第3章 カフェ CAFE

"QUIERE UN AGUA POR FAVOR"マラガ市街からバスで10分のところにある、ビーチ沿いのカフェの一角で地中海を見ながら水をオーダーした。籐でできたゆったりとした椅子に腰をかけながら、ふと気付いた。QUIERE(”ほしい”(3人称単数の形)ではなく、QUIERO (”ほしい”一人称単数)で、UN AGUA(”水”男性詞) ではなくUNA AGUA (”水”女性詞)だったと。

すでに3週間もスペインにいるのになかなか上達しないスペイン語にいらだちを覚えていた。スペイン語は簡単だという皆の言葉をうのみにし、1ヶ月で簡単な日常会話をマスターできると信じて疑わなかった考えが甘かったと気付いたのは、学校が始まって最初の週のことだった。

いつもの様に、ノートをひろげ、宿題を始める。<課題:マラガと東京の比較せよ> マラガ、、マラガ、、周りを見つめながら、目に付いたものをノートに書き留める。--マラガは天気がいいです。--マラガは海がきれいです--バカンスには最高な所です--。

次に東京を思い起こした。東京、、、東京。遠くの海や山を見つめながら、つい最近までいた東京での生活をフラッシュバックしようとした。

なにも思い出さないうちに、思考はとぎれとぎれになり、やがて止まった。そして、まるで重力にされるがままに 、持っていたペンを置いた。

目の前のビーチでティーネージャーらしき3人組がフリスビーをしている。 その横では、若いカップルが甲羅干をし、女の子は当たり前のようにトップレスになっていた。

カフェから流れてくるサルサの音楽を聴きながら、ぼんやりとフリスビーを目で追っていた。

体の右側から刺すような太陽の日差しを感じ、席をずらし、日陰へ避難した。先程席を日陰へ移したばかりなのに、、と思いつつ時計に目をやると、すでに3:10分になっていた。ペンを置いた時から40分も経っている。

あまりにも美しすぎる地中海の景色に飲み込まれた私に、日差しが時の流れを告げた。学校の時間だ。

"LA QUESTA POR FAVOR"<お勘定お願いします>。

スペイン人にはあまり見られない金髪のウェイトレスがにっこり笑いながら "LA CUENTA" と訂正してくれた。

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