バァアアアアアン

ボォアアアアアアアアア!

西六甲前半部分と称される場所はスタート地点から三国池前のストレート、山荘から摩耶の分岐点での連続クランク、牧場入り口前のヘアピンから植物公園の道しるべがある西では一番長いストレートが地元の走り屋達の言う、西六甲ハーフセクションである。

「さ〜て、ここからオレの本領を発揮してやるぜ!」

グイッ!

ボァアアアアアアアアアア、プシャァ!!
ヒメヨはペースを落とした間に接近してきた紗耶香の動きをバックミラーから伺い、車間が詰まったことを確認すると、コーナーを抜けた後に差し掛かった三国池前のストレートで一気にアクセルを踏み込みSRエンジンのターボを効かせながら引き離しに掛かる。

「コーナーで詰めてもまた放される。やっぱり、パワーの差が出てきてるような気がします。」

最後方のセリカから紗耶香とヒメヨとの競り合いを見ながら、あさ美は紗耶香の不利を感じつつも思うところを丸政に言った。

「そこが、峠の奥深さだ。前半は勾配もそんなに酷くなければ、比較的ストレートが多い。これはヒメヨに取っては圧倒的なアドバンテージになり、ゾロ目には不利だ。けど、西六甲の後半は全く逆だ!サーキットで走るような感じで単純に車の性能で勝敗が決まるほど峠は甘くない・・・。」

「峠の奥深さ?ですか??」

パシュッ、ボァアアアアアア!

あさ美は丸政の言う「峠の奥深さ」の真意を読みとろうとしたが、口頭で答えたところで、今の段階では推量にしかならないなと思うと、最初に彼に言われたようにレビンとシルビアの駆け引きに目を凝らした。

ガタッ、ガタッ!
ブァアアアアアン、バァアアアアアアアッ!! キュキキキッ
ヒメヨがそのまま三国池前のストレートから六甲山荘入り口に繋がるクランクへ強引に飛び込んだのを見ると紗耶香はそこから一言も口を開くことなく黙々とアクセル、ギアをコントロールしながらアウトからイン側のガードレールすれすれまで飛び込んでいく!

「(市井さんが一言も喋らない?ここで放されたらいくら後半で追いつけるチャンスがあってもどうにもならないからかぁ・・・。)」

亜依は紗耶香の視線と顔つきがスタート直後の表情とは別人の様になっているのに気が付くと、これまで以上に助手席の手すりに掴まり、これからの紗耶香の激しく、かつ際どいコーナリングのGに備えた。

「向こうも、何やら走りが「キレて」来た!?だが、こっちも・・・おら、行くぜ!」

ゴォワッ!

ギュキキッ、ギュキャキャキャキャキャッ!!
ヒメヨはそう言うと山荘前から摩耶山分岐に掛けての連続クランクを交わすのに、初めのコーナーを持ち前のくそ度胸とアクセルワークで難なく交わすと、今度は再びシルビアを旋回させるためにブレーキを思いっ切り踏み込むが、そこもまた彼の持ち味である「技」が炸裂する。

「(す、凄い・・・ABSを使ったブレーキかなぁ?)」

亜依はレビンからヒメヨのブレーキング技を見て、彼がABSのコントロールを上手い具合にやっていると思ったが・・・

「奥深さの一つが、あんな技だよ。」
「ABSをこじらせるコーナリングが・・・ですか?」

あさ美も亜依と同じようにヒメヨがABSを上手い具合に活かしたコーナリングをしていると思い、「別にその技は奥深さとは関係ないのでは」と丸政の言葉に疑問を抱き、ちょっと考え込んだ。

「貴さんや保田のS14シルビアにはABSが付いているが、ヒメヨのS13シルビアにはそんな物はない・・・。」
「え?無いって言ってもあのロック寸前のブレーキ操作はABSじゃないと無理ですよ!?」

丸政はヒメヨのS13は旧式でABSは無いと言うことをあさ美に言うが、彼女はヒメヨの絶妙なブレーキングを見てそれはとても通常のブレーキでは出来る技では無いと確信していた。

「ロック寸前のシビアなブレーキ操作は機械制御のABSだと、所詮は機械制御。研ぎ澄まされた走り屋の足には敵わない!」

「そ、それって?もしかして!?あのヒメヨって人が自分でブレーキを調節しながら走っているって事ですか!?」

丸政は簡単にあさ美にヒメヨが繰り出す「技」の解説を入れる。とてもヒメヨがやっているとは思えない絶妙なブレーキ技に彼女は「信じられない!」と呆然としつつも改めて峠の走りというものに驚愕しつつも彼女は2台のコーナリングを見ながら思ったことを丸政に話し出す。

「丸政さんの言う技もそうですけど、2台の飛び込み。凄くないですか!?前のシルビアでイン側ガードレールから30センチ位で、ゾロ目は・・・。」

「ゾロ目はすれすれだ。ヒメヨが走っている摩耶はブラインドコーナーが多く、視界も悪い。しかし、西を走ればそんな不利は関係ない!だから限界すれすれのラインを描いて突っ込んでる。どんなにテクニックのある走り屋でもヒメヨほどの幅寄せはそうそう出来るものじゃない。」

「と、言うことはあのゾロ目は・・・・?」

「それ以上。そうとしか言いようがない!」

ボッゴォアアアアアアアアアアア!
丸政はあさ美の問いかけに回答をしつつも、改めて紗耶香の「奥深さ」を目の当たりにし内心で驚愕せざるを得なかった。ただ、今はその事をこの場で調べても、状況が状況なのでドライビングに集中し、加えて紗耶香達の動向を更に伺おうと試みるのだった。

「付いてこいよ!そのまんま何も無しだとこっちもつまんね〜からなぁ!!!」

グワッ!

キキッ、ギャキャキュキャキャキャ
「人間ABS」とでも例えるしかない絶妙なブレーキコントロールからシルビアの向きを変えると、強引な加重移動で滑り出したテールに対してカウンターを当てつつ、また、そのテールの「振り」を押さえ込むようにアクセルでコントロールをしていく。

「あ〜、何か報告を聞く限りではテンペストのヒメヨもかなりやるやんけぇ〜。」
「意外といったら失礼だけど・・・案外やるみたいね。」

ぴーは山荘付近にいるベイウインズのメンバーの報告を耳にすると、ヒメヨの動きに意外な物を感じつつ圭に話しかけ、彼女もまたヒメヨの腕を少し過小評価したかも知れないと思いつつ、頂上から麓の方を見下ろした。

「う〜ん、確かにヒメヨさんにしては善戦している方だと思うけど・・・ちょっと張り切りすぎな様な気がするけどなぁ?」

ヒメヨのバトル展開に少し意外な感じを受けたベイウインズの面々とは対照的にレンズはヒメヨの妙な意気込みに少し心配しつつも次の報告を待っていた。

バァアアアン、ブゥーン、キュキャキャキャキャッ

紗耶香はヒメヨに食らい付くように自分も連続コーナーで失速を少なくする為にコーナー旋回中にエンジンブレーキを掛けて加重移動による旋回でコーナーをクリアしていくが、駆動方式の違いによる若干の不利を感じながらも鋭い立ち上がりでヒメヨの背後に付けるが、牧場入り口前のコーナー群に差し掛かるとヒメヨがまたシビアなブレーキングと絶妙なアクセルワークで紗耶香との距離を開けて次に出てくる西六甲で最も長いストレートに勢いよく飛び込んでいく・・・。

「なぁ、シカミさん。」
「ん?」
「ヒメヨってか、シルビアの弱点って最初言ってたじゃないか?あれって・・・?」

貴はバトル開始前にシカミが紗耶香に伝えようとした「弱点」を思い出したようにシカミに聞くと、彼は遠目でベイウインズ陣営の中で圭の側にいる梨華を目にしながら貴に答えた。

「キャリパーの中にあるポッドの数ですよ・・・ ああ、梨華ちゃん
「キャリパーって?ブレーキキャリパー??
(何か最後の小言がちょい・・・)

貴はシカミの指摘したブレーキの事に少し不思議そうな顔をして話した。

「でも、オレのシルビアはそんなにブレーキが弱いなんて感じないぜ?ま、そりゃぁ、チューニングされたパッドを入れてはいるけど。」

シカミは梨華の方ばかり見ている視線を貴の方に仕方ないような表情を浮かべて顔を向けると、ブレーキの事に付いて細かく語り始める。

「そこなんですよ。S14シルビアってのは元々S13シルビアの弱点を解消して更なるパワーアップを図られた車であるからそれに乗っている貴さんは気が付かなかったでしょうけど、ヒメヨのS13に限らずあの型のシルビアはみんなブレーキ・・・特にブレーキキャリパーが弱い。只でさえ距離のある西六甲を半端じゃない奴のブレーキングで行けばどうなるかってのは分かるでしょ?」

「って、事は後半でその「へたり」が出てくるって事か!?」
「そう言うことです。恐らく、そろそろヒメヨの奴も気が付き始めてるんじゃないですか・・・。」

そう言うと、シカミは再び梨華の方をさりげなく見ながらもこのバトルの勝敗の行方を見守る・・・そして、紗耶香は黙々とヒメヨのシルビアのテールを見つつも勝敗を決めるポイントとなる場所がまたしても西六甲後半と分かってくると、今まで以上に表情を引き締めながら虎視眈々とチャンスを伺っている。
バァアアアアアア

「(なんとなくだけど・・・行けそうな気がする!とにかく今は食らい付いていくしかない!!)」

紗耶香はハッキリとはしないものの、なんらかの手応え、勝算みたいなものがあると感じてはいたが、当然の事ながら毎度のようにその戦略は「閃き」に似た突発的な自信である。

キキキキュキィイイイイイ!

「くっ、キャリパーが開いてきたのか!?」

対するヒメヨはブレーキの感触に違和感を感じつつも一つ、また一つとタイトなコーナー群を交わして紗耶香を振りきりにかかる。

「こいつぁ、ヤバくなってきたぜ・・・!」

ガタッグァ!
ドギャキャキャキャキャキャ

彼は自分の置かれている状況がやや不利になってきていることをブレーキの件だけでなく背後の紗耶香がじわじわとペースを上げていることからも窺うと、何故だか分からないがそんな状況が楽しくなってきていた・・・。

「フッ、これだ!これがオレの求めていたバトルだ!!遠慮はしねぇぜ!!!」

恐らく、それは彼がこのバトルに望んだ「全身の血がたぎるほどの熱いバトル」になってきたからだと思うが、ステアリングを握る手に汗を覚えつつも彼はペースをダウンさせるどころか更なる引き離しを試みるのであった・・・。