みちゅうとの会話で摩耶の走り屋のレベルの高さを聞かされた紗耶香は「受けたバトルは必ず受ける」と言った意地丸出しな走り屋の掟なるものに嫌悪しながらも内心では走りたいという思いの中にあり、そのギャップによるジレンマをひしひしと感じつつも、心は「挑戦を受ける」と決心がついていた。しかし、HSWに言ってみたものの、肝心のレビンが無い・・・しかたなくアパートの自室に戻ると、紗耶香は明かりを落としたままの暗い部屋の中で、ベッドに横たわり天上を眺めているしかなかった。

「(何だろ?この感じは・・・無性に六甲を走りたい・・・みちゅうさんは相当な走り屋って話は聞いていたし、そんな人も唸らせる摩耶の走り屋。どれほどのもんなんだろ?そんなに凄いなら私自身が今まで積み上げてきた物、全てをそのバトルにぶつけてみたい・・・)」

そう思いながら置き時計に手を伸ばし、それを掴むと彼女は時間を確認する。しかし、車が無いという現実はどうにもしようがなく、時間は無情にも過ぎつつあった。

「(逃げたくは無い。けど、これじゃ・・・それ以前の問題かな)」

苦笑いしながら紗耶香は手にした時計を元の場所に置くと、また天上を眺めながら物思いに耽っていった・・・

話は前後するが、紗耶香がみちゅうの元からHSWに向かいだそうとしていた数十分前のHSWガレージでは、ナンダカンダでBDを丸め込んだ梨華がレビンに乗り込んでいた。

「よいしょっ!」

ガチャッ
梨華は颯爽とレビンに乗り込んだのを見てBDは表向き平静な態度を保っていたが、心はもうそれどころではなかった。とにかく、今ここで起こったことを後でどうするか?そしてどのような処罰が待っているか??それを考えたくなくても、頭に数々の「オチ」が浮かんでくる。

「(や、やばいよ・・・何かこんな状況になってしまったけど・・・ブルブル)」
「あれ?」

そんなBDをよそに梨華はシートベルトをしめて、シートの位置も自分に合わせたものにしていき、ハンドルを軽く手に取ってみたりと、レビンの感触を確かめているようだったが、彼女はある異変に気づいた。

「なんでこの車、ブレーキが2つあるんですか?ブレーキの左に・・・。」

え・・・・?

梨華の言葉を聞いたBDと亜依は固まってしまった・・・。
一応、梨華も車を動かす故に、免許はある。しかし、そんな彼女から出た言葉がこれで・・・明らかにクラッチペダルの事を勘違いしている。

「は、はははは・・・(あ〜もう駄目だ!オレは殺される(滝汗)後で書き置き残して・・・じょ、蒸発しようっと。。)」
「な、なんかぁ・・・梨華ちゃん一人だと心配だから、加護も一緒に乗ります。」

ガチャッ、バタン!

亜依はそうBDに言うとレビンの助手席に乗り込み、梨華に取りあえず動かし方を説明すると、梨華は亜依の言う通りにエンジンを掛け、クラッチを切り、ギアを入れ、HSWのガレージをゆっくりと出始めた。

ブァアアアアン

シャッターを全開にしたガレージから亜依の助手席からの後方確認に従いつつ梨華は何とか車道にまでレビンを出し、そこからギアを入れ替える。

「・・・でぇ、そこでまたペダルを踏んで。」
「こう?」

グイッ

「それでぇ、ギアを入れて!」
「ねぇ、これペダルが重たいんだけど、放しちゃ駄目なの?」
「だめぇ!まだここはゆっくりと、じわぁ〜っと放さないと駄目だからねっ!!」
「ええっ!!そんな事言っても・・・重いよぉ(半泣)」

ブアアアアン
亜依にそう言われたものの、ただでさえMTの車を触らないのに加え、多盤クラッチなんぞを入れたレビンである。正直いってそう簡単にクラッチを切れるものではない・・・半クラと呼ばれる加速状態にクラッチの重さから、それに耐え切ることが出来なかった梨華はタイミングを早まってクラッチを放す。

プスッ!

クラッチが適正回転数になる前に切られた故に、レビンはエンストをかましてしまう。当然、その事によりレビンはその場に止まってしまった・・・そんな醜態に苦笑しながらも亜依は梨華に手ほどきを進める。が、しかし、結構ああだこうだ言っている亜依にしても理屈は分かっているものの自分が動かしたら当然こうなっただろうなとは思っていた。

「あ〜、もう!梨華ちゃん!!」
「ご、ごめん・・・」
「早くエンジン掛けてっ、後ろに車来たら大変だからぁ・・・!」
「う、うん!(がんばれっ私!こんな事でネガティブにはなれないよぉ!!)」

キキッ、ブアアアアン
取りあえず、その後、何とか騙し騙しに車をうごかしつつ梨華と亜依は六甲山を目指して動き出したが、その走りは正直いってヤバかった・・・後方の車はその動きに気味悪がり車間を空けて走る。当然の事ながら、じわじわと動かしてゆく梨華達のレビンはスピードが出ていないので、彼女らを頭に、多くの車が後ろにくっつく・・・HSWが面している道路は混雑時でもさほど渋滞する事は無いのだがこの時ばかりは様子が一変していた。

「ねぇ、あけみちゃん?この道路って今日はやけに混んでる気がするけど?」
「そうかなぁ・・・愛ちゃんはまだここに来て間もないからそう思うだろうけど。そうでも無いんじゃない?」

夏休みの課外授業&寄り道から帰宅途中で歩道を歩く愛は、その異様な事態が起こっている道路を見て、その様子をあけみに話すが、あけみは脳天気な感じで返事をした。

「でも・・・変だよ?な〜んか絶対に様子がおかしいよ??」
「も〜、愛ちゃんも心配性ねぇ!」

バシバシッ!

あけみはそう言うと愛の背中を軽く叩きながら笑っていたが、愛と同じようにえだもその異変に疑問を持っていた。

「ちょっとあけみ!なにしてるのよっ!!やっぱさぁ、愛ちゃんの言うとおり変だよ。これ、事故でもあったんじゃない??」
「事故?またぴーちゃんがしくじったのかな??ねぇ、ちょっと先の方に言ってみない??」

あけみはそう言うと愛達の返事も聞かぬまま一人、数珠繋がりになって混む車達の先頭を目指して走り出した。

「ちょっと!なに一人で勝手に走るのよ!!もう・・・ゴメンね、愛ちゃん。あけみは勢いで動くときがあるから。」
「うぅん、別に良いよ。あけみちゃんを追わないと!」
「はぁ〜、本当に困った子よねぇ・・・」

そう言って彼女らも後を追う。やがて数分走り抜けてゆくと、交差点の真ん中でエンストして立ち往生している梨華と亜依の乗るレビンを彼女たちは目撃した。あけみはレビンの扉下に貼ってあるHSWのロゴを見ると、えだに話しかける。

「ねぇ、えだ。あれって・・・ぴーちゃんがいつも事故ってそれを直している会社?」
「そうみたいだけど・・・あの車って確かそうとう運転の上手い女の人が乗っているって聞いたけど・・・」
「女の人?」

愛は少し興味を抱いたような感じでえだに話しかけると、えだは取りあえず簡単にあけみ(ってか、元はぴーが発端)から聞いた話を愛にした。

「そんなに凄いんだ・・・」
「そのはずなんだけど、あんな所で止まってるってちょっとダサくない?」
「そうねぇ、ぴーちゃんの話と偉い違いだけど・・・」
「あけみちゃん、えだちゃん。やっぱりあの車、様子が変だよ!」

愛は何となくではあるが直感でレビンの様子がおかしいと思い、それをあけみ達に話すとぴーに連絡を取るようにあけみに言う。あけみは「それもそうだ」と思うとバッグから携帯電話を取り出し、急いでぴーの元に連絡した・・・

ブァアアアアアアブアァアアアアアアンキキッ!

「おおっ!サザンクロスもお出ましだ!こりゃ、何か飛んでもなく凄い事になったぜ!!」
「ああ、仕事サボって来たかいもあったって事だ!!」

「何か・・・これは断るって言っても断り切れる環境じゃないよね?」

そして西六甲では、ヒメヨとのバトルを聞きつけたギャラリー達が多数集まっており、さらには丸政がサザンクロスの主用メンバーを引き連れて現れたため、彼らの登場によってさらに熱気が高まってきていた。圭はそんな様子を見て苦笑しながらもぴー達、ベイウインズのメンバーに話しかける。

「ヒメヨさん、サザンクロスも出てきましたよ?」
「ふっ、丁度良い機会だ。あいつらにもオレの本当の実力というのを嫌と言うほど見せつけてやるぜっ!」

テンペスト陣営では、サザンクロスの登場によりやや緊張を隠しきれないレンズとは対照的にヒメヨのボルテージは上がってきていた。そして、丸政に予告された「敗北」を取り消してやると意気込み、もはや戦闘準備は万端である。

「ゾロ目はまだ来ていないか・・・。」
「ま、それはいつもの事ですよ。」

丸政はセリカから降り、シカミに紗耶香の事を尋ねると、その返事を聞いた直後にタバコに火をつけてテンペスト陣営を見つめる。彼らの今回のバトルに対しての意気込みと気合いを感じると、その様子に少し苦笑しながらも、同行したあさ美に話しかけた。

「紺野・・・。」
「あ、はい!」
「大体はこんな感じでバトルは起こる。前回とは形式が違ってまた戸惑うところもあるかも知れないが、こういった空気にも慣れておく必要があるぞ。」
「わ、分かってます。(緊張するなぁ)」

あさ美は緊張の色を抑えようとはしていたが、正直いって丸出しである。そんな彼女をみて少し初々しいなと思いながら丸政は微笑すると、そのままヒメヨの方を見てテンペストを探っていた。
役者の揃いつつある西六甲スタート地点の様子に焦りながら、ぴーは思い切って紗耶香に直訴しようと決断を下し、その事をベイウインズのメンバーに伝える。

「こうなったら・・・駄目で元々!市井ちゃんを説得してくる!」

バタン!

「あ、私も行く!残ったみんなはここで待っていて!!」

圭はそう言ってマークUに乗り込んだぴーに同乗して西六甲を下り、紗耶香の元へと向かった!

「もぉ〜、梨華ちゃん。頑張ってよぉ〜!これじゃぁ、時間に間に合わないよぉ・・・。」
「そんなこと言ったって・・・(もしかしてこう言うの些細な不幸ですか?)」

ブァアアアアアア
取りあえず、交差点のど真ん中でのエンストから脱した梨華達は残りもそう無いタイムリミットに合わせるべく西六甲に向かうが・・・。
果たして辿り着くことが出来るのか!?


挑戦、それは新しい自分への誘い?(こんな感じで良いでしょ?)