キキキキキッ、キュィキキキキ
「ちくしょー!コーナーでは良く曲がるけど・・・直線のコントロールがぁ!アライメントも調整したのに!」
はーりーはコーナーこそ上手い具合にFCの特性を生かして相手についていけるものの、直線でやけに落ち着かないFCの「バタ」つきに困惑していた・・・
「FCって車はトヨタや日産といった大衆向けの車を作るメーカーと比べて特殊なのよ・・・トヨタ、日産は基本的にドライバーを信用していない。だからコーナーの限界をわざとデチューンして低くしているのよね。でも、FCは違う。トヨタでも日産の車でないマツダRX7はとにかくコーナーに対して良く曲がるわ・・・だけどその分直線でのコントロールがシビアになるけどね。あの車に乗る人間はまず直線での勝負なんて事を考えたらダメよ・・・如何にしてコーナーをクリアして、そして立ち上がりで落ち着かない足をどう和ませるか、そこが重要なのよ。」
「う〜ん、そう考えるとFCってのは相当なジャジャ馬だなぁ。」
圭はゴール地点ではーりーの到着を待つ武蔵にFC3、RX7の特徴を知っている限り語りながらこのトリのバトルの勝負の行方を案じていた。武蔵は圭の言ったことがもし正しければ、はーりーにとって相当な負担になっているのではないかと思いつつ、引き分けで良いからゴールをしてくれと願っていた。
「くそっ、マジでむかつく!コーナーでは明らかについていけるのに立ち上がりで挙動が乱れるから大きいロスになってしまう!!」
キキキキッ
はーりーは先行する33スカイラインを追うように走ってゆくが、バトルはいよいよ牧場前のコーナーセクションを抜け、4連ヘアピンの待つ最終セクションへと突入する。
シュゥイイイイイイ
RE13ロータリーエンジン独特な高音のみ効いたサウンドを響かせながら・・・
「じゃあ、はーりーさん相当苦戦しているかな・・・」
「彼も段々と分かってきているんじゃない?ここに来るまでみんな六甲アイランドの空き地で相当練習したんだよ、これでも。(間に合わせ見たいな特訓だったけど、みんなよくもまぁここまでやるようになったね。ここのメンバーも初めて出会った時よりも段々走りに対して姿勢が変わってきたよ。)」
武蔵と圭はそう語りながらもはーりーがひとまず麓まで下ってくることを願っていた。彼は頂上から牧場入り口までのハーフダウンヒルはこなしたことがあったが、実はフルダウンヒルは初めてだった。それ故に、圭をはじめすでに勝負を終えていたのたく、ぴー達も彼の心配をせざるを得なかった。
「別に勝ち負けはええ、オレらがここまでサザンクロスに食い付けるようになったんでも大きな成長や・・・ただの仲良しだけのチームがセミプロまがいのチームと肩を並べれただけでも凄いことやから。取りあえず無事に降りてきてくれ・・・それ以上は望まんから。」
のたくはそう言いながらバトルでつかれた体を癒すように植物公園バス停のベンチに横たわり、今までのベイウインズを回顧しながら、はーりーの身を気遣った。
ボゥオオオオオン
「行ける!一時は思わぬ苦戦をしたけど。私もサザンクロスって名を背負っている以上は負けられない!」
あさ美はそう言うと、運転している33スカイラインを加速しながら一つ一つとまたコーナーをクリアしてゆく。
「くそっ、完全に引き離しにかかったか・・・ああもハイペースで行かれちゃマジでちぎられる!」
ボァアアアアアアアアアア!
はーりーは懸命に追っていったが、ふと紗耶香が軽自動車でバトルした話を思い出した。
「まてよ?西六甲のフルダウンヒルはかなりの距離がある・・・この場合、車体重量のある車はタイヤもさることながらブレーキの経たりも重量分だけ早いはず・・・ましてやハイペースで先行逃げ切りなどしている車はもっと劣化が早いよなぁ。だとしたら重量でFCよりも不利な33スカイラインはコーナーの限界が低下しているはず!コーナーならば腕はともかく車で勝っている!」
キキッ、キキュキキキッ、キキッ
「え、フロントの挙動が怪しくなってきた?もしかして・・・後ろとの距離を開かせて先行することに気を取られてオーバーペースになっていたってこと!?」
あさ美はドライビングに気を取られすぎたのと、初戦の緊張もあり、自分でも知らない内にオーバーペースになりすぎていた。そして、ブレーキとフロントタイヤの摩耗から怪しくなってきたスカイラインの動きを抑えつつも先行していく!
「でも、ここで押さえ込まなきゃ・・・!」
あさ美のスカイラインの動きがやや怪しくなってきたところをはーりーはまぐれなのか、それとも偶然なのか!?完全に捉えた!
「あの不自然なフロントの流れ方!間違いない!!」
シュゥイイイイイ、パシュッ、ボァアアアアア
はーりーはそう言いながら今までよりも車を加速させていく。ジェットエンジンのサウンドにも似たロータリーエンジンを加速させていくとやがてブローオフバルブが開き、それを聞くと彼はシフトロックでコーナー手前から33スカイラインの内側へと入っていく。
ガタッ
ボォオオオオオン
「そ、そんな!アンダーが強くなってきた!!」
「こうなりゃ事故っても良いからまだ決めたことのない幻のヒールアンドトゥとブレーキングドリフトで・・・。」
彼はそう言いながら練習ではいまいちだったヒールアンドトゥを何とか成功させたが、さすがにブレーキングドリフトは上手く決まらなかった。リアが上手く傾かなかったことが分かると、はーりーはサイドブレーキを代わりに引っ張り、リアが傾く「切っ掛け」を作りだし、やや不格好ながらもドリフトさせながらアンダーステアをブレーキの経たりから抑えきれずにアウト側へ膨れるあさ美の33スカイラインのインを突いて33の頭を抑えるように前に出た!
ギュィキキキキキキッ
「やった!決まった!?」
前に出たはーりーはその後、何度かあさ美に背後をつつかれたが、彼女の車もブレーキの経たり等で負ったダメージ故に攻め込むことが出来なかった。何とか彼女の執拗な追撃を押さえ込みながら、はーりーはそのままゴール前の直線を抜けていった!
ブァアアアン、パシュッツツ!!
「やった!勝ちましたよ!2軍だけどサザンクロスに勝っちゃいましたよ!」
武蔵はゴール前を突っ切ったはーりーのFCを見ながら信じられないという思いと、思ってもみなかったベイウインズの勝利に驚きと嬉しさを隠せなかった。同様に、ベンチで寝転がっていたのたくもはーりーのFCが先頭でゴールに来たのを目の当たりにすると飛び起きてはーりーの元へ近寄った。
もはや説明するまでもなく植物公園前にいたベイウインズのメンバーはその勝利に狂乱状態になった。
ブワァアアアン、キキッ
ガチャッ
「す、すいません・・・」
対照的に思わぬ敗退を喫したサザンクロス陣営は「キツネにつままれた」ような感じで少し重い空気に包まれていた。そんな中であさ美は車を降りてくると貴の元に行って敗戦を詫びた。
「まぁ・・・色々と言いたいことはあるだろうが、何故に負けたかは自分でもわかっているんだろ?」
貴もまた意外とも言える結末に少々驚きを隠せない様子であさ美に話しかけた。
「はい、気負過ぎたと言えば言い訳になりますけど、もう少し自分の車の状態に見合ったペース配分が必要だって事が分かりました。ただ、相手に勝てば良いだけじゃ無く、その場に合った作戦がいるんですよね・・・」
あさ美は自分の落ち度を反省し、思ったことを貴に話す。初戦にしては十分すぎるほどに自分の分析を進めたあさ美に貴は少し驚きながら答えた。
「(う、何げにオレよりもその辺がよく分かっている・・・)ま、まぁ・・・それが分かれば良いんじゃないか?そういうのって・・・ほら、言われてもわかんね〜ところってのがあるしな。(まぁ、つい最近までオレも分からなかったけど)とにかく、今日はこれで引き上げだ!」
そう貴が言うと、サザンクロスのメンバーは一斉にその場から走り去っていった。
「やれやれ、まさか勝てるとは思っていなかったわ・・・でも、こうなってくるとベイウインズも・・・良いチームだよね。」
圭は少し離れた場所から勝利に色めき立つメンバー達を見ながらふと昔の事を思い出した。
「昔はエンプレスもそうだったよね・・・本当に些細な事だったけど、小さな勝利や僅かな上積みの成果が現れただけでみんな大喜びした・・・でも、それはもう遠い昔の様に思えるわ。今となっては・・・ね。」
圭は夜空を描く夏の星達を見上げながら過ぎ去った過去を懐かしみつつ、今あるベイウインズと、そして仲間達の存在が徐々に頼もしく思えてきた。
「よっしゃ、今夜はちょっと反省会がてら祝勝会でもやるで〜!」
ぴーがそう叫ぶとベイウインズのメンバーは更に盛り上がった。その様子を端から見ている圭にのたくが言った。
「やれやれ、どうせぴー君の事やからオレの所でどんちゃん騒ぎやなぁ・・・」
「騒ぎねぇ・・・当然これからも私たちは上を見ていくんでしょ?」
「もちろん!2軍に勝ったくらいで浮かれてたら摩耶山の連中にもつけ込まれるかならぁ。」
「まっ、この位のレベルで満足していたら話にはならないよ・・・」
圭はそう言ってバス停の裏に止めたS14シルビアの方に向けて歩いていった。
その光景を見たはーりーはのたくの元に来て言った。
「やっぱ彼女にはベイウインズの空気が合わないかもしれませんよ?うちも相当走り込んだりしてレベルを上げていかないと・・・」
「まあなぁ・・・本当はこんなことしてうかれてる場合ちゃうんやけどなぁ。」
ブォオオオン
のたくたちがそう話しながらその場に突っ立っていると、圭はS14シルビアのエンジンを掛けて車を動かしのたくたちの元へ近寄ってきた。彼女はウインドーを下ろすと運転席越しにのたくとはーりーに言った。
「取りあえず、今回はつき合うけど、毎回毎回交流戦の度にこうなのもどうかなって思うから、これが最初で最後よ!」
のたく達は圭のイメージからしてまずこんな騒ぎには乗ってきてくれないだろうと思っていた。しかし、意外にも彼女は誘いに乗ってきた。それがもの凄く意外に思えてしばらく呆然としていた。
「じゃあ、ひとまずここを下った所にあるコンビニの駐車場にでもいるから、後でみんなと来て。」
ブォオオオン、パシュッ!
そうのたくとはーりーに言い残すと、圭はそのまま颯爽と西六甲を下っていった。
「何か思った以上にチームに溶け込んでいますね、彼女は。」
「そうやな、頼もしい存在やけど・・・オレらも少しドラテクのレベルを高めないとな。いつまでも彼女や市井ちゃんばかりに頼っているままじゃあ六甲 最速チームなんかにはなれへんからな。」
彼らはそう言うと、騒ぐぴー達をまとめて西六甲を後にした・・・
その後、合流した朴とRAMPをくわえたベイウインズの面々は祝勝会の席で隣り合わせに座った朴とぴーの始めたお互いのツッコミ合戦を交えながら盛り上がっていく。
「なんやまぐれってあるんやなぁ〜?」
「マグレ?ま、そうかもしれんけど・・・ってマグレって言い切る辺りロムってたんでしょ?ベイウインズを??」
「何言ってんねん!証拠にのこるよなロムはせぇへんでぇ〜!!」
彼らのトークに周囲にいた人間は笑わずにはいれなかった。そして彼らは束の間の勝利の美酒に酔いしれたことは言うまでもない。
「やれやれ、先が思いやられるわねっ。」
圭は端からその様子を見ながら窓辺に寄りかかり、全開にした窓部から夏の夜空を見ながらベイウインズの面々の「どんちゃん騒ぎ」振りを微笑しながら呟いたが、その表情にかってのような険しさはなかった。彼女もようやく「本来の自分」を出せるようになってきたのだろう・・・
「よ〜し、たけしゃん!肉買ってきて!!まだまだ焼き肉たべるよ!!!」
「え、さっき食べたじゃないですか(汗)」
「何よ〜ぉ、その言い方?文句あるわけぇ〜??」
「い、行きますから・・・そんなに威圧的に絡まないでくださいよぉ(汗汗)」
圭は武蔵にそういって迫ると、武蔵は彼女が本気である事を悟り、そそくさと追加の肉を買いに会場であるのたく邸を後にしていった。
そして、そのまま夜が明けてゆき、紗耶香を始めベイウインズの面々は新たなライバルと向き合うことになるのは言うまでも無かった。