六甲山牧場・・・K市が関与する3セクの一部であり、市の観光施設でもある六甲山牧場は、摩耶山を向かいにした西六甲の中腹よりやや上部に位置する。この場所は西六甲と摩耶山の分岐地点にあることから周囲にはポイントとなるコーナーが多い。
例えば、西六甲の場合は六甲山荘から出てくる摩耶山との分岐地点になる直角コーナーで、摩耶山を下る場合はその分岐地点がゴールになる。そして、それと同時にここは摩耶山と隣接していることからテンペストの「弊害」が最も多い場所でもある・・・。
ざわざわ
「何かえらく騒がしいと思ったら何か物々しい感じだよねー。」
紗耶香の予想外の乗り込みで思わぬバトルに緊迫し、戦況を見守っているテンペストのメンバー達を遠目に眺めながら、バトルの騒ぎに惹かれるように見物に来てしまった。りんねとあさみ・・・りんねはのほほんとしながらいつもとは違う摩耶の空気を感じ取りあさみに話しかけた。
「さっきも牧場の入り口近くで車が壊れていてHSWの人たち来て運んで行っていたけど・・・何か今晩だけで色々と出来事多すぎだよ・・・。」
あさみはブツブツと返事をするが、そんな彼女をじーっと見ながらりんねは言う。
「ねぇ、思ったんだけどさぁ?その髪の色、濃すぎない?」
りんねはあさみの髪の色にツッコミを入れる。彼女はどうも髪の色を明るくしたあさみに対して「それはちょっとヤンキーだよね」と内心で思っていたもののなかなかそれを口にする機会が無かった。だが、ここに来て近くにいたガラの悪そうなテンペストのメンバーが髪の色を派手にしているのを目の当たりにして、「あの集団と変わらないんじゃないの?」と比べてしまった事で、思わずりんねはそれを口にしてしまった。
「そうかなぁ・・・?でも、今はそんな事言っている場合じゃないでしょ?」
あさみはふくれっ面をりんねに見せながら返事をした。そして、彼女らの耳に遠くに聞こえたスキール音とエキゾースト音が徐々に大きくなってくる・・・。
バァアアアアアアアアアア
「簡単じゃねぇか?要は勝負に負けたってのが無ければ良いんだよ。負けなければな!ここからの急勾配、スピードは思いっ切り乗るが下りきったところで右コーナがある。そこは大したRじゃ無いがここで乗った車速はそう簡単には消せない・・・。」
ギュキキキキキキキキッ
シュウは目の前に迫ってくるレビンのテールランプと徐々に近づいてきた右コーナーを目前にすると、ステアリングを少しずつ切りつめる。
ブァアアアアアアアアアアアアア
「・・・・。」
ガタッ
キキキキキキキキキィ
紗耶香はバックミラーに目もくれずにひたすら前を見てアクセル、ブレーキング、ステアリングなどをさばいていく。対するシュウはそんな紗耶香が乗るレビンに後ろから急に右側に飛び込み、サイドバイサイドに持ち込む。
「へっ、負けなければ良いんだ。負けなければ・・・・。」
バァアアアアアアアアアアアア
普通に考えてアウトインアウトと言う公式を考えるとコーナー手前でアウトを取るのが常識であるが、シュウはコーナーにさしかかる随分前から紗耶香に並ぶようにしてイン側になる右横にCRXを並べる。明らかに不可解で怪しい動きである。そして横に並んだCRXの窓越しからレビン乗る紗耶香を一瞬だけみるとシュウは不気味に笑いながら言う。
「このまま終わったんじゃオレはいい恥さらしだぜ!この勝負・・・。」
バアアアアアアアアアアアアアア
「EF8をゾロ目にぶつけてやるっ!ダブルクラッシュとしゃれ込もうぜ!!」
グイッ
シュウはそう言うと紗耶香のレビンに横からぶつけ、共に左側ガードレールに心中しようと試みステアリングを左に大きく切り込んだ!
「・・・!?」
グワッ
ボァアアアアアアアアアアアアア
ガタッ!
ギィッ!!
ギュキキキキキキキキキキキキィ
一瞬の出来事だった・・・・紗耶香は意図的なのか?それとも次に控えていた右コーナーに「早めの仕掛け」を試みたのだろうか?どちらか定かではないが、まるでシュウの不気味かつ怪しい動きを見ぬいたかのようにアクセルを踏み込み、急加速!そして一気にサイドブレーキを引っ張ってレビンを滑らせて鮮やかに右へ切り込んでいった!
「な、なんだって・・・・?」
そして、紗耶香が鮮やかに抜けていった瞬間。シュウの時間の流れが止まった・・・いや、時間が止まっていてくれれば良かったのかも知れない。紗耶香のレビンにぶつけようと幅寄せを試みたシュウだが、彼女が先にコーナーに飛び込んでいったため見事に空振る。そして、次の瞬間・・・・。
ドゴッ!
バキッ!!
ズササササササササァ、ギィイイイイイイイイイイィ!!!
「う、うわぁ!!!」
ドン!
シュウのCRXは左側のガードレールにブチ当たると、そのままガードレールに擦るようにCRXが流れる。摩擦による火花が時折散る中、今度は慌てたシュウが切った逆ハンドルに流されるようにCRXはスピンし、遠心力で車が宙に浮き前を思いっ切りガードレールに当てる。やっとの事でスピンがおさまると、シュウはシートベルトを解いて車外に出た。
ゴワッ
扉周りが凹んだためにドアを開ける音がまともになっていない。そして外に出たシュウは無惨にも飛び散ったヘッドライトやボコボコになったボディーを見つめ、呆然とその場に立ちつくす。そして、みじめな感じを漏れだしたオイルが醸し出していた。
ブァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
「ねぇ、あれってHSWのレビンだったっけ?」
「うーん、車の名前は知らないけど・・・・たぶんそうだと思うよ。」
りんねは目の前を颯爽と走り抜けていった紗耶香のレビンをみつめながらあさみに話しかける。彼女らが談笑している向かい側でシュウの勝ちを見越していたテンペストのメンバー達は焦りの色を隠しきれなかった。
「ゾ、ゾロ目が・・・・。」
「おい、シュウはどうなったんだ?」
「と、取りあえずスタート地点に連絡だ!」
慌てふためき、動揺の色丸出しのテンペスト陣営を眺めると、これで彼らも少しは懲りるかも知れないとりんね達は思いながらもしばらくメンバー達の報告話に聞き耳を立ててある程度立ち聞きをすると急いでその場を去っていった。
「オ、オレのEF8・・・。」
シュウは目を潤ませながらボコボコになったCRXのボディーを撫でてその場に佇む。しかし、伸ばした腕に激痛がはしる。
「うっ、右手が動かせない・・・?」
ぶつかった時の衝撃でステアリングを握っていた右手はどうやら骨折でもしたのだろう。シュウは患部を軽く左手で握りながら後悔の念に駆られている。
ガァアアアアアアア
「ん?」
やがてその場にトラックらしき車のライトが下りから近づき、シュウはそのライトに照らされるとさり気なく涙を拭いてトラックの方に顔を向けた。
キュルキュルキュル、プシュ〜ッ
ガチャッ
「ほら、何しけた顔してるのよっ!?」
「あ、あんた達はこの下の牧場の・・・・。」
りんねはギャラリーをしていたコーナーからあさみと共に牧場に戻り、大破したシュウのCRXを牽引出来そうな小型トラックに乗ってシュウの事故現場にやって来たのだった。思いもよらぬ彼女らの登場にシュウは驚きを隠せない状態で立ちすくむ。
「これでいい?」
ガチッ
「うん、そんな感じで良いよ。ロープはちゃんと結んでるよね?」
着々と作業を行う彼女らにシュウは少し感動した。
「あんた、何でオレを助けるんだ・・・?」
シュウは目の前にいたあさみに話しかける。
「困った時はお互い様でしょ?このまま道のど真ん中に壊れた車置かれてもみんなが困るしね。」
あさみの返事を聞いたシュウではあったが、未だ自爆の余韻が残っているのか、半ば放心状態でボケっとその場に佇んでいた。痛めた腕をかばうように支えながら立ちすくむ彼にりんねが話しかける。
「手、痛めてるの?」
りんねはシュウに近寄り彼の右腕を手に取ると、彼女に触れられた腕にシュウの中に痛みが走る。
「うっ!」
「骨折かな?」
「多分・・・ぶつかった時の衝撃で腕がやられたらしい。」
シュウは痛みを我慢して強がるようにりんねに答えた。
シュッ
りんねはハンカチを取り出すとシュウの腕を軽くハンカチで固定する。自分が自損事故を起こしたのに何で関係ない彼女らがここまでしてくれるのか?確かに困ったときはお互い様という長屋的な考えは理解できなくもない。しかし、テンペストに対してあからさまに迷惑の色を出しまくっていた牧場の人間が何故自分を助けるのだろうと不思議そうに彼女らを見ていたシュウはその辺の事を聞き出そうとしてりんね達に話しかける。
「なぁ、あんた達はテンペストの事を良く思っていないんじゃなかったか?」
「だからぁ・・・困ったときはお互い様って言っているでしょ?」
りんねは「くどいなぁ」と思いつつもシュウに答える。そして、彼女が返事をしたのを見計らってあさみも言う。
「そうそう、何度も同じ事を言わせないで。とにかく、この車は牧場の敷地内に一旦持っていくからね。これに懲りて少しは他の人の迷惑も考えてよっ!」
(うっ、痛いこと言うよなぁ・・・とほほ)
シュウはあさみにキツイ事を言われてしまうと何だか再び凹んでしまった。
ピッ
「終わったらしいぜ、ヒメヨの言うとおりの展開だ。」
HITはバトル決着の報告を受けると携帯電話を切りながらヒメヨに話しかける。ヒメヨは「当然の結果」と思ってはいたがあえてその事には触れずにHITに語る。
「誰もゾロ目を止められはしないさ・・・アイツはただ者じゃない。並みの腕でどうにかなりそうな相手じゃない事がこれでウチのメンバーにもハッキリと分かっただろう。」
自業自得とも言える結末にはなったものの、これでまたしても紗耶香の名は六甲に轟き、波乱多き一夜が終わろうとしていた・・・。
だが、この時の紗耶香の走りが新たな騒動を起こすとは誰も思っていなかった。(笑)
続け(サイボーグしばた調)