表六甲のバトルから数時間後、シカミは丸政と共に表六甲「六甲23」ヘアピンに立っていた。丸政の提案もあり、彼らは鉢巻展望台に車を止め、そこから歩いてこのコーナーまで来ていた。道中で丸政はシカミがどのようにコーナーを攻めていき、その都度ゾロ目がどのような行動をしてきたかを一部始終聞きながら徒歩で下ってきた。
「この辺だったんですけど・・・」
「19のヘアピンからここに至るまでの間で一気に差を詰めてきた訳か・・・確かに普通に考えればどのコーナーリング技を使っても旋回性でFRに比べて不利が生じるFFではそんなに差が縮むものでもない・・・仮にゾロ目が連続ドリフトを使って19と20の連続ヘアピンを逆ドリフトを多用してきたとしても所詮はFFのドリフト・・・どうしても体勢を立て直す時に微妙なロスが生じてしまう。他に何か変わったことは?」
丸政はシカミの話した内容を整理しつつも改めて紗耶香の非凡なドライビングセンスに内心驚いていた。ある程度は前回の圭との西六甲バトルで紗耶香の分析は出来ていたが、ここに来て思ってもみない事が表六甲で起こったことは何となく想像できた。
「そういえば、オレが抜かれる前だったと思いますけど、ちょうどこの23ヘアピン入り口で大きな音が聞こえましたよ。気がつけばゾロ目はイン側めい一杯に車を寄せていましたね・・・」
シカミの話を聞き終えると、丸政は彼の言った23ヘアピン入り口のイン側にある溝に目をやった。
「(なるほどな、よく見れば所々タイヤを擦った痕らしきものがある・・・)分かった・・・シカミ君が抜かれた理由を教えようか?」
「えっ、何が原因・・・いや、敗因になったかが分かったんですか?」
「まあね、思ってもみないと言うか、これは六甲ではここ表六甲でしかあり得ない単純で尚かつ馬鹿げたテクニックさ・・・」
丸政はそう言いながらタイヤの痕が残った側溝を指さして続けて語り始める。
「ここを見て貰えば分かるけど、ゾロ目はイン側に当たるタイヤをこの側溝の僅かな段差にタイヤを落としたのさ・・・そして、そのままカタパルトから射出された戦闘機の様にコーナーを立ち上がって行った。こんな発想は通常はしないな・・・この表六甲を知っているのに加えて自らもゾロ目、AE111レビンの全てを把握しているのだろう。まるで自分の体の一部のように・・・だからこそ今回の溝落としの様な奇想天外な技も思いつくし、それをドライビングでやってのけることも出来たんだろう。」
「そんなアホな、くそっ!」
ドォンッ!
シカミは丸政の話を聞き終えると悔しさからかガードレールに蹴りを入れた。彼を横目に見ながら丸政はポケットからタバコを取り出すと、タバコを加え火を付けて一服するとシカミに言った。
「貴さんが連れて行った2軍も思わぬ反撃で負けたらしい・・・別にゾロ目はベイウインズのメンバーでは無いらしいが、いずれにせよこのままやられるだけでオレ達は終わる訳にはいかない。あのゾロ目は・・・オレがやる!」
「丸さんがですか!?」
「ああ、もはや表六甲での走り。そして、前回の西六甲での走りを見る限り、奴は六甲にある4カ所のコースは全て走りきれるはずだ。」
「でも、サザンクロスのホーム東六甲ならば・・・」
「いや、東でも恐らく奴は早い。それにあえて敵地で走るのがサザンクロスの流儀だ。ホームではバトルをしない・・・」
シカミは丸政のゾロ目に対する内なる闘志を言葉の断片から感じ取ると、思わず身震いをした。サザンクロスのメンバーですらまだ丸政の全力というものを見たことがないのだ。しかし、彼が感じた内なる闘志から察してもしバトルで紗耶香と丸政がやりあうのならば正に能ある鷹が爪を剥くだろと思わざるを得なかった。
「シカミ君の敗北はある意味しょうがない・・・相手が悪かっただけさ。しかし、そのおかげでゾロ目の戦闘力の源を知ることが出来た。奴とバトルする時は全開でぶつからないといけない、奴を仕留めるのはオレだ!」
「(丸さんが本気になった!?全開でぶつかるって・・・じゃあ、今までは全力を出すことなくバトルに勝ってきたのか!?これは何か想像も出来ない大決戦になるぞ・・・)」
シカミは丸政の険しい視線を見て、直感で彼が本気になっていることを悟った。そして、自分が相手をした六甲のゾロ目こと紗耶香がそれほどまでに凄い走り屋だった事に改めて驚かざるを得なかった。
そして、六甲山にまた朝日が射し込んでくる・・・