ブァアアアアア!
「ったく、こんな急いでいるときに誰や!(って、今は下ってるからホンマにそれどころちゃうねんけど)」
ぴーは圭と共に紗耶香を説得すべく西六甲を下り、一路K市街地へと向かって行くが、不意に鳴り出した電話にぴーは苛立ちながらもマークUを走らせてゆく。ドリンクフォルダーに置いた携帯電話の呼び出し音に圭は六甲を下るぴーを気遣って勝手に出た。
ピッ
「もしもし。」
「あ、勝手に・・・って、ま、良いか。ちょい話だけ聞いといて!」
圭は軽く頷くとそのまま電話の主に事情を告げて、相手が用件を話すように会話を持ちかける。
「あ、な〜る!だからぴーちゃんじゃ無かったのか・・・で、そうそう!大変なんですって!」
「(何かやたら元気が良いってか、テンション高いねこの子)落ち着いてその大変な事ってのを話してくれる?」
あけみはぴーと思ってかけた相手が圭だったことに最初は困惑したが、圭の落ち着いた対応にこちらも向こうに合わせなければと感じ、彼女にしては比較的落ち着いてレビンが立ち往生していたことや、何やら様子がおかしいと言った事を圭に説明し始める。
「そうなんだ・・・で、その青い車はどこに向かって行っていたかは分かる?」
「え〜っとぉ・・・たぶん、多分だけれども、六甲の方に向かって行ったと思う。」
「六甲のどこってのは分からない?」
「それまでは・・・ごめんなさい。。」
圭はあけみに六甲にある4つのコース(東西表裏)のうちのどこにレビンが向かっていたかを聞き出したかったが、そこまではあけみには分からないことがわかると、取りあえず連絡をくれたことにありがたみを感じながら話す。
「いや、あやまるのはこっちだよ。ごめんね・・・でも、連絡ありがとう!」
圭はそのままあけみと軽い会話を交わした後、彼女のくれた情報をぴーに伝える。確かにレビンは動き出してはいるようだが、どうもあけみの話を聞く限りでは乗っているのは紗耶香ではなく、別の人物だというのは分かった為、何が起こってそうなったのかを考えるよりも今はとにかく紗耶香の元に急がなければならない。そう思うとぴーも次第にペースを上げて西を下っていった。
「何となく、何となくだけど・・・わかってきたぁ!」
グイッ!(思いっ切りクラッチペダルを踏み込む音ね)
ガタッ、ガタッ!
「ファイッ!」
キュィキキッ、ブァアアアアアアン、ブォアアアアアアア!
梨華は幾度もエンストを繰り返しつつ六甲方面へと走っていくうちに何となくではあるが、強化されたレビンのクラッチを何とか使いこなせるようになった。理論とかは全く分からないが何となしにコツみたいなのを見いだしたようだ。
「(おぉ!やるねぇ〜梨華ちゃんも)」
「よ、よ〜し!」
亜依は梨華の偶然にしては出来すぎなこのシチュエーションに少し驚きつつ、と同時にそんな梨華の非凡なセンスに感心した。梨華の表情はは不安な表情から少し変わり、段々とノってきたようだ。そして、車内の時計に目をやり、残りの時間を考えると、少しアクセルを踏み込み加速を試みる!
「このままだと間に合わない・・・飛ばすよ!」
ガタッ
ブァアアアアアアア、ブァアアアア・・・プスッ
「・・・・・ええっ!何でなのっ!!」
「(やっぱ、そう簡単にはいかないのだぴょ〜ん)」
しかし、やはりイキナリのMT車で、しかも強化クラッチではそうそう扱える物ではなかったようだ・・・。
「(また時計の針が進んだ・・・もう時間が無い・・・こんなのって無いよね?)」
紗耶香は横になっていたベッドから起きあがると部屋の明かりをつけて何故か顔を洗った。迫り来るタイムリミットに対してあまりに無力な自分に苛立ちを覚えていたが、そんな自分の心を静めようとでも思っての洗顔だったのかも知れない・・・。
ドンドン!
「あ、はい!(ったく、こんな時に誰よっ!)」
紗耶香は不意にノックされた事に「やれやれ」と思いつつ玄関に向かい扉を開ける。
ガチャッ
「こんばんわ・・・。」
「あ、朴さん?どうしたんですか??何故に後頭部にバンソコウ?」
扉の前にいたのは朴念仁だった。彼は何げに紗耶香の近所に住んでいて一応紗耶香の部屋の位置は知っていたが、訪れたのは初めてだった。紗耶香も朴が近所にいることは知ってはいたものの、こうして訪問を受けたのは初めてだったので少し戸惑いながら、彼に用件を聞き出し、朴もそれに答える。
「用事ってか・・・この方々に脅されてここにこざるを得なかったんや(汗)」
「方々??」
朴はそわそわしながら紗耶香に話すと、彼を押しのけるようにして圭とぴーが紗耶香の前に出てきた。
「圭ちゃん!?それにぴーさんまで・・・。」
「ふぅ、最初は探すのに苦労すると思ったけど、朴さんが知っていて手間が省けたわぁ!さすが○○キングと呼ばれるだけあるなぁ!!」
「あ、だからその○○ってのはやめんかい・・・!」
紗耶香がぴーたちの登場に戸惑っている様子を見て圭はちょっと突然すぎだったかなとも思ったが、とにかく時間もおしているので単刀直入に紗耶香にバトルの事を話し始める。ヒメヨがすでに準備万端で待ちかまえている事、サザンクロスの偵察によって妙に盛り上がるギャラリー・・・紗耶香の意思をに盛り上がりを増してきつつある状況に断ろうにも断れないバトルになってしまった事を少し詫びながらも圭は紗耶香に話を続ける。
「・・・こんな感じなわけ。で、いまさら聞くのも何だけど、やっぱバトルはダメ?」
「あ、いや・・・実はね、私はバトルに行くつもりだったんだけど。レビンが無くて・・・いくらバトルって言っても車無いと話にならないでしょ?だからどうしようもなくさっきからず〜っと一人で考えていたんだけど、どうにもならないよね?」
紗耶香は苦笑いしながらそう答えると、彼女がバトルに乗り気だったことを知ったぴーはすごくに悔しがった。
「くぅ〜っ!市井ちゃんが走る気満々なのに肝心のレビンが無いなんて!!ったく、誰が持ちだしたかはわからんけど、どこを走ってるんや、あのレビンはっ!」
「多分、持ち出したのは石川なの・・・。」
「えっ、嘘でしょ?あの子に運転できる代物じゃないでしょ??」
「そうなんだけど・・・前に私がきつくあの子に言ったから多分、ムキになってレビンを動かしたんだよ・・・。」
圭はまさか梨華が持ち出すとはという感じで驚いていた。その横で紗耶香は梨華の事に触れると少し俯き、梨華に対して申し訳ない思いでいっぱいだった。横で話をロ・・・ではなくて聞いていた朴は紗耶香たちに話しかける。
「あの・・・こっちが言うのも何やけど、梨華ちゃんって牧場に行ったりするんやろ?表は坂がきついし、慣れん車のってるんやったら、あえて遠回りして六甲に行こうとするんちゃう?」
「牧場!?そうだ!たぶん、あの子は西から上っているはず!!!前に時々表の坂が恐く思えるから西から登る事もあるって言ってた!!!」
紗耶香は朴の発言に思い当たるふしを見つけると。慌てて靴を履いて扉にカギをかけ始めた。
「ちょっと、紗耶香!?何か分かったの?」
「分かったも何も・・・西よ!西に行けば石川が持っていったレビンがいる!!」
「よ、よし!そうと分かったら早速直行や!!」
慌てて飛び出した紗耶香を追うようにして圭とぴーも表に出る。そしてそのまま彼らは飛び乗るようにしてぴーの車に乗り込むと一目散に西六甲下りゴール地点ともなっている森林植物公園の方を目指していった。
「あ〜、どうしよぉ・・・」
「もう、どうしよぉ・・・って言ってもここで坂道発進がで出来ないと頂上には行けないよぉ。。」
「でも・・・出来ないんだもん。」
一時は調子付いた梨華だったが、上り坂の加速時にシフトアップを試みるが失敗してしまいレビンは失速。そのままその場に立ち往生した。通常ならば坂道発進できり抜けれるところだが只でさえ重いクラッチである。梨華の腕では正直言って動かすこともままならない・・・そのままその場に数十分もの間だたたずんでいた。
ボォアアアアア・・・プシャッ!
「ん?何か前に車が止まってるで??」
「あれは?紗耶香!?」
「間違いない・・・HSWのレビンだ!」
キキッ!
ぴーは前方で立ち往生しているレビンの後ろに車を止めると、停車と同時に紗耶香はレビンに駆け寄った。梨華はバックミラーに映った紗耶香の姿に思わず涙がこみ上げる。
「市井さ〜ん!!」
「ったく、何やってんのよっ!」
梨華はレビンを飛び降りるようにして紗耶香に抱きついた。紗耶香は「困った奴よね」と思いつつそんな梨華を抱き留めると、圭に梨華の事を任せる。ぴーの車に乗り込んだ彼女らを見届けると、紗耶香はレビンに乗り込んだ。
バタン!
「よし、これで・・・って、何でアンタまでいるのよ!?」
「てへへへ・・・梨華ちゃん一人じゃ心配だったんで、乗ってましたぁ!」
「はぁ〜(ここで置いていってもどうせ迎えに来なきゃいけないし・・・よし)」
紗耶香は取りあえずレビンのエンジンを掛けると、適度にアクセルを煽り始める!
ブァアアアン、ブァアアアアン、ブァアアアアアン
「加護、ここにこうして乗ってるって事はそれなりの心構えはあるんでしょ!?」
「もちろん!」
「あっさり返事されてもちょいこまったりして・・・ まぁ、良いや。だったらこのまま上に行って下りのバトルに行くよ!!」
亜依は黙ってうなずくと、そんな彼女を見て紗耶香は少し笑った。そして適度に回転数を合わせると、紗耶香はクラッチを踏み込みじわじわとはなす。その動きに合わせてサイドブレーキを一気に解放!
ギュキキキキッ、ブァアアアアア!!!
「おっ、早速来たか!よし、こっちも・・・一応、ベイウインズのリーダーだから上りのレビンくらいには食らい付かないとツアラーVの名が泣くぜっ!!」
ボォアアアアアアアッ!パシュゥ!!
急発進したレビンを追うようにしてぴーも紗耶香の後に食らい付いていく!
そんな紗耶香の走りをみて梨華は改めて彼女の「凄さ」を感じざるを得なかった。
「(凄い、やっぱり市井さんは凄いや!)」
「さ〜て、果たしてどこまで紗耶香についていけるかな?」
「ふっ、俗に言うビンボーなチューンしかできてないこの車でも290馬力はあんねんで・・・下りじゃともかく上りで1600の4AGなんかにちぎられた日にはもう・・・100万、いや10万、1万円かけてもええわっ!」
ギュキャキャキャキャッ!
圭は紗耶香に無謀にも食らい付いていこうとしているぴーを笑いながら見ると、それに気がついたぴーは妙にムキになって紗耶香を追っていった。初めのコーナーを曲がる頃にはハッキリ見えていたレビンの背後だが、コーナーを抜けた頃には・・・。
「ゲッ!いない・・・・嘘やろ!(大汗)」
「やったね!1万円もらうよっ!!(ま、紗耶香にしてみればこんなの当たり前よね!後はバトルでどう出るかだけど・・・?)」
ボァアアアアア、パシュッ、ボァアアアアアア
圭は当然の様なこのオチを全くもって普通に見ていたが、レビンの2倍近い馬力でターボ、しかも上りと言う普通に考えればどう考えてもぴー有利な条件だったのが、あっさりと紗耶香に差を開けられてしまった事にぴーは半ば呆然としつつも西六甲を駆け上がっていった。
「いざ、戦いの舞台へ〜っ!なんってね♪」
「(あ〜あ、何か調子狂うなぁ・・・加護はやっぱおろした方が良かったかな?)」
バァアアアアアアア!
やがてレビンのエキゾーストは頂上にいるヒメヨらの元にも届く・・・。
「(ふっ、やっと来やがったか・・・丸政もいることだ。この勝負、負けられねぇ!見せてやるぜ、テンペスト・・・いや、オレの実力をここにいるギャラリー共にも、そして何よりもゾロ目にな!)」
色々と紆余曲折のあったバトル前だったが、いよいよ雌雄を決するときは来た・・・。