ボァアアアアアアアァ、ボゴォアッ!!
「ひっ、ひえぇぇぇっ!(大汗)」
BDは今、とんでもないことになったと心の中で叫んでいる。
プシャァッ!
「うるさい奴だな・・・ただ、コーナーの立ち上がりでパワースライドしただけだろ。」
みちゅうは紗耶香を後部座席に座らせ、BDを「しぶしぶ」助手席に乗せ、まるで少年に返った様に瞳を輝かせながら表六甲を駆け上がり、西六甲へと向かう。思ったよりも良い感じに仕上げられたZ32こと、フェアレディーZは元々このような峠よりも広大な大地に広がるハイウェイが似合う車で、日産もそのようなコンセプトから北米向けに作った。
「そ、そんな事言ったって・・・う、うぉおおおお!(汗汗汗)」
BDは激しい横Gに踏ん張りながらも、「勘弁してください」と言う言葉を心の中で呪文のように呟く。
「(レビンじゃ立ち上がりでこんなに後ろが「ブレ」る事なんて考えられないわ。パワーの違いっていうのがよく分かる・・・。)」
紗耶香は騒ぎまくるBDとは対照的に、後部座席からみちゅうのハンドルさばきとシフトコントロール、そしてレビンとの大きな違いを感じ、比較し、Gに耐えながらも黙々とみちゅうのドライビングを見つめる。
「よし、ダウンヒルになったら攻めまくるぞ!」
みちゅうは昔の感覚を今も尚持ち続けているようで、少し真顔になると速く下りを攻めてみたいという思いからか、更にペースを上げて六甲を駆け上がる。
「げっ、攻めまくるって・・・も、もう十分に攻めているんじゃ・・・?」
BDは「おいおいマジかよ!?」と思いながらみちゅうに漏らすと、彼はあっけらかんとしてBDに返事をした。
「は?何いってんだよ。こんなの攻めている内にはいらねーって!」
ゲッ!(滝汗)
みちゅうのその答えを聞いてBDは「嘘だろ」と思った。いや、嘘であって欲しいと思った。しかし、目の前に起こっていること、そして伝説の走り屋であるみちゅうの車に乗り込んでいるのは否定しがたい事実であり、それを裏付けるかのように横から、後ろからとGが体に掛かってくる。
「お、降ろしてください〜(涙)」
ドゴォオオオオオオオオオ!!
BDの泣き顔がGによって歪んでしまう・・・それほどにZ32は一つ、また一つとコーナーを旋回して行くが、こんなのは別にみちゅうに限らず峠である程度走り慣れている人間ならだいたいが出来る芸当である。これからが「ほんまもん」の見せ所となる訳だが、BDに取ってはとんでも無いジェットコースターと比喩しても良いかも知れなかった・・・。
「あ、タバコ切らしたな・・・。」
紗耶香達がHSWから六甲山に向けて掛けだした頃、黒はHSW事務所で梨華とくつろいでいる亜依をよそに一人黙々と作業を続けたが、タバコを切らしたことに気が付くと、そのままガレージを出て近くにある自販機に向かう。
ピッ、ガタッ!
出てきたタバコを手にしてその場でタバコを手に取ると、黒はその場で一服する。
バァアアアアアアアアア!
「ん?」
けたたましい高音を響かせながら黒の前をシュウのEF8
CRXが走り去っていった。
「なんだありゃ?全くと言ってセンス無いと言うか、明らかに公道じゃぁ迷惑なセットアップだぜ。カム、ガスケット、エキマニ、フロントパイプはともかく、触媒無しのストレートマフラーなんてサーキットじゃともかく、公道じゃ迷惑だぞ。」
彼がそう言うのも無理はない。六甲のゾロ目と呼ばれ始めたレビンにしろ、みちゅうのZ32にしろ、ベイウインズの連中の車にしろ、彼は面倒を見ているが、チューンをするとしても「合法」の範囲内でやるのが彼のポリシーだ。よってそれを無視したチューンは勘に触ってしまうのである。
バァアアアアアン、バァアアアアアアアアア
「チッ、ベイウインズの野郎ども・・・尻尾巻いて逃げやがったのか?何で最近は西六甲にいない!?」
シュウは自分から逃げるようにして姿を消したベイウインズの面々にいらだちを覚えつつも車を走らせる。が、別にベイウインズの面々がシュウを避けているのではない。みちゅうとの約束を受けたぴーがみちゅうが走りそうな日を踏まえて西六甲を空けているだけである。
「まぁ、良い。今日は土曜だからな・・・誰かがいるだろうって。」
バァアアアアアアアアア!
シュウはそう言いながら西六甲に向かうのだった。彼の目的は対紗耶香の為の西六甲攻略もあったが、それ以上に企んでいるのが前回のぴーへの急襲と同じ事を他のベイウインズのメンバーに仕掛けることもあった。こうすることでベイウインズが秘密兵器として扱っている六甲のゾロ目こと紗耶香を舞台に引きづり出すと言うのがシュウの目論見である。
「西六甲・・・いずれ私もゾロ目とやりあわないといけなくなる。」
西六甲、鉢巻展望台・・・。
サザンクロスの一軍に晴れて昇格した紺野あさ美は展望台の駐車場にR33スカイラインを止め、エンジンルームを見渡し、ブレーキオイルやエンジンオイルの具合を確かめつつ、自分もゾロ目とやり合う事が起こるかもしれないと感じていた。
「特に問題は無いみたいね。」
バタンッ
あさ美はそう言うと、ボンネットを閉める。
ボァアアアアアアアン、キキキッ
ボンネットを閉めた直後、彼女の前にみちゅう達が乗り込んでいるZ32が止まった。
ガチャッ!
BDは止まったと同時に車から飛び出すと、足下をふらつかせながら木陰に行き、木にすがるようにその場に伏せた。
「おいおい、お前も男だろう?」
みちゅうはそんなBDを苦笑しながら軽く罵る。
「そ、そんな事言ったってぇ・・・(汗)」
「まぁ、休憩だ。終わったら一気に下るぞ!」
「あぇぇ・・ええええっ!!(マ、マジかよ!?)」
BDはみちゅうの言葉を聞くと脱力感に覆われてしまい、その場に「へなへな」と倒れ込んだ。
「あ、あの・・・。」
「?」
みちゅうとBDのやりとりを遠目で見ていた紗耶香の元にあさ美は駆け寄ると、紗耶香に話しかける。
「わたし、東六甲サザンクロスの紺野って言います。」
「サザンクロス?あのウワサのチームだっけ?(だった様な・・・あんまり覚えてないけど)」
「え、えぇ、そうです。前回のバトル見させてもらいましたけど、ゾロ目さんの走り凄かったです!」
緊張した面もちを見せつつも、やや興奮気味で話しかけてくるあさ美が発した「ゾロ目さん」と言う呼び名に紗耶香は微笑しながら言った。
「ゾロ目さんって・・・一応わたしにも名前はあるんだからさぁ〜。」
「あ、すいませんっ!(怒らせちゃったかなぁ)」
「紺野さんだっけ?私は市井紗耶香。一応そのゾロ目って言われているみたいなんだけど・・・何かあんまり好きじゃないのよねぇ。」
紗耶香はそう言いながら笑みを浮かべると、そんな彼女をみてあさ美の緊張もほぐれた様だ。緊張し、オドオドした感じもあったあさ美の表情が一転し、紗耶香につられるように彼女もまた笑みを浮かべた。周りを包むようなオーラみたいな物をあさ美は何と無く紗耶香から感じ取ると、これまた何となくではあるが六甲のカリスマとも称される丸政が、紗耶香の事をタダ者では無いと言うのが分かったような気がした。
「市井さんですね。よ、よろしくお願いしますっ!」
あさ美はそう言って深々と頭を下げると、そのまま照れるようにしてスカイラインに乗り込んだ。
「う〜ん、照れるのはこっちの方な気もするけど・・・ま、良いか?」
紗耶香は今までのサザンクロスのメンバー達とはちょっとタイプの違うあさ美を見て少し戸惑いながらも、彼女の初々しさが微笑ましかった。そんな彼女と、木陰の方でごねるBDを言いくるめるみちゅうを後目にしてあさ美は展望台から西六甲方面に向かって行った・・・。