紗耶香のやっとの登場に西六甲スタート地点に集まっているギャラリー達は更に盛り上がりを見せていた。そんな異様とも言える光景を目にしながら紗耶香はレビンをすでにスタートライン上に止めているヒメヨのPS13の隣にレビンを反転させて止め、車の外に出た。
ガチャッ
「(ん?これがゾロ目のドライバーか・・・女と言うのはレンズに聞いていたが、まだ免許を取ってそう年も経っていない様にも思える。)」
ヒメヨは待ちかねたとばかりに紗耶香の元に近寄る。紗耶香は彼の存在に気がつくと、そちらに視線を向けた。
「あんた、名前は?」
「市井紗耶香・・・。」
「その名前、しっかり覚えておくぜ!今更この状況でルールの説明などはいらねぇな・・・勝負は下り一本、先に森林植物公園のバス停を通過した者が勝ちだ!」
紗耶香は黙って頷くと、そのままレビンに乗り込もうとする。バトル前の緊張で周囲がやや静まる中で、紗耶香から遅れて登頂したぴー、圭、梨華も神妙な面もちで紗耶香の方を見つめ、のたくと武蔵はすでに各コーナーに陣取ったオフィシャル役のベイウインズのメンバーに対向車の有無とスタンバイの指示を携帯電話などを使って送り始める。
「シカミさん、そういやゾロ目に何か言うことあったんじゃないの?」
貴は思い出したようにシカミへ話しかけると、彼は微笑して返事をする。
「言おうと思ったけどやめましたよ。何かあいつの顔をみたらちょいムカついてきましたから。(ってか、言わなくとも奴ならすぐに見抜くさ・・・)」
「どちらにしろ、このバトルはこっちに対するテンペストの当てつけって所だろうな・・・。」
シカミと貴はそう言いつつ、着々と準備が始まっているテンペストとベイウインズの動きを遠目に見つめていた。
「紺野、説明では分からない事もあるだろう・・・ついて来い。特等席からこのバトルを見せてやるよ。」
「は、はいっ!」
「シンデレラ城のミステリーツアーって所かな・・・?」
キキキッ、ブォオオオオオオン
丸政はそう言うとあさ美を伴って測道に止めてあったセリカに乗り込むとエンジンをかけた。そして紗耶香とヒメヨもそれぞれの愛車に乗り込みエンジンを始動!
バァアアアン、バァアアアアアン
ボァアアアアン、ボォアアアアアン
「ここにいるギャラリー共にも六甲最速が誰だかハッキリと証明してやるぜ!」
気合いの入りがかなり違うヒメヨであるが、そんな彼とは対照的に紗耶香はそれ程ボルテージが上がっていないようだった・・・。
ブァアアアアン、ブァアアアアン
「市井さん!こ、これがぁ・・・バトルなんですね!?ワクワク」
「ま、まぁ・・・そんな所なんだけど・・・(やっぱ何か調子狂うよなぁ・・・)」
興奮を抑えきれずに目を輝かせながら今か今かと待つ亜依の姿に紗耶香は苦笑しつつも、窓越しから圭たちに軽く合図を送りつつカウントを待つ。
「じゃ、行ってくるからぁ!」
「行ってくるからって・・・とにかく市井さんの邪魔だけはしないでね!」
亜依は一旦レビンの外に出ると、梨華に元気良く声を掛け、また助手席に乗り込むとカウントダウンを待った。梨華はそんな彼女を見て、紗耶香の邪魔にだけはならないで欲しいと願いつつ、バトルの開始を待つ。
「ドライブって訳じゃ無いんだから、ベルトはきつめに締めといてよ。」
「は〜い!」
「あと・・・多分、飛んでもなく速くなると思うから、しっかりと手すりを持っておいて。」
紗耶香はいつもと違うバトルの空気に違和感を感じつつも、これから亜依にとって考えても見ないバトルのスピードに対して備えをしっかりするように促すと、シフトノブに左手を添えてスタートの体勢を取り始める・・・。
やがてレンズが両者の間に立つと、声を大にしてカウントダウンの合図を取った!
「では、カウントに入ります!!5、4、3、2、1、GO!」
ギュキャキャキャキャキャ!!
カウントが終わると、2台はレンズの間を大きなスキール音を響かせて駆け抜けていき、飛び込むようにして西六甲を下っていく。スタートは初めでクラッチの威力で紗耶香が前に出たが、SRターボの加速でヒメヨが一気に前にでる!ヒメヨが先行し紗耶香がそのやや後方につける形の展開になりつつあった。
「(予想通りのスタート展開か)」
丸政は2台がスタートしたのを遠目で確認すると、彼は助手席に乗せたあさ美に話しかけた。
「ベルトはきつめに締めておけよ。今回もヒメヨ次第ではあるが、展開的にハイペースになる・・・あと、ゾロ目が走るときは「何か」が起こる。そこを見逃すなよ!」
「分かりましたっ!」
キキッ、ボァアアアアアアアア!
紗耶香達が走り抜けた後、丸政も一気にセリカを加速させて彼女らを追って西六甲を下り始めた。その様子を見たギャラリー達は思わぬ展開に興奮の色をあらわにして更に盛り上がりを見せていった。
「おっと!これはこれは・・・いきなり六甲最速決定戦か!?」
レンズは丸政のイキナリの登場に驚いたが、すぐに気を取り直すといつものパパラッチに戻り、早速他のテンペストのメンバーに情報収集を呼びかけ始める。
「な、何やあれは・・・サザンクロスも出てきた!しかも丸政のセリカやんけ・・・。」
「この勝負、三つ巴になりましたね・・・。」
同じように、ぴーとはーりーもヒメヨと紗耶香の一騎打ちだったバトルに割って入ってきた丸政のセリカに驚きを隠せない様子であったが、そんな彼らに圭は説明をする。
「いや、あのセリカはバトルには参加しないわ。丸政はあくまでオブザーバー(見学者)ね・・・(目的は恐らく、紗耶香の走りを探るって所かな。)」
イキナリの乱入劇で緊張と不安、そして少し興奮気味なはーりー、ぴーらをよそにして圭はこの事で丸政が間違いなく紗耶香を標的にしてきていると言うのを確信した。
バァアアアアアアアアアアアアッ
「(圭ちゃんの時と同じか・・・スタートで並んでも後で前に出てくるターボってのは案外曲者よね)」
キキキッ
紗耶香はスタートこそ強化されたクラッチと彼女の腕を持ってしてヒメヨのシルビアと互角だったが、シルビアのターボが徐々に入り出すと、一気に差が広がってしまう。最も西六甲でのスタート地点から牧場入り口を曲がったところのストレートまでは比較的スピードが出せる区間のため、ノンターボ車では不利になるのは否めない。
ボォアアアアアアアア!
チラッ
「フッ」
ヒメヨも当然、先日まで西六甲を十分に下見と実走行をこなしていた為、最初の区間でのレビンの不利を知っていた。ある程度まで差が開くのをバックミラー越しに確認すると、彼はアクセルを少し緩める。
「(前との車間が縮まった!?)」
バァアアアアアアアアア
紗耶香はヒメヨのスローダウンを少し不思議に思うと、そのまま目にもとまらないクラッチ&シフト操作でシルビアの背後に迫っていく!
「(早い!こういうのが絶妙なシフトさばきって言うんだぁ・・・ターボは伸びがあるけども今のセッティングだったら加速では負けないよっ!市井さんのシフトワークはこっちだって知ってるんだからぁ!!それを分かって組んだHSWスペシャルをなめたら痛い目にあうよっ!!!)」
亜衣は下りでの加速によるGに対して踏ん張りながらも、紗耶香のマシンガンシフトと絶妙なアクセル&ステアリングコントロールを目の当たりにして、改めて彼女の凄さを垣間見る。そして、紗耶香のフィードバックによる自分のパーツ選別に狂いがなかったことに自信を持った。
「前・・・あのレビンを待っている?」
「どうやらヒメヨはゾロ目との接戦をしたいらしいな。だが、その余裕が後で仇にならなるかもしれない。」
ブォオオオオオオオッ
前方に見えるヒメヨと紗耶香のやり取りを見たあさ美はすかさずその模様の感想を丸政に伝え、彼もまたヒメヨの駆け引きに対して思うところを語る。
ヒメヨは紗耶香がこちらに迫ってきた事を確認すると、再び前方を凝視してシルビアを加速させる!
「ストレートでちぎったら勿体ねーからな。オレは本格的なバトルがやりたいんだよ!」
ボァアアアアアア、プシャッ!
かって無いほどの興奮と緊張感にヒメヨは満足しながらもコーナーに飛び込む!
ギュキキキキッ!!
「かなり強引だけど・・・メリハリがある。コーナーでギリギリまでブレーキを使うタイミングを粘らして突っ込むって訳!?」
ゴォワッ、ドキャキャキャキャキャキャッ!!
紗耶香はヒメヨの強引で、かつ豪快な突っ込みをなんとなしに彼の持ち味だと判断すると、その運転に少し感心した。そして、すぐさま運転に集中すると、彼女も大外からコーナーのイン側ギリギリを付くように攻めて行く!ヒメヨ、紗耶香、丸政の順に連なった3台の車はそれぞれが織りなすエキゾーストとスキール音による轟音を六甲に響かせながら西六甲を突っ切っていった・・・