HSWで紗耶香と会った後、はーりーはベイウインズのメンバーが集まっているファミレスへと向かい、少し暗い面もちのまま中に入っていった。
「いらっしゃいませ」
「・・・・」
はーりーが中へ入ってきたのを見計らってウエイトレスが挨拶をするが、それすら耳に入らない様子でエントランスを行き過ぎると、店内で最も広い席に陣取るメンバーの元に近寄っていった。彼の登場に気が付いた武蔵が声を掛ける。
「あ、どうでした?」
「う〜っ・・・何か無理っぽいな。」
はーりーはそう言いながら開いている席に腰を下ろすと大きく溜息をついた。ぴーは少し深刻な表情でアイスコーヒーを飲み干すと、正面に座っている圭に話しかけた。
「マズイで・・・ヒメヨの奴が言ってきた日にちまでもう今日を入れて3日しかない・・・」
「そうね、もうそんなに時間はないわ。」
「ふー、こりゃまたはーりーさんに死ぬ気で西六甲を下ってもらわなあかんな。」
ギクッ
「ま、マジっすか・・・(ってか、このパターンは前にもあったような・・・でも、今回はマジでヤバイ)」
取りあえず、ヒメヨの話題はまだ置いておくことにして、圭達はその他の議題でミーティングを進めていった。内容は主に前回のサザンクロス2軍戦における反省点や、これからの指針と言った圭がベイウインズに来る前には全くといって無かった真面目な要素だった。
それから数時間後、西六甲・・・
ミーティングを終えたメンバーはそれぞれ家路についたが、のたくは武蔵にせがまれて西六甲を下っていた。
ブァアアアアアア、パシュッ、ブァアアアアアアア!
「コースの感じを掴みたい言うてもたけしゃんは車持ってないやん・・・」
のたくは「やれやれ」と言った感じで武蔵に話しかけた。武蔵は無理に西六甲を走れと頼んだ事にのたくの機嫌が悪いのかと思いつつ遠慮気味に返事をした。
「ま、まぁそうなんですけど・・・ちょっと今後の参考にしようかと思いまして。」
「そうかいな・・・」
バァアアアアアアア
「ん?何か後ろから来るなぁ・・・」
のたくはバックミラーにうつるライトを見ると、その車が急接近してきているのが分かった。やがてその光がドアミラーにまで射し込んでくると、武蔵も背後の車に気が付き、振り向いてその車を確認した。
「は、速いですよ、後ろ!」
ボァアアアアアアア、プシャァ!
紗耶香との決戦に備え、西六甲コースの下見&自らの練習で走りに来ているヒメヨは目の前にいるのたくの180SXのテールランプを見かけ、リアガラスに貼られたベイウイズのステッカーを確認すると薄ら笑いを浮かべながら言った。
「フッ、ベイウインズ・・・調子に乗りやがって、サル共が!!」
グワァッ!
バゴッ!ボァアアアアアアアアアア!!
ヒメヨは西六甲三国池付近のストレートに入るコーナーの立ち上がりから一気にアクセルを踏み込んだ。いわゆる「ベタ踏み」状態である。コーナーを完全に曲がりきらない時点での急激なアクセルの踏みつけでヒメヨの13シルビアはリアを振ったが、それをカウンターで押さえつけるとそのままのたくの180SX目掛けて走り出す!程なくして180SXの背後にベッタリと付けた!!
「の、のたくさん!?」
「たけしゃん、オレもベイウインズのメンバーやそうそう譲りはせんで!つかまっとれ!!」
ボァッ!バァアアアア!!
のたくはそう言うとヒメヨを引き離しに掛かる。2台は三国池バス停前を突っ切ると、その後にある山荘前の90度コーナに備え減速しようとしたその時!ヒメヨが一気に大外からのたくの180SXを抜き去った!!
キキッ、プシャッ、ボォアアアアアアア
「げっ、嘘やろ!そんなに長くはないストレートでここまでの加速・・・コーナーへそのまま突っ込む気か!?」
のたくはヒメヨの強引な追い越しに驚愕した。ヒメヨはそのまま180SXを交わすとブーストメーターを少し見た後で言う。
「1.3か・・・比較的低速が多い西六甲ではココまではいらないか?で、ここ(山荘前)のコーナーから摩耶の分岐と牧場の入り口がタイトだな・・・だが、このオレにはそんなのは・・・」
ボァアアアア、バン!
「関係ねぇ!!!」
グイッ
キキキキキキッ!!
そう言うとヒメヨはコーナー手前でABS顔負けのロック寸前のブレーキングを噛ましそのままステアリングを切る。「半ドリフト」状態に車の姿勢を変えると後は彼の持ち味であるアクセル捌きでFR車であるPS13を曲げてゆく!
その操縦は派手ではないがグリップ走行を基本に置いた極めて実用的なドライブである。ヒメヨはのたくの180SXを抜き去ると、そのまま一気に山荘前から牧場入り口まで続くコーナー群を攻め駆けていった。
「のたくさん!見ましたか!?あのコーナーへの入り方!!!」
「な、何や!?あの突っ込みは!飛んでもない突っ込みかつブレーキングや!!あんなのFRなんかでやろうってのは半端な腕と度胸じゃ出来へんで!!!」
「ケッ、まぁ、ざっとこんなもんよ!出てこい、ゾロ目!!オレはお前と全身の血が沸騰するようなアドレナリン全開のバトルをしてぇんだよ・・・・!!!」
ボァアアアアアアアアアアア!
ヒメヨの一見すると強引にも思えたドライビングに驚きながらのたくと武蔵は呆然としていた。性格はともかく、さすがに摩耶テンペストの頭を張る奴だけあると感心しつつも、ベイウインズのリーダーのテクニックの無さを思い出すと溜息と苦笑をせざるにはいられなかった。
「ん、誰だろ?」
紗耶香は部屋のテーブルに置いておいた携帯電話が鳴っているのに気がつくと、洗い立ての髪をタオルで拭きながらディスプレーで掛けてきた相手が誰かを見る。正直、どうでも良いような相手からの着信だったらそのまま放置しておこうと思っていた彼女だが相手が梨華だったのを見ると、タオルを置いて電話に出た。
「あ、市井さん!お願いがあるんですけど・・・」
「お願いって・・・?お金なら今は無いよ。」
「もう、からかわないで下さいよぉ!」
紗耶香はいつものように冗談交じりで梨華に返事をした。しかし、今回はどうもいつものパターンでは済まなそうだった。梨華は圭達がスタンドで噂していたヒメヨとのバトルの事と、彼の属するテンペストがもたらしている弊害を紗耶香に説明して、はーりーが勝手に受けてしまったバトルではあるけれど、その挑戦を受けて欲しいと彼女に頼んだ。
「(ああ、今日HSWにはーりーさんが私を見にきたわけが分かった。)」
「何か上手く言えないんですけどぉ、お願いしますっ!」
「あのねぇ、私が受けた訳でも無いしそれってこっちが知らないところで決まってる話でしょ・・・」
「そ、それは・・・」
紗耶香は置いていた小さなミラーを覗き込んで自分の顔を少し見たあと、自分の周りが勝手に騒いでいるとも言えるこの状況に苛立ちをあらわにして梨華に言った。
「ねえ、思ったんだけどさっ、何で私な訳?別にそう言う事だったら圭ちゃんにでも頼めばいいじゃない。」
「保田さん達は市井さん宛てに来た挑戦をこちらで受けるのもちょっと・・・って言っていたんです。」
「それが、勝手だって言うのよ!」
「!?」
梨華は思わず口調を強くした紗耶香の態度に驚きを隠すことが出来ず、黙り込んでしまった・・・
「そんなに何とかしたいなら、石川が走れば良いじゃん・・・もう、切るよ。」
ピッ!
紗耶香はそのままベッドに転がり込むと、ちょっと言い過ぎたかも知れないとも思っていたが、梨華にムカついたと言うよりもむしろ自分の知らないところで勝手に進められているバトルのセッティングが気に入らなかった。しばらく天上を見つめたままでぼーっとしていた紗耶香だが、そのまま眠りについてしまう。
ヒメヨの指定したバトルまでこの日を入れて残り3日・・・