ヒメヨが指定してきたバトルの日まで残り2日。K市の中心部よりも比較的涼しいということで梨華は休暇を利用してりんね、あさみがいる六甲山牧場にやって来ていた。そして、彼女たちに前回聞いたテンペストのヒメヨがベイウインズを仲介して紗耶香とのバトルを仕掛けてきた事を梨華はりんねとあさみに自分が分かっている事を話した。

「なるほど〜。そりゃ確かにテンペストが自信を失うくらいの勝ち方をすればあの連中もおとなしくなるかもねぇ。」
「そうなんですよ!だからわたしは何とか市井さんに走って貰いたいんですけどね・・・昨日、その事を電話で頼んだんですけど、断られました。」

梨華の話を聞いたりんねは少し納得した素振りを見せながら梨華に返事をしたが、名指しで勝負を申し込まれた紗耶香のテンションが低そうな所が引っかかったあさみはその辺りを梨華に尋ねる。

「でも、梨華ちゃん。肝心な市井さんは話を聞く限りではさぁ、あまりバトルってな気分じゃないんじゃない?」
「う〜ん、そこが問題なのよねぇ・・・」
「そりゃ確かに六甲のゾロ目って最近有名になってきているらしいから速いのかも知れないけど・・・勝負を受ける感じでも無いならば駄目な気がするんだけどなぁ・・・それは、私もりんねさんもテンペストがおとなしくなれば良いと思ってはいるけど、無理に頼んでまで懲らしめて貰おうって所まではわたしはちょっと・・・」

あさみの意見に梨華は何も言えなかった。確かにあさみの言う通りではある。しかし、テンペストに困っているりんね、あさみをはじめ牧場の関係者に報いるためにも何とかして紗耶香の心を動かさなければと言う決心がついた。

「(でも、市井さんは動かないし・・・保田さんたちは「それは紗耶香の勝負だ」って言い張ってるから・・・)」

梨華はその場で考え込むようにして言葉を失った・・・

「(車動かせたらなぁ・・・あ、そうだ!私だって・・・出来るっ!)」

六甲山牧場に放されている羊の群や、馬房に繋がれている馬達が時折鳴き声をあげるというほのぼのとした環境の中で、梨華は何やら決意をしたようだった。

その日の深夜・・・

キキキッ!
ベイウインズに痛い敗北、そしてシカミが表六甲での敗北を喫したこともあってか、丸政はデータ取りとは言いながらも自然と紗耶香に対するリベンジ心を燃やしていた。その思いが冷静な彼のドライビングにも少し現れているとも言える攻めの走りで西六甲を下ってゆく。

「こうしてみると、西はスピードの出る区間が前半から中盤に掛けて多いな・・・保田とのバトルを見る限りで推理すれば、この辺りのペースがゾロ目とのバトルのカギになるか・・・・?」

ボァオオオオオオオ、シュッ、ボァオオオオオオアァ
丸政は自らの推理を実証すべく、一つ一つのコーナーを確認するようにして攻めていっていたが、ふとバックミラーを覗くと、後方から迫ってくる光の存在に気がついた。そして、その光は徐々に・・・いや、急速に接近してきた。

「ん?こりゃサザンクロスじゃねぇか?しかも白のセリカ・・・フッ、丁度良い。東の型落ち3Sエンジンじゃ2000ccクラスきってのトルクエンジン、SRの方が上だということを見せつけてやるぜ!」

ヒメヨはそう言うと、丸政の乗るセリカの背後にぴったりと張り付きパッシングを浴びせた。丸政はヒメヨのそんな行動に気がつくと、ブーストメーターと回転計(タコメーター)に目をやった後、セリカを加速させヒメヨを引き離しに掛かった。
ボァアアアアアアアア

「おもしろい・・・どの程度のモノか試させて貰う。」
「へっ、そうこねぇとな!おらっ、行くぜ!!」

ドギャキャキャキャギャ!
2台の車はそのまましばらく一進一退の攻防を繰り広げたが、互いに一歩も譲ることはなかった。そしてそのまま牧場入り口から先の低速コーナーが続く西六甲後半を走り抜け、ゴール地点である森林植物公園前バス停付近にたどり着くと、丸政はハザードランプを出しながらバス停の側に車を止めた。

「けっ、いくら六甲のカリスマといえど、旧世代の3Sエンジンじゃぁ・・・こんな物か?」

ブァアアアン、キキキッ
ヒメヨはその動きを見ると、自分も丸政の脇に車を止め、車外へ出た。
ガチャッ

「オレは、東六甲サザンクロスの丸政だ。」
「テンペストのヒメヨだ。」

互いに目に見えない火花を散らしながら瞬きすることも無くしばらく2人の見つめ合い、いや、睨みあいが続いた。その緊張状態の最中、丸政がはじめに口を開く。

「摩耶のヒメヨか?あの摩耶山、下り最速の・・・?」
「ほ〜う、光栄だなぁ〜?スーパースターの丸政さんに名前を覚えて貰えるとはな。」

ヒメヨは皮肉な感じで丸政に返事をした。丸政はそんな彼をみて微笑しながら煙草に火をつけて話し始める。
シュボッ

「ゾロ目とやるのか?」
「けっ、さっそくサザンクロスも嗅ぎつけたってわけか?ああ、そうだ・・・元々ベイウインズをボコボコにしてやろうかと思っていたが、奴らの象徴とも言えるゾロ目を叩いた方が良いと思ってな。」

丸政はそれを聞くと、少し苦笑しながらヒメヨに言った。

「ハッキリ言おう、お前はゾロ目に勝てない・・・上りならばSRのターボがもたらす恩恵でレビンよりも優位に立てるだろうが、下りならば尚の事お前に勝ちはない。」

「!?」

「悪く思わないでくれ・・・オレは思ったことしか口にしないものでな。」

丸政の態度が感に触ったヒメヨは感情的になって反論する。

「へっ、2軍がベイウインズに負け、サザンクロス1のFR使いのシカミがゾロ目に負けてビビってんじゃねぇのか!?いいか!ゾロ目の次はお前、そしてサザンクロスが次の標的だ!!いつまでもいい気になってんじゃねぇぞ!摩耶テンペスト、そしてこのオレ!ヒメヨがいる限りは六甲最速などと言わせてはおかないからな!!!」

ガチャッ
キキキキキッ、ボァアアアアアアア!
ヒメヨはそう言うと機嫌悪そうにS13シルビアに乗り込むと、そのまま西六甲から去っていった。走り去ったヒメヨを見つつ丸政はその場で一服すると、自分も西六甲を後にすべくセリカに乗り込み、打倒紗耶香の戦略をまとめながら颯爽と六甲を去っていった。