ボァアアア、パシュッ!
「やっぱりあの人は凄い・・・直感だけど、六甲を走るみんなが言うだけのことはあるよねっ。」
あさ美は西六甲を調整がてら攻め込み出すと、展望台で会った紗耶香の事を思い出しながらもコーナーを攻める。かつてサザンクロスの2軍にいた頃も一度ここを走った彼女ではあるが、その頃とは明らかにコーナーリングが上達した。
キュウキキィッ!
「コーナーでの確実なスローダウン、そして・・・ファーストアウトォ!」
バァアアアアア、ギュキキッ!
立ち上がりで生じてしまうロス、パワースライドを最小限に抑え後輪に掛かるトラクションに注意を払いながら三国池前のストレートに差し掛かったあさ美はそこからアクセルを踏み込む。
グワッ
そして、薄々ながらもバックミラーを照らす後方の車の存在にもあさ美は気が付いた。
ブォアアアアァアアア
「何か来る!展望台にいた車・・・?」
バァアアアアアアアアアアアア!
「見つけたぜぇ!」
シュウは前を行くあさ美のR33スカイラインのテールランプが視界にはいると、強引にコーナーを突破し、三国池前のストレートで一気にCRXを加速させた。ホンダ独特の可変バルブタイミングシステム「VTEC」が始動すると、そのエキゾーストは今まで以上に甲高くなり、一気にあさ美に詰め寄った!
「この車ちがう、展望台にいた車じゃないっ!いったい誰?」
あさ美はシュウの急激な詰め寄りに少し動揺したがすぐに我に返ると、何者かが自分に対してバトルを仕掛けてきていると判断すると、唇を噛みながらペースを上げた。
ボォアアアアアアアア、パシュァ!!
あさ美が自分を振り切りだした事を伺うと、シュウは不気味に微笑みながら自らも彼女のスカイラインを追走し始める!
「このオレから逃げれると思うなよ!」
グワァ!
シュウはアクセルを踏み込むと、あさ美の行動に対して「待ってました!」とばかりにバトルモードに突入する。
バァアアアアアアアアアア!
「そうそう逃げなさんなって・・・ふふ、ふはははははっ!」
キキキッ
「背後に張り付いてくる。後ろの車、けっこう速いよ。」
あさ美はバックミラーでシュウの動きを探りつつ、彼を振りきろうとするが、差は広がるどころか逆に狭まってゆく・・・。
「そんな大きな車じゃかえって旋回がもたつくぜぇ?」
バァアアアアアアアッ、バァアアアアアア!
シュウはあさ美のコーナリングアプローチとは明らかに違う戦術でコーナーを攻める。一般的にコーナーはスローイン・ファーストアウトが理想だが、紗耶香のレビンと同じようにFFと言うレイアウトになっているCRXに乗るシュウの場合、下手にアクセルを緩めてエンジンブレーキをコーナリング中に行う事は大きなアンダーステアを生じさせてしまう原因ともなり、かえってその後の処理が難しくなる。故に、アクセルは殆ど抜かない(緩めないまま)でコーナーに突入してく。
キキキッィイ!
「さ〜てと張り付いたぜぇ!」
そうこう言っている間にシュウはあさ美の背後にベタリとつけるとそこからあさ美の隙を窺う・・・当然、それは追い抜くための隙ではない。
ボァアアアアア
「山荘前の左・・・これを抜けて摩耶との分岐・・・いけるかな。いや、いかなきゃ!」
あさ美はそういうとアクセルを微調整しつつスカイラインを旋回させるが、完全に背後を取られてしまい、さらにはベタリとつかれてしまっている状況下で彼女の右足に余分な「力み」が出てしまう。
キュキャキャッ
「トラクションが!?」
思わぬ力みから後輪のコントロールを狂わせたあさ美は素早くカウンターを当ててテールの振りを抑えようとしたが、この一瞬の隙をシュウは見逃さなかった!
「ふは、ふはははははははっ!墜ちろ!!」
ドゴッ!
「!?」
キュキャキャキャキャキャキャッ!!
振り始めたテール目掛けてシュウはスカイラインのリアバンパーを突く!あさ美のスカイラインはコントロールを完全に乱しスピンを始める!
「しかし・・・なんだねぇ、FRってのは本当に不安定だねぇ?ん?サザンクロス??ベイウインズの猿じゃねぇのか???」
バァアアアアアアア
シュウはスピンするスカイラインの脇を縫っている途中で目に付いたサザンクロスのステッカーを見て、自分が狙ったベイウインズのメンバーでは無かった事に少し焦ったが、気を取り直してそのまま山荘前から牧場方面に向けて走り去った。
「間に合わない?」
キキキキキキキキキキキキキィィイイイイイイ!
ドゴォッ!!
「きゃーっ!!」
ボン!
あさ美は必死にカウンターでスピンから立ち直ろうとしたが、コーナーでスピンしたということと公道という広くない場所に阻まれスカイラインを立て直す事が出来なかった。ある程度の回転は抑えることが出来たものの、33スカイラインは六甲山荘の山肌に激突し、そのまま山肌に刺さるようにして左フロントから当たり、反動で摩耶山への分岐前の道路に飛ばされる。そして山肌に当たったときの衝撃でエアバッグが開きあさ美はそこに顔が埋まってしまう。
ガタッ
リアバンパーにガードレールが当たり、そこでやっとの事で33スカイラインは堰き止められるようにして止まった。あさ美は半ば放心状態になっていたが、エアバックが萎むとシートベルトを解き車外へ出ようとする。
「うっ、痛い・・・。」
運転席から体を動かそうとすると同時に彼女の右足に激痛が走る。痛みに耐えながらも恐る恐る彼女は患部とおぼしき所を軽く触れるが、同時にまたしても痛みが走った。
「痛っ!」
不意に患部を触った右手を見ると、ズボンの上から患部をさすったのにも関わらず血糊じゃないかと大袈裟に思う程の血がまとわりついている。それを見ると何だか全身の力が抜けていく感じがしてきた。
「携帯を・・・。」
他のサザンクロスのメンバー、もしくは救急車を呼ぼうとあさ美は携帯電話を取り出したが、彼女が持っていた携帯電話では事故現場からの電波状態が不安定で圏外になったりアンテナが1〜2本立ったりという状況だった。その事に少し愕然としながらも、傷口の止血だけはしておかないといけないと思い止血に取りかかる。
「とにかく、何とか・・・何とか・・・。」
ガチャッ
カチカチカチ、ビリッ!
そう言いながらあさ美は着ているTシャツの袖をスカイラインの小物入から取り出したカッターで切り裂くと、それで患部に近い右足の太腿部分を縛り付けた。
ギュッ!
「はぁ・・・はぁ・・・取りあえず、こんなので何とか・・・何とか・・・。」
シュウにぶつけられた場所から彼女が停止している場所は、スカイラインが吹っ飛ばされた事もありかなり遠のき、同時に一体には破片が飛び散らかっている。そんな状況の中であさ美は来るかどうかも分からない助けをしばらく待ってみることにした。