夜も完全に更けた午後10時。六甲を走る車の数が少なくなった頃を見計らってぴーは表六甲の鉢巻展望台駐車場で一人、スピンターンを練習をしていた。
ボォアアアアアッ、ギュキキキキキキィ!

「だいたいやけど、尻が出てくるタイミングとテールが振り出してからのコントロールのやり方が分かってきたぞ!」

こうやって影でも練習しなければ周囲に示しがつかないかもしれないと危機感を抱いたぴーはテールのコントロールを慣らして少しでも多角形ドリフトなどとけなされる低次元から脱出しようと試みるのだった。ある程度のコツが掴めると、調子に乗った彼は西六甲を走って実際に今練習したテクニックを実践しようとする。
ボォアアアアアアア、プシャッ、ボォアアアアアア!

「まずはこの辺りでサイドブレーキを引っ張って・・・。」

ギュキキキキキィ!

「よし、後ろが動き出した!」

ガタッ、ガタガタッ
ヒールアンドトゥを行い上手い具合に・・・いや、奇跡的に決めると。ぴーは滑り出したマークUにカウンターを当てながらドリフト状態でコーナーを曲がる。
ゴォアアキャキャキャキャッ!!

「よし、クリア!さて、ここから建て直しが・・・・よし、上手くいったで!!」

彼にしては上出来だった。そして調子に乗ったまま次々とコーナーをクリアしてゆくが、そんな事に集中していたぴーは後方から車が接近していることをすっかり忘れていた。

「ん?なんか近づいてくる??」

バァアアアアアアアア!
だんだん照らされるバックミラーを気にしつつぴーは少しペースを上げようと思っていたが、後方につけた車は更に接近し、とうとうマークUの真後ろにべったりとつける。

「ちっ、なんやコイツ・・・ハイビームで照らしてくる。車は・・・シビック?いや、これは EFのCRXか??」

ゴァアアアアアアアアッ!!
CRXに乗り込み、紗耶香とのバトルに備え西六甲を走りに来たシュウはぴーのマークUのリアガラスに貼られたベイウインズのステッカーを見ると不気味に微笑む。

「み〜っけ!」

ドォッ!
シュウはそう言うとそのままぴーのマークUをからかうようにCRXのフロントバンパーをマークUのリアバンパーに軽くヒットさせる。

「な、なんや!このヤロ、わざと当てて来やがったな!!こなったら意地でも前には行かせない!!!」

ガタッ
ドグォオオオオオオオオ!!
ぴーはそのままストレートを抜けると、先程覚えたばかりのドリフトで次のコーナーへ切り込む!そんな非常に初歩的な技を見てシュウはぴーをけなしたように高らかに笑うと、CRXをそのまま加速させてテールを振り始めたぴーのマークUのバンパーをまたしてもプッシュする。

ドォッ!!

「!?」
「へっ、ベイウインズの亀どもは所詮ウサギには敵わないんだよ。そのまま六甲山に埋もれちまいなっ!!」

ギュキキキキキキキキキキャァ〜!!
ドリフト中にバンパーを突っつかれたぴーはそのままスピンを喫し、シュウは上手い具合にスピンしたマークUの脇を駆け抜ける。ぴーは何が起こったか分からない混乱した状態の中で、何とかガードレールや六甲の山肌に車を当てないように懸命にスピンを止めようと試みる。

「ガードレールに、あ、当たる!?」

ギュキキキキキキキキキキキキッ、ズサササササッ!!

そして、夜が明けて翌日の朝。
先日同様によく晴れた心地よい天気の元、ガソリンスタンドでは昨日のBD割りの余韻で盛り上がってるのたく、はーりーらがいた。

「いや〜、あれは最高でしたよ!」
「ホンマやぁ、たまにはこちらがお灸をすえんとなぁ〜。」

バァアアアアン、キキキッ

「ん?お客さんか??」

ガチャッ
紗耶香に挑むべく、ベイウインズのたまり場であるGSに愛車CRXで現れたシュウは談笑するはーりーらの真ん前に車を止めると、エンジンをアイドリング状態にしたままで車から降りて彼らに近づく。

「ガソリンはいらね〜よ!」
「お、お前は摩耶の紫頭・・・シュウ!?テンペストが何の用だ!!」

シュウの悪態に早速不快感を露わにしたはーりーはシュウの目の前に立ちはだかって強い口調で話し出す。

「言っとくけど、ゾロ目は挑戦は受けないぜ!前回の事でこっちも大変だったし、何よりもゾロ目のドライバーにも迷惑掛かったんでね。」

はーりー、のたくらにはシュウの目的がすぐに分かった。恐らくはテンペスト内で仲が悪いヒメヨに対する当てつけと、自らの名前を売るために来るだろうと予想していたからだ。シュウはその言葉に不満げに言う。

「お〜そうかい、ゾロ目は恐れをなして逃げたって言うんだな?」
「何を言ってる?リーダーのヒメヨが負けたテンペストに速い奴はいやしねぇ〜だろ?格下の相手の挑戦なんてゴメンだと思うぜ・・・。」
「なんだと?」

のたくはキレ掛けているはーりーを見て、「そろそろ止めといた方が良さそうだ。」とはーりーの逆撫で行為をみつつ、シュウと彼の間に割って入ろうとしたが、緊迫している彼らの元に事務所から梨華が慌てて飛び出し、はーりーらの元に駆け寄ってきた。

ガタッ

「た、大変ですっ!今、HSWの亜依ちゃんから電話あったんですけどぉ、西六甲でぴーさんが軽い事故を起こして怪我をしたみたいですっ!!」
「軽い事故ぉ??」

のたく達の頭にぴーが言う軽いが常人で言う大クラッシュだと言うことが浮かんでくる。何か嫌な予感がしたのは言うまでもない。のたくは梨華にその事をもう少し詳しく聞くと、梨華は続けて話し出す。

「昨日の夜、西六甲を走っているときに後ろから車に当てられて、そのままガードレールにぶつかったみたいで・・・車は無事みたいですけど、ぴーさんはぶつけた時に首を痛めたみたいです。」

「後ろからぶつけられた?」

梨華の話を聞いて驚いているはーりーらを後目に、シュウは高らかと笑いながら彼らに言った。

「ふっ、ははははははっ。」
「何がおかしい!」
「ああ、そいつなら可哀想な位に遅いんで、オレがひと思いに「ヤッ」てやったのさ!悪運が強かったようだな・・・あれで大破しないとは!!」

グワッ!
はーりーはシュウの胸ぐらを掴むと、そこから瞬きすることなくシュウを睨み付けて一言言う!

「てめぇ!」
「!?」

バシッ!
シュウはすぐに腕を解くとCRXに乗り込み、ウインドーを降ろすとまたしても悪態を突きながらはーりーらに言う。

「ふっ、まぁ、これがオレなりのアピール&宣戦布告さ!良いか、今度の土曜10時に西六甲で待ってるぜ!勝負は下りのみ!!ま、それ以前に勝負を挑んでくるのは構わないが、土曜までにゾロ目がオレの挑戦を受けないのならば、西六甲を走るお前らベイウインズの車を六甲に沈めてやるぜ!!!それを肝に銘じておくんだなっ。」

バァアアアアアアアアアア!!

「あの人、この間のテンペストの人と違ってかなり嫌な感じですね?」
「梨華ちゃんはアイツの事しらんやろうけど、六甲ではかな〜り有名なワルだからなぁ・・・まともに相手する奴もおらへんわ!」

のたくはそう言うと、怒りが収まりきれずにブツブツ文句を言うはーりーを連れて、共にガレージの整理に向かう。梨華は走り去っていったシュウのCRXを眺めながら、「まだ全てが終わった訳じゃないのかなぁ?」とりんねとあさみが頭を抱えていたテンペスト問題を思い出しながら、何とかしないといけないという思いに駆られた。が、仮にまた紗耶香がバトルを買って出てくれても、故意に車を当ててくる様な汚い相手に紗耶香が何らかの被害を負うのも嫌だなと思いつつも、しばらくその場に立ちすくんだ。