「うわぁああああああ〜!(汗)」
ギュキャキャキュキャキャ!
その頃、やっとのことでBDを言いくるめたみちゅうは彼と紗耶香をZ32に乗せ、展望台から西六甲に向かい、さっそく往年のダウンヒルアタックが始まった。相変わらずBDは目の前の風景の異変と体中に掛かってくるGに涙をちょちょぎらしながら助手席でひたすら踏ん張っていた。
「み、みちゅうさん、オレが叫ぶからもう攻めないっていったじゃないですかぁ。(涙)」
ボァアアアアアアアア、パシュァッ!
「ん、そんなこと言ったか?忘れたよ??」
ゴソゴソ
みちゅうはそんな叫びを気に留めることなく、急にハンドルから両手を離すとタバコを探し始める。上着の胸ポケットやズボンのポケットに手をやり始める彼を見て、BDの顔から血の気が引いた・・・。
「げっ、な、何してるんですか!(汗)」
「ん、みりゃ分かるだろ?タバコを探してるんだ。そのくらい見れば分かるだろ?」
ギュキャキャキャキャキャキャキャッ!
「うわっ、ちょ、ちょっと、ちゃんと前を見てハンドル持ってくださいよぉ!!」
両手を離したみちゅうは前を見ることなくタバコを探している。車はテールが傾いているためそのままドリフト状態でコーナーリングを始める。BDは恐る恐る、助手席側の窓を覗き、外を見ると、目の前にはガードレールが迫ってくる!
「ひっ、ひぇぇえええええええええええええ!」
「うるせぇなぁ!」
「そ、そんな事言ったって、ガードレールの間隔が殆ど無いですよ!?」
こ、これじゃぁ事故るぅ! 俺のハーレムの夢がぁ〜!(涙)
「黙れ。カウンターをなるべく当てない方が車は流れるんだ。無駄なステアリング操作よかこの方が何倍も良い。って、事でもうしばらく手放ししておこう。」
もはや、車に乗せてしまえば問答無用・・・そんな感じでみちゅうは泣き叫ぶBDをよそにどんどんコーナーを攻めていく。
ズササササササッ!
「ん?なんだこりゃ??」
ある程度コーナーをくぐり抜けると、みちゅうは不自然なタイヤ痕を遠目に発見する。
ギュキャキャキャキャキャッ!
「やな予感がするぜ。」
そう言うと、彼はステアリングを両手で掴み、助手席のBDに前方をよく確認するように言うが、BDはすでに失神していた・・・。(情)
「・・・ま、この方が静かで良いかな。」
そしてそのまま進んでゆくと、今度はステアリングを伝って何かを踏んだような違和感がみちゅうに伝わり、同時に後部座席にいた紗耶香にもその違和感が伝わる。FRの場合、運転席よりも駆動輪側に近い後部座席に座った人間の方がこういった異変に感づきやすい。
(何か踏んだ?)
みちゅうはこの先で絶対に何かトラブルを抱えた車がいると感じると、「どこのアホが事故ってやがる?」と半分口混じりに思いつつも、後続の車両などが2次的な事故に巻き込まれては更に事態が悪化すると考え、もしそうであるなら早いところ作業に取りかからなければならないと思っていた。
「ち、こりゃペースを落として山荘前のコーナーを抜けるしかないか?」
グワッ!
ブォオオオオオオオ、ボァッ!
エンジンブレーキと深めに踏んだブレーキングにより急激に後ろからのGが掛かる。みちゅうと紗耶香はこの感覚に慣れているためそれなりの反応を取ったが、この事態に慣れないBDは思いっ切り体が前のめりになった。
「(失神中)」
そして、前のめりになったと同時にシートベルトが彼の体を締め付ける。
「何か、嫌な予感するな・・・ここを曲がったらイキナリ車が刺さってるんじゃないか?(汗)」
ブロォオオオオオオオアァ
みちゅうは回りに落ちている破片を見渡しながらも、出会い頭に事故車と当たるのは御免だと思いながら、これまでとは一転して床に置いた半紙の上を歩くような繊細な運転を始める。
やがて、みちゅうのZ32が六甲山荘前のコーナーを曲がりきると、そのヘッドライトが無惨な事故現場を照らす。
「な、なんだこりゃ?バンパーか何かの破片とか割れたサイドミラーのガラスが散らばってるぞ!」
みちゅうの後部からフロントガラス越しに周囲を見た紗耶香の中で何かがよぎった。
(これはもしかして展望台であったあの子の車?)
紗耶香はほんの数十分前に会ったあさ美がここで車をぶつけたのでは無いかと思うと、みちゅうに叫ぶようにして話しかける。
「止めてください!」
そんな紗耶香の声を聞くと同時に、みちゅうの目の前に左前方から大きく顔が大破した33スカイラインが目に入った。
キキッ!
取りあえず摩耶山側にみちゅうは車を止めると慌ただしく車を降り、大破したスカイラインの元に駆け寄るが、後から外に飛び出した紗耶香はみちゅうを追い抜いてスカイラインに駆け寄った。
「ひどい・・・。」
紗耶香はあさ美が乗っていると思わしき運転席に近寄ると、改めて車のダメージに驚きを隠せなかった。
「おい、大丈夫か!」
ガチャッ!
みちゅうはそう言いながらドアを開く。紗耶香は運転席でうずくまってるあさ美を見て更に驚きつつも彼女に声を掛けた。
「だいじょうぶ!?」
「あ、市井さん?何とか・・・だいじょう・・・うっ。。」
「ちょっと、出血が酷いんじゃないの!?」
「止血はしたんですけどね。これでも・・・。」
「その様子じゃ一人じゃ歩けそうにないわね。手を貸して!」
紗耶香はあさ美の痛々しい姿に戸惑いながらも彼女を運転席から連れだし彼女を担ぎ出す。みちゅうは失神が覚めないBDをたたき起こして、黒を呼んで大破したスカイラインを引き取らせるようにと伝えると、タダならぬ光景に焦った彼は言われたとおりに携帯電話でHSWに連絡を取るが、この場では電波の入りが悪いので誘導アンテナに携帯を繋げて通話をする。
(一人で事故ったわけじゃなさそうだな)
みちゅうはスカイラインのリアバンパーに付いた黒い塗装片を見つけると、あさ美の事故が何者かによって意図的に仕組まれたことを長年の勘で悟ったが、この場ではその事を触れなかった。取りあえずBDに黒らが車で現場に駆けつけるまでの間に出来る簡単な事故処理を任せて彼を現場に残すと、みちゅうは紗耶香と負傷したあさ美を西六甲から更に下ったところにある病院に搬送した。
「おい、大丈夫なのか!?」
それから数時間後、病院に仮入院したあさ美の元にシカミと貴が駆けつける。
ガチャッ
「あ、シカミさんに貴さん。すいません心配をかけてしまって・・・。」
「心配もなにも無いだろ?何でも右足に12針縫う怪我して全治10日って話じゃないか?」
「そうなんですけど、そんなに深刻になるほどでも無いですよっ。」
あさ美は貴を気遣って答えたが、貴は取りあえず思ったよりも彼女の具合が良かったのでほっと肩を撫で下ろした。
「すまない、本当はオレ達で対応しないといけなかったのに。」
「あ、いや、偶然って言うかあの場で放っておく方がおかしいですよ。」
シカミは紗耶香に頭を下げると、彼女は謙遜しつつも本音で返事をした。
「しかし・・・紺野がミスったってわけでもないだろ?」
「ああ、そうですね。ベイウインズのぴーなら話は分かりますけど・・・。(ばきっ)」
貴はシカミにそう話しかけると、シカミはぴーの事を引用して答える。それを聞いた紗耶香は内心で苦笑してしまった。あさ美はそんな彼らを見ると、シュウとの事を思い出しながらその事を話し始めた。
「あまり、記憶にないんですけど・・・西六甲を走りだしてしばらくしたら後ろから車が迫ってきたんです。車種までは分からなかったんですけど、大きさは小型だと思います。あまりに背後をつけ回すからそれを振り切ろうとしたら突然リアを突かれてしまって・・・。」
(やはりな・・・どう考えても不自然な事故り方だと思った。)
みちゅうは病室の隅であさ美の話を聞いていたが、彼の思ったとおりの事に少し納得した。
「ぴーさんの時と同じ!?」
紗耶香もまたあさ美の話を聞いていて彼女のクラッシュがぴーの事故と同じシチュエーションだった事に少し驚いた。
「噂には聞いたけど、まさか摩耶のシュウが?」
「くそったれがぁ!」
ドン!
貴はシカミが口にしたテンペストのシュウが真犯人だと確信すると、病室に置かれたテーブルを叩いて彼に対する怒りを露わにした。
「ちょっと貴さん、他の患者もいるんだから・・・気持ちはわかりますけど。」
「しかし、このまま黙ってるわけにもいかないだろ?丸さんに連絡して今からでも摩耶テンペストに交流戦し掛けましょうって!?」
(摩耶のシュウ・・・テンペスト?石川の言っていた迷惑な走り屋ってそいつ!?)
紗耶香は椅子から立ち上がると、怒りを露わにして興奮気味の貴をなだめているシカミの脇を縫って病室から出ようとした。
「市井ちゃん?」
「みちゅうさん、止めないでください・・・私、人としても走り屋としても許せません!」
みちゅうはとっさに紗耶香に声を掛けるが、彼女の決意は決まったようだ。
「な、なにもあんたが出ていくことはないだろ?」
「貴さんの言うとおりだ。君が出ていくことはない。この問題はサザンクロスが片を付ける!」
シカミと貴は紗耶香にそう言って彼女を踏みとどまらせようとしたが、紗耶香は一瞬だけ彼らを見ると、あさ美の方を向いて言った。
「ごめんね・・・私のせいで関係のないあなたまで巻き込んでしまって。」
そう一言あさ美に言うと紗耶香はズカズカと病室を出ていった。
「おい、マジかよ!あんたは知らないだろうけど、シュウとやり合うなら摩耶でだけは絶対に止めろよ!おい!!」
貴は叫ぶようにして紗耶香に言ったが彼女はお構いなしに病室を飛び出しひたすら廊下を歩いていったが、角を曲がろうとしたその時、あさ美を見舞いに来た丸政と鉢合わせた。
「!?」
「テンペスト・・・いや、シュウのホームグラウンドは摩耶山だ。摩耶天上寺から牧場との分岐までのミドルコース。途中で谷になっていてラストはダウンヒルでも登りがある。」
「摩耶山?」
「止めはしないが、シュウはヒメヨ程ではないにしろ摩耶の下りに対して絶対の自信を持っている。向こうでやるならやっかいな敵だ・・・。」
「別に、サザンクロスの仇討ちとかそう言うのじゃ無いですから。私を引きずりだす為のパフォーマンスで関係ない人が迷惑を被ってしまう・・・それが嫌なのとシュウが望んでいるケリをつけにいくだけですから!」
紗耶香はそう言うと丸政にかるく頭を下げて急ぎ足でHSWに向かった。
バァアアアアアアアアン、キキッ
ガチャッ
「おっ、何だ、こんな時間にレンちゃんが摩耶に来るのは珍しいな。」
シュウはいつものように摩耶山ダウンヒルのスタート地点に当たる摩耶天上寺近くにある摩耶ケーブルカーの駅前駐車場に愛車のCRXを止めると、自分より一足早く着いていたレンズに話しかけた。レンズは神妙な面もちでシュウに話しかける。
「シュウ君、ヤバイ事をしてくれたよ・・・。」
「あ〜、摩耶山入り口の事故か?」
「よりによってサザンクロスに仕掛けるなんて・・・。(汗)」
「ま、そんなにビビルなよ。」
シュウはそう言ってレンズの肩を軽く叩くと、続けて話し出す。
「ビビッてもサザンクロスとの対決も時間の問題だぜ?」
「そりゃそ・・・・ん?」
ブァアアアアアアアアアン、キキキキィーッ!
レンズとシュウは目の前に止まった青のレビンに少し驚いた。
ガチャッ
バンッ!
「摩耶のシュウって・・・誰?」
紗耶香はレビンから降りるとドアを思いっ切り閉めた。そして、シュウ達を上目使いで思いっ切り睨み飛ばした。