紗耶香とシカミのバトルが表六甲で始まっていた頃、西六甲ではベイウインズ対サザンクロス2軍選抜の団体戦バトルが行われ、白熱した展開にギャラリー達も熱くならざるを得なかった。当初、ギャラリーの多くはベイウインズの負けはほぼ確定と見込んでいたが、意外な展開に驚きながらもバトルに釘付けになっていた。ゴール地点にいた武蔵もさすがに今日は「放置」キャラではなくてオフィシャルとしてベイウインズを支え、ストップウォッチを手にして今か今かとゴールに向かってくる車を待ち望んでいた。

「これで勝てば・・・」

そう言いながら武蔵は徐々に大きくなってくる車のエキゾーストに耳を傾けながらゴール地点の植物公園バス停に立っていた。やがてライトの光がゴール周辺にいたギャラリーを照らし、激しいスキール音を起てながらコーナーを突っ切り、ゴール前の直線を突っ切ってきた。
ギュィキキキキキッ

やがて興奮し気味でバトルの結果を伺う武蔵の前を圭のS14シルビアが颯爽と駆け抜けていく!

「よっしゃ!これで1勝1敗1引き分けでサザンクロスにならんだぞ!」

さすがに紗耶香、貴と言った名の知れたドライバーと争った圭にとっては2軍選抜のドライバーなど敵では無く圧倒的な大差で勝利する。タイムは紗耶香との対決時よりもやや劣るものの、それでもベイウインズの主力ではトップのタイムを記録した!

「あっ、もしもし、ぴーさん? これでサザンクロス2軍と並びましたよ! 
後は・・・はーりーさんだけです!これに勝てば・・・」
「まあ、そんなに興奮するなよ、たけしゃん。こっちがまあ何とか引き分け、
のたく君も惜しかったけど僅差で負けてもうて、圭ちゃんで勝ちか・・・
(って、言うか彼女にとって見れば五分の力で勝ったようなものかな?)また後で連絡する。」

ぴーはそう言ってたけしゃんに報告を聞き携帯電話を切ると、団体戦のトリを務め、すでにスタートライン上にFCを着け、スタンバイをしているはーりーの元へと近寄った。ぴーが近寄ってきたのを見るとはーりーはウインドーを下ろしてぴーの方を見た。
ブォオオオオオオ

「たのむで、このバトルの勝敗は君にかかってる!」
「さすがにいつになくマジですね・・・果たして上手い具合に行きますかねぇ・・・相手は33スカイラインでしょ?」
「33か・・・まぁ、パワーは五分五分やん、たのんだで!」

ぴーはそう言ってはーりーの肩を軽く叩くと、スタートの準備をするためにゴール地点にいるメンバーと携帯電話で連絡を取り合った。

「向こうの33の方がパワーあるけどね。まぁ、やるしかないな・・・」

はーりーはそう言うと息を大きく吸い込んで吐き出す動作をスタートまで何度も繰り返していた。
ちなみに33スカイラインは平成6年から登場した32型スカイラインの後継機で、ボディーが32型と比べて大きくなったのと、それに伴うエンジンの排気量アップ(32は2000ccで33は2500cc)が特徴の車だが、コストダウンと部品の共有化から同じ日産のローレル、セフィーロと同系統にシフトされたため32型と比べてのっぺりとした顔立ちになり、さらにはボディーの大型化に伴う重量増と言った弱点も抱えたために売れ行きは芳しくなく、不人気な型となってしまった不運なモデルである。当然の事ながら走りのRことGT−RでもR33型スカイラインGT−Rも登場したが、こちらもやはり人気は振るわず、32型GT−Rの売り上げを凌ぐことはできなかった・・・しかしながら、32で抱えていたハンドリング(旋回性)などの強化も施されていたのも事実であり、ちゃんとパワーアップはされていた。そう言う点ではこの33型スカイラインは不運な車とも言える。

「(まさかな・・・レベルが低いとされていたベイウインズがここまでやるとは思ってもみなかった。)」
「あの、私で・・・大丈夫なんでしょうかぁ?」

次のバトルに参加するサザンクロスの女性ドライバーはやや自身無さそうに、いや、なにやら自分に自信を持てないような素振りで貴に話しかけてきた。

「まあ、オレは正直言って丸さんやシカミさんほど偉くはないからよく知らないが、紺野に舞台を踏ませたいって丸さんが選抜に持ってきたわけだ。もっと自分に自身を持てって。気楽に行けよ・・・何もはじめから結果は求めやしない。」
「は、はいっ!」

紺野あさ美、サザンクロスでは最も新しいメンバーであり、半端な実力では加入することも出来ないサザンクロスに入った走り屋である。サザンクロスは2軍でもかなりの実力を持つドライバーが多いが、チーム内の1軍と2軍の壁はかなり厚く、また常時入れ替え戦を行ってドライバーの危機感を煽る為に一つのチャンスも「もの」にするかしないかで今後の行方が決まってしまう程にシビアな面がある。それ故にガチガチに緊張するあさ美を気遣う様にして貴はバトルの準備を進めた。

「それで良いって・・・よ〜し、カウントいくぞ!」

貴はあさ美を軽く励ますと、早速スタートラインに立って、カウントの合図を取る。それを見たはーりーとあさ美は覚悟を決めて各々の車のアクセルを煽りはじめた・・・
ボァアアアアン、ブァアアアアアア、ボォアアアアアン

「少しでも上を目指さないと・・・」
「ん?33に乗っているのは女なのか!?っと、女だと思ってなめちゃヤバイな・・・なんせ市井ちゃんや圭ちゃんみたいなのもいるんだから全力で行かないと!」

はーりーはウインドー越しに見えたあさ美の姿にすこし戸惑ったが、貴のカウントダウンが始まると、西六甲下りの入り口を見つめて戦闘態勢に入った。

「2,1,ゴォッ〜〜〜〜!!!」

キキッキキキキッ!!

「くそっ!やっぱサザンクロスだ!!クラッチを繋ぐのが速いって!!!」

程なくスタートするとはーりーはあさ美にスタートで引き離されたが、それでも遅れながら懸命に追い上げていった。周囲のギャラリーには当然のスタート展開だったが、実力差があろうとも全力で引き離すあさ美と彼女に意地でも食らい付こうとするはーりーの走りに周囲はヒートアップしていった。


その頃、表六甲では「六甲17」コーナー地点で対向車を回避するのに手間取り、バックミラーから消えた紗耶香のゾロ目を少し気にしながらシカミは続く「六甲18」から急勾配のヘアピンへと突入しようとしていた。
バァアアアア

「対向車をやり過ごすのに手間取ったか?なるほど・・・何となく丸さんが言っていたことが分かった。あのレビンは明らかにバトルの経験不足だな・・・表六甲の最もテクニカルなこの18〜20のコーナー手前で大きく失速したのならば、もうゾロ目に勝ちはない!」

シカミは丸政が分析した紗耶香のデータを実戦で照らし合わせながら、ヒールアンドトゥを駆使してコーナーに突入する手前からドリフト状態にSXE10アルテッツァを持ち込んだ。
ブアアァン、ゴボァッ、ギュィキキキキキッ
あたりにアルテッツァの3Sエンジンの甲高いエキゾーストとブレーキが鳴く音、そしてタイヤのスキール音がこだました。一方、辛うじてリアを傾いてゆくシカミの車を視界に捕らえる位置まで追い上げた紗耶香は18コーナーを立ち上がると次の19コーナーへと向かう短い直線で大きく外側に出た。

「この僅かな直線区間から上手い具合にインへ寄せていって・・・上手くいけば19と20の急勾配180度コーナーをスピードを殺すことなく持ち込める!自分で言うくらいタダじゃないじゃない!?」

ドァギャギャギャギャッ
ステアリングをこじりながら徐々にイン側めい一杯まで寄せ、そこから更にイン側のガードレールへと紗耶香はレビンを寄せる。じりじりと道路の端にイン側のフロントタイヤを近づけ、感覚的に「ポイント」に来たと思うと、そのままフロントのタイヤを側溝に落とした!
ガタッ

「よし、いける!このまま・・・」

ゴワァアアアア
大きな音と共に左側のフロントタイヤをアスファルトに対してやや段差のある溝に乗せた紗耶香はそのままアクセルを踏み込んでヘアピンを立ち上がる!通常インベタと呼ばれるイン側めい一杯のラインでは絶対にグリップも持つことはないし、遠心力で外に飛ばされるGが発生するためにインベタでコーナーを曲がれるなどと言う事は無いしまずあり得ないが、紗耶香は溝の7〜10センチはあるだろう段差にタイヤを落とし込むとそのままのスピードを保ったままで、車速を殆ど殺すことなくコーナー曲がっていった・・・これは分かりやすく言えば、曲線を描くカタパルトにタイヤをはめて、そのカタパルトの加速を利用してシカミのドリフト以上の突入スピードを紗耶香は手に入れた訳である。紗耶香自身、思い付きでやってはみたものの、内心では正直言って一か八かの賭けであった・・・レビンと一体となった彼女の研ぎ澄まされた感覚とその途方もないドライビングセンスがまさに物を言って成功した様な物である。

「ふ〜ぅっ、何とか上手くいったみたいね。何となくタイミングは分かったわ!このまま次も・・・!」

ギュィキキキキ
大きなスキール音を周囲に響かせながら、そして正面と次の「六甲20」右ヘアピンのイン側にステアリングを切れば切るほど右側から掛かるGに耐えながら、再び現れた僅かな「つなぎの直線区間」でヒールアンドトゥと左足ブレーキでアンダーステアを殺しながらイン側に寄せていく。しかし、さすがに急勾配からの加速で減速もままならない!強い遠心力から来るGに反発しながらも懸命に紗耶香はステアリングをきる!

「お願い、曲がってっ!!!」

グィッ
バァアアアアアア!
紗耶香は何となく曲がれるとは思ったものの正直これは賭けでもあったため、伸るか反るかの大一番だと踏んで一気に突っ込んでいった・・・