ブァアアアアアアアアアア

「おおっ!ベイウインズが来たぞ!!」

すでに西六甲に集ったギャラリー達はぴー達ベイウインズ主要メンバーがスタート地点のある頂上バス停に上ってきたのを見てざわめき始めた。ベイウインズのその他のメンバーと、サザンクロスから数名のメンバーが西六甲のブラインドコーナー(対向車の死角になるやや視界が悪いコーナー)にそれぞれドライバーに路面状況と対向車の有無を知らせるオフィシャルを配置し、いよいよ東西六甲の交流戦が始まろうとしていた・・・

「しかし、ぴーさんのマーク2が、まさかこんな形で戻ってくるとは・・・
アイディアは正に日産車定番の顔面スワップですね!トヨタ車でも出来るとは意外でしたけど・・・」

はーりーはFCを適当な場所に止めると、復活したばかりのぴーのJZX100マーク2をみて半分呆れ口調で言った。

「まぁ、純正部品があまり出回っていないらしいし、納期もそんなに長いこと待てんからなぁ・・・ひとまずこのJZX100チェイク2で!」

ぴーはそんなはーりーに言い訳するようにそう答えた。基本的にこの顔面スワップと言う技は、車台(シャーシ)が同じ「兄弟車」と言われる類では良く使われる板金法でもある。有名なのは日産の180SXで、この車はS13型シルビアと同じボディー構造の為、加工を加えることなく前周りを付け替える(顔面スワップ)技が出来る。そうして出来た車はシルビアと180SXを掛けてシルエイティーと呼ばれているし、逆のパターンでS13シルビアに180SXのフロントマスクをスワップしたワンビアなどと言う物もある。
そしてトヨタのマーク2、チェイサーも同様に、この2台は車台が同じな為、同系統、例えば、今回のぴーのケースで言うならば、JZX100のマーク2にJZX100チェイサーの顔を付けることも可能である。こうしてぴーの車はチェイク2として再び、六甲に帰ってきたのだ。

「ところで、のたくさん。あのアルテッツァの件って市井ちゃんに話しました?」

はーりーはふと思い出したようにしてのたくに以前シカミが紗耶香とのバトルを申し込みに来た件を紗耶香に伝えたかを尋ねてみた。

「あっ、オレ、てっきりはーりーさんが伝えたもんだろうと思って、みちゅ・・・いや、店長とパチスロでサバチャン狙いばっか今週は狙っていたんで、すっかり忘れていた・・・」
「ちょ、ちょっと、まずいんじゃないですか?それは・・・」

二人はシカミの頼まれ事をすっかり忘れて紗耶香にバトルの件を伝えていなかったことを今頃になって思い出して(汗笑)な状態になっていた・・・

「ふっ、これで役者は揃ったな?」

ぴー、はーりー、のたく、圭の元にサザンクロスのメンバーである貴が近づいてきた。圭はこの交流戦にサザンクロスのリーダーである丸政と主力のシカミが来ていないのにも関わらず、役者が揃ったなどと言う貴の言動が引っかかり、その事を深く聞いてみた。

「揃ったっても、そっちの主要メンバーはまだ来ていないようだけど・・・?しかも今日はS14前期型も乗っていないみたいだし?」

圭は丸政、シカミらのサザンクロス主力が見あたらないのと、彼らに匹敵する発言力を持っている貴が車に乗ってきていない事をやや不思議に思い貴にその事を尋ねてみた。貴は圭の問いかけに対してすぐさま答えた。

「いや、今回、丸さんは西六甲には来ない。ただ、シカミさんは来ていたはずだが・・・(どこに行ったんだ?そういや、ゾロ目とのバトルの約束していたような気がするけど・・・どうするんだよ?シカミさんがいない時にやって来ても今日はオレ車持ってきていないし・・・勝負になんねえよ)まあ、今日はこちらの2軍メンバーと団体戦形式で勝負ってのはどうかな?」
「2軍!?」

圭は貴の提案したサザンクロスの2軍との団体戦バトルに驚くのと同時に、
明らかにベイウインズを低く見ているような対戦形式に腹が立った。
しかしながら、2軍といえどもサザンクロスのレベルは高く、現在のベイウインズでも2軍に勝つことは容易でないことも彼女は知っていた・・・

「おい、あんた!2軍とバトルだと!?なめるのもいい加減にしろ!」
「待って!」

はーりーは圭と同じようにベイウインズをなめている様な貴の提案に怒りをあらわにして喰い掛かったが、圭は血気にはやる彼を制するように止め、はーりーの腕を掴んで貴に返事をした。

「分かったわ、私はその条件でも走るよ!」
「ちょ、ちょっと、なんで!」
「いいから、こっちに来て・・・」

圭はひとまず自分の意志を貴に告げると苛立っているはーりーの腕を引っ張ってバス停のベンチに座っていたぴーとのたくの元に連れて行き、彼らに言った。

「確かにこれは私たちに対するハンデ戦と読んで間違いないね・・・けど、私は逆に向こうに一泡吹かせる為にもここは相手の条件を呑むべきだと思う。」

ぴーは圭の意見を聞いてベンチから立ち上がると、のたくとはーりーの肩を軽く叩いて圭に返事をした。

「そうやな、オレらは西が地元やからな。相手がなめて掛かってきたんなら、返り討ちにしてやるのが常やろ?」
「さすがはベイウインズのリーダーね。そうこなくっちゃ!」

圭はぴーの強攻策に同感だった。相手がどうあれ地元で勝負を挑まれた以上は逃げると言う行為は不戦敗以上に屈辱的な事である。ぴーはさすがにチームに対するわだかまりや圭との和解を経て人間的に少しは成長したようにも圭やのたく、はーりーには思えた。

「よし、まずはオレが先鋒で走る!次はのたく君で以後、圭ちゃん、はーりーさんで奴らに挑むで!!」

「(なんでオレがトリなんだろ?ま、いいか・・・って、勝てるか?)」

ガチャッ
ぴーはそのまま貴にバトルの受け入れを申し出ると、貴は待機しているサザンクロス2軍チームにバトル開始を伝え、山頂バス停付近では4対4のダウンヒル団体戦が始まろうとしていた・・・両チームの精鋭達がそれぞれの車のアクセルを煽り、エンジンを回し始める。そしてそのエキゾーストは頂上バス停から少し下ったところにある表六甲、鉢巻展望台にも響いていた。
バァアアアアン、ブァアアアアアン、ボァアアアアア

「そうだったんだ・・・それは大変だったね。でも、それは東西六甲の走り屋じゃなくて摩耶(まや)の走り屋だと思うよ。摩耶テンペストって言うたちの悪い走り屋集団がいるからね、あそこは。ベイウインズのメンバーは梨華ちゃんとは知り合いなわけだし、オレがいるサザンクロスはまず一般道でノーマルな車を煽ったりとかって事は禁止されているし、する奴もいないよ。」

展望台の駐車場からK市を見渡しながらシカミは紗耶香が梨華の代理で走った西六甲での32GT-Rとのバトル以後、梨華がテンペストの走り屋と思われる車から何度か煽られたりして恐怖を覚えていると言う相談に答えていた。

「そうですかぁ・・・でも、シカミさんの口添えでもう心配することは無いんですよね? 実は、私の先輩があの時はちょっと腹が立っていたみたいで、私の車でその腹立つ車を追っていったんですよ。ジェットコースター見たいなスピードで駆け抜けていって・・・初めはちょっと怖かったけど、何かだんだん慣れてきて不思議な感じでしたけどね。」

梨華は微笑みながらそう答えると、シカミは彼女のその笑顔に少し緊張してしまったが、取りあえず梨華がとんでもない走り屋で無かったことにまずはホッとした。

「(なるほどな・・・彼女が別に走った訳じゃ無かったんだ。まあ出来ることなら彼女には安全に走って貰いたいよ)」

頂上で交流戦が勃発している中で、シカミはしばしいい気分に浸っていたが、そんな彼と梨華の後方で、展望台の植え込みに上手い具合に隠れるようにしてゾロ目(AE111レビン)を止めた紗耶香は初め、そのまま梨華達の元へ駆け寄ろうと思ったが、遠目に見てちょっと近寄りがたくなり何故か物陰に隠れるようにして梨華達を見ていた・・・

「何故かバッグに入っていたシャオを使ってフォーカスしておこうかな?あっ、でもフラッシュがオートだからダメか・・・って、なんでこんな事しているんだろう?でもまあ、タイミングを計って接近したいけど、どうもタイミングが・・・何か空気が「ありゃりゃで初デート」って感じにも見えるしねぇ。しかし、よりによって何も上(頂上)でバトルやろうかって時にここに来なくてもねぇ。ホント、ドライブなんてグッドタイミング、こんな日もあるのねえ?ってな状況だわ。(まあ、悪いタイミングだけど・・・)」

紗耶香はそう言いながら、近づこうにも近寄れない状況を少し楽しみながら遠目に梨華達を見ていた。と、そこに何者かがこそこそと匍匐前進で紗耶香に話しかけながら近寄ってきた。
ガサガサッ

「いやいや、今日の交流戦の情報を入手しようとやって来たらこんな物に出会うとは・・・」
「ちょ、ちょっと!?あんた誰よ!?」
「あ、申し遅れました。テンペストの情報屋、レンズって言います。以後、お見知り置きを・・・そんな事よか、こんなスキャンダラスな場面に遭遇するとは思ってもみませんでしたね。」

レンズはおもむろにシカミ達の様子をメモりながら、現場を押さえようと持っていたカバンから何やらカメラを探している様だ。その様子を見て紗耶香は情報屋というよりもレンズは単なるパパラッチの様に思えてきた。


「ところで、その先輩って・・・もしかすると最近噂になっている西六甲のゾロ目なんじゃあ・・・?」

シカミは軽自動車で大排気量の車に勝った等という常識はずれな事をしでかすのはゾロ目で常識はずれな技を繰り出したドライバーと同一人物ではないかと思い、梨華に聞いてみた。

「えっ、なんですか・・・そのゾロ目って?」
「(アラッ)し、知らないんだったら良いよ。いや、何となくその車を運転する人と同じ人が梨華ちゃんの軽自動車に乗ったんじゃないかなって思ってさ。」

シカミは「はずした」かと思いながら苦笑していたが、ゾロ目との対決を思い出すと梨華にその事を語り始めた。

「実は、そのゾロ目に乗っているドライバーは女の子で、今や六甲最速じゃないかって言われているんだ。この後、頂上にその車が現れるはずだから、今夜そのゾロ目とここの下りで勝負するんだよ。」
「えっ、六甲を下るんですか?危ないですよ・・・」

紗耶香とレンズは物陰に隠れながらシカミの発言を聞いていたが、紗耶香自身は全くバトルの件など知る由もなかった。と言うか、今になってその事実を知り、ちょっと驚いていた。対して、レンズは思わぬ収穫に加えてさらなる情報源が出たことに非常に興味を持った。

「おおっ!ゾロ目のバトルがあるのか!?これは凄い!凄すぎる!!ヒメヨさんにとってはまさにタイムリーな話題だ!!」
「一体どうなってるのよ? そんな話なんて私は聞いていないって・・・でも、何かこのまま石川たちを放っておくと何か色々とクレームが付きそうね(謎)そろそろ出ていこう・・・・」
「あ、ちょっ、ちょっと!まだタイミングが早いって!!(ってか、クレームが付きそうって・・・誰に話しかけてるんだ?)」

レンズは駐車場に出ていこうとする紗耶香を止めようとしたが、彼女はお構いなし移動し始める。
ガサガサッ!

「わぁっ!?」

紗耶香はレンズといた場所から静かに立ち上がって梨華達の元へ近づこうとしたが、不覚にも足下にある石につまずいてしまい植え込みに覆い被さるように転んでしまった・・・当然の事ながら転んだ際の紗耶香の叫びと、転倒した時の音で梨華とシカミは紗耶香の存在に気づいた。

「市井さん?何でここにいるんですかぁ・・・?」

梨華と目が合い、もう適当な言い訳も出来ない状況に追い込まれた紗耶香はどうやって梨華達に言葉を切り返そうか迷っていた。正直言って、かなり気まずかった・・・