西六甲の奥深さ・・・いや、特徴と言った方が良いのかも知れないが、最大の特徴はその総距離にある。約4キロに渡るその距離は他の六甲のコースの中では最長であるが、同時にそれは関西一の距離と言ってもいいほどのロングコースになる。
そして、多くのドライバーが必ずと言ってもいいほど惑わされるのが、前半部分の中高速セクションであり、そこでの速さに慣れた後にイキナリ現れる超低速セクションの後半部分はまさにドライバー泣かせであり、そこが最もパーツの消耗が激しくなる箇所でもある。

バァアアアアア、ブゥンン、キュウキキキキッ!

「(ここになって市井さんのペースが上がってきた!?え〜っとぉ、車のコンディションからいくと・・・この辺でそろそろ差しに行けるかなぁ??)」

亜依は黙々とコーナーを交わしてゆく紗耶香を見つつも、今のレビンのセッティングがヘアピンや直角に等しいコーナーばかりが続く西六甲後半部分に合っていることを計算しつつもヒメヨのシルビアの動きをGに耐えながら探ってゆく。

「くっ、ヤバイ過ぎるぜっ!」

ギュィッ、キュウキキキッ
食い付きの悪くなったフロントタイヤと制動力が衰えてきたブレーキの挙動を感じつつもヒメヨは紗耶香との距離を引き離そうとするが、ペースが上がらない・・・。

「このバトル・・・オレのもう一つの挑戦に勝利するためにも・・・。」

少しフェードインすることになるが、彼がここまで紗耶香とのバトルに意気込むのにはサザンクロスへの当てつけや、六甲最速の称号を手に入れるだけでは無かった・・・。

このバトルが始まる数時間前・・・

キキッ!

ヒメヨはいつも(?)の様にあゆみが勤めているファミレスへと行く。ただ、今回は食事が目的というわけではない・・・。レンズを使って内偵を進めた結果、この時間帯でこの日のあゆみの勤務が終わることを知りつつも偶然を装ってあゆみの元へ来たのだった。

「こ、こんちぃ〜(や、ヤバイぜ、柄にもなく緊張してきた。し、心臓がぁ、、、今にも飛び出しそうだぜ・・・柴田あゆみ、彼女には何とも言えないオーラが漂っているぜ。)」

「あ、あなたは確か・・・。」

あゆみは店の前にいたヒメヨに少し驚きながらも彼の問いかけに微笑しながら答える。

「そ、あ、お、オレはヒメヨって呼ばれているんで、そう呼んでくれ!あ、呼んで下さい・・・ドキドキ」
「ふふっ、何か笑えるなぁ。」
「そ、そう??(おお、これは好感触なのか!?)」

妙に落ち着きのないヒメヨに受けたのか?あゆみは笑いだし、ヒメヨもそんな彼女をみて「掴みは大丈夫そうだ」と内心ホッとしたが、どうにかして会話を切りだそうと必死であったのは言うまでもない。しかし、彼の中では時間が止まっているように言葉が出てこない・・・。
そして、しばらくヒメヨが言葉を失ったまま佇んでると、あゆみは彼の背後に止めてあったS13シルビアに目をやった。

「あ、これって、シルビアでしょ?」
「(え、13を知っているのか?うぉ〜っ、何てオレにピッタリなコなんだ!!やっぱり君はオレと出会う運命だったんだね・・・。)こ、この車を知ってるなんて、なかなか詳しいね?」

「詳しいって言うか・・・私の伯父がこういった車を直したり手を入れたりしてる仕事をしているので、ちょっと知ってるんです。」

「伯父?」
「今、私は実家を出てこっち(K市)の短大に行ってるから、部屋の保証人とかで伯父さんに世話になってるんですよ。」

「伯父さんって・・・こっちの人で、車関係の仕事してるのか?」

ヒメヨは何か知らないけど、思わぬ所であゆみとの会話の一時を楽しむことが出来ただけでも満足だったが、肝心な「電話番号を聞き出す」と言う挑戦に臨まなければいけないということに気づくと、破れかぶれで話を切り出す。

「その・・・イキナリってか・・・多分、まともに君と話すのも初めてでこんな事言うのも何だけど・・・今日はこれからちょっと山に行くんで、また会いたいってか、話できればなぁ?って思うんだけど・・・?」

あゆみはヒメヨが何を言いたいか大体の検討は付いたが、簡単に教えるのも何だろうと思いちょっと探りを入れる。

「やっぱり、山って事はぁ・・・六甲の走り屋なんですね!?」
「え、あ、車高が低いからバレるかな?」
「フフッ。今はもうバイトしてるから顔を出さなくなったんだけど、前はよく伯父さんの仕事場に出掛けたりしてたからな〜んとなく分かるんですよ!」

あゆみはそう言うとバックからメモ張を取り出し、そこに電話番号を記すと、それをヒメヨに渡した。

「はい!」
「え、ええぇっ!こ、これはぁ〜!!(飛んでもないオーバーリアクション)」

「山に用事っていうのはどう考えても昆虫採集じゃないでしょ?事故ったら大変だろうから、その時は電話して下さいねっ。取りあえず、伯父さんの所に紹介しますから!」

「あ、あ、お、オレ、そんな無様な事はしないぜ!」
「ふふっ、そうやって変に自信過剰だと本当に知りませんよ〜?あ、私、電車に乗り遅れるのでこれで失礼しますね!」

あゆみはそう言って軽く一礼すると、放心状態のヒメヨの脇を抜けて駅の方を目指して歩き始める。そして、ある程度の距離を歩いたところであゆみは振り返るとヒメヨに一言言った。

「あの、バトルやるんだったらば、尚のこと事故らないでくださいね!」

ヒメヨは放心状態から我に返ると、あゆみの呼びかけに頷き、彼女もそんなヒメヨの意思表示を確認すると笑みを浮かべてそのまま去っていった。

そう言った経緯もあり、レンズが指摘しているようにヒメヨは普段のバトル時よりもテンションが高いのは言うまでもなく、劣勢を強いられても尚、紗耶香を引き離し勝利への執念を燃やしつつある。

ボァアアアアアアアア、プシャァッ!

「このバトル・・・オレは、オレは負けるわけにはいかねぇんだよ!!」

そして、紗耶香とヒメヨの車を追うようにしてこのバトルを見守るサザンクロスのメンバー2人も決着の時を迎えようとしている2台から視線を放さなかった・・・。

「・・・・。」
「(丸政さんが一言も喋らなくなった・・・それだけ前の2台がペースを上げているって事?いずれにせよ・・・ここ(西六甲後半)で全てが決まる!?私の時もそうだったけど、ここでの出方が勝負を左右すると言ってもおかしくは無いかなぁ。)」

ボァアアアアアアアアアアアア
あさ美は喋る余裕を失った丸政が神経全てをドライブに集中させている事を悟ると、「時」が近づいた事をはっきりと感じていた・・・