眩しい日差しが照りつける。と、ある夏の1日・・・


「さすがにいざとなると電話を掛ける勇気ってのもいるんだな・・・どうしたのものか・・・」

サザンクロスのメンバーであるシカミは部屋から見える人の往来を眺めながらも何やら考え込んでいた。彼は昨日の西六甲でのフリーランと貴のバトルを見届けて自室に戻ってきてからも梨華に電話を掛けるか否かを考えていた・・・結局、答えが出ないまま朝を迎えてしまい、午前中の日差しが眩しくなってきたこの時間帯でも未だに結論を出せていなかった。

「って、こんな事ばかりしている場合でも無いな・・・明日は丸さんと昨日の西六甲のコースデータを踏まえてミーティングがあるしな。こうなったら勢いだ!」

彼は自分を奮い立たせるように念じると、携帯電話を手にしてのたくから強引に聞き出した梨華の携帯電話の番号に電話した。何度か呼び出し音が鳴ると牧場の駐車場に車を止めた梨華がまもなく応答した。

「もしもし、石川ですけど・・・」
「あっ、あの、オレこの間、ろ、六甲山でお会いした・・・」
「えっ、あっ!あの時の白い車の人ですかぁ?」

梨華は少し驚きながらも答えたが、その驚き方は悪い方での驚き方ではなかった様なので、ひとまずシカミは安心した。が、しかし、彼にとっての問題はここからどういう風に話を切りだすかだった・・・

「あっ、オレ・・・シカミって言います。今日はその・・・」

ひとまず梨華に以前言いそびれた自分の名前をうち明けると、ぎこちなさそうに話し出したが、梨華はシカミに口を挟むように話し出した。

「丁度良かった! あの・・・ちょっと相談したいことがあるんです。この間、車で六甲の牧場まで行ったんですけど、その時に音がうるさい変な車に後ろから煽られたんですよ・・・牧場にいる人に聞いたらテンペストって人たちが悪いって聞いたので、その事を聞きたいと思っているんですけど。」
「テンペスト?(何で奴らが梨華ちゃんを狙うんだ?)」
「私も恐い思いをさせられて・・・」
「(例の軽自動車の噂でテンペストが動いているのは知ってるけど、こんな所にまで悪さをするとは)とにかく、しばらくは六甲に行くことを控えた方が良いと思うけど。奴らはあの周辺にいるから。」
「でも・・・六甲山からの景色って私は好きなんですよね・・・」

シカミはこれは自分をアピールするチャンスとばかりに梨華に言った。

「それなら今度行く時俺も一緒に行くよ!(う、うまいタイミングだぁ!)」
「えっ、良いんですか?迷惑じゃあ・・・」
「いや、大丈夫だよ!(仮に用事があってもそれを蹴る!)なんなら・・・そうだ!今週の土曜の夕方から六甲に出掛けるからその時にでも・・・」
「わかりました!じゃあ、また連絡しますね!」
「あっ、じゃあ、また・・・(ピッ)ふぅ〜っ」

シカミは梨華との会話を終えるとホッと肩を撫で下ろした。

「しかし・・・摩耶テンペスト。あいつらとの直接対決も避けられないな!丸さんが誰を選んでヒメヨに当てるかは分からないけど、出来ることならオレが仕留めたいよ。」

彼はそう言いながらも足取り軽く洗面所へと向かっていき、そのまま身だしなみを整えると彼はSXE10アルテッツァに乗り込みK市の中心部へと出掛けた。

「やれやれ、これでひとまずアライメントの狂いは直せたみたいですね?」
「そうやなぁ・・・これで少しは真っ直ぐ走ると思うで。」

はーりーとのたくは休日のガソリンスタンドのピットでみちゅうに指摘されたFC3のアライメントを調節し、やっとの事で調整が終わった。彼らは土曜日に車を走らせた次の日の日曜は勤務先であるガソリンスタンドでタイヤ交換などをやることが多く、彼らの作業があるときは店長のみちゅうも駆り出されてしまう。

「やれやれ、好きだねぇ・・・休みの日まで仕事場に来て車いじりとは。せっかくの夏で、しかも仕事が休みなんだから少しは青春しないと!」

みちゅうはそう言いながらGSの向かいにあるパチンコ店から機嫌良く帰ってくると、汗だくになってピットで作業をしていたはーりーとのたくに差し入れのジュースを渡した。どうやら今回も「出」が良かったらしい・・・

「あっ、すいません。ところで、店長。西六甲でGT-Rに勝った軽自動車がいるらしいんですけど・・・しかもその車が梨華ちゃんと同じ緑のオプティーらしんですけど・・・どうなんですかねぇ?実際にあり得るんですか?」

プシュッ
のたくはみちゅうから受け取ったジュースを飲みながら昨日の一件を話し始めた。みちゅうは少し考えたような素振りをみせた後、のたくに言った。

「う〜ん、俄(にわか)に信じられない話だけど、あり得ないことも無いな。しかし、軽自動車の高速コーナリングは本当に難しい!あまり横Gが掛かるとコーナーリングどころじゃなくなるからな・・・その車体重量が故に、急激な横Gが掛かると間違いなく転倒する。それに、軽自動車のタイヤは12〜13インチが多い。最近は15インチなんかも出回ってきたけど、梨華ちゃんと同じ車ならば13インチだろうな・・・」
「ほな、やっぱり限界は低いんですよね?じゃあ、そんなんで勝ったドライバーって言ったら・・・」

カコンッ
みちゅうは持っていたジュースを飲み干し、空き缶をGS構内にあるゴミ箱に上手い具合に投げ入れて一息つくと、のたくに言った。

「まあ、彼女しかいないな・・・こんな芸当が出来るのは。何があったかは知らないが、恐らく梨華ちゃんに代わって運転したんだろう。相手がまあヘボで、尚かつノーマルのGT-Rだから勝てたと言うのもあるとは思うけど、それを差し引いても凄すぎる!限界がどん底って言えるくらいの軽自動車で西を下った訳だからね・・・(これはとんでもないレベルだよ黒さん!正直言ってこのまま山で走らせるのは勿体ない位のレベルだぜ・・・)」

みちゅうは燦々と照る夏の日差しと、雲も少ない夏の空を見上げながら紗耶香の恐るべき潜在能力にただ驚くだけだった。