紗耶香と圭、そして他のベイウインズの面々がしばしの休養ともいえる時間を過ごしている頃と同時刻。丸政はサザンクロスで敷いている独自の情報ルートから少し気になる情報をキャッチし、打倒紗耶香に専念しながらもこれは無視出来ないと判断すると、手の空いているメンバーに事の次第を告げる。

ボァアアアアア、プシャッ!

言うまでも無く、彼らサザンクロスの情報網は広く、そしてなによりも信憑性が高い。その点では自称六甲一の情報屋を名乗るテンペストのレンズをも凌駕していると言える。そして、手の空いたメンバーに運悪く(?)該当した貴は同じく駆り出されたあさ美を伴い紗耶香らがくつろぐ須磨海浜浴場沿いを走る国道2号線上にいた。

「はぁ〜、一体なんの騒ぎなんだ?」

貴は信号待ちで停車した位置から少し恨めしそうに海浜浴場でくつろぐ人の群に目をやりながら愚痴混じりにあさ美に言う。彼女は助手席側のエアコンを自分に当たるようにセットしながら貴に言う。

「詳しい事は場所に着いてからです。今、分かっていることは・・・ポートアイランドか隣接した六甲アイランドに今日届く積み荷の確認です。」

「今日って・・・何時に来るかってのは分かってんだろうなぁ?」
「それが分からないから今から動くんですよっ!」

あまり気乗りしない貴に説教するように強い口調であさ美は答えると、なにやら一人で推理している様だった。そんな彼女をみつつも貴はこんな時に音信不通で駆り出されなかったシカミを恨むようにして一言言った。

「ったく、シカミさんはどこにいってるんだ!?」

そうこうしている内に信号が赤から青に変わると、貴はあさ美の指示する通りにポートアイランド方面の車線にS14シルビアを向けて、一路ポートアイランドの船着き場を目指した。

「ど、どう?たまには海も悪くないでしょ??ドキドキ

そして、内偵の為に動き出したあさ美達をよそにしてシカミは梨華を今回の偵察劇の舞台ともなろうとしているポートアイランド対岸のポートタワー沿いにあるアーケード街に呼びだしていた。

「う〜ん、海もいいですよねぇ。」
「まぁ、K市は海もあれば山もある。そう考えると恵まれた環境にはあるよね。」

梨華は海岸沿いの道を歩きながら沖に見える船を眺めていた。

「(ああ〜 その横顔、いやその全てが愛おしい・・・。)」

「ところで・・・話って何ですかぁ?」
「はっ!」

梨華に見とれていたシカミだが、不意に梨華が自分の方に顔を向けると、我に返って本題に入ることにした。

「例のゾロ目、いや、市井の事なんだけど。この間ちょっと感情的になってしまって思いっ切りきつい事を言ったんで、その事で何か梨華ちゃんにも言ってなかったかなぁ〜って・・・。」

「そうですねぇ〜別に普段と変わりませんけど・・・何を言ったんですか?」

「彼女のドライビングセンスは本物、いやそれよりも上を行く次元なんだけど、本人がそれを認めないってか気が付いていないんだ。何かそう言うところにムカついてね・・・。」

シカミはそう言うと、防波堤の天辺に座り話を続ける。

「あれって天才とかって言う言葉じゃ語れない・・・存在そのものがドライビングセンスの塊みたいな感じだ。今、六甲にいる誰もが市井を目標にしているけど、多分、誰も敵わない・・・けど、そんな彼女(やつ)でも丸さんには負ける。」

「丸さんって・・・こないだのヒメヨって人とのバトルの時に居た人?」

「そう、未だに負けたことのない凄腕のドライバーだ。けど、そんな人とバトルしてもゾロ目は負けない気がするし、丸さんも負けない気がするんだ・・・。」

梨華は何かそれって優柔不断だなぁとも思いつつ、更に踏み込んで聞いてみた。

「で、本当はどっちに勝ってもらいたいんですかぁ?」
「勝ちってか、オレはどちらが負けるのも見たくない・・・すごく曖昧で都合の良い答えかも知れないけどこれが本音なんだよな。」

そう言うと、シカミは六甲アイランド方面に入港しようとしている外国船籍の貨物船を見ながら瀬戸内海の風に吹かれていた・・・。

バァアアアアアアアア!

「ちょっと!何で地図の見方を間違えるんですか!?」
「そう言ってもなぁ・・・。」
「真里。そんなにヒステリックになるな。感情が思いっ切り走りに出るぞ。ここは昼間の幹線道路だ、変な騒ぎは起こしたくないから落ち着いて走ってくれ。」
「そんな事言ったって、時間が20分も遅れたじゃないですか?紅緒さんが冷静過ぎなんですよっ!」

真里と呼ばれた彼女は紅緒の指示を取りあえず飲むと、少し踏み込み気味だったアクセルを緩めて周りのペースに合わせつつ、国道2号線から分岐する国道43号線を目指してEK9シビックを走らせた。
バァアアアアン、バァアアアアアアアアアア

「しかし・・・ラブさんもラブさんですよ。完全に高速のインター降りるところ間違えるなんて・・・」

紅緒は呆れた顔をして後部座席に乗っているラブに言うと、彼は全く気にしている素振りすらみせないで返事をした。

「ま、結果的にこうしてK市に入れたことだし、例のブツの方も税関のチェックで予定時刻より遅れるってことですから、ちょうどいいタイミングになりますよ。ま、オレの調整が上手くいったって事でヨロシクどーぞ!」

「んんんん・・・もぉ!そんな事言って本当に遅れてたらどうするつもりだったんですかぁ!!」

真里は少し怒っているというのを丸出しにしてラブに言うと、彼はマイペースとでも例えれば良いくらいに開き直った様に返事をする。

「元々はお前のシートポジションが今のタイプRに合わないって事で起こった仕事じゃないか・・・今、矢口が座ってるレカロのシートでさえ純正のローポジじゃ座高が足らないって事で技術部でハイポジションのレールを入れただろ?」

明らかに真里を逆撫でするような発言に彼女はさらに不満を露わにして返事をした。

「そんな事・・・しょうがないでしょ!小さいのはどうにもならないんだからっ!!」

「はいはい、悪かったね。(ま、上げ底噛ましても依然として低い視線になってるのは変わりないけどね)」

「二人とも、いい加減にしてくれよ。今回の荷は何も矢口だけに関わる物ではないからな。これからのプロジェクトに関わる物である事を忘れないように!」

紅緒は取りあえず口論を続けようとした真里らを鎮めると、そのまま六甲アイランドに停泊しようとしている外国船籍の貨物船に携帯電話から連絡を取り始めた。真里は取りあえずアクセルを少し踏み込んで国道43号線に向かう為に、分岐車線で強引に割り込んだ。
バァアアアアアアアアアア!


「くそっ!何だこのタイプRシビックは!!」

真里たちが国道2号線から43号線に入った際に、強引な車線変更をしてきた事に対して真後ろにいた貴は怒りを露わにした。

「(こ、これって・・・間違いない!エンプレスのステッカー!!)」
「ったく、このヤロー頭に来た!」

ボァアアアアアア、パシュッ、ボァアアアアアアアアッ
貴は真里らが乗り込むEK9シビックをつけ回すように走り始めると、あさ美は貴に対して話しかける。

「エンプレス・・・。」
「ん?何か言ったか??悪いけど、ポートアイランドに入るまではコイツの頭抑えるまで飛ばすぜ!」
「飛ばしてください!」
「え?」

あさ美に飛ばすのを止めろとでも言われるだろうと思っていた貴は、やや興奮気味に前のシビックの頭を取れと言う彼女を見て不思議そうに思いながら取りあえず言われたように飛ばし始める。

「どうしたんだ?」
「その車、私たちが見に行く予定の積み荷を取りに来たエンプレスの人達ですっ!」
「な、何っ!エンプレスにオレ達は関わろうっていうのかよ!!ば、バカな事は止せって!!!」
「私の意志じゃないです。丸政さんが言ったんですっ!」
「くっ、丸さん・・・一体どうしたって言うんだ!?よし、しっかりベルトを締めておけよ!」

ギュキャキャキャキャッ!
貴はそう言われると、真里の操るシビックタイプRの背後から彼女らの車に並ぶようにして左車線に入り込む。背後のシルビアの動きに疑問を持った真里は紅緒に言う。

「どうやら、地元の走り屋の勘に触っちゃった見たいですねぇ?」
「放っておけばいい。」

紅緒は落ち着いたままで助手席から並んで来た貴のシルビアに目をやった。真里も彼につられるようにして貴のシルビアを見た時、彼の車に貼ってあるサザンクロスのステッカーを見て微笑した。

「な〜るほどぉ、こりゃ、野放しには出来ないねっ。放っておいたら頭取られる所か私たちの目的地を悟られますよ?」

カチカチッ!
バァアアアアアア、ブゥアアアアアアアアアアアッ!!
真里はそう言うとウインカーを右側に出し、右車線から前を行く車を追い越しスピードをあげた。

「紺野!悪いが左側の車をよく見ておいてくれよっ!!」
「はいっ!!」

キキッ、ボァアアアアアアアアアア!!
貴も急に逃げ始めたエンプレスの面々を追うために前を行く車達を追い越し追走する。峠とはステージの違う場所で思わぬバトルが始まってしまったのであった・・・。