ガタッ、グワッ!
キキキキキキキキキキィ!
もはや周囲を気にしないでコーナーを攻めて行く紗耶香に安全マージンを取って走る余裕など無い。いや、もうそんなものはお構いなしで前しか見ていないと言うのが正しいのかも知れない。
ドン!
コーナーを曲がりきれなかったレビンをガードレールに軽く当ててその反動で向きを修正して曲がる。そんなキレた走りを目の当たりにしたテンペストのメンバー達は只ならぬレビンのオーラに圧倒されたのか慌てふためきながらHITに連絡を入れる。
「こ、こちら25コーナー付近です。な、何かゾロ目の奴、完全にトチ狂ったドライビングです!」
「何だ、それは!?状況が分からん。詳しく伝えろ!」
動揺した感じで報告されても訳がわからないと叱咤するHITだが、彼の隣にいたヒメヨはシュウが何をしでかしたのかが何となく読めると、微笑してHITに話しかけた。
「シュウの奴、痺れを切らしたな。」
「痺れって・・・まさか?」
「ま、奴ならやりかねない事だな。だが、それがかえって裏目に出たな。」
シュウの奴はまたしでかしやがったのか?とHITは思ったが、彼の技を喰らった人間は通常急激なスピンの動揺で戦意を失ってしまい、反撃に転じるということは今までは無かったし、そんな事はあり得なかった。しかし、今回ばかりは相手が悪かった。
ヒメヨは続けて語る。
「並みのドライバーはキレたら最後。その動揺と高ぶる感情が集中力を乱しポジションを上げる事などまずあり得ない・・・だが、相手が悪かったな。ゾロ目のドライバーはキレた事によってそれまでに無かった集中力でシュウを追っている。今まで安全マージンなどに使っていた気を全てドライビングにまわしている。」
「おい、って事は・・・。」
「この先どうなるかは言うまでも無いことさっ・・・。」
ヒメヨはそう言うと徐々に大きくなってくるスキール音に耳を傾け、シュウと紗耶香が下ってくるのを待つように道路を見つめる。
(悪いがシュウ、ゾロ目はお前なんかに手の追える相手じゃないぜ。あいつをキレさした時点でお前の負けは確定だ。飛んでもない奴だぜ、市井紗耶香ってのは・・・。)
バァアアアアアアアアア、ブゥアアアアアアアア!
シュウは紗耶香との距離をあけるが為にペースを上げて追い込んでゆく。左足ブレーキ、ヒールアンドトゥ等と言った技に加え、時折サイドブレーキを織り交ぜながらオーバースピード目にコーナーに飛び込み、アンダーステアを押さえつけながらVTECエンジンの特性を生かしCRXを走らせる。
「CRXってのはオーバーハングとホイルベースの短さで扱いが難しい所もあるが、峠における一番のチューニング要素は軽量化。ライトウエイトに勝る峠チューンは無いぜ!」
ガタッ
ボァッ!
バックファイアを響かせて、得意げになってコーナーを攻めていくシュウだったが、バックミラーがライトで照らされ始める。
「な、何?あの野郎、摩耶に沈まなかったのか!?」
シュウは焦った。このバトルが始まる切っ掛けとなったあさ美の時もそうだったが、彼のバンパープッシュを喰らってリカバリーに成功した人間など今までに居なかったからだ。ましてや復帰して自分に食ってかかるように追い上げて来るなどという相手はいなかった・・・・。
「くっ!」
グワッ
バァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
シュウは焦った物のすぐにドライビングに集中すると、このまま紗耶香の頭を抑えて摩耶の下りを乗り切ってゴール地点付近の上りに備えようとした。
「・・・・。」
ガタッ、グワッ!
ギュキャキャキャキャキャキャキャキィイ!
グワッ、ガタッ!!
黙々とヒールアンドトゥを繰り出し、亜依に「目にも留まらない」と称されたマシンガンシフトが炸裂し、紗耶香はシュウのCRXとの距離をどんどん詰める。
やがて2台はヒメヨとHITが見守る29コーナーを抜けた後の僅かなストレート前を駆け抜けた!
バァアアアアアアアアアアアアン
ボォアアアアアアアアアアアアン
もう、この時のシュウとの車間は1メートル位しかなかった。駆け抜けた2台をヒメヨは「思った通りの展開だな」と内心で思いながら、通過した2台を見ていたが、HITは紗耶香の走りに圧倒されたようにしてヒメヨに話しかける。
「し、信じられねぇ・・・。」
呆然とするHITにヒメヨは真顔で彼の方を向いて答える。
「あれが、ゾロ目の実力さ・・・ 最も、あれで全てというわけではないがな。」
車間が詰まり紗耶香のレビンが照らすヘッドライトを背に受け焦りを感じてきたシュウはこの時にヒメヨが言った「ゾロ目はただ者ではない」というのが何となく理解でき始めていた。が、しかし、今頃理解しても「時すでに遅し」である。
「差を開けない・・・なんて追い込みだ!」
グワッ!
シュウはアクセルを少し緩めて次の左コーナーに備えての減速を試みるが、紗耶香の追い込みで動揺したシュウはアクセルを抜きすぎてしまう。そしてFF特有のアンダーステアが顔を覗かせる!
「し、しまった!?」
キキキキキキキキキィキ
アンダーステアで外に膨らんだシュウのCRXのイン側に紗耶香はここぞとばかりに飛び込んだ。しかし、インが開いたといっても恐らく通常の紗耶香では飛び込まないだろうと思われる僅かな「隙」であるが、周りが見えていない彼女は躊躇することなくその僅かな突破口に飛び込む!!
「・・・・。」
ギィッ!
ギュキャヤキャキャキャィ
サイドブレーキを引いて僅かながらでも後輪を滑らしてCRXの懐に飛び込んできた紗耶香にシュウは激しく動揺した。
「コ、コイツ・・・もしかしてさっきのバンパープッシュの仕返しにきたんじゃないか?(汗)」
グイッ
シュウは咄嗟にそう感じると、紗耶香の飛び込みにビビってしまい思わず外側に車を逃がしてしまい紗耶香をインに入れてしまう。
ブァアアアアアアアアアアアアア
「・・・・。」
紗耶香は颯爽とシュウの脇を縫うように一気にインを刺すとそのままCRXの前に出ていった。紗耶香の強引な飛び込みがバンパープッシュのリベンジではなくたんなる追い抜きと分かるとシュウは少しホッとしたが、再び抜かれてしまったという事実に気が付くと悔しげに唇を噛む。
「な、なんだ仕返しじゃ無いのか・・・?」
バァアアアアアアア
だが、そうこうしている内に紗耶香はシュウを引き離しに掛かり、残りのコーナーもそう残っていないことを考えると、シュウはこの段階ですでに敗戦の色が濃くなっている。その事実を認めざるを得ないシュウにまたしても何かをひらめく。
「フッ、このままで終わると思うなよ・・・他でこうなら話は別だが地元の摩耶でこうもやられるとこっちも立場がないんでね。」
2台は摩耶山から六甲山へと抜ける区間に突入する。ここは摩耶山でも下りの勾配が割とある方でここを下りきると今度は六甲山へ向けて抜ける道になりそこは上りになる。シュウは徐々に下り勾配がついてくる区間に入ると不気味に微笑みながらアクセルを踏み込みスピードを上げる。
「別に勝ちに拘る必要もねぇな・・・だが、お前は本当に気に入らない。このまま2度と戻れない様にしてやる!悪く思うなよ。お前がオレの勘に触ったのがいけないんだぜ!!」
バァアアアアアアアアアアアアアアアア
シュウの不気味な・・・と言うかある意味で自己中心的な思惑と共に、ホンダB16エンジンがVTEC領域に入って高らかにエキゾーストがこだまする。シュウの奇策を加速させるように・・・。