前輪駆動、(エンジン)前輪配置。いわゆるFFと呼ばれる駆動方式の紗耶香が操るレビンは彼女が今まで対戦した圭やシカミのFR方式の車とは違い、前側に駆動軸とエンジンを配置している関係でコーナー潜入時にはどうしてもアンダーステアが出てしまう。

ギィッ!

外へと膨らんでしまうアンダーステアを抑えるのはその性質上、レビンでは無理だ。紗耶香はそこでサイドブレーキを思いっ切り引っ張り、後輪のブレーキを掛ける!

キキキッ!
ブァアアアアアアアン
ウォアアア、バァアアアアアアアッ!

強引に向きを変えられたレビンは紗耶香の特長でもあるイン側1センチまでインを切り込み、ある程度の「感触」を掴むと、彼女はそこから一気にアクセルを踏み込み素早くコーナーを抜ける!

「ちぃっ!ゾロ目の野郎・・・初めはFF特有の加速の鈍さとこちらの車がパワーで勝っていたから差をつけれたが、ここに来て本領発揮か!?」

ボァアアアアアアア!

もはや、先行するヒメヨは彼の乗るシルビアが抱えた欠点と、序盤とのペースのギャップでフロントタイヤも消耗しつつあり満身創痍であったが、バックミラーに映る紗耶香のレビンを確認すると、西六甲後半部分を攻めて行く!

「(残りのコーナーってぇ、確かHSWのデータでいくと・・・あと5つかぁ!)」
「一つ、聞いても良い?」
「へ?」

亜依は迫り来る決着が残りのどのコーナーで来るかを勝手に予想していたが、Gに耐えながらも黙々と助手席に座っている彼女に少し不思議な感覚を覚えつつも紗耶香は亜依に話しかけた。

「この車、タイヤってまだいけるよね?」
「いける、いや、いけますって!今週、履き替えたから今日のバトルで丁度ベストコンディションなハズです!!」
「よし!だったら・・・決める!!」

ガタッ、グワッ!ガタッ、

キキキッ、ギュキキキキィッ!
亜依にタイヤの状態を確認すると、紗耶香はヒメヨの背後を揺さぶるようにフェイントをかける。これは圭とのバトルでも見せたフェイント技でヒメヨのタイヤの消耗を狙った戦略でもあるが、紗耶香自身は戦略などと言った駆け引きには疎い。しかし、無意識の内に彼女はフェイントを仕掛けヒメヨを煽りにかかる!


「ちぃっ!なめやがって・・・だがな、オレは保田の時のバトルを見ていたからな。そんなトリックにはひっかからねぇぜ!このままインを死守して、西を下りきってやる!!」

ボァアアアアアアア、プシャッ!
ヒメヨは殆どインベタと呼ばれるイン側を空けない走法で紗耶香のフェイントには一切乗らずに守りに入った!

「シルビアがインを空けない!それどころかあれじゃレビンの挑発を無視している・・・残りのコーナーは少ないから、丸政さん!このままだと、あの青いレビン負けますよ!」

あさ美はヒメヨの動きと残りのコーナー数を考えると、これはヒメヨ有利にバトルが傾いているような気がしてならなかった。それを丸政に伝えるが、彼は彼女の言ったことに対して微笑しながらも視線と神経は完全にドライビングに傾けていた。

キキキッ、キュィッ!

「ちぃっ!こうもケツを揺さぶられちゃあ目障りでしょうがねぇ!行けるものならいってみろってんだ!!」

ボァアアアアアッ
ヒメヨはインを極力空けないでコーナーを攻めて行くが、元々インベタと言われるラインを保ったまま走る事自体が現実では無理な話である。それ故に走行ラインがふらつき始め、それまで滑らかだった彼のラインが乱れ始める。

「あ〜っ!そんなに遊んで欲しいのかよ!

グワッ!!

ドギャギャギャギャ!
ヒメヨは怪しくなったフロントタイヤよりリアのタイヤにグリップが残っている事を悟ると、インを閉めすぎた為に外へ流れ出しつつあるシルビアで強引に紗耶香にブロックを仕掛ける。紗耶香はそこでインに入り込もうとするがヒメヨがそれを阻止する!

「インを取らせるかよ!てめえに遊ばれるほどオレは・・・。」

ヒメヨの変化に気が付いた紗耶香は更に目つきを変えて左足でブレーキを踏み込む!アクセルを踏み込んだままのブレーキによりFF特有のアンダーステアを消しイン側を突いてヒメヨの脇に出ようとするが、寸前でヒメヨのシルビアが目の前に現れる。

しかし・・・

「来た!」

ギュキキキキッ!ゴォオオオッ!!
紗耶香はイン側に対して神経質になったヒメヨの隙を突くようにしてサイドブレーキを引っ張り、強引にアウト側にレビンを傾けると、そのままの勢いでアウト側に急旋回!アウト側からヒメヨのシルビアに並んだ!!

「な、なんだと!大外かよ!!」

ヒメヨは紗耶香の急な方向転換に驚愕しつつも、アクセルの微調整をしつつシルビアを曲げてゆく。

「次のコーナーでインとアウトが入れ替わる。そのまま突っ込む気か!?」


紗耶香はヒメヨが再びターボを掛けて頭を取ろうとする事は読めていた。次のコーナーへの布石ともいえるポジションに入り込んだ以上はこのまま次に突っ込まないといけない。彼女がそれを知っていたか定かでは無いがもう紗耶香には次のコーナーへの走行ラインが見えていた!

「こちらの方が立ち上がりのターボで頭が取れる!」
「やらせない!このまま突っ込む!!」

バァアアアアアアアアアアアアアアア!

「ふざけんじぇねぇぞ!!」

ガタッ!

ヒメヨはターボをかけるために一旦ギアを落としてそこからアクセルを踏み込む!それに対して紗耶香はそのまま速度を落とすことなく突っ込んでいく!!

「な、なにぃ!し、しまった!肝心なところでリアがグリップを!!!」

キキキキッ、キュィワァアアアア!!
コーナーリング開始直後での馬力の掛かるアクションを取ったことによって、リアタイヤのグリップを急激に失ったヒメヨのシルビアはスピンを喫する。紗耶香はそのままヒメヨを抜くとコーナーに飛び込み走り去っていった。

ドォ〜ン!


「うぉっ!」

スピンを抑えきれずにシルビアはガードレールにリア部分をぶつけると、しだけ回転が収まる。しかし、未だスピン状態から立ち直れていない所に丸政のセリカが飛び込んでくる。

「ま、丸政さん!?」
「わかってる!」

ギュキャキャキャキャキャキャキャキャ!!
丸政はあさ美の声を聞くと、スピンしているヒメヨのシルビアに目をやって一旦右に思いっ切りステアリングを切り込むと、一気に左側にステアリングを切り込んだ!こうする事によってフェイントモーションからのドリフトでヒメヨのシルビアを回避すると、そのまま丸政は走り去っていった。彼の去った後でようやくスピンからシルビアを立て直すと、ヒメヨは道路の真ん中にそのままシルビアを止めて車外出た。

ガチャッ

「負けた・・・オレとこいつ(シルビア)が負けた?」

彼は呆然としつつも先程のスピンでぶつけたリアフェンダー部分を撫でながら言った。

「いや、負けたのはオレじゃなく、自分の弱さに負けたのか?だが、何か負けたとは言え不思議とすがすがしい気分だぜ。全力を出して負けたんだからしょうがねぇか・・・しかし・・・やられたぜ。六甲にあんな走り屋がいるとはな。」

ヒメヨは紗耶香とのバトルを振り返りつつも、ぶつけた場所が板金に出してどの位になるか心配しつつ、あゆみから貰ったメモをポケットから取り出すと、それをみながら小声でこぼした。

「まぁ、事故った事になっちまうが・・・これであゆみちゃんとの接点は保てるな(萌)」

そして、彼がそんな淡い野望を胸にしている頃、スタート地点ではヒメヨ敗北の報を聞いたベイウインズの面々が騒ぎ出していた。

「よっしゃぁ!ざま〜みろ!ヒメヨの野郎、いい気味だぜ!!」
「す、凄い・・・市井さんはやっぱ凄いですね!!」
「そりゃぁ、凄いってもんじゃ無いよ!」
「これで、牧場のみんなも大丈夫ですかねぇ?」
「ああ、テンペストも黙る速さだよ!!」

はーりーは興奮気味に梨華に語ると、彼にしては珍しく感情を出してぴー達と紗耶香の勝利に酔いしれた。

「す、すげぇ・・・さすが無敵のゾロ目って言うだけある。」

そして、まさかのヒメヨの敗退にレンズは驚きを隠せないようにして呆然としている・・・。

こうしてまた熱い夏を盛り上げる対決が終わり、興奮冷めぬ西六甲に再び夜明けが訪れる。そして、紗耶香はまたいつものように西六甲を下りきるとそのままHSWへと向かいこのバトルは終わりを告げるのだった。