紗耶香がソファーに掛けるのを見計らってみちゅうはすかさず彼女に問いかけてみた。

「挑戦、受ける気なんだろ?お人好しなのもたいがいにした方が良いよ・・・」
「いや、私は別にそんなんじゃあ・・・。」

紗耶香は少しまごつきながらもみちゅうに答え、それを聞いたみちゅうはタバコを灰皿に落とすと立ち上がって事務所の冷蔵庫から缶コーヒーを取り出し、それを紗耶香に勧めた。
ゴトッ

「まあ、飲みなよ。いやいや、受ける気が無いとか言いつつウチの店の連中が勝手に引き受けたバトルを受けようって内心では思ってるんだろ?市井ちゃんは摩耶には行かないってか、行ったこと無いから知らないかも知れないが、あそこの走り屋は手強い!明かりも東西六甲と比べてはるかに少ない上、ブラインド(視界の悪い)コーナーばかりだからな。オレが現役の走り屋だった頃も、摩耶の走り屋には手を焼いたよ。」

パコッ
みちゅうは言うだけいって持ってきた缶コーヒーを開けるとそれを飲み始めた。紗耶香はその話を少しうつむきながら聞いていたが・・・。

「そんなに・・・凄いんですか?その摩耶って所の走り屋は?」
「ん?(しめたっ!顔つきが変わった。上手い具合に食らい付いたな・・・)」

みちゅうはすかさず話しかけてきた紗耶香の視線と表情が変わったのを見逃さなかった。どうやら彼の話に紗耶香が食らい付いてきたのである。「脈あり」と読んだみちゅうはすかさず話を続ける。

「ああ、大したもんだよ!あそこをまともに下れる奴は六甲ではかなりの腕に相当するね!」
「・・・・(そこまで凄いんだ)」
「市井ちゃんも西六甲のバトルで少しは名をあげたんだ。もう少しその事を大事にした方が良いんじゃないの?昔も今も摩耶の走り屋はそう変わらないだろうし、峠(やま)に行っている連中もその事は知っているから、この勝負、断っても誰も市井ちゃんが逃げたなんて思いやしないさ・・・。」

「(逃げる!?)」

シュボッ!
みちゅうはそういって再びタバコを取り出しそれに火をつける・・・紗耶香はみちゅうの言葉を噛みしめるとイキナリ立ち上がって彼に言った。
ガタッ!

「私、別にそんな肩書きなんてこだわりませんから!そういう噂ばかり先行されるのも好きじゃないし・・・それに、店長さんがそこまで凄いと言うなら、摩耶の走り屋の腕を見たくなりましたからっ!あ、コーヒーどうもありがとうございましたっ!」

紗耶香の力強い言葉を聞いてみちゅうは「結局なんだかんだ言って走り屋のスピリットをもってるじゃないか」と思い、心の中で笑っていた。紗耶香はそのままガソリンスタンドを飛び出すと真っ直ぐにHSWへと向かう。もう彼女の決心は着いていた。迷うことなくHSWのガレージへと進むが、そこには・・・。

「はぁ?なに、これは・・・・(呆)」

紗耶香はシャッターが下ろされ閉店時間よりも早くに店じまいしたHSW事務所に貼られたBDの書き置きとも思える張り紙を見て呆れた。
そこには、「レビンを盗まれました・・・黒さんの説教が恐ろしいので先に帰ります。今日はもう、いや、しばらくオレの事は探さないでください。」と書かれていた。


「ぬ、盗まれたって・・・ちょっと、どういう事よ!」

ピッ、ピッ
紗耶香は携帯電話を取り出すとBDの所に電話を入れる。しかし、「お掛けになった電話番号は、現在電波の届かないところか電源が入っていないためかかりません」というお決まりのセリフが空しく響いた。紗耶香は時計を見て時間を確認すると、思わぬ事態に苛立ちながら、電話を切ってその場で叫んだ。

もう、何でこんな時に・・・レビンをかえせぇ!!!

ヒメヨとの対決まで残りあと2時間30分・・・
果たして紗耶香は勝負に臨む、いや、レビンを探し出すことが出来るのだろうか・・・?