「(まずいなぁ、今の私の立場は明らかに不利だし、正直これって覗きだし。。ねぇ・・・ん?待てよ!)」

紗耶香は梨華のとの目線を逸らしてふと植え込みの横に止めてあったレビンを見て、シカミが梨華に言っていたことを思い出して、少し開き直ったように梨華とシカミに言った。

「あ、いや、今日はその・・・バトルの約束があったしね(本当は全然知らなかったけど)、ここに来るまえに頂上のバス停に行ったらね、あなたがここにいるって言うもんだから、ここに来たんだけど、もしかしたら・・・ほら、人違いだったらどうしようって不安もあったから声を掛けずらかったのよ。」
「(でも、オレはチームのメンバーにもこの展望台の駐車場にいるって伝えても無かったけど、ま、本人がお出ましならば、捜す手間も省けたか)って事は君がゾロ目のドライバー?」
「そ、そうなんですよ。(取りあえず、これでつじつまは合ったね。後は・・・バトルか)」

シカミは紗耶香がゾロ目のドライバーで、自分を捜しにここに来たと言うことを感じると、駐車場に止めているSXE10アルテッツァに乗り込みエンジンを
掛けた。梨華は心配そうな感じで紗耶香に言った。
キキキキッ、ブァアアアン

「市井さんが今六甲で有名なゾロ目だったんですか?」
「えっ、まあ自分も知らないうちにそうなってしまったみたいね・・・(本当に知らないうちだけどね)」
「今から、シカミさんと走るんですか?」
「対戦を申し込まれたんだから逃げるわけには行かないよ! 圭ちゃんが走り屋ってのは挑戦されたら受けないといけないって言っていたしね。(本当はあまり気が乗らないけど、こうでもしとかないとこのちょこっと緊張した状況からは逃げられないよ・・・)あちらは準備万端って感じだから、私も行くよ!西は今、ぴーさん達が何か走っているみたいだから、石川は東六甲か私たちが下った後の表六甲を下って行って。」

バァアアアン
紗耶香はそう言うとレビンに乗り込みライトを点灯させ、エンジンを掛けた。シカミは紗耶香の行動を見ながらも、西六甲で貴がベイウインズとの交流戦を仕掛けている以上はバトルの場所はこの表六甲しか無いと思っていた。

「予定が少し狂ったな。西は今この状態じゃあ走りの最中だろうし、かと言ってゾロ目をオレのホームグラウンドである東六甲に連れ込むわけにも行かない・・・サザンクロスの流儀はあえて自分に不利なアウェイ(敵地)で走る事だからな。六甲にある4つのコース中で、誤魔化しのきかないコースでもあり、尚かつ、その急勾配は下りだと半端な度胸じゃ下りきれない!距離が短いのが救いだけどな・・・」

紗耶香は適当にエンジンを回した後、シカミのSXE10アルテッツァにゾロ目を近づけ、助手席側の窓を開けてシカミに話しかけた。シカミも紗耶香の話に耳を肩向けるために運転席側のウインドーを下ろした。

「カウントはどうするんですか?さすがに石川にやってもらうのは無理だと思いますよ。」
「そうだな。ならば、ここからそのまま出よう。丁度うまいぐあいにお互い横に2台並んでいるからな。このまま駐車場の出口までスローペースで出て、出口の「六甲09」ヘアピンコーナーを回る所から全開走行で、料金所へ向かうトンネルの手前にある待避所でゴール・・・これでどうかな?オフィシャルはいないから対向車に対しては常にその存在を意識しないといけないぞ!スタートはお互いの時計が10時指したときにスタートだ。」
「はい!」

バァアアアン、バァアアアアアアアン
紗耶香は頷くと、助手席側のウインドーを上げ、再び数回アクセルを煽った。シカミは紗耶香が自分の言ったことを理解したと思うと自分もウインドーを上げてアクセルを煽り始めた。
ブァアアアン、ブァアアアアアアアン

「二人とも走るのは良いけど、事故だけには気を付けてくださいね・・・」

梨華は紗耶香とシカミの無事を祈るように2台の車を眺めていた。そして、2台の車の時計が9時59分から、10時になった時、一斉にスタートした!

「こ、これは凄いことになったぞ!!って、ちょい場所を変えよう・・・」

レンズは走り出した2台の車をやや興奮気味で追うようにして物陰から場所を変えた。紗耶香、シカミ共にゆっくりと駐車場の出口を出て表六甲有料道路へと出る。ポジションはシカミがやや紗耶香のゾロ目の頭を抑える形になっており、2台は指定の場所「六甲09」ヘアピンへと差し掛かろうとしていた。

「さてと、ここを曲がりきったらスタートとは言え、ここを如何に速く曲がるかでスタートダッシュは決まるんだ。」

ガタッ、グィッ、ガタッ!
キュウキキキッ!
シカミはそう言うと、駐車場から車道に出た瞬間からアクセルを踏み込み、ギアを加速して一気に「六甲09」ヘアピンに飛び込んだ!アルテッツァも
紗耶香が乗るレビンも同じノンアスピレーション(NA)のマシンでその独特の甲高いエキゾーストと、非常にナチュラルな吹き上がりのサウンドが周囲にこだまする。
バァアアアアアアア、キュキッ、ドギャキャキキキッ

「くっ、さすがに六甲のカリスマチームって言うだけに表も少しは知っている!?よ〜し、こっちも!!」

ガタッ、グッ!、ガタッ!!
ブァアアアアアアアアアアア
紗耶香も負けじとギアを加速させ、シカミ同様に思いっきりヘアピンに飛び込んだ。さすがに2台ともその有料道路と言う特異な環境の中で走るためか、対向車を意識したコーナーリングでセンターラインからあまり車を出さないようにして曲がっていく。シカミはセンターラインを割らないドリフトで曲がり、対する紗耶香は車をドリフトのように滑らすことなくグリップ走行でタイヤのスキール音を響かせながら曲がってゆく。2台はコーナーを立ち上がるとヒールアンドトゥアクション独特の連続エキゾーストを響かせて次のコーナーまでのつなぎで、緩やかな「六甲10」コーナーをアクセル全開のまま駆け抜けて行く!表六甲は西六甲と比べて区間全体の距離が短く、勾配が急な為、加重移動のコントロールとブレーキングが肝となる。アンダーステアの強く、重量もある車では間違いなくブレーキがフェードを起こすかベーパーロックを起こしてしまいブレーキが先にダウンしてしまう・・・西六甲ではタイヤのグリップ配分を如何にして振り分けていくかが戦略上のカギとなってくるが、表六甲においてはそれ以上にブレーキングが重要になってくる。
ギュキキキキキキキキキ

「排気量はこちらの3Sエンジンが2000ccだから若干のアドバンテージはあるが、ここまでの急勾配だとパワーの差はあまり出ない・・・向こうも6速ミッションだし、互角の勝負か?」

「六甲11」コーナーを曲がってゆく。西六甲も同様だが、表六甲もコーナーのサインをドライバーに送る様にコーナー入り口のガードレール沿いに大きくはないが立て札が立っている。その位に六甲の勾配とコーナーはタイトである表れとも言える。

「やっぱりあっちは車が大きいだけあってこの位のコーナーだったらパワーの違いを思い知らされるわ・・・」

バァアアアアアアアア
紗耶香は中速コーナーでシカミに離されながらも、SXE10アルテッツァの戦闘能力の特性をおぼろげながらも分析しつつ、シカミの後を追っていく。2台はそのまま「六甲14」コーナーへと飛び込む。

「さすがにそう簡単に引き離せないか・・・」

ブァアアアアアン、ドギュキキキイキキキキャ
シカミはバックミラーに映る紗耶香のゾロ目の動向を伺いながらもクラッチを蹴り込みギアをニュートラルにチェンジ!右足つま先でブレーキを踏み込み、かかとでアクセルを踏み込む!タコメーター(回転計)が6000回転まで上げるとギアを6速から半分の3速に落として車に急激な加重移動をもたらし、フロントに加重が移っている事を体で感じるとそこでステアリングを右に大きく曲げる!アルテッツァはコーナー入り口から綺麗にドリフト状態で突入すると、その姿勢を維持しながら「六甲14」を抜けていった。

「鮮やかなコーナリング!圭ちゃんもそうだったけど・・・すごい。」

紗耶香もシカミに食らいつくようにセンターラインを僅かにオーバーしつつ、限界コーナリングでコーナーをかわしていく!
ゴワァキャキャキャキキキィ!

ボァアアアアア
「やべ、もう西六甲の交流戦バトル始まってるやんけ!急がないと・・・らんちゃん、もっと飛ばせへんのかいな・・・?」
「飛ばせって言われても・・・この急勾配じゃあいくらレガシーでもそんなに速く走れませんよ・・・」
「う〜ん、この様子だとぴーさん達のバトルは見れへんなぁ。」
「朴さん、まだ、終わっていないですよ。」
「いや、終わってるでぇ。何せ相手が相手やし、ぴーさんの腕ならまた事故ってるやろうしなぁ。」

ぴーをからかいに六甲でのバトルを見学に来た朴は後輩のRAMPに車を出させ、バトルが行われようとしている西六甲を目指すため表六甲を登っていた。そして、彼らはには表六甲で始まった紗耶香とシカミのバトルの事など知る事もなく頂上を目指して車を加速させていった・・・