り口まで車を走らせる。
ブァオアアアアアアアア

「おおらおらっ!摩耶最速、そしてテンペストのヒメヨ様がきてんだぜぇ、そんなに逃げちゃぁいけないだろっ!これ以上ベイのサル共やスカしたサザンクロスの連中になめられたらたまんねぇからなぁ!!!」

ブボァアアアアアア

「ちょっと、何でそんなことをしてくるんですかぁ・・・あっ、入り口だぁ!」

キキッ、ブゥウウウウウ
梨華は半分泣いた様な声を上げてヒメヨの暴挙を嫌がったが、牧場入り口に着いた梨華はそのまま西六甲を下らずに、牧場の方へ入った。

「ちぃっ!逃げやがったか・・・おい、あいつのナンバーは控えたな!?」
「はい、メモりましたけど・・・」
「よし、うちのメンバーにそれを告知しろ。何としてもあの軽自動車をバトルに引きづり出してぶっちぎってやる。そしてサザンクロスとベイウインズの連中に摩耶テンペストの存在を知らしめてやるぜっ!」

ボァアアアアアア、パシュッ、ボォアアアアア
ヒメヨはレンズが梨華のオプティーのナンバーを控えたことを確認すると、牧場内には入らずにそのまま西六甲を下っていった。

「あっ、梨華ちゃん!」
「あさみちゃん・・・ちょっと聞いてよぉ!」

梨華は六甲山牧場に着くとすぐに、牧場で働く友人のあさみの元に掛けより、先程の挑戦的な車について話し始めた。

「なるほどねぇ、またあいつらね?」
「あいつって・・・知ってるの?」
「まあ、知らないことは無いけどね。」
「あら?いらっしゃい。」
「あっ、りんねさ〜ん。」
「ちょっと話が聞こえたんだけど、その車ってテンペストね!」

あさみが梨華と会話をしていると、その様子を見つけたりんねが話に入り、テンペストについて梨華に話し始めた。

「そこの摩耶山って山に集まる走り屋の集まりで、昼だろうと夜だろうと摩耶を昇ったり降りたりしてうるさいんだよね〜」
「えっ、昼間からですかぁ?それは危ないですよっ!!」
「だから危険な連中なのよ・・・うるさいから時々ね、牧場の動物も落ち着かないみたいで困ってるんだ」

りんねとあさみが話す摩耶テンペストのもたらす弊害を聞いていくうちに梨華はぴーがまとめるベイウインズやシカミの属するサザンクロスは回りに迷惑を掛けないだけまともな集団なのだと少し思いつつ、テンペストを何とかしないといけないのでは無いかと言う思いにも駆られていった・・・