シュウのフェイクに掛かり彼のリードを許してしまった紗耶香だが、その持ち味でもある冷静さと持ち前の集中力で再び「波」に乗るとそこから一気に差を詰め始める。

バァアアアアアアアアア

「へっ、もう追ってこれやしねーだろ。」

シュウは半ば勝ち誇ったようにしてクルージングを楽しむように走るが、不意にバックミラーに目を向けるとかすかな光が段々と大きくなってくる事に動揺した。

「な、なにぃ!?」

ガタッ

バァアアアアアアアアアン、キギュキキキキィ!

何度もその光景に目を疑ったが紛れもなく背後に紗耶香のレビンが独特のエキゾーストを響かせて迫ってくる。シュウはその事を認めたくなかったがそうこうしている内に次の左コーナーに飛び込む間際に紗耶香に並ばれ、いわゆるサイドバイサイド状態になる!

「ば、ばかな・・・?」

ボォアアアアアアアアアアア

紗耶香はそのまま大外からシュウの隙を突くようにレビンを曲げてシュウのCRXに被せるようにしてレビンを曲げてゆく!対するシュウは油断が尾を引き動揺し、サイドバイサイドの大接戦を乗り切るほどの精神的な余裕が無かった・・・。

キュキキキキキキキャ〜ッ

シュウはキツネにつままれたとでも例えるしかない感じであっけにとられてしまいまんまと紗耶香に刺されてしまったが、レビンのテールランプが目の前に飛び込んで来るとそこで我に返った。

「バ、バカな・・・ふ、ふははははっ、認めてやるよ。お前は凄い奴だってな。」

グワッ

バァアアアアアアアア!

シュウは紗耶香との実力差が思った以上にある事にこの時気がついた。いや、そう割り切らざるを得なかった。今まで接戦でブレーキング技を応用したフェイクを仕掛けてそれが決まった相手は決してシュウに追いつくことなど無かったからである。しかし、それがこうして追いつかれてしまいそれだけならばまだしも、抜かされたとなっては到底正攻法では勝ち目が無いと悟ったからである。

「こうなりゃ・・・。(ニヤリ)」

彼は不気味に微笑むと、少々オーバーペースになりつつも必死で紗耶香の後に食らいつく。紗耶香はバックミラー越しにシュウの追い上げを気にしつつも慣れない摩耶を攻め下る。

バァアアアアアアア、バン!

「ゾロ目を摩耶山に埋めるしか無さそうだな・・・悪く思うなよ。勝負は結果が全て、勝てば官軍なんて言うからな!」

キキキキキィッ

紗耶香は慣れない場所ということもあり、摩耶山のコーナー一つ一つを慎重に進まざるを得なかった。また、今は自分が先行する立場にいることも重なり、安全マージンを取りつつ進まざるを得なかった・・・。

ゴァギャギャギャギャッ

「?」

そして、一瞬ではあったが、紗耶香もステアリング操作がもたついてしまった。

「今だ!」

シュウはその一瞬を見逃さなかった!そして紗耶香がレビンのスリップした姿勢を戻そうとしたその時、得意(?)のバンパープッシュが炸裂する!

ドン!

「!?」

キキキキキィ〜!!!!

「へっ、そのまま摩耶山に沈め!あ・ば・よ!!」

バァアアアアアアアアン、バァアアアアアアアア!

リアバンパーを突かれた紗耶香はコントロールを失いスピンをする。こういうときFRなら何とか車が飛ばされる方向を予測できるからまだしも、FFと言う駆動方式の場合はどこに行くか(飛ぶか)が全く予測できない。と、言うか分からない・・・何とかカウンターを当てて、山肌にぶつかる、歩道を乗り上げて谷底に落ちるという最悪な事態は何としてでも避けようとする。

そして、そんな彼女をあざ笑うかのようにシュウはレビンの脇を縫ってCRXを前に出しそのまま紗耶香を抜き去った。B16Aエンジンのエキゾーストが彼の「してやったり!」と言った感情を表すかのように高らかに響き渡る!

キキキキキキキィ〜

グワッ!

紗耶香はとにかくスピンを抑えるようにステアリングを切りまくりスピードが失速するのを見計らうと、そこからサイドブレーキを引っ張り一気にターンをし、そのままアクセルを踏み込み体勢を立て直す!正直、ここまでの危機回避は彼女にとって普通に出来る技ではない。いや、どんなにテクニックがある人間でもこういった思わぬ事態に対応できる者などそうそういない。紗耶香は無意識の内に車を立て直した訳になるが、これは日頃の走り込みや彼女が身につけた技が物をいったということになる。(と、いうかそうして下さい)

ワナワナワナ

体勢を立て直した紗耶香ではあるが、ステアリングを握る手が小刻みに震える。

プルプルプル

アクセル、ブレーキを踏む足の太腿も小刻みに震える。

ブチッ

そして、うつむいていた紗耶香が顔を上げ目をかっと大きく開いた後、前方を睨んだとき!?

「・・・。」

ギュワァキキキキァ、ボァアアアアアアアアアアアアアアア!

誰もが思っても見なかった怒濤の快進撃がここから始まった!

バァアアアアアアア

テンペストのメンバーが見守る中、シュウは颯爽と摩耶山23コーナーを曲がっていきゴール地点目指して一気に駆け抜ける。

「へっ、摩耶でシュウが先行すればもう勝ちは決まったな!」
「ああ、そうだな。」
「取りあえずこの23コーナーの様子をスタート地点に報告しよ・・・。」

23コーナーとテンペストのメンバー達が言ったこの場所の歩道に突っ立っていた連中はシュウの勝ちが7割方決まったと思いこんでいたが次の瞬間!

ギュキャキャキャキャキャキャキャキャァ!ズサササササッッ!!

「う、うそだろ!」
「歩道側の埃っぽい所にタイヤのっけて滑らせているのかよ!?」
「か、感心してる場合か!つ、つっこんでくるぞ!!」

すでにこの時、紗耶香の目には周囲は全く映っていない。当然の事ながらこのバトルを見ているギャラリー連中の事など全く眼中にない。一言も喋ることなく、そして瞬きすら殆どしていないのでは?と言う様な感じでひたすらシュウを追う!

バァアアアアアン

「あ、危なかった・・・。」
「何かゾロ目の奴、切れてるぞ!?」

紗耶香の強引なコーナリングにビビリ、思わずガードレール外の崖まで逃げてしまったテンペストのメンバー達は紗耶香の走りに圧倒されて呆然とせざるを得なかった・・・。

ボァアアアアアアアアアン、グァアアアアアアアン!

「・・・。」

ガタッグワッ!

ギアを落とし低速から加速させる紗耶香は、道路左側に面した縁石と歩道が一体になっているのを23コーナーの次の24左コーナーに見つけると、低速車シェルターのスペースの為に設けられている待避所がある関係で他の歩道より縁石が低くなっているのに気付き、そこにレビンを乗り上げる。

ガタッ!

左側を歩道に乗せ残った右側を車道と縁石の間に存在する僅かな傾斜に落としこむと、そこから表六甲で決めた溝落としの要領で車を走らせ始める。

ブァアアアアアアアアアアアア

「うぉっ、歩道に入って来やがった!逃げろっ!!!」

紗耶香が乗り上げた歩道にいたテンペストのメンバー達は雲を散らすようにして崖の方に逃げ始める。

キュィイイイイイイイイ、ブワッ!

一気にアクセルを踏み込みレビンを加速させる紗耶香に周りは見えていない。ただただ車を速く走らせる。その一点しか頭にない。片輪(右側)しか溝にはまっていないこの強引な溝落としであるために遠心力と加速で歩道側に乗せている左側が浮く!

ブォアアアアアアアアアアアアアアアアア!

キュキキキィ、ドゴッン!

「・・・。」

ほぼ片輪走行で24コーナーを曲がりきると紗耶香は歩道に乗せた左側を車道に戻す。戻したときにショックアブゾーバが大きく縮み、同時にそれをスプリングが押し戻す!
大きな軋(きし)み音を周囲に響かせる!!

「な、なんだ、あれは・・・・?」
「鳥肌ものとかって呑気に言えるレベルの切り込みじゃないぜ、ありゃ・・・(汗)」

紗耶香の突入で崖側に逃げ込んでいたテンペストのメンバー達は取りあえず紗耶香に轢かれなかった事にホッと胸を撫で下ろすと、何ともとんでもない事態になったと身震いしながらバトルを見守った。

ボォアアアアアアアアアアア、ボゴッ!!

「・・・・・・。」

ある意味で「無の境地」にも達したかように、他のことには目もくれずに突き進む紗耶香。逆転はあるのか!? 

次回に続く

ってか、勝たないとヤバイだろう(笑)